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もうすぐ北風が強くなる

動乱の2012年(1)金融危機、通貨増刷:吉田

 経営コンサルタントでありながら、経済論、金融論に堪能な吉田繁治氏が、金融危機と通貨問題、国債とインフレ、国際金融資本の動向、過剰な信用創造が作り出す過剰損失など、世界経済を分析し、2012年を展望したものです。
 引用元は1ページですが、非常な長文(6項目)ですので、このブログでは3つに分けました。

 吉田氏は、常に楽観的で根拠のない「予測」を振りまく御用評論家や証券会社、日経新聞などとは一線を画しており、慎重で具体的な分析と客観的な解説が特徴です。

 文章は素人にも解りやすい、非常に丁寧な解説です。
 目次の6項目の、それぞれをゆっくり読まれると、非常に解りやすく読むことができると思います。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デ・レバレッジ動乱の2012年への展望
Written by admin on 2012年1月6日 – 08:40  吉田繁治氏の「ビジネス知識源」から    

あけまして、おめでとうございます。西高東低の気圧のため大陸か
らの風が強く、寒い日や雪が続いています。いかがお過ごしでしょ
うか。見事な正月晴もありますが、外を歩くと、気温は低い。

恒例の金融・経済のマクロ予測です。正月の新聞を見ても、毎年の、
株価予想や通貨の予想をあまり見かけません。テレビの経済討論も、
なぜか少ない。消費税増税((注)成立しません)のことばかり言
われています。

予想しきれないのか、あるいは予想すれば、大変なのか。こうした
時こそ、論理的な予測の価値があるはずですが・・・本稿は、新年
の有料版として1月4日に、送ったものです。今年も、よろしくお願
いします。(注)原稿は23ページです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<第258 新年特別号:デ・レバレッジ動乱の2012年への展望>
2012年1月6日

【目次】
1.米欧の金融危機の始まりから
2.中央銀行のマネー印刷が、インフレを招いていない理由
3.ホルムズ海峡の、封鎖の可能性
4.世界の中央銀行の信用増加、言い換えればマネー印刷
5.米ドルより、ユーロが下がっている理由:そして円
6.10年スパンでのデ・レバレッジの時代に向かう
【後記】在庫欠品のお詫び

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.米欧の金融危機の始まりから

【住宅ローン証券の暴落】
始まりは、08年に露呈した米欧の住宅ローン証券の下落でした。米
国の住宅ローンは$11兆(880兆円)と、米国債($14.3兆:
1144兆円)並みに大きい。(注)日本では約200兆円であり、米国
の18%しかありません。

2000年代に、2倍以上に高騰していた米国の住宅価格(全米平均で
は3000万円くらい。都市部平均は5000万円。)が、90年代の平均価
格だった1500万円に向かい下がったのです。下落は欧州も同じです。

原因は、「ローンを払えないくらい高くなった」ため、買い手が、
1/4くらいに減ったからです(新築分)。ピーク時では1年に200万
戸もあった新築が、今、60万戸台です。(注)2011年11月は年間換
算ベースで68万1000戸です。(US Census)
http://www.census.gov/construction/nrc/pdf/newresconst.pdf

【米欧の、住宅ローン制度】
米国の住宅ローン制度では、買った人ではなく、住宅にローンをつ
けます。ローンを借りた人は、買った住宅を手放せば、ローンの支
払いから解放されます。

住宅を売っても、自己破産しない限り、どこまでも返済義務が追っ
てくる日本の住宅ローンとは異なります。このローンの制度は、
1929年からの大恐慌のため住宅価格が、2008年からのように暴落し
たとき、世帯の生活支援策として法制化されています。

1929年からの大恐慌は、通説では、ルーズベルト大統領のニュー・
ディール政策(国債を発行した公共事業)で解決したとされていま
すが、実態では異なります。

世界恐慌はほぼ10年続き、結局、第二次世界大戦(戦時国債の大量
発行)に突入したのです。戦争は、政府支出(軍事費)を増やし、
工場生産を上げ、軍隊が雇用する失業対策でもあります。

住宅に貸すローンの制度のため、高い住宅を買って返せない人は、
わが国に比べれば、容易に住宅を手放します。残るのが不良化した
ローン債権です。わが国での住宅価格の下落は、買った世帯の損に
なっています。米欧の制度では、金融機関に損が集中します。

【デリバティブの下落】
住宅ローンの回収権(元本の返済金+ローン金利)を担保にして
「証券化」したデリバティブ(MBSやRMBS)は、市場価値が下がっ
て暴落します。

00年代の金融は、ローンの回収権を担保にする「証券化(=デリバ
ティブ化)」です。MBS(不動産ローン証券)やRMBS(住宅ローン
証券)、および他の債権と複合化したABS(債権担保の証券)は、
内外の金融機関や年金基金が、投資資産として保有しています。

米欧の金融は、直接に融資するより、いろんな債権の証券化、証券
の売買、回収の保証(CDS)をする機関に、2000年代で変質してし
まったのです。(注)日本の金融機関も、増加預金では、国債しか
買っていません。

このため金融機関には未実現の含み損がたまり、信用危機が起こる。
まず銀行間のコール・ローン市場(短期の貸し借り)の消滅になり
ます。お互いが内心では相手の資産に疑念を持っているからです。

(注)公表される健全なバランス・シートは含み損を隠したオリン
パスのように、不良債券をタックス・ヘイブンに飛ばした嘘です。
08年9月以降の3年余、日本を含む世界の金融機関のバランス・シー
トはまるで信用できません。株式市場での金融株の暴落(日本では
野村證券やみずほ銀行)がこの事実を示しています。同様に、米国
ではシティバンク、バンカメ、ゴールドマン・サックス、JPモルガ
ンスタンレー等、欧州では主要20行が、程度の差はあっても債務危
機の状態を続けています。株価と、社債のCDSの料率を見れば、危
機が分かるのです。

【中央銀行のマネー印刷】
銀行間でコール・ローンから排除された銀行は、翌週には決済がで
きなくなります。このとき中央銀行は、システミックなリスク(連
鎖破産)を防ぐ目的で、緊急貸付を行い、不良化した債券(住宅
ローン証券等)を額面で買い取ります。

連鎖破産(数日で起こる)が起これば信用恐慌であり、マネーが必
要な経済取引(投資と購買)は急減するからです。

時価で買わない理由は、市場の時価(たとえば40%の価格)で買う
と、60%が銀行の実現損になるからです。簿価で買えば銀行の不良
債券が、中央銀行に移転します。中央銀行の信用が低下すると、そ
の通貨は外為市場で売られ、通貨信用が下がって行きます。(注)
ドルとユーロの下落、代わりに買われた円の高騰がこれです。

AAA格(米国債並の信用度)とされていた住宅ローン証券(MBS)の
価格は、2011年の年初には、額面の60%の価格でした。2011年12月
には、43%に下がっています(FT紙)。住宅価格の下落と期を一に
するのが、住宅ローン証券の価格です。

43%は、英国を含む欧州の金融機関がもつMBSの価格統計(FT紙:
11.12.21)ですが、欧州と米国の住宅の下落率は類似しているの
で、米国の住宅ローン証券も同率で下がっているはずです。

2011年はPIIGSの国債価格の下落が問題視されていました。もっと
大きなものが、米欧で同時の住宅の下落によるローン証券の不良化
です。PIIGS債は住宅ローン証券の損に(すこしだけ)加わったも
のです。

(注)政府やエコノミストの多くはPIIGS債にまぎれ、住宅ローン
証券問題への言及を避けています。理由は米欧の銀行の「同時危
機」が明白になるからです。ユーロ債を売らせ、米ドル債を買わせ
るのが目的なのかも知れません。

【総損失の推計額:1000兆円】
推計では、米国での住宅ローンの市場価値(流通価格)は、$11兆
×43%=$4.7兆(376兆円)に下がり、欧州でのローンの価値も
ほぼ同額で、$11兆×43%=$4.7兆(376兆円)に下落している
はずです。

銀行資産に対しては、含み損を計上する時価会計は停止されている
ので(政府規制)、金融機関が抱えている間、この損が露呈しませ
ん。

金融機関の資産の中に空いた、マネーを飲み込むブラック・ホール
のような巨大損です。(注)日本の農林中金も、米国のMBSで5兆円
の損を被っています。

・米国の住宅ローンで推計$6.3兆(500兆円)、
・欧州の住宅ローンで推計$6.3兆(500兆円)、合計で1000兆円
もの、不良債券が想定できます。

事実は、未だに明らかされていません。大きな利益回復での資本蓄
積か、政府による増資(または国有化)しか対策がないためです。
利益回復は、住宅と商業用不動産価格の値上がりがないと、生じま
せん。このため銀行危機は、最短でも5年と長引く性格を持ちます。

【住宅が上がる時期にならないと、1000兆円の不良債券は減らない


ローンで生じた不良債券は、住宅価格が上昇しない限り、少なくな
らない。2011年も増え、2012年にも増え続けます。2012年での、米
欧の住宅価格の回復は、見込めないからです。

予想すればベビーブーマー・ジュニア世代が住宅を買う時期(数年
後)までは、底打ちしない。数年後に底打ちしても、住宅価格が、
ふたたび年率5~10%で上がることは、ないのです。

理由は、失業が10%レベルで住宅を初めて買う米欧の30歳代の賃金
が、日本と同様に上がっていないからです。買う人の所得が増えな
いと、買う住宅の価格も上がらない。将来所得の増加が見込めない
と、住宅も買われません。

親のベビー・ブーマー世代は60歳を超え、住宅を買う世代ではない。
年金が生活費に約5万円足りないので、貯蓄を取り崩す世代になる
からです。

(注)日本では、65歳以上の世代は一ヶ月に5万円(年間で60万
円)の貯金をくずし、厚生年金(一ヶ月平均16万円)では足りない
分を生活費として補っています。世界に共通することです。

参考に言えば、日本の60歳代世帯の金融資産は2377万円で、ローン
負債が252万円です。純金融資産は2127万円です。70歳代は、116万
円の負債を引いた純金融資産が2401万円です。

他方で30歳代の金融資産は、ローンのためマイナスです。(総務省
家計調査:2011年)

【銀行の破産が避けられている理由】
米欧のほぼ全部の金融機関が倒産を免れているのは、米欧の政府と
中央銀行が、銀行の決済に必要な資金を、貸しているからです。
(注)銀行の破産は、証券の持ち合いのため、連鎖します。

下落した住宅ローン証券を、資金繰りに困った銀行から、額面(簿
価)で買い取りもしています。

米国の住宅金融(ファニーメイとフレディマック)は、住宅ローン
を買い取って、証券化して価格を保証し、売却するものでした。
2007年と08年の保証損のため破産し、政府資本に変わっています。

このため、米国の住宅ローン($11兆)は、政府が保証すべき国債
と同等の負担を、米国政府にもたらしています。(注)政府保証を
はずせば、一瞬で、住宅ローンの流通市場は消えてほぼ全部の金融
機関が同時破産します(断言)。

【加わったPIIGS債の下落】
2010年からは、住宅ローン証券の下落損(1000兆円)に、PIIGS債
の下落損(推計150兆円)が加わっています。これらは、今は「含
み損」です。含み損は、1年、2年、3年と経過するごとに、実現損
になって行きます。

欧州の銀行(主要21行)に対し、監督官庁が行った2011年夏のスト
レス・テスト(資産査定)では、担当が「本当のことは言えない。
言わない。」と漏らしています。

◎本稿で推計したように、本当の損失額を言えないくらい大きすぎ
るからです。あたかも氷山にぶつかる前の、タイタニック号。当時
はなかった本当の計器は、氷山を示していますが見ていないふりを
し、ダンスに興じる・・・

PIIGS債に対しては、米国の銀行も、約100兆円のCDS(保証保険)
を引き受けています。米欧の銀行は、同じ泥船の一蓮托生です。

【結局は国有化】
最終的には(2012年末からか)、主要金融機関は、原発事故で生じ
た損害(数兆円)をカバーできない東電のように、資金不足のため、
国有化(国家が損失を補填)されるはずです。

しかし国家財政も赤字です。その資金は、赤字国債の発行によるも
のです。金融市場は、これを引きうけきれないので、中央銀行によ
る、国債の買い取り(マネー発行)になるでしょう。

■2.中央銀行のマネー印刷が、インフレを招いていない理由

中央銀行が政府の赤字国債を買い取ってマネー供給をすれば、イン
フレが想定されます。

【ハイパー・インフレはない】
しかしハイパー・インフレにはならない。対策金は金融機関が被っ
た損失を埋めるものであり、民間のマネー・サプライ(マネー・ス
トックとも言う)の増加にはならないからです。

不動産と株バブルの崩壊の後、7年目の1997年から金融危機になっ
た日本のように、金融機関が抱えた不良化した貸出金と、下落した
不良債券を埋めるものだからです。

金融機関の損失危機がない平常時なら、中央銀行のマネー印刷は、
銀行の現金を増やし現金が貸されて銀行システムによるレバレッジ
のかかった「信用創造」になり、その結果マネー・ストックを増や
します。

つまり民間の金融資産の総金額が増える。増えたマネーは経済取引
(投資と購買)を増やして、物価をあげることにもなります。

借入金の増加分は、借りた人の口座に現金が振り込まれるため、金
融資産の増加になったように見えます。その現金が使われると、次
は、その現金を受け取った人の預金になる。この「負債の無限連
鎖」が、銀行システムでの「信用創造」です。つまりマネー・スト
ックの増加です。

中央銀行が国債を買い、たとえば10兆円のマネー供給を増やすと、
それを借りる銀行の準備率(銀行の金庫に残す金額の率)が健全な
時期の5%なら、[10兆円÷準備率5%=200兆円]のマネー・スト
ックを負債の連鎖で増やすのです。

準備率が金融引き締め期の10%でも、マネー・ストックは100兆円
に膨らみます。銀行が始まってからの金融である「準備預金制度」
は、信用量(=マネー量)を、その乗数で増やすスレバレッジです。
このため、普通の時期は、インフレが恒常化しています。

◎現在のように銀行が不良債権をもつときは、損失の補填に使われ
るため、中央銀行がマネーを刷っても、連鎖でのレバレッジが働き
ません。このため、2000年代からの日本のように、マネー・ストッ
クが増えない。

マネー・ストックの増減とGDP(経済取引量)の増減、および物
価・資産の騰落の原理を示すのが、以下のフィシャー等式です。

M(マネー・ストックの金額)×V(マネー・ストックの回転率)
=P(物価と資産の上昇率)×T(実質GDPの成長率)

(注)現在は、金融のグローバル化での「キャピタル・フライト
(海外へのマネーの逃避)」もあります。ある国の中央銀行が国債
を買い、マネーを増加印刷するようになると、その通貨の価値下落
を恐れたマネーが海外の債券を買うので、ユーロやドルのように通
貨が下落します。

このため、中央銀行の国債を買いも、単純には、インフレを生みま
せん。国内のマネー・ストックの増加にならないからです。

日本のマネー・ストックは、2011年11月で1457兆円です。日銀の、
国債購入、マネー印刷の増加、ゼロ金利策にもかかわらず、2000年
代は、ほとんど増えていません。

マネー・ストックとは世帯、企業、自治体が、国内の金融機関にも
つ金融資産の保有額と理解していいでしょう。マネー・ストックが
名目金額で増えないと、インフレは起こりません。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1111.pdf
 ーーーーーーーーーーーーー
 動乱の2012年(2)へ続く。
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