TPP=自由貿易の嘘
2012-03-05
TPPは、始まった事前協議のなかで早くも、障壁なき自由貿易などではなく、米国の強引な利害貫徹であることが明らかになっている。
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「TPP=自由貿易」の嘘 米国の術中にはまる事前協議 2/16 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
「アジア太平洋に質の高い自由貿易ルールを作るのがTPP交渉の狙いだ」。野田佳彦首相はことあるごとにそう言うが、2月7日から始まった米国との事前協議は、TPPがそんなきれいごとではないことを見せつけてくれた。
なぜか自動車も問題視 米政府の主張は「言いがかり」
米国が突きつけてきたのが農業、保険、自動車の3分野での市場開放だ。「日本が自由貿易交渉に加わる資格があるか、市場開放の姿勢を見たい」というわけだが、コメや牛肉を抱える農業を突かれるのは分かる。保険では簡易保険や共済などを問題視している。だが、なぜ自動車が問題になるのか。米国の言い分はあまりにもメチャクチャだ。
「日本で米国のクルマが売れないのは、非関税障壁があるからだ。日本政府の責任で輸入台数を保証しろ」と要求している。
屁理屈というか「いいがかり」でしかない。日本市場の売れ筋は2000cc以下の小型車だ。このクラスで日本で売られている米国車はシボレーのソニックだけ。それも評判はいまいちだ。フォルクスワーゲンやBMW、ベンツなどドイツ車は売れている。
外車の販売は年間25万台から30万台だが、アメ車は8000台から1万台しか売れていない。日本のユーザーが魅力的と思うクルマを作っていないから売れないだけだ。
それを「非課税障壁」のせいにする。日本人の感覚では「そんな恥ずかしいことを言ってはダメ」だが、米国の交渉チームは堂々と屁理屈を並べる。「輸入枠」とは、日本政府の責任で買い付けを保証しろ、と言っているのだ。商品力の乏しい自国製品を、相手政府の責任で買わそうとするのは、世界でアメリカぐらいだが、こういうワガママを、これまでの日米関係が許してきた。今回は「TPPへの入会金」として求めてきた。
もう一つ重要なポイントがある。非関税障壁として米国が挙げたのが「軽自動車の優遇」だ。税制などで軽に特典を与える政策を日本は採用してきたが、これを「米車が売れない理由」としている。
この言いがかりは、実は巧妙な対日作戦である。日本の自動車業界の危うい構造を突いているからである。この点については、後段で詳しく述べるが、外圧を利用して国内制度を変えたいメーカーがある。
相手側の分裂を誘い裏で手を握ることも
貿易交渉はきれいごとではない。相手側の分裂を誘い、裏で手を握ることだってやる。交渉は形を変えた戦争だ。「自由で質の高い貿易ルールをみんなで話し合う」などと極楽トンボのようなことを言っていると、国民は道を誤る。
TPPの正確な名称は「環太平洋戦略的経済連携協定」。貿易でぶつかる品目がほとんどないシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリが細々と始めた局部的な経済ブロックだった。そんなローカルな動きに米国が目を付けて乗り出した。リーマンショックで傷ついた経済を立て直すには、貿易で稼ぐことが欠かせない。発展するアジア市場に乗り込んで「太平洋国家」として再出発しようという国家戦略だ。中国や、ASEAN(東南アジア諸国連合)が警戒する中、当面の狙いは日本の引き込みだ。
2月7日から米国による事前審査が始まった。いわば「入会試験」である。TPP交渉は9ヵ国で始まっている。すでにブルネイ、シンガポール、ベトナム、マレーシア、チリ、アルゼンチンの6ヵ国は「受け入れ」を表明している。最大の関門が米国だ。
窓口は対外経済交渉を担当するUSTR(米通商交渉代表部)。米国の業界を代弁して強硬な対日要求を掲げる交渉の専門機関だ。
「言いがかり」のような「自動車輸入枠」を掲げたのは、全米自動車政策会議(AAPC)という業界のロビー団体が背後で動いているからだ。野田政権はTPPに入りたい。反対の世論を抑えるには「コメ」を例外扱いにしてもらいたい。そんな日本の事情を見込んで「自動車」を盛り込んだ。「コメは大目に見るから自動車の輸入枠を認めろ」という圧力である。
30年前の輸出自主規制を日本側が飲んだ理由
「30年前の体験が蘇るような気分だ。あの時日本は、輸出枠を飲まされた。今度は輸入枠。いかにも米国らしいやり方です」
通産(現経済産業省)官僚のOBは呆れながらいう。日本は1981年、米国に輸出する自動車の台数を168万台とする「自主規制枠」を決めさせられた。通産省とUSTRが交渉して「輸出枠」が決まり、通産省が自動車会社ごとに輸出台数を割り振る、ということで米国の要求に屈した。
そのころ米国では小型車ブームが起きていた。イラン革命が起こるなど中東でイスラム勢力が強まり、米国の石油支配が崩れ、石油価格は高騰した。一方で排気ガスなど環境問題が深刻化し、ガソリンをがぶ飲みする大型車は敬遠された。品質と燃費がいい日本車が快走していた。
GMを筆頭とするビッグ3はシェアを奪われ、経営者は政府に支援を求め、労働組合は「雇用を奪う」と日本車をハンマーで叩き潰す過激なキャンペーンを展開した。
自国製品を守るなら、輸入品に高い関税を課したり、メーカーに補助金を出すなど政府の責任で対策を採るのが普通のやり方だ。米国はそうせず、日本の政府に「自主規制」をさせた。当時も、米国は「自由貿易」の旗手で、他国に市場開放を迫っていた。そのご本尊が、特定品目に高い関税を掛けたり、業界を補助金で護るのは都合が悪かった。「保護主義」という言葉は、米国が他国に浴びせる常套句だった。
どう見ても、強い製品を持っている国が自主規制する、というのは異常である。しかも「強いられた自主規制」である。
それを飲んだ日本側にも事情があった。第1は、米国に盾突けない従属国であること。第2は、輸出枠を握ることで業界への支配力を高めたい通産省の思惑、第3は輸出シェアを固定する「カルテル」を歓迎するメーカーが日本にあったことだ。
自動車業界が強くなり官民の力関係が変わり、特にトヨタ自動車は通産省の言うことを聞かなくなっていた。天下りを排除する動きさえ出ていた。ドル箱の米国輸出を役所が握ることは、通産省の力を増すことにつながる。
業界では「日産の退潮」が始まっていた。トヨタに完敗し、米国でホンダの追撃にあっていた。「自主規制」を受け入れた時の日本自動車工業会会長は、日産の石原俊社長だった。米国での販売数を固定することは「衰え目立つ日産」に都合が良かった。シェアを維持しようと安売りすれば、利益は減る。国内はトヨタに対抗して無理な販売を続け大赤字になっていた。
「軽」を標的にする米国の日本分断戦略
こんな「昔話」をするのは、似た状況が今もあるからだ。米国が「軽自動車」をやり玉に挙げるのは、揺さぶりである。
ろくな小型車がないアメ車にとって「軽」はライバルではない。なのに「非関税障壁」として挙げているのは、トヨタを筆頭とした日本の自動車メーカーが「軽」を目障りに思っているからだ。
2000年に自動車工業会会長に就任した奥田碩(ひろし)社長(当時)は、業界の課題として「軽自動車を含む税制の改正」を挙げた。軽に対する優遇税制を廃止して普通車と同じにしよう、という狙いだった。
スズキの鈴木修会長が猛然と反発した。「自動車工業会はメーカーの団体だ。トヨタの都合で税制を変えるなど会長の職務を逸脱している」と親しい記者に語った。自工会の理事会では「優遇税制廃止」は議論にさえならなかった。それが2002年の退任会見で奥田会長は「やり残した仕事」として軽の税制改正を挙げた。
自動車業界が元気だったころ、「軽」は1ランク下とされ、業界で「差別」された車種だった。それが今や売れ筋のど真ん中に位置するようになった。
ズズキとダイハツが強く、トヨタも日産も独自の軽を持っていない。ダイハツはトヨタのグループ企業の一つで、国内ではスズキに競り勝ち、軽のトップに上り詰めた。グループの軽部門を担っているが、トヨタにとって大事なのは販売の主力である小型車だ。税制で有利な軽の価格に引きずられ、十分な利益を稼げない。冷え込む国内市場で、軽の優遇は目障りに映る。
米国は「軽の税制改正」を本気で日本に求めていないだろう。わざわざ「非関税障壁」にリストアップすることで、大手メーカーが「優遇是正」に動く足場を作った、とも言える。本丸は、日本の自動車メーカーに「輸入枠」を認めさせることだ。8000台しか売れていないアメ車が5割り増しになっても1万2000台である。421万台(2011年)売れている日本市場で誤差程度の話だ。大手メーカーにとってみれば、端数のようなアメ車より年間152万台(同)売れている「軽」の方が悩ましい。
今年は米国大統領選挙の年だ。自動車業界や全米自動車労組の協力を得るには、分かりやすい成果が必要だ。日本をTPPに引き込むのは米国の戦略だが、頭を下げて入ってもらうなどということはしない。逆に、「入りたいなら入会料」を、と手を出す。農業や簡保で日本を追いつめ、自動車で譲歩を引き出す。
米国の交渉術は、そういうものだ。理不尽な要求でも、交渉全体の中で、相手から譲歩を引き出す受け皿になっている。
日本の首相なら「自由貿易を主張する米国とは思えない筋違いな要求ですね」程度の発言をしてほしいもだが、頭を下げてTPPへの入会をお願いする、という「負けパターン」の交渉がもう始まっている。
農協や郵便局がアメ車を買うなどという事態が無いことを願いたい。
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このブログ内のTPP関連ページリンクの一覧
・ 世界通貨戦争(15)自由貿易主義批判Todd
・ 世界通貨戦争(16)米国TPPは100年目の攻撃
・ 世界通貨戦争(17)米国TPPはジャイアン
・ 世界通貨戦争(19)中野剛志TPP批判の要約
・ 世界通貨戦争(20)TPPは日米不平等条約
・ 世界通貨戦争(25)日本マスコミがカットしたオバマ演説
・ 異様なTPP開国論:内橋克人
・ 米国の走狗か社会共通資本か:宇沢弘文
・ TPP推進のため平気で嘘をねつ造するマスコミ
・ TPPは国を揺るがす大問題に発展するか
・ 売国協定となる日米TPP:中野
・ TPP阻止行動が国民的に広がってきた
・ 榊原:TPPの交渉などマスコミ、CIAが後ろから撃つ
・ 破局に向かう世界に新たな流れを
・ アジアに米国の属領ブロックを作るTPP
・ 無知と卑劣で対米盲従する野田某
・ 1%の金持ちと99%の我々:ビル・トッテン
・ TPPのウソと真実:三橋
・ 完全収奪を狙う米国TPP
・ TPP全物品を関税撤廃対象としていた政府:植草
・ TPPは開国でなくまさに売国:トッテン
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「TPP=自由貿易」の嘘 米国の術中にはまる事前協議 2/16 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
「アジア太平洋に質の高い自由貿易ルールを作るのがTPP交渉の狙いだ」。野田佳彦首相はことあるごとにそう言うが、2月7日から始まった米国との事前協議は、TPPがそんなきれいごとではないことを見せつけてくれた。
なぜか自動車も問題視 米政府の主張は「言いがかり」
米国が突きつけてきたのが農業、保険、自動車の3分野での市場開放だ。「日本が自由貿易交渉に加わる資格があるか、市場開放の姿勢を見たい」というわけだが、コメや牛肉を抱える農業を突かれるのは分かる。保険では簡易保険や共済などを問題視している。だが、なぜ自動車が問題になるのか。米国の言い分はあまりにもメチャクチャだ。
「日本で米国のクルマが売れないのは、非関税障壁があるからだ。日本政府の責任で輸入台数を保証しろ」と要求している。
屁理屈というか「いいがかり」でしかない。日本市場の売れ筋は2000cc以下の小型車だ。このクラスで日本で売られている米国車はシボレーのソニックだけ。それも評判はいまいちだ。フォルクスワーゲンやBMW、ベンツなどドイツ車は売れている。
外車の販売は年間25万台から30万台だが、アメ車は8000台から1万台しか売れていない。日本のユーザーが魅力的と思うクルマを作っていないから売れないだけだ。
それを「非課税障壁」のせいにする。日本人の感覚では「そんな恥ずかしいことを言ってはダメ」だが、米国の交渉チームは堂々と屁理屈を並べる。「輸入枠」とは、日本政府の責任で買い付けを保証しろ、と言っているのだ。商品力の乏しい自国製品を、相手政府の責任で買わそうとするのは、世界でアメリカぐらいだが、こういうワガママを、これまでの日米関係が許してきた。今回は「TPPへの入会金」として求めてきた。
もう一つ重要なポイントがある。非関税障壁として米国が挙げたのが「軽自動車の優遇」だ。税制などで軽に特典を与える政策を日本は採用してきたが、これを「米車が売れない理由」としている。
この言いがかりは、実は巧妙な対日作戦である。日本の自動車業界の危うい構造を突いているからである。この点については、後段で詳しく述べるが、外圧を利用して国内制度を変えたいメーカーがある。
相手側の分裂を誘い裏で手を握ることも
貿易交渉はきれいごとではない。相手側の分裂を誘い、裏で手を握ることだってやる。交渉は形を変えた戦争だ。「自由で質の高い貿易ルールをみんなで話し合う」などと極楽トンボのようなことを言っていると、国民は道を誤る。
TPPの正確な名称は「環太平洋戦略的経済連携協定」。貿易でぶつかる品目がほとんどないシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリが細々と始めた局部的な経済ブロックだった。そんなローカルな動きに米国が目を付けて乗り出した。リーマンショックで傷ついた経済を立て直すには、貿易で稼ぐことが欠かせない。発展するアジア市場に乗り込んで「太平洋国家」として再出発しようという国家戦略だ。中国や、ASEAN(東南アジア諸国連合)が警戒する中、当面の狙いは日本の引き込みだ。
2月7日から米国による事前審査が始まった。いわば「入会試験」である。TPP交渉は9ヵ国で始まっている。すでにブルネイ、シンガポール、ベトナム、マレーシア、チリ、アルゼンチンの6ヵ国は「受け入れ」を表明している。最大の関門が米国だ。
窓口は対外経済交渉を担当するUSTR(米通商交渉代表部)。米国の業界を代弁して強硬な対日要求を掲げる交渉の専門機関だ。
「言いがかり」のような「自動車輸入枠」を掲げたのは、全米自動車政策会議(AAPC)という業界のロビー団体が背後で動いているからだ。野田政権はTPPに入りたい。反対の世論を抑えるには「コメ」を例外扱いにしてもらいたい。そんな日本の事情を見込んで「自動車」を盛り込んだ。「コメは大目に見るから自動車の輸入枠を認めろ」という圧力である。
30年前の輸出自主規制を日本側が飲んだ理由
「30年前の体験が蘇るような気分だ。あの時日本は、輸出枠を飲まされた。今度は輸入枠。いかにも米国らしいやり方です」
通産(現経済産業省)官僚のOBは呆れながらいう。日本は1981年、米国に輸出する自動車の台数を168万台とする「自主規制枠」を決めさせられた。通産省とUSTRが交渉して「輸出枠」が決まり、通産省が自動車会社ごとに輸出台数を割り振る、ということで米国の要求に屈した。
そのころ米国では小型車ブームが起きていた。イラン革命が起こるなど中東でイスラム勢力が強まり、米国の石油支配が崩れ、石油価格は高騰した。一方で排気ガスなど環境問題が深刻化し、ガソリンをがぶ飲みする大型車は敬遠された。品質と燃費がいい日本車が快走していた。
GMを筆頭とするビッグ3はシェアを奪われ、経営者は政府に支援を求め、労働組合は「雇用を奪う」と日本車をハンマーで叩き潰す過激なキャンペーンを展開した。
自国製品を守るなら、輸入品に高い関税を課したり、メーカーに補助金を出すなど政府の責任で対策を採るのが普通のやり方だ。米国はそうせず、日本の政府に「自主規制」をさせた。当時も、米国は「自由貿易」の旗手で、他国に市場開放を迫っていた。そのご本尊が、特定品目に高い関税を掛けたり、業界を補助金で護るのは都合が悪かった。「保護主義」という言葉は、米国が他国に浴びせる常套句だった。
どう見ても、強い製品を持っている国が自主規制する、というのは異常である。しかも「強いられた自主規制」である。
それを飲んだ日本側にも事情があった。第1は、米国に盾突けない従属国であること。第2は、輸出枠を握ることで業界への支配力を高めたい通産省の思惑、第3は輸出シェアを固定する「カルテル」を歓迎するメーカーが日本にあったことだ。
自動車業界が強くなり官民の力関係が変わり、特にトヨタ自動車は通産省の言うことを聞かなくなっていた。天下りを排除する動きさえ出ていた。ドル箱の米国輸出を役所が握ることは、通産省の力を増すことにつながる。
業界では「日産の退潮」が始まっていた。トヨタに完敗し、米国でホンダの追撃にあっていた。「自主規制」を受け入れた時の日本自動車工業会会長は、日産の石原俊社長だった。米国での販売数を固定することは「衰え目立つ日産」に都合が良かった。シェアを維持しようと安売りすれば、利益は減る。国内はトヨタに対抗して無理な販売を続け大赤字になっていた。
「軽」を標的にする米国の日本分断戦略
こんな「昔話」をするのは、似た状況が今もあるからだ。米国が「軽自動車」をやり玉に挙げるのは、揺さぶりである。
ろくな小型車がないアメ車にとって「軽」はライバルではない。なのに「非関税障壁」として挙げているのは、トヨタを筆頭とした日本の自動車メーカーが「軽」を目障りに思っているからだ。
2000年に自動車工業会会長に就任した奥田碩(ひろし)社長(当時)は、業界の課題として「軽自動車を含む税制の改正」を挙げた。軽に対する優遇税制を廃止して普通車と同じにしよう、という狙いだった。
スズキの鈴木修会長が猛然と反発した。「自動車工業会はメーカーの団体だ。トヨタの都合で税制を変えるなど会長の職務を逸脱している」と親しい記者に語った。自工会の理事会では「優遇税制廃止」は議論にさえならなかった。それが2002年の退任会見で奥田会長は「やり残した仕事」として軽の税制改正を挙げた。
自動車業界が元気だったころ、「軽」は1ランク下とされ、業界で「差別」された車種だった。それが今や売れ筋のど真ん中に位置するようになった。
ズズキとダイハツが強く、トヨタも日産も独自の軽を持っていない。ダイハツはトヨタのグループ企業の一つで、国内ではスズキに競り勝ち、軽のトップに上り詰めた。グループの軽部門を担っているが、トヨタにとって大事なのは販売の主力である小型車だ。税制で有利な軽の価格に引きずられ、十分な利益を稼げない。冷え込む国内市場で、軽の優遇は目障りに映る。
米国は「軽の税制改正」を本気で日本に求めていないだろう。わざわざ「非関税障壁」にリストアップすることで、大手メーカーが「優遇是正」に動く足場を作った、とも言える。本丸は、日本の自動車メーカーに「輸入枠」を認めさせることだ。8000台しか売れていないアメ車が5割り増しになっても1万2000台である。421万台(2011年)売れている日本市場で誤差程度の話だ。大手メーカーにとってみれば、端数のようなアメ車より年間152万台(同)売れている「軽」の方が悩ましい。
今年は米国大統領選挙の年だ。自動車業界や全米自動車労組の協力を得るには、分かりやすい成果が必要だ。日本をTPPに引き込むのは米国の戦略だが、頭を下げて入ってもらうなどということはしない。逆に、「入りたいなら入会料」を、と手を出す。農業や簡保で日本を追いつめ、自動車で譲歩を引き出す。
米国の交渉術は、そういうものだ。理不尽な要求でも、交渉全体の中で、相手から譲歩を引き出す受け皿になっている。
日本の首相なら「自由貿易を主張する米国とは思えない筋違いな要求ですね」程度の発言をしてほしいもだが、頭を下げてTPPへの入会をお願いする、という「負けパターン」の交渉がもう始まっている。
農協や郵便局がアメ車を買うなどという事態が無いことを願いたい。
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・ 世界通貨戦争(25)日本マスコミがカットしたオバマ演説
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・ TPP推進のため平気で嘘をねつ造するマスコミ
・ TPPは国を揺るがす大問題に発展するか
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