資産も主権も国際資本に奪われるギリシャ
2012-02-16
主権が奪われるギリシャ 2/16 三橋貴明 Klugから
議場周辺で大規模デモが繰り広げられ、デモ隊が議会正面の大理石を破壊し、火炎瓶や催涙弾が飛び交う中、ギリシャ国会は第二次国際支援の前提となる緊縮財政法案を可決した。
具体的には、最低賃金の引き下げや公務員数の1万5千人削減など、国民に痛みを強いる内容となっている。ギリシャ国民は失業率が20%を上回る中における緊縮財政政策に猛反発し、「国際社会がわれわれを脅しているだけだ」と叫び、現在も各地で抗議活動を繰り広げている。
『2012年2月13日 ブルームバーグ「ギリシャ議会:財政緊縮法案を可決-国際支援獲得に前進」
ギリシャ議会は、財政緊縮法案を賛成多数で可決、パパデモス首相は同国への第2次国際支援に必要な同法案の議会承認を取り付けた。
ペツァルニコス議長によると、法案は賛成199票、反対74票で可決された。国営テレビが生中継した。予算措置の実行と1300億ユーロ(約13兆円)の第2次ギリシャ支援の確保に向けて昨年11月16日に実施された信任投票では、パパデモス首相は定数300議席の議会で255票の支持を集めていた。
パパデモス首相は議会に対し、「ギリシャがユーロ圏にとどまるのか、無秩序なデフォルト(債務不履行)に陥るのかは、われわれの票で決まる」と述べ、「経済プログラムへの賛成票を投じ、融資合意の道を開くことが、経済の改革と回復の土台を築く」と強調した。
緊縮策の議会通過を受け、次の焦点は第2次支援の承認の是非を判断する2月15日のユーロ圏財務相会合に移る。昨年7月に始まったこの協議が決着すれば、イタリアやポルトガルなど高債務国が投機家の標的にされる脅威の封じ込めに役立つ。(後略)』
ギリシャ議会が緊縮財政を可決したことで、IMFなどの第二次融資が実現に向かい、3月のデフォルト(債務不履行)を避けられる見込みが高まった。とはいえ、別にこれでギリシャ危機が収束に向かうわけではない。むしろ、危機は深刻化していくことになってしまうだろう。
理由は本連載読者であれば、想像がつくと思う。
現在のギリシャ政府が緊縮財政、すなわち増税や社会保障支出の削減を実施すると、名目GDPがマイナス成長になり、政府歳入が却って減ってしまうためだ。日本と同じ、いや日本以上に政府の歳入が落ち込む状況になり、財政はますます悪化することになる。
図141-1は、2001年から11年(IMF予想値)までのギリシャの名目GDPと政府歳入をグラフ化したものだ。08年に名目GDPがピークを打って以降、ギリシャの財政危機が表面化し、政府は増税や歳出削減を繰り返してきた。無論、ギリシャが経常収支赤字国で、政府は国債消化を国際金融市場に頼らざるを得ないという事情があったためだが、結果はどうなったか。
政府の歳出にしても、少なくとも公共事業や公務員給与はGDPの需要項目だ(公的固定資本形成、政府最終消費支出)。所得移転である年金はともかく、GDPの有効需要を削り、さらに増税で国民の支出(消費、投資)意欲を冷え込ませたわけだから、当たり前の話として名目GDPはマイナス成長に突入した。
【図141-1 ギリシャの名目GDPと政府歳入(単位:十億ユーロ)】

出典:IMF(※2011年は予想値)
結果、ギリシャは増税をしても政府の歳入が増えない状況に追い込まれてしまう。まさに、1997年以降の日本そのままだ。ギリシャが冒頭の緊縮財政政策を追加的に実施すると、財政問題が悪化する可能性が極めて高い。
実際、ギリシャの今年1月の歳入は、前年同月比でマイナス7%になってしまった。ギリシャ政府は1月の歳入目標を8.9%増と予想していたため、まさに橋本政権(98年)そのものである。名目GDPが縮小していく中で政府が増税を強行すると、減収になってしまう。この現実を理解していない評論家や政治家が、まだまだ日本国内には多い。この手の方々には、是非ともギリシャの事例を基に勉強をして欲しい。
さらに問題なのは、現在のユーロ圏がギリシャ危機を鎮静化するに当たり、各種の「主権侵害」あるいは「企業の権利侵害」を平気で行うようになってしまったことだ。これは、数年前には考えられなかった現象である。
具体的には、ギリシャ債権を購入していた民間債権者(独仏の銀行など)が、債権放棄や長期債へのスワップを「強制」されようとしている問題だ。
現在、ギリシャ政府と民間債権者との間で話し合われている内容は、
「民間債権者側が、債権の50%を放棄する」
「残りの50%について、15%は現金で受け取り、35%については新規発行30年物のギリシャ国債とスワップする」
「上記新規発行30年物ギリシャ国債の金利は3.6%-3.75%とする」
という、はっきり言って「無茶苦茶」以外に表現ができない内容になっている。上記のまま合意に至ると、民間債権者側の損失は六割から七割に達するだろう。
しかも、現在の合意条項の中には、自発的なギリシャ債権放棄に合意しない債権者について、
「強制的に交換に応じさせる集団行動条項」
が含まれているのだ。これは、明らかに民間の債権者である、金融企業に対する権利侵害であろう。
さらに言えば、民間債権者がスワップを強いられる新規発行30年物ギリシャ債の金利が3.6%など、唖然とするしかない。何しろ、現在の新規発行30年物ドイツ国債の金利が2.55%である。ドイツ債とのスプレッド(金利差)が1%強しかないのである。(ちなみに、現実のギリシャ30年債の利回りは17%)
上記の通り、明らかに民間債権者に損失が発生する「ギリシャ政府のデフォルト(債務不履行)」であるにも関わらず、ユーロ首脳たちは、
「いやいや、ギリシャは決してデフォルトはしていない」
と言い張るつもりなのだろうか。さすがに、無理がある。
総額2060億ユーロ(約20兆円)のギリシャ債について、50%の債務減免(借金棒引き)を強制(事実上)した時点で、どう考えてもギリシャのデフォルトに該当する。これがデフォルトではないとすると、一体何がデフォルトに該当するのか、筆者にはさっぱり理解できない。
そもそも、自発的だろうが強制的だろうが、政府が民間銀行に対し、
「ギリシャ債の債権放棄に応じて欲しい」
とやる時点で、明らかに「政府の経営への介入」である。政府の要請に応じ、莫大な損失覚悟でギリシャ債の債権放棄に応じた銀行の経営者は、株主代表訴訟の対象になってしまうように思えるわけだが。
加えて、CDSの問題もある。ギリシャ政府のデフォルトを「デフォルトではない」と、CDSの支払いをごまかしたとき、それはプレミアムを買っていた民間の財産権の侵害に当たると思われる。無論、CDSという金融商品に問題があることは確かだが、だからといってユーロ首脳たちが民間の権利を侵害しても構わないという話にはならない。
ところで、ギリシャ政府は緊縮財政政策を強行すると同時に、各種の国有資産の売却も決定、もしくは検討している。これがまた、どう考えても「ギリシャ国民の主権」を侵害しているとしか思えない驚愕の内容なのだ。
ギリシャ政府は、すでにスポーツくじ運営会社OPAP、国内最大の製油会社ヘレニック石油、水道事業を手掛けるアテネ水道公社及びテサロニキ・ウォーター・サプライ・アンド・ソーエッジ、国営ガス供給会社DEPA、ガス輸送システム管理会社DESFAの政府株の売却を決定した。加えて、今年の下半期に港湾や空港の営業権、国営高速道路会社の売却も検討している。
賭けてもいいが、上記の国有企業やインフラストラクチャーをギリシャ政府が売却したとして、それを購入するのは「外資」あるいは「グローバル資本」だろう。グローバル資本はバーゲンセールに出されたギリシャのインフラを購入し、今後、巨額の利益を同国から上げることになるわけだ。
すなわち、ショック・ドクトリンである。
ナオミ・クラインのベストセラー「ショック・ドクトリン」には、天災や戦争、財政危機などの「ショック」を活用し、グローバル資本が各国の政府が提供している公共サービスを次々に手に入れ、国民が悲惨な状況に陥った事例が多数、紹介されている。特に、チリやアルゼンチン、イラクなどでは、公共サービスが外資化した結果、高価格低品質なサービスが供給され、国民の怒りを買っている。
水道やガスなどの公共サービスは、基本的には独占的だ。国民はどれだけ不満があろうとも、「外資系」の民間企業が供給する水やガスを「言い値」で使わざるを得ないのだ。水道料金をいきなり十倍にされても、国民側はその水を使うしかない。
何というべきか、いわゆる新自由主義は「市場原理」などと言いながら、消費者側に選択肢がないサービスまで「民営化」などと言い出すので、本当に困ったものである。ラスト・ワンマイルが独占的なインフラである電気、ガス、水道サービスに「市場原理主義」を適用しようとしたところで、無理な話だ。特に、供給者が「外資系」や「グローバル資本」だった場合、単に国民に提供されるサービスの質が落ち、価格が上がるだけという結果を招く。
ギリシャ国民は上記の通り、外国からの支援を受けるのと引き換えに、国内の公共サービスを外資に明け渡す(事実上)ことになるわけだ。さらに、これまた「外国」の要望である緊縮財政により、ギリシャ国民は次第に所得が減少していく。すなわち、貧乏になっていくのである。
そこまでして、ギリシャが得られるものは、単に「ユーロに残れる」というだけに過ぎない。あの怒りっぽいギリシャ国民が、このまま大人しく緊縮財政や国有資産売却を受け入れるとは、到底思えない(すでに大人しくしていないが)。
現実的な話をすると、ギリシャを立ち直させる方法は二つしかない。
1. ドイツがギリシャに大々的な所得移転を行う(融資ではなく、地方交付金のイメージで、ドイツ国民の所得をギリシャにプレゼントする)
2. ギリシャがユーロを離脱し、デフォルトした上で、為替下落ボーナスを受ける
ところが、1も2も政治的に極めて難しいということで、3である「ギリシャの主権の一部を取り上げ、緊縮財政を強行させ、国民を貧乏にする」という道が採られているわけだ。3の道を選んだところで、ギリシャの財政が好転する可能性は極めて低いにも関わらず、である。
何というか、上記のギリシャの国有財産の売却案を見ると、誰かが、
「ギリシャには、むしろ状況が悪化して欲しい。その方が、普通は買うことができないギリシャの国有資産を安く手に入れることができる。バーゲンセールは間もなくだ」
などと舌なめずりをしているのではないかと、変な想像をしてしまう。
現実に、ギリシャの状況を悪化させる政策ばかりが次々に打たれる現状を見ると、あながち間違いではないように思えてくるわけだが、いかがだろうか。
議場周辺で大規模デモが繰り広げられ、デモ隊が議会正面の大理石を破壊し、火炎瓶や催涙弾が飛び交う中、ギリシャ国会は第二次国際支援の前提となる緊縮財政法案を可決した。
具体的には、最低賃金の引き下げや公務員数の1万5千人削減など、国民に痛みを強いる内容となっている。ギリシャ国民は失業率が20%を上回る中における緊縮財政政策に猛反発し、「国際社会がわれわれを脅しているだけだ」と叫び、現在も各地で抗議活動を繰り広げている。
『2012年2月13日 ブルームバーグ「ギリシャ議会:財政緊縮法案を可決-国際支援獲得に前進」
ギリシャ議会は、財政緊縮法案を賛成多数で可決、パパデモス首相は同国への第2次国際支援に必要な同法案の議会承認を取り付けた。
ペツァルニコス議長によると、法案は賛成199票、反対74票で可決された。国営テレビが生中継した。予算措置の実行と1300億ユーロ(約13兆円)の第2次ギリシャ支援の確保に向けて昨年11月16日に実施された信任投票では、パパデモス首相は定数300議席の議会で255票の支持を集めていた。
パパデモス首相は議会に対し、「ギリシャがユーロ圏にとどまるのか、無秩序なデフォルト(債務不履行)に陥るのかは、われわれの票で決まる」と述べ、「経済プログラムへの賛成票を投じ、融資合意の道を開くことが、経済の改革と回復の土台を築く」と強調した。
緊縮策の議会通過を受け、次の焦点は第2次支援の承認の是非を判断する2月15日のユーロ圏財務相会合に移る。昨年7月に始まったこの協議が決着すれば、イタリアやポルトガルなど高債務国が投機家の標的にされる脅威の封じ込めに役立つ。(後略)』
ギリシャ議会が緊縮財政を可決したことで、IMFなどの第二次融資が実現に向かい、3月のデフォルト(債務不履行)を避けられる見込みが高まった。とはいえ、別にこれでギリシャ危機が収束に向かうわけではない。むしろ、危機は深刻化していくことになってしまうだろう。
理由は本連載読者であれば、想像がつくと思う。
現在のギリシャ政府が緊縮財政、すなわち増税や社会保障支出の削減を実施すると、名目GDPがマイナス成長になり、政府歳入が却って減ってしまうためだ。日本と同じ、いや日本以上に政府の歳入が落ち込む状況になり、財政はますます悪化することになる。
図141-1は、2001年から11年(IMF予想値)までのギリシャの名目GDPと政府歳入をグラフ化したものだ。08年に名目GDPがピークを打って以降、ギリシャの財政危機が表面化し、政府は増税や歳出削減を繰り返してきた。無論、ギリシャが経常収支赤字国で、政府は国債消化を国際金融市場に頼らざるを得ないという事情があったためだが、結果はどうなったか。
政府の歳出にしても、少なくとも公共事業や公務員給与はGDPの需要項目だ(公的固定資本形成、政府最終消費支出)。所得移転である年金はともかく、GDPの有効需要を削り、さらに増税で国民の支出(消費、投資)意欲を冷え込ませたわけだから、当たり前の話として名目GDPはマイナス成長に突入した。
【図141-1 ギリシャの名目GDPと政府歳入(単位:十億ユーロ)】

出典:IMF(※2011年は予想値)
結果、ギリシャは増税をしても政府の歳入が増えない状況に追い込まれてしまう。まさに、1997年以降の日本そのままだ。ギリシャが冒頭の緊縮財政政策を追加的に実施すると、財政問題が悪化する可能性が極めて高い。
実際、ギリシャの今年1月の歳入は、前年同月比でマイナス7%になってしまった。ギリシャ政府は1月の歳入目標を8.9%増と予想していたため、まさに橋本政権(98年)そのものである。名目GDPが縮小していく中で政府が増税を強行すると、減収になってしまう。この現実を理解していない評論家や政治家が、まだまだ日本国内には多い。この手の方々には、是非ともギリシャの事例を基に勉強をして欲しい。
さらに問題なのは、現在のユーロ圏がギリシャ危機を鎮静化するに当たり、各種の「主権侵害」あるいは「企業の権利侵害」を平気で行うようになってしまったことだ。これは、数年前には考えられなかった現象である。
具体的には、ギリシャ債権を購入していた民間債権者(独仏の銀行など)が、債権放棄や長期債へのスワップを「強制」されようとしている問題だ。
現在、ギリシャ政府と民間債権者との間で話し合われている内容は、
「民間債権者側が、債権の50%を放棄する」
「残りの50%について、15%は現金で受け取り、35%については新規発行30年物のギリシャ国債とスワップする」
「上記新規発行30年物ギリシャ国債の金利は3.6%-3.75%とする」
という、はっきり言って「無茶苦茶」以外に表現ができない内容になっている。上記のまま合意に至ると、民間債権者側の損失は六割から七割に達するだろう。
しかも、現在の合意条項の中には、自発的なギリシャ債権放棄に合意しない債権者について、
「強制的に交換に応じさせる集団行動条項」
が含まれているのだ。これは、明らかに民間の債権者である、金融企業に対する権利侵害であろう。
さらに言えば、民間債権者がスワップを強いられる新規発行30年物ギリシャ債の金利が3.6%など、唖然とするしかない。何しろ、現在の新規発行30年物ドイツ国債の金利が2.55%である。ドイツ債とのスプレッド(金利差)が1%強しかないのである。(ちなみに、現実のギリシャ30年債の利回りは17%)
上記の通り、明らかに民間債権者に損失が発生する「ギリシャ政府のデフォルト(債務不履行)」であるにも関わらず、ユーロ首脳たちは、
「いやいや、ギリシャは決してデフォルトはしていない」
と言い張るつもりなのだろうか。さすがに、無理がある。
総額2060億ユーロ(約20兆円)のギリシャ債について、50%の債務減免(借金棒引き)を強制(事実上)した時点で、どう考えてもギリシャのデフォルトに該当する。これがデフォルトではないとすると、一体何がデフォルトに該当するのか、筆者にはさっぱり理解できない。
そもそも、自発的だろうが強制的だろうが、政府が民間銀行に対し、
「ギリシャ債の債権放棄に応じて欲しい」
とやる時点で、明らかに「政府の経営への介入」である。政府の要請に応じ、莫大な損失覚悟でギリシャ債の債権放棄に応じた銀行の経営者は、株主代表訴訟の対象になってしまうように思えるわけだが。
加えて、CDSの問題もある。ギリシャ政府のデフォルトを「デフォルトではない」と、CDSの支払いをごまかしたとき、それはプレミアムを買っていた民間の財産権の侵害に当たると思われる。無論、CDSという金融商品に問題があることは確かだが、だからといってユーロ首脳たちが民間の権利を侵害しても構わないという話にはならない。
ところで、ギリシャ政府は緊縮財政政策を強行すると同時に、各種の国有資産の売却も決定、もしくは検討している。これがまた、どう考えても「ギリシャ国民の主権」を侵害しているとしか思えない驚愕の内容なのだ。
ギリシャ政府は、すでにスポーツくじ運営会社OPAP、国内最大の製油会社ヘレニック石油、水道事業を手掛けるアテネ水道公社及びテサロニキ・ウォーター・サプライ・アンド・ソーエッジ、国営ガス供給会社DEPA、ガス輸送システム管理会社DESFAの政府株の売却を決定した。加えて、今年の下半期に港湾や空港の営業権、国営高速道路会社の売却も検討している。
賭けてもいいが、上記の国有企業やインフラストラクチャーをギリシャ政府が売却したとして、それを購入するのは「外資」あるいは「グローバル資本」だろう。グローバル資本はバーゲンセールに出されたギリシャのインフラを購入し、今後、巨額の利益を同国から上げることになるわけだ。
すなわち、ショック・ドクトリンである。
ナオミ・クラインのベストセラー「ショック・ドクトリン」には、天災や戦争、財政危機などの「ショック」を活用し、グローバル資本が各国の政府が提供している公共サービスを次々に手に入れ、国民が悲惨な状況に陥った事例が多数、紹介されている。特に、チリやアルゼンチン、イラクなどでは、公共サービスが外資化した結果、高価格低品質なサービスが供給され、国民の怒りを買っている。
水道やガスなどの公共サービスは、基本的には独占的だ。国民はどれだけ不満があろうとも、「外資系」の民間企業が供給する水やガスを「言い値」で使わざるを得ないのだ。水道料金をいきなり十倍にされても、国民側はその水を使うしかない。
何というべきか、いわゆる新自由主義は「市場原理」などと言いながら、消費者側に選択肢がないサービスまで「民営化」などと言い出すので、本当に困ったものである。ラスト・ワンマイルが独占的なインフラである電気、ガス、水道サービスに「市場原理主義」を適用しようとしたところで、無理な話だ。特に、供給者が「外資系」や「グローバル資本」だった場合、単に国民に提供されるサービスの質が落ち、価格が上がるだけという結果を招く。
ギリシャ国民は上記の通り、外国からの支援を受けるのと引き換えに、国内の公共サービスを外資に明け渡す(事実上)ことになるわけだ。さらに、これまた「外国」の要望である緊縮財政により、ギリシャ国民は次第に所得が減少していく。すなわち、貧乏になっていくのである。
そこまでして、ギリシャが得られるものは、単に「ユーロに残れる」というだけに過ぎない。あの怒りっぽいギリシャ国民が、このまま大人しく緊縮財政や国有資産売却を受け入れるとは、到底思えない(すでに大人しくしていないが)。
現実的な話をすると、ギリシャを立ち直させる方法は二つしかない。
1. ドイツがギリシャに大々的な所得移転を行う(融資ではなく、地方交付金のイメージで、ドイツ国民の所得をギリシャにプレゼントする)
2. ギリシャがユーロを離脱し、デフォルトした上で、為替下落ボーナスを受ける
ところが、1も2も政治的に極めて難しいということで、3である「ギリシャの主権の一部を取り上げ、緊縮財政を強行させ、国民を貧乏にする」という道が採られているわけだ。3の道を選んだところで、ギリシャの財政が好転する可能性は極めて低いにも関わらず、である。
何というか、上記のギリシャの国有財産の売却案を見ると、誰かが、
「ギリシャには、むしろ状況が悪化して欲しい。その方が、普通は買うことができないギリシャの国有資産を安く手に入れることができる。バーゲンセールは間もなくだ」
などと舌なめずりをしているのではないかと、変な想像をしてしまう。
現実に、ギリシャの状況を悪化させる政策ばかりが次々に打たれる現状を見ると、あながち間違いではないように思えてくるわけだが、いかがだろうか。
- 関連記事
-
- 消費増税にスウェーデンを礼賛する愚か者 (2012/03/03)
- 貿易赤字で国債暴落の馬鹿話:マスコミと財務省 (2012/02/27)
- ユーロが襲うギリシャの社会危機、政治危機 (2012/02/25)
- TPPは開国ではなくまさに売国:トッテン (2012/02/24)
- ギリシャは民主主義を守るためにデフォルトを! (2012/02/21)
- 資産も主権も国際資本に奪われるギリシャ (2012/02/16)
- 自治体破綻とウォール街占拠運動:トッテン (2012/02/14)
- 米国経済の崩壊は騒乱と弾圧の時代:ソロス (2012/02/14)
- デフレを放置し、黒を白とうそぶく日銀総裁 (2012/02/11)
- 凋落するソニー、パナソニック、シャープ (2012/02/11)
- 真摯に絞った2つの提言 (2012/02/10)
コメント
新たな世界制覇の構図
Re: 新たな世界制覇の構図
資産売却、民営化、増税、社会保障削減。
実際に他人事ではありません。
松下政経塾政権は日本をギリシャ化しようとしているとしか考えられません。
国際金融資本の無限の強欲は、EUを分断し、弱小国を死ぬまで絞りとるでしょう。
彼らは米国とIMFを支配しており、日本にも狙いを定めているのは間違いないところと思います。
TPP、消費増税、etc.経済崩壊を起こさせて絞り上げるでしょう。
実際に他人事ではありません。
松下政経塾政権は日本をギリシャ化しようとしているとしか考えられません。
国際金融資本の無限の強欲は、EUを分断し、弱小国を死ぬまで絞りとるでしょう。
彼らは米国とIMFを支配しており、日本にも狙いを定めているのは間違いないところと思います。
TPP、消費増税、etc.経済崩壊を起こさせて絞り上げるでしょう。
コメントの投稿
トラックバック
この記事へのトラックバックURL
http://bator.blog14.fc2.com/tb.php/882-fd9b7ccf
感じられておられることはその通りではないかと思います:嫌な形の世界制覇が進行していると見ています。
自分たちの理想の世界を創り出すためにあらゆる手段を用いる人達がいて、どんな口実でも利用し、ギリシャだけでなく他の国に対しても同じような攻勢をかけて来る可能性はありますね。。。