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姑息に消費増税の既成事実化を図る財務省

 消費税の既成事実化を図る財務省  2/9  三橋貴明 Klugから

 筆者は、デフレ期の増税については、基本的に「全て」反対している。理由は、デフレ期の増税は政府の減収をもたらすためだ。

 少なくとも、現在の野田政権は「税と社会保障の一体改革」と銘打っている以上、将来的に社会保障を維持するため、財源を確保したいという思惑があるのだろう。その場合、必要なのは政府の増収であり、増税そのものではない。増税で日本のデフレを深刻化させた場合、政府は減収となり、社会保障の財源も先細りになってしまう。

 すなわち、筆者は将来的に社会保障を維持するためにも、現時点における増税に反対しているわけだ。日本がデフレから脱却し、名目GDPが成長路線に戻り、さらにインフレ率が高まったら、増税をしても一向に構わない。むしろ、
「政府はなぜ、増税しないんだ」
 と、現在とは真逆のことを叫び始めるつもりである。

 とはいえ、消費税増税に賛成するかどうかは、微妙なところだ。理由は、消費税が所得税や法人税とは異なり、ある特徴を持っているためである。

 財務省などが喧伝している通り、消費税は所得税や法人税に比べ、景気変動の影響をあまり受けない。すなわち「安定財源」なのである。

【図140-1 日本の消費税、法人税、所得税、名目GDPの推移(97年=1)】
20120207_01.png
出典:国税庁、内閣府

 図140-1の通り、消費税はGDPの増減、すなわち景気の変動にほとんど左右されない安定財源だ。「安定財源」と書けば聞こえはいいが、別の言い方をすると、赤字企業や失業者も容赦なく支払いを求められる税金なのである。

 例えば、赤字になった企業は法人税をほとんど払わなくて済む。言い方を変えると「赤字企業は法人税支払いの負担から解放される」ということでもある。法人税の負担を免除された赤字企業は、景気回復による黒字化までの時間を稼ぐことができる。

 決算が赤字化したにも関わらず、法人税を黒字期と同様に払わされると、企業はキャッシュフロー的に耐えられず、倒産するかもしれない。

 また、失業者は所得税の支払い負担から解放される。一家の主が失業しているにも関わらず、所得税を例年通り徴収されたら、家計はたまったものではない。住民税は前年の所得を基準に算定されるので、失業しても一定金額を払わなければならない。それに対し、所得税は違う。失業しても所得税を支払わなくても済む分、家計は少し楽になる。

 上記のように、法人税や所得税は、景気低迷時に企業や家計の負担を軽くする、スタビライザーとしての機能を持っているのだ。スタビライザーとは、安定化装置のことである。
逆に、図140-1の通り、景気が上向いた時期には、所得税や法人税は名目GDPの成長率以上に大きく伸びる。すなわち、企業や家計が、
「以前よりもたくさん税金を支払わされる」
 ことになり、景気は鎮静化の方向に向かう。

 景気が過熱しているときには、例年よりも多額の税金を取り、不況が深刻化しているときには、税金を免除し、企業や家計を助ける。このスタビライザーとしての機能を、所得税や法人税は持ち合わせているのだ。

 ところが、消費税にはそれがない。皮肉なことに、消費税は「安定財源」ゆえに、景気に対する安定化装置としての機能がほとんどないのである。すなわち、不景気の時期に国民の負担を軽減する機能も、好景気の時期に経済活動を抑制する機能も、共に備わっていないのだ。

 例えば、必需品と高額品の税率の差を設定し、かつ、フレキシブルに税率を変更すれば、消費税に安定化装置としての機能を付加することができる。だが、例により日本政府(というか財務省)が推進している消費税増税案は「全品目、同じ税率」である。しかも、政府は14年に8%、15年に10%と、日本経済のファンダメンタルを無視して消費税増税を実現しようとしている。色々な意味で、現在の日本の消費税の増税論議は無茶苦茶なのだ。

 とはいえ、日本の大手マスコミ(特に新聞)の紙面に、上記のような議論が乗ることはない。それどころか、大手新聞は財務省の「手下」と化し、消費税増税を「既成事実化」しようと協力しているのである。
 例えば、2011年11月3日。カンヌでのG20サミットに出席した野田総理大臣は初日の討議において、
「ヨーロッパの状況を見るまでもなく、健全な経済成長を実現するためには、財政健全化は不可欠だ。日本は、2010年代半ばまでに消費税率を段階的に10%まで引き上げる方針を定めた、社会保障と税の一体改革案を具体化し、これを実現するための法案を今年度内に提出する」
 と述べ、将来的な消費税率引き上げを国際会議の場で表明した。それを大手新聞が、特に何の疑問も抱かず、そのまま紙面で「消費税増税、国際公約に!」と報じる。

 そもそも、野田首相の「健全な経済成長を実現するために、財政健全化が不可欠」という発想自体が意味不明である。逆に、財政健全化のためには健全な経済成長が不可欠、というのであれば理解できるのだが。

 それにしても、世界最大の対外純資産国で、しかも極度のデフレに苦しんでいる日本国の首相が、国際会議の場において、
「消費税を段階的に10%まで引き上げます。税と社会保障の一体改革案を具体化し、法案を提出します」
 などと、完全な内政問題を高らかに謳い上げ、意気揚々と、
「これで消費税増税は、国際公約になった」
 などとやるわけだから、情けないの極みだ。現在の世界主要国は、ユーロ危機の対応で苦心惨憺を重ねている。日本が、
「世界最大の対外純資産国として、IMF経由で2000億ドル(例えば)の資金を供給する」
 と宣言すれば、彼ら(主要国の首脳)の需要も満たし、拍手喝采を浴びるだろう。それが「我が国は増税します」宣言なわけだから、主要国の首脳からしてみれば、
「勝手にしろよ」
 という感想以外は湧き起ってこなかっただろう。

 さらに、2012年1月28日。野田首相はダボス会議にテレビ会議方式で参加し、またまた消費税増税を柱とする、税と社会保障の一体改革について説明し、
「先送りしない政治を実践する。持続可能な社会保障制度を構築し、財政規律を維持するため、消費税引き上げを含む改革を必ずや実現する」
 と強調した。

 何というか、要するに国内では反対論が強すぎ、それに対抗するために、
「消費税は国際公約です。だから、やらなければならないのです」
 と、既成事実化を図っているのだろうが、手法が姑息極まりない。TPPの際に、USTRのカトラー代表補に、
「少しガイアツをかけて、TPP参加が日本にとってよいことであると伝えてもらえないか」
 と頼んだ「元日本政府関係者」たちと、思考パターンがそっくりだ。

 困ったことに、現在の日本は大手新聞が、この財務省の「消費税増税の既成事実化」に全面的に協力している。例えば、年金債だ。

 野田政権は、基礎年金の国庫負担分のうち、不足する2.5兆円について「年金債」を発行し、将来の消費税増税分で償還する方針を示している。
「え! 消費税の増税って、もう決まっているの?」
 と思った読者が多いだろうが、もちろん決まっていない。

 というよりも、年金の財源が不足しているならば、普通に赤字国債を発行すれば済む話だ。そもそも、上記の「年金債」にしても、名前が違うだけで、中身は赤字国債そのものである。

 赤字国債を発行し、年金に充当すれば済む話を、なぜか「年金債」という新語を創設し、消費税増税分で償還するという。意味不明だ。

 要するに、
「年金債の償還という話にしておけば、消費税増税に対する反対が減るのでは」
 という、財務省の浅知恵なのだろうが、それにしても未だに閣議決定すらされていない消費税増税分で償還するなど、やり方が無茶苦茶だ。

 あるいは、以下のような話もある。

『2012年2月1日 読売新聞「「こども園」15年度から...政府最終案」

 政府は31日、幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」(仮称)を2015年度をめどに創設するとした「子ども・子育て新システム」の最終案を決めた。

 待機児童数の縮小を目指す。政府は新システム導入で15年度に1兆円超の追加費用を見込んでおり、7000億円程度を社会保障・税一体改革による消費税増税分で賄う方針だ。

 最終案は、有識者らで作る政府の作業部会が決めた。政府は2月中に少子化社会対策会議(会長・野田首相)で正式決定し、関連法案を今国会に提出、13年度から順次実施したい考えだ。(下線部は筆者)』

 しつこいが、消費税増税はいまだに閣議決定もされていない話なのだ。それを、15年度に創設する「子ども園」の財源に充てるという。

 先の年金債同様に、
「子供に使うのなら、消費税を増税しても仕方がないか」
 と国民に思わせたいのだろうが、本当に姑息である。

 ちなみに、同じ「子ども園」の記事を報じるに際し、朝日新聞は、
「新制度は消費増税分の一部を財源に充てる想定のため、導入も増税実現が前提となる。(中略)消費増税をめぐる与野党の攻防も絡み、関連法案の成立の道筋は不透明だ。(2012年2月1日 朝日新聞「幼保一体 総合こども園 15年めど子育て支援案」)」
 と書いており、読売の記事と比較すると、まだしも良心的だ。読売の記事を読んだ人は、消費税増税がすでに決定してしまっているものと、勘違いをしてしまうだろう。

 また、日本経済新聞の「子ども園」に関する報道も、やはり、
「追加財源として約1兆円を投入し、うち7000億円を消費増税でまかなう予定。(2012年1月31日「15年度に総合こども園を創設 政府が最終案」より)」
 と、消費税増税ありきで「子ども園」創設を報じていた。現在の大手紙による増税キャンペーンは、特に読売新聞と日経新聞が凄まじい。露骨なまでに「消費税増税」を既成事実化し、あるいは前回(第139回 消費税増税という愚行(後編)(3/3))取り上げたように、IMFの財政再建の定義を勝手に変更し、増税推進やむなしの印象操作を行ってくる。

 正直、現在の野田内閣が消費税増税を実現できる可能性は、極めて低い。消費税増税法案を国会にかけるには、その前に内閣で閣議決定をしなければならない。ところが、現在の野田内閣には明確な増税反対派が複数人おり、しかも連立を組んでいる国民新党も反対だ。野田首相が消費税増税を閣議決定するには、反対派の閣僚を解任し、自ら兼任し、さらに国民新党との連立を解消しなければならない。

 そこまでして、閣議決定をしたとしても、今度は民主党議員の中にすら反対派が少なくない衆議院で可決しなければならない。すでに小沢派や鳩山派は、
「マニフェストにも載せていなかった、消費税増税反対!」
 という姿勢を明確にしているため、ほとんど党を割る覚悟で衆議院における可決を目指さなければならない。

 さらに、奇跡的に衆議院を通ったとしても、今度は民主党が過半数を持たない参議院で審議しなければならない。参議院で増税法案を通すことは、現時点ではほぼ不可能に近い。

 恐らく、財務省も現在の衆参両院の構成では増税法案を通せないと、半ば諦めているのではないだろうか。逆に、だからこそ、大手紙に指示し、露骨なまでの増税キャンペーンをさせている可能性がある。そもそも、本来はこの種の「奇妙な法案」は、こっそり成立させてしまうのが一番なのだ。

 現在の大手紙による「あからさまな増税キャンペーン」を見ていると、財務省の焦りのようなものが垣間見えてしまうのである。
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