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口角炎、医師が「やぶ」になるのはとても簡単だ

 健康と医療に関する話題をもう一つ紹介します。
 医師が「藪医者」になるのはとても簡単だ、と言う経験です。
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 自分の口角炎も治せない「藪」  2/6  CTBNLから   
 歳は取りたくないもので、2年続けて冬に口角炎に悩まされることとなった。

 昨年も今年も、きっかけは雪かきだった。雪かきをしてから二、三日後、口角の唇から皮膚にかけて切れ目が入り、物を食べる度に痛みに耐えなければならないという不愉快な症状に悩まされるようになったのである。寒風が吹きつける戸外で作業したことが口角の皮膚にダメージを与え、感染の「巣(フォーカス)」を作っているのは間違いなかった。

 ニューイングランドに住んで20年以上冬の雪かきを続けてきたが、若いときには一切起こらなかった現象だっただけに、加齢で皮膚がダメージを受けやすくなっていることは容易に推察された。

 起炎菌はほとんどの場合カンジダ(真菌の一種)であるので、市販の抗真菌薬(要は水虫の薬だが、カンジダに抗菌力を持たない薬も多いので注意しなければならない)を塗布することに加えて、皮膚のダメージを防ぐべく乾燥防止の処置を始めたのはいうまでもないが、消退と再燃を繰り返し、すっきり治ることはなかった。

 治りきらない間、ありとあらゆる手段を試みたが、一向に完治する気配はなかっただけに、私は、医師のくせに自分の口角炎が治せないことに、強いフラストレーションを覚えざるをえなかった。

 いろいろと試行錯誤を試みた中で、まず、最初に痛感したのは、当地で市販されているリップクリームは、(少なくとも私の場合)どの商品も必ず悪化を招くという事実だった。アレルギーのせいかどうかはしらないが、リップクリームを使う度に炎症が増悪したのである。私の場合、口角の乾燥防止処置としては、何もエクストラの添加物が入っていないごく普通の「ワセリン」が一番よかったのである。

 しかし抗真菌薬とワセリンの塗布を続けている間も再発を繰り返したので、亜鉛剤とか、ビタミン剤とか、内科的治療も試みざるを得なかった。たまたま、4月に入ってビタミンBの大用量製剤を飲み始めた途端に口角炎はみるみる完治した。

 もっとも、3月に「温暖の地」スペインを旅行した際にも口角炎は治っていたし、気温が上がったことが「完治」の決め手となった可能性もあったのだが、完治の時期とB剤服用の時期とがぴたりと一致したため、その後もせっせとB剤の服用を続けたのだった。

 というわけで、私としては、「今年はビタミンBをたっぷり摂っているから大丈夫」と思い込んでいただけに、雪かきとともに口角炎が再発したときのショックは大きかった。慌てて、抗真菌剤とワセリンの塗布を始めたものの、今年の場合、一向に改善の徴候は見られず、物を食べる度にナイフで切られるような痛みが口角に走ることに耐え続けなければならなかったのである。

 しかも、二年に及ぶ闘病体験で学んだありとあらゆる手段を行使したというのに、口角炎は一向に改善する気配を見せなかった。文字通り、万策尽きた私にとって、最後に残された手段は、当地で昔から広く行われている「民間療法」を試すこと以外になかった。医師である私が、医学の教科書に書かれていない「怪しげな」治療に走ることとなったのだが、「三日で治る」と断言する「口角炎民間治療サイト」は多く、「だまされたつもりで試してみよう」という気になったのである(私にとって、それほど状況は絶望的だったのであるが、将来治療に反応しない進行癌になったら、得体の知れない民間療法に走るようになるのだろうか?)。

 そこで、大枚2ドル99セント(5ドルより高かったらきっと買う気にはなっていなかっただろう)を投じて民間療法の治療プロトコールを購入したのだが、その内容に私は驚愕した。「2時間おきに食器用洗剤の原液を口角炎の部位に刷り込め」というのである。さらに、洗剤を洗い落とした後、口周囲を完全に乾燥させてからワセリンをたっぷり塗れというのであるが、「なぜ食器用洗剤でなければならないのか」の理由は一切書かれていないし、抗真菌剤も一切使わないプロトコールだったのである。

 もとより「だまされたつもりでやる」気であったから、書いてある通りにプロトコールを実施したのであるが、あらあら不思議、三日目になると本当に炎症も痛みも軽快したから私は愕然とした。しかし、驚いてばかりいても芸がないので、「なぜこんな馬鹿げた内容の治療法が奏功したのか」、元科学者として私なりに考察を加えたので以下に結論を記す。

1)プロトコールは食器用洗剤を使用しているが、これは、口周囲を清潔にする(つまり口周囲に巣くっているカンジダを排除する)ために使うのであって、食器用洗剤でなければならない理由はない。通常の洗顔用石けんでまったく差し支えないはずである。

2)洗剤を洗い落とした後、「口周囲を完全に乾燥させる」ステップには意味がある。水でびしょびしょに濡れた場所にワセリンを塗ることを考えたらわかるように、その被覆効果(つまり乾燥防止効果)は塗布時の乾燥が完全であるほど高いはずである。

3)ワセリンをたっぷり塗ることにも意味がある。カンジダがどこから来るかというと唾液が一番考えやすく、睡眠中などに口から垂れる唾液が口角炎を悪化させる可能性は高い。ワセリンをたっぷり塗っておけば、唾液が口角の弱い部分に到達するのをブロックすることが期待される。

 というわけで、

1)毎食後と就寝前に、通常の洗顔石けんで洗顔(口周囲にはとりわけ念を入れる)。

2)石けんを洗い落とした後、口周囲を徹底的に乾燥させる(私は二つ折りしたティシュー・ペーパーの折り目を口にくわえ込み、上下に開いて口周囲を押さえつけて水分を吸収する、という手段を使用している)。

3)口角に抗真菌剤を塗布した後、ワセリンを口周囲にたっぷり塗る。

というようにプロトコールを改変するようになったのだが、現在治療6日目(プロトコール改変後3日目)で、口角炎は跡形もなく消失、きれいに完治した。6日前には、口角に入った切れ目が1センチ近くに達し、食事の度にナイフで切られるような痛みを覚えていたことを考えると、まさに隔世の感がある。

 それにしても、自分が難治性の口角炎に悩まされたからこそ、ただ漫然と抗真菌剤を塗布するだけでは効果が上がらず、ディティールに気を配った「手当て」をする必要があることを学ぶことができたのだが、もし悩んでいなかったら、きっと、患者に(教科書通り)抗真菌剤を処方しただけで治療した気になっていたのではないだろうか? そして、「ちっともよくなりません」と訴える患者に対して、「よくなるはずです」と言い張ったのではないかと思うと、「藪になるのは簡単だ」と深く反省せざるを得ないのである。
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