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後世学(Epigenetics)の誕生

 ラマルクによる機能進化論、環境進化論は、ダーウィンにより「獲得形質は遺伝しない」のもとに葬り去られてきた。
 しかし、今ラマルクは名誉を回復しつつある。
 後世学の発展により、「ヒト・ゲノム計画」に続く大規模な「ヒト・後世的・印し計画」の研究が始まっている。
 
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  後世学(Epigenetics)の誕生   2012/2/25   「異端医師の独り言」から

2010年1月号の TIME誌(一般大衆誌)からの要約です。≪≫内は、僕のコメントと解説。

 ≪ゲノムとは、全塩基対=DNAの配列、このうち意味のある部分=タンパク質の設計図となる部分を、遺伝子と言う。遺伝子やゲノムは頑丈で、保存状態が良ければ一万年以上変化しない。
 遺伝子の一部=抗体を作成する部分は、静的でなく動的に組み替えられることを示したのが、利根川進・博士。進化とは、それ以外の領域の遺伝子構造が変化すること。≫ 全訳はこちら。「後世学」という文言はでてきませんが、牧野尚彦・著「ダーウィンよさようなら」に詳しいです。

 北部スウェーデンのとある村に 19世紀の克明な農業記録が残されていた。不作の年の極寒の冬には、人々はひどい飢餓を経験し、豊作の冬には飽食を経験した。
 その子孫の寿命と不作-豊作の関係を調べたところ、食物が豊富な冬を満喫した男児は、一シーズンで大食漢になり、その子と孫は短命だった。
 何と大食漢になった男児の孫は、飢餓に耐えた孫より 6~32年早死にすることが分かった。大食漢になった女児の娘とその娘は、やはり短命だった。平たく言えば、若者の一冬の飽食が、その孫の寿命を何十年も縮める。何がそうさせるのか?

Epigenome(後世遺伝子)の誕生

 その答えは、環境と遺伝子の両方を超越している。20年以上におよぶ研究の結果、新しい科学の分野、後世学が誕生した。
 後世学の基本は、遺伝子コードの変化には関与しない遺伝子活動の変化を子孫に伝えることである。これら遺伝子表現は、遺伝子の表面に位置する epigenome(接頭語、epi-、は「外)を意味する)(後世的・遺伝子)により運用される。
 後世的・印しは、遺伝子にスイッチを点けるか消すか「印し」をつける。ダイエット、ストレス、出生前の栄養状態といった環境的因子を通して後世的・印しは、子孫へ遺伝子を複写する。

 後世学は、耳触りの良いニュースとそうでないニュースをもたらす。
 まず、悪いニュースから:喫煙や過食といった生活習慣は、DNAの表面に張り付いている後世的・印しは、肥満の原因となる遺伝子を強力に発現させるとか、長寿遺伝子を非常に劣化させるように変化させる。

 良いニュース:科学者たちは、後世的・印しを操作する方法を学びつつある、それは悪い遺伝子を不活化し、良い遺伝子を蘇らせる薬剤の開発である。 2004年、FDA(米・食品医薬品局)は、後世的・薬品を初めて認可した。Azacitidineは、脊椎形成異常症候群(まれな疾患で、血液悪性腫瘍を合併する)の治療に使われている。
 その薬剤は、血液中の過表現≪表現=遺伝子がこさえるタンパク質≫される前駆細胞の後世的・印しを鎮静化する。 Celgene社によると、重症な脊椎形成異常症候群患者を、azacitidineで治療すると中央生存期間 2年に対し、従来の血液治療群では、15ヶ月であった。

 2004年以来 FDAは、この他に 3つの腫瘍抑制遺伝子を少なくとも部分的に活性化すると考えられる後世的薬品を承認してきた。後世学研究の大きな希望は、生化学的スイッチを消すことにより、多くの疾患(例えば、がん、統合失調症、自閉症、アルツハイマー病、糖尿病)で役割を果たしている遺伝子に休んでもらうことである。
 いわば、ダーウィンと賭けをしているわけである。

 おかしなことに、科学者たちは、少なくとも 1970年代には、後世的・印しを周知していた。
 しかし 1900年代 、後世的現象は、主役 DNAの脇役とみなされていた。後世的・印しは非常に重要と理解されるにいたり:脳も腎臓の細胞も全く同じ DNAを有し、発生期の細胞は子宮内で、重要な後世的過程が正しい遺伝子を稼働させるか消去するときにのみ、いろいろな細胞へ分化することが知られている。

 最近、後世学は伝統的な遺伝学では説明しえないいくつかの謎を解き明かした:例えば、なぜ、一卵性双生児≪全く同一の遺伝子をもつ双子≫の一方は健康なのに、もう一方が双極性障害や喘息を発症するのか。あるいは、自閉症はなぜ女児に比べ、男児に 4倍も多いのか。これらの場合、遺伝子に変化はなく、遺伝子表現型が僅かに変化した。

 生物学者たちは、このアナロジーをその説明と考える:遺伝子がハードウェアーなら、後世的・印しはソフトウェアーである。「望むなら、ウインドーズを自分の Macにロードできる」と、主導的な後世学研究者・Eckerは言う。「同じチップ、同じゲノムがあるが、異なるソフトウェアー。だから、出力は異なる細胞種」と。

健康なマウスをいかに作るか

 後世学の化学的機序は非常に単純である。ダーウィンは、遺伝子の進化には何世代もかかると説いたが、後世的・印しを変化させるのは、一つのメチルの付加によることが明らかにされた。
 メチル化とは一つの炭素原子が 3つの水素原子に結合すること。複数の遺伝子の特定の部位がメチル化されると(DNAメチル化と呼ばれる)、遺伝子表現を変化させさ、スウィッチを消すか点け、表現型を小さくするか大きくする。

 1970年代、DNAメチル化は生物の生理学的特徴を変化させると提唱されていたが、2003年まで不明であった、その年 Jirtleらは、それを証明した。彼らは、agouti遺伝子をもつマウスを用い(この遺伝子が発現し続けると、黄色い毛、肥満そして糖尿病を発症する)、エレガントな実験を行った。
 すなわち、一つの群の妊娠した agoutiマウスにビタミン B群(葉酸とビタミン B12)に富む餌を与えた。もう片方の群には、通常の餌を与えた。ビタミンB群は、メチル化のドナーとして働く:子宮内でメチル類がより多く agouti遺伝子をメチル化する、だからその表現を変化させる。
 だから、マウス DNAに変化を及ぼさずに、単にビタミン B群を与えただけで、agoutiの母親は、正常体重で糖尿病を発症しない茶色の子を産んだ。

 最近の他の研究もまた、遺伝子表現をしのぐ環境パワーを示してきた。例えば、フルーツハエ≪フルーツにたかる小さなハエで、遺伝子の実験でよく使われる ≫を geldanamycineという薬剤に暴露すると、目が異常に大きくなり、その子孫は少なくとも 13代にわたり目が大きくなる(子孫は薬剤に暴露させない)。
 同様に、 Jabolonkaらの実験によると、回虫にある種の細菌を食べさせると、小さいずんぐりした外観を呈し、緑色蛍光タンパク質が消えた;この変化は、少なくとも 40世代続いた。

 後世的変化は、永久的なのか? 多分、永久的であるが、進化ではないことを銘記されたい、なぜなら DNAを変化させないから。
 後世的変化は、環境的ストレッサー≪ストレスを与えるもの≫に対する生物的反応をあらわす。その反応は、後世的・印しを介して何代にもわたり遺伝するが、環境的圧力を取り除くと、後世的・印しは衰え、DNAコードはオリジナル・プログラムに戻る。いずれにしろ、これが最近の考え方である:自然淘汰のみが、永久的遺伝子変化の原因となる。

 後世的遺伝が永遠に続かないとしても、そのパワーは巨大である。記憶(非常に複雑な生理的そして生物的過程)でさえ、後世的遺伝を介し次世代で改善し得る。
 Feigらは、遺伝的記憶障害があるマウスを玩具、運動そして外部刺激の多い環境に置いた。これらのマウスは、記憶形成のカギとなる神経伝達の形状である、長期相乗作用(LTP)を有意に改善した。驚いたことに、その子供は外部刺激がなくても LTPが改善した。

 科学界が、後世学に非常に敏感で興奮するわけである。後世学者たちは、近代・後世学を予想した黎明期の自然主義者をあまりにも早く見捨ててきたこと ― そしてダーウィン主義者が長く軽蔑してきたことを、穏やかに知らしめている。
 Lamarck(1774~1829)は、進化は 1あるいは 2代で起こりえると論じた。彼は、動物は生涯の間、環境と自らの選択により特性を獲得したと仮定した。最も有名な Lamarck主義の例:キリンが長い首を獲得したのは、近い祖先が高所の栄養豊富な葉を食すために首を延ばした。

 反対にダーウィンは、進化は生物の情熱的な努力によるのではなく、冷徹で不完全な淘汰によると説いた。ダーウィン主義者の考えによると、キリンが首を長くするのに数千年かかったのは、長い首をもたらす遺伝子は、非常にゆっくり有利性を得たからだ。Lamarckより 84歳若い Darwinは、当時より優れた科学者で、全盛期を勝ちとり、Lamarckの進化論は、誤りだったとみなされるようになった。

北部スウェーデンでの「飽食と子孫の短命」の謎解き

 Bygrenと Pembreyは、飽食と子孫の短命の謎解きに着手した。あたり前だが、片方の群の子供を飢えさせ、もう一方の子供を過食させるわけにはいかないし、結果を得るまで 60年待ちたくないでしょう。
 Pembreyは偶然に、遺伝情報の貴重な埋蔵物、 ALSPAC(Avon親と子の垂直的研究)にアクセスした。ALSPACは、数千人の子供と子供が生まれる前 1991~1992年に生まれた親を追跡してきた。毎年 ALSPACの親と子は、医学そして身体検査を受けた。
 これらのデータ収集は、個人のゲノタイプと環境的圧力が、健康と発育に関わるかを明らかにするためにデザインされた。ALSPACのデータは、いくつかの洞察をもたらしてきた:ピーナッツ・オイルを含むベビーローションを使用すると、ピーナッツアレルギーをきたす可能性がある;妊娠中の高度な不安は、子供の喘息と関係する;乳児があまりに清潔な空間に置かれると、湿疹の発症率が高くなる。

 Pemberyらは、2006年に未だかつてない論文を発表した。
 追跡した 14,024の父親のうち、166人が 2歳未満に喫煙を始めた ― 思春期前である。子供たちは遺伝学的に思春期とは隔離されている、なぜなら精子を作りえないから(女児は、生下時から卵子を作る)。
 そのことは、思春期に後世的変化をもたらす:もし、環境が Y染色体の後世的・印しに刻印するなら、精子が作られ始められ時よりいつがベターなのか? 
 166人の早期喫煙者の息子を観察すると、9歳までに肥満になった。
 このことは、思春期前に喫煙を始めると、息子は、成人前に肥満や他の健康被害をこうむることを意味する。
 これらの男児は、飽食者の子孫の早死にとまさに同様、短命をもたらす。
 「暴露-感受性期間そして性特異性という文脈において、ALSPACと飽食-早死の一貫性は、親の環境は男児系に引き継がれるという普遍的遺伝系があるという仮説を支持する」と、Beygrenらは結論した。
 換言すれば、あなたがバカな行為を 10歳までにしなければ、あなたの後世を変えられる。喫煙を始めるとして、自身の健康被害ばかりでなく、壊滅的な遺伝的誤りをひき起こす。

後世学の開花

 2008年、NIH(国立衛生研究所)は、「いかに、そして、いつ後世的過程が遺伝子をコントロールするのかを理解する」研究に 9千万ドルを拠出すると発表した。当時のNIHのディレクターは、後世学は「生物学の中心になる」と述べた。

 昨年 10月、NIHは研究予算の拠出を始めた。この分野で協力していた科学者たちは、インターネットを介した、主にサンディエゴ後世学研究所、そして Salk研究所(ポリオワクチンを発見した研究者により創設され、それが「ヒト・ゲノムプロジェクト」につながった)の協力を得た。

 研究計画は、少しばかり壮大だった。科学者たちは 2つの細胞種(胎性幹細胞と線維細胞)で、後世的・印しの位置を特定した。ヒトには少なくとも 210種の細胞がある。210の細胞種は、それぞれ異なる後世的・印しをもつ可能性がある。
 それが、Eckerが 1,900万ドルの研究資金を NIHに申請した理由で、すべての後世的印しを明らかにし、いかに協調するかを比べるより、最終予算が少なくて済む。

 ヒト・ゲノム計画を覚えていますか? 2000年 3月≪正しくは、2003年 4月≫に終了、ヒト・ゲノムは約 25,000の遺伝子を含み;ゲノムの全解読に、3億ドルを要した。
 ヒト後世的・印しの数やパターンは知られていない、数は壮大で、多分、億単位である。全ての後世的・印しの解析には、コンピューターが役に立つであろう。
 ヒト・後世的・印し計画(欧州ではすでに開始)が終了すると、15世紀の子供の宿題・アバスク(算盤)に似たヒト・ゲノム計画と同等の成果をもたらすだろう。

 しかし、将来性は驚異的である。数 10年間、われわれは、巨大なダーウィン主義につまずいてきた。
 われわれが考えていた DNAは、自分、子供、そして孫が生きていくための鉄甲の鎧と考えた。
 今や、DNAをいじくりまわし、自分の意志に従わせ得る世界を想像できる。遺伝子学とエティクスが実働するまで何年もかかるだろうが、確実である:後世学の時代を迎えつつある。
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