二極化する世界(前編):三橋
2012-01-15
バブル崩壊後のデフレ恐慌からの脱出。
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二極化する世界 前編 1/5 三橋貴明 Klugから
2012年は「選挙」の年である。
2012年1月の中華民国(台湾)総統選挙を皮切りに、3月のロシア大統領選挙、5月にフランス大統領選挙、そして11月にアメリカ大統領選挙というビッグイベントが控えている。
さらに、12月には韓国でも大統領選挙が行われ、中国においても第18回中国共産党大会が開催され、胡錦濤国家主席の後継が選出される予定になっている。
韓国の場合は、大統領選挙の前に総選挙(4月)が実施されるわけだが、いずれの選挙にしても李明博大統領の「大手輸出企業優遇」の経済政策、そして米韓FTAが争点に上ってくるだろう。
韓国の国会は、12月30日に米韓FTAについて再交渉を政府に求める決議案を賛成多数で可決した。「賛成多数」になった以上、与党のハンナラ党の一部までもが賛成に回ったわけである。
国会で(催涙弾が投げ込まれる中)強行採決をしておきながら、何をいまさらハンナラ党の議員まで、と思いたいところだが、それだけ韓国国民の反FTAの世論が強いということだ。
韓国は97年のアジア通貨危機時にIMF管理下に置かれ、金融サービスや製造業における外資規制を撤廃させられた。結果、ウリ銀行を除く全ての大手銀行が「外資系」になっており、サムスン電子や現代自動車の株主の半分近くが外国人だ。結果、韓国は毎年四月に巨額の配当金を外国(主にアメリカ)に支払っている。
李政権としては、貿易依存度が極端に高い自国の経済モデルに鑑み、米韓FTAを「生き残り」のための道として選択したのだろう。
とはいえ、今回の米韓FTAは「第二次IMF管理」とも言うべきものであり、韓国の経済的主権は大幅に縮小してしまう。経済的主権を失った国がどうなるのか、米韓FTA発効(今年の1月1日)から数年後の韓国を見れば、誰の目にも明らかになることだろう。
もっとも、米韓FTAの発効はすでに止められないが(何しろ米韓両国の国会が批准したのだ)、このままではハンナラ党は4月の総選挙で敗北し、野党に転落する可能性がある。そうなると、李政権は完全にレームダック化し、大統領選挙に突入することになる。大統領選挙でハンナラ党候補が敗れると、新政権は米韓FTAの再交渉を俎上に載せざるをえない(さもなければ、韓国国民が納得しない)。
とはいえ、米韓FTAの修正にはアメリカ議会の議決も必要であるため、いずれにしても今後の韓国情勢、米韓関係は一筋縄ではいきそうにもない。
北朝鮮の金正日総書記が死去し、韓国は「北方問題」という難題も抱えている。北朝鮮の新指導者となった金正恩は政権基盤が軟弱で、前任者とは違い、後継者としての地位を固める時間もなかった。
地位が揺らいだ独裁国のトップがやることといえば、外敵を作り出して国民の目をそらすことと相場が決まっている。2012年の韓国は、世界の他の国と同様に、いやそれ以上に混乱の時代を迎える可能性が高い。
混乱の時代と言えば、台湾も同じである。現在、すでに激しい選挙戦が展開されている台湾総統選挙では、現在は現職の馬英九総統と民進党の蔡英文主席の支持率が拮抗している。国民党政権継続を望む中国は、例により「外圧」によって台湾総統選挙を左右しようと試みる可能性がある。
米軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」は、中国がアメリカの空母を標的として開発中の「東風21D」の発射実験を、総統選の3日前(1月11日)に実施する可能性を報じた。中国が本当に総統選挙前にミサイル実験を強行した場合、前回同様に逆効果になると思われるわけだが。
さらに目を北方に転じると、2000年以降で最も大規模な反政府デモが行われる中、ロシア大統領選挙におけるプーチン首相の挙動が注目されている。12月4日のロシア下院選における不正追及の声が高まり、ロシアの大富豪のミハイル・プロホロフ氏が大統領選挙に出馬すると名乗りを上げた。
ロシアでは大晦日(12月31日)においても反政府デモが開催され、70人が逮捕された。プーチン首相は、現時点では、
「ある程度の動揺は民主主義の下では避けられないもので、特別ではない」
と、余裕綽々だが、いずれにしても3月の大統領選挙に向け、ロシアも混乱のときを迎えたと断ぜざるを得ない。
さて、新興経済諸国から先進国へと目を移すと、現在は明らかな「二極化」が発生していることが分かる。二極化とはずばり、
「バブル崩壊後に長期金利が超低迷している国々」
と、
「バブル崩壊後に長期金利が急騰している国々」
の二種である。
『2011年12月30日 ブルームバーグ紙「ユーロ下落、2001年以降で初の100円割れ」
ニューヨーク外国為替市場ではユーロが6日続落。対円では2001年6月以降で初めて1ユーロ=100円を割り込んだ。欧州債務危機が域内経済成長の足を引っ張るとの懸念が背景にある。(中略)
ニューヨーク時間午後5時現在、ユーロは対円で1%下げて1ユーロ=99円66銭。一時は99円51銭と、2000年12月以来の安値に下げた。ユーロは対ドルでほぼ変わらず1ユーロ=1.2961ドル。円は対ドルで0.9%上昇して1ドル=76円91銭。一時は76円89銭と、11月22日以来の高値に上げた。(後略)』
『2011年12月30日 ブルームバーグ紙「米国債(30日):上昇、欧州懸念で-年間リターンは08年来最大」
米国債相場は4日続伸。欧州ソブリン債危機が悪化するとの懸念から、米国債の逃避需要が高まった。米国債の年間リターンは2008年以降で最大となった。(中略)
ブルームバーグ・ボンド・トレーダーによれば、ニューヨーク時間午後2時43分現在、10年債利回りは前日比2ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の1.88%。(後略)』
現在の先進国で起きていることは、先にも書いた通り二極化である。それは、為替と長期金利を見れば誰でも理解できる。
【図135-1 日米及び欧州主要国の長期金利推移(単位:%)】

出典:ユーロスタット
そもそもの問題の始まりは、08年のリーマン・ショックまで続いた世界的なバブル経済が崩壊したことだ(日本は90年だが)。無論、バブル崩壊開始の時期は各国バラバラであったが、いずれにしても欧米の現在の問題の根幹が「バブル」及び「バブル崩壊」であることは間違いない。
バブルとは、民間が「借金を増やし、資産に投資する」経済活動が爆発的に拡大する現象である。投資先は健全な設備投資に限らず、株式や不動産などが増え、投資ではなく「投機」が拡大してしまうのが経済のバブル化の特徴だ。
なぜ、民間が借金を増やしてまで「投機」を繰り返すのかと言えば、単純に「儲かる」からである。
すなわち、
「投資利益が実質金利を上回り、投資効率が高いから」
企業は負債をひたすら増やし、資産への投資を繰り返すのだ。
とはいえ、ある時期から投資利益が減少を始め、最終的に金利とイコールになる。この時点が、バブルのピークだ。(事前にバブルのピークを知ることはできない。あくまで、数年後に統計データを見て「ああ、あの時がバブルのピークだった」と分かるのである)
バブルがピークアウトすると、借り入れで調達された資金が投じられた、各種の資産価格が下落し、投資利益がさらに下がり、金利を下回るようになってしまう。
すなわち、企業が投資をしても「儲からない」という環境になり、バブルは一気に崩壊し、国民経済はデフレに突っ込んでしまうのだ。
この時点で「二極化」が発生する。先述の通り、長期金利が超低迷する国と、逆に高騰する国の二つである。
日本の場合、バブルはあくまで国内の流動性、すなわち「日本円」で膨張した。
バブル崩壊を受け、国内の資金需要が枯渇し、「民間が誰も金を借りたくない」状況が発生する。結果、日本政府が発行する国債の金利は超低迷状態に陥ってしまった。
すなわち、国内の過剰貯蓄の運用先が「国債くらいしかない」という、資本主義国としてはまことに情けない有様に至ったわけである。
この、
「民間が誰もお金を借りたくない(あるいは銀行側が貸さない)結果、長期金利が超低迷する」
現象は、健全な資本主義国がデフレに陥ると、必ず発生する(発生しなければ、そもそもデフレではない)。
図135-1を見ると、長期金利が超低迷している国が四つあることが見て取れるだろう。すなわち日本(0.99%)、ドイツ(1.83%)、スウェーデン(1.69%)、アメリカ(1.88%)の四か国(数値は十二月末時点)である。この他にも、スイスが長期金利0.66%と、
「スイスは本当に資本主義国なのか?」
と言いたくなるほど、極端な金利低迷状態に陥っている。すなわち、政府に十年満期でお金を貸しても、年に0.66%の金利しかもらえないわけだ。もっとも、03年の日本は長期金利が一時的に0.5%を下回っていたため、他人事では全くないわけだが。
スイスを含む上記の国々に共通しているのは、経常収支黒字すなわち国内の供給能力が余っており、国内が過剰貯蓄状態にあることだ。
経常収支黒字、過剰貯蓄状態の国がバブル崩壊に見舞われた結果、資金の貸しどころがなくなり、国債金利が下がっているわけである。
アメリカは世界最大の経常収支赤字国であるが、何しろ基軸通貨国だ。そのため、アメリカは「世界の供給能力」を自国のものと同じように使える。
対米貿易黒字になった国は「ドル」を資産として持つことになるが、それを投資する先がやはりなくなってきているのだ。結果、米国債に資金が流れ込み、長期金利が低迷しているという話である。
アメリカは微妙だが、バブル崩壊後に長期金利が低迷している国々は、基本的に「健全な資本主義国」であると考えて構わない。
逆に、ユーロ圏において経常収支赤字(国内が過小貯蓄)であるにも関わらず、バブルを膨張させてしまった「不健全な資本主義国」は、バブル崩壊後に長期金利がむしろ高騰している。代表的なのはギリシャ、ポルトガル、アイルランドなど、いわゆるPIIGS諸国になる。
PIIGS諸国では、バブルが崩壊した結果、銀行に不良債権問題が発生した(これは、どんな国でも同じだ)。
ところが、これらの国々は経常収支が赤字で、国内が過小貯蓄状態であるため、政府はバブル崩壊に対処するため「外国」からお金を借りなければならない。
しかも、ユーロ加盟国であるため、自国国債を中央銀行に買い取らせることもできないのである。
結果、ギリシャなどはバブル崩壊に対処するために「外国から借りた金(IMF含む)」を増やさざるを得なくなり、長期金利がひたすら上昇するという事態になっている。
今後の展開であるが、二極化の「金利高騰組」については、もはや今のままでは手の施しようがない。
唯一、解決策があるとすれば、PIIGS諸国がユーロを離脱し、政府のデフォルトという最終的な破綻局面を経て、為替レート暴落を奇貨として輸出拡大路線に転じ、経常収支を黒字化させて対外債務問題の解決を図ることだけである。
IMF管理以降の韓国、あるいは日露戦争時の対外債務問題を、日本が第一次世界大戦時の輸出拡大で解決してしまったのと同じ構図だ。
それに対し、二極化の「金利超低迷組」は問題解決の手段を普通に持ち合わせている。
すなわち、「超低迷」している長期金利を活用し、国内で「国債発行+財政出動+国債買取」というオーソドックスなデフレ対策、内需拡大策を実行に移すことだ。
特に、経済規模が大きな日本、アメリカ、ドイツの三カ国が上記を実施すると、世界は今回の恐慌の危機を脱することができる。
来週もこの話を続けたい。
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関連するページリンク。
「公平な分配で経済成長を続けるアルゼンチン」、「破滅するユーロか、破滅する国家か」、「アイスランドの教訓、ギリシャはドラクマに戻せ」。
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二極化する世界(後編)に続く。
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二極化する世界 前編 1/5 三橋貴明 Klugから
2012年は「選挙」の年である。
2012年1月の中華民国(台湾)総統選挙を皮切りに、3月のロシア大統領選挙、5月にフランス大統領選挙、そして11月にアメリカ大統領選挙というビッグイベントが控えている。
さらに、12月には韓国でも大統領選挙が行われ、中国においても第18回中国共産党大会が開催され、胡錦濤国家主席の後継が選出される予定になっている。
韓国の場合は、大統領選挙の前に総選挙(4月)が実施されるわけだが、いずれの選挙にしても李明博大統領の「大手輸出企業優遇」の経済政策、そして米韓FTAが争点に上ってくるだろう。
韓国の国会は、12月30日に米韓FTAについて再交渉を政府に求める決議案を賛成多数で可決した。「賛成多数」になった以上、与党のハンナラ党の一部までもが賛成に回ったわけである。
国会で(催涙弾が投げ込まれる中)強行採決をしておきながら、何をいまさらハンナラ党の議員まで、と思いたいところだが、それだけ韓国国民の反FTAの世論が強いということだ。
韓国は97年のアジア通貨危機時にIMF管理下に置かれ、金融サービスや製造業における外資規制を撤廃させられた。結果、ウリ銀行を除く全ての大手銀行が「外資系」になっており、サムスン電子や現代自動車の株主の半分近くが外国人だ。結果、韓国は毎年四月に巨額の配当金を外国(主にアメリカ)に支払っている。
李政権としては、貿易依存度が極端に高い自国の経済モデルに鑑み、米韓FTAを「生き残り」のための道として選択したのだろう。
とはいえ、今回の米韓FTAは「第二次IMF管理」とも言うべきものであり、韓国の経済的主権は大幅に縮小してしまう。経済的主権を失った国がどうなるのか、米韓FTA発効(今年の1月1日)から数年後の韓国を見れば、誰の目にも明らかになることだろう。
もっとも、米韓FTAの発効はすでに止められないが(何しろ米韓両国の国会が批准したのだ)、このままではハンナラ党は4月の総選挙で敗北し、野党に転落する可能性がある。そうなると、李政権は完全にレームダック化し、大統領選挙に突入することになる。大統領選挙でハンナラ党候補が敗れると、新政権は米韓FTAの再交渉を俎上に載せざるをえない(さもなければ、韓国国民が納得しない)。
とはいえ、米韓FTAの修正にはアメリカ議会の議決も必要であるため、いずれにしても今後の韓国情勢、米韓関係は一筋縄ではいきそうにもない。
北朝鮮の金正日総書記が死去し、韓国は「北方問題」という難題も抱えている。北朝鮮の新指導者となった金正恩は政権基盤が軟弱で、前任者とは違い、後継者としての地位を固める時間もなかった。
地位が揺らいだ独裁国のトップがやることといえば、外敵を作り出して国民の目をそらすことと相場が決まっている。2012年の韓国は、世界の他の国と同様に、いやそれ以上に混乱の時代を迎える可能性が高い。
混乱の時代と言えば、台湾も同じである。現在、すでに激しい選挙戦が展開されている台湾総統選挙では、現在は現職の馬英九総統と民進党の蔡英文主席の支持率が拮抗している。国民党政権継続を望む中国は、例により「外圧」によって台湾総統選挙を左右しようと試みる可能性がある。
米軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」は、中国がアメリカの空母を標的として開発中の「東風21D」の発射実験を、総統選の3日前(1月11日)に実施する可能性を報じた。中国が本当に総統選挙前にミサイル実験を強行した場合、前回同様に逆効果になると思われるわけだが。
さらに目を北方に転じると、2000年以降で最も大規模な反政府デモが行われる中、ロシア大統領選挙におけるプーチン首相の挙動が注目されている。12月4日のロシア下院選における不正追及の声が高まり、ロシアの大富豪のミハイル・プロホロフ氏が大統領選挙に出馬すると名乗りを上げた。
ロシアでは大晦日(12月31日)においても反政府デモが開催され、70人が逮捕された。プーチン首相は、現時点では、
「ある程度の動揺は民主主義の下では避けられないもので、特別ではない」
と、余裕綽々だが、いずれにしても3月の大統領選挙に向け、ロシアも混乱のときを迎えたと断ぜざるを得ない。
さて、新興経済諸国から先進国へと目を移すと、現在は明らかな「二極化」が発生していることが分かる。二極化とはずばり、
「バブル崩壊後に長期金利が超低迷している国々」
と、
「バブル崩壊後に長期金利が急騰している国々」
の二種である。
『2011年12月30日 ブルームバーグ紙「ユーロ下落、2001年以降で初の100円割れ」
ニューヨーク外国為替市場ではユーロが6日続落。対円では2001年6月以降で初めて1ユーロ=100円を割り込んだ。欧州債務危機が域内経済成長の足を引っ張るとの懸念が背景にある。(中略)
ニューヨーク時間午後5時現在、ユーロは対円で1%下げて1ユーロ=99円66銭。一時は99円51銭と、2000年12月以来の安値に下げた。ユーロは対ドルでほぼ変わらず1ユーロ=1.2961ドル。円は対ドルで0.9%上昇して1ドル=76円91銭。一時は76円89銭と、11月22日以来の高値に上げた。(後略)』
『2011年12月30日 ブルームバーグ紙「米国債(30日):上昇、欧州懸念で-年間リターンは08年来最大」
米国債相場は4日続伸。欧州ソブリン債危機が悪化するとの懸念から、米国債の逃避需要が高まった。米国債の年間リターンは2008年以降で最大となった。(中略)
ブルームバーグ・ボンド・トレーダーによれば、ニューヨーク時間午後2時43分現在、10年債利回りは前日比2ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下の1.88%。(後略)』
現在の先進国で起きていることは、先にも書いた通り二極化である。それは、為替と長期金利を見れば誰でも理解できる。
【図135-1 日米及び欧州主要国の長期金利推移(単位:%)】

出典:ユーロスタット
そもそもの問題の始まりは、08年のリーマン・ショックまで続いた世界的なバブル経済が崩壊したことだ(日本は90年だが)。無論、バブル崩壊開始の時期は各国バラバラであったが、いずれにしても欧米の現在の問題の根幹が「バブル」及び「バブル崩壊」であることは間違いない。
バブルとは、民間が「借金を増やし、資産に投資する」経済活動が爆発的に拡大する現象である。投資先は健全な設備投資に限らず、株式や不動産などが増え、投資ではなく「投機」が拡大してしまうのが経済のバブル化の特徴だ。
なぜ、民間が借金を増やしてまで「投機」を繰り返すのかと言えば、単純に「儲かる」からである。
すなわち、
「投資利益が実質金利を上回り、投資効率が高いから」
企業は負債をひたすら増やし、資産への投資を繰り返すのだ。
とはいえ、ある時期から投資利益が減少を始め、最終的に金利とイコールになる。この時点が、バブルのピークだ。(事前にバブルのピークを知ることはできない。あくまで、数年後に統計データを見て「ああ、あの時がバブルのピークだった」と分かるのである)
バブルがピークアウトすると、借り入れで調達された資金が投じられた、各種の資産価格が下落し、投資利益がさらに下がり、金利を下回るようになってしまう。
すなわち、企業が投資をしても「儲からない」という環境になり、バブルは一気に崩壊し、国民経済はデフレに突っ込んでしまうのだ。
この時点で「二極化」が発生する。先述の通り、長期金利が超低迷する国と、逆に高騰する国の二つである。
日本の場合、バブルはあくまで国内の流動性、すなわち「日本円」で膨張した。
バブル崩壊を受け、国内の資金需要が枯渇し、「民間が誰も金を借りたくない」状況が発生する。結果、日本政府が発行する国債の金利は超低迷状態に陥ってしまった。
すなわち、国内の過剰貯蓄の運用先が「国債くらいしかない」という、資本主義国としてはまことに情けない有様に至ったわけである。
この、
「民間が誰もお金を借りたくない(あるいは銀行側が貸さない)結果、長期金利が超低迷する」
現象は、健全な資本主義国がデフレに陥ると、必ず発生する(発生しなければ、そもそもデフレではない)。
図135-1を見ると、長期金利が超低迷している国が四つあることが見て取れるだろう。すなわち日本(0.99%)、ドイツ(1.83%)、スウェーデン(1.69%)、アメリカ(1.88%)の四か国(数値は十二月末時点)である。この他にも、スイスが長期金利0.66%と、
「スイスは本当に資本主義国なのか?」
と言いたくなるほど、極端な金利低迷状態に陥っている。すなわち、政府に十年満期でお金を貸しても、年に0.66%の金利しかもらえないわけだ。もっとも、03年の日本は長期金利が一時的に0.5%を下回っていたため、他人事では全くないわけだが。
スイスを含む上記の国々に共通しているのは、経常収支黒字すなわち国内の供給能力が余っており、国内が過剰貯蓄状態にあることだ。
経常収支黒字、過剰貯蓄状態の国がバブル崩壊に見舞われた結果、資金の貸しどころがなくなり、国債金利が下がっているわけである。
アメリカは世界最大の経常収支赤字国であるが、何しろ基軸通貨国だ。そのため、アメリカは「世界の供給能力」を自国のものと同じように使える。
対米貿易黒字になった国は「ドル」を資産として持つことになるが、それを投資する先がやはりなくなってきているのだ。結果、米国債に資金が流れ込み、長期金利が低迷しているという話である。
アメリカは微妙だが、バブル崩壊後に長期金利が低迷している国々は、基本的に「健全な資本主義国」であると考えて構わない。
逆に、ユーロ圏において経常収支赤字(国内が過小貯蓄)であるにも関わらず、バブルを膨張させてしまった「不健全な資本主義国」は、バブル崩壊後に長期金利がむしろ高騰している。代表的なのはギリシャ、ポルトガル、アイルランドなど、いわゆるPIIGS諸国になる。
PIIGS諸国では、バブルが崩壊した結果、銀行に不良債権問題が発生した(これは、どんな国でも同じだ)。
ところが、これらの国々は経常収支が赤字で、国内が過小貯蓄状態であるため、政府はバブル崩壊に対処するため「外国」からお金を借りなければならない。
しかも、ユーロ加盟国であるため、自国国債を中央銀行に買い取らせることもできないのである。
結果、ギリシャなどはバブル崩壊に対処するために「外国から借りた金(IMF含む)」を増やさざるを得なくなり、長期金利がひたすら上昇するという事態になっている。
今後の展開であるが、二極化の「金利高騰組」については、もはや今のままでは手の施しようがない。
唯一、解決策があるとすれば、PIIGS諸国がユーロを離脱し、政府のデフォルトという最終的な破綻局面を経て、為替レート暴落を奇貨として輸出拡大路線に転じ、経常収支を黒字化させて対外債務問題の解決を図ることだけである。
IMF管理以降の韓国、あるいは日露戦争時の対外債務問題を、日本が第一次世界大戦時の輸出拡大で解決してしまったのと同じ構図だ。
それに対し、二極化の「金利超低迷組」は問題解決の手段を普通に持ち合わせている。
すなわち、「超低迷」している長期金利を活用し、国内で「国債発行+財政出動+国債買取」というオーソドックスなデフレ対策、内需拡大策を実行に移すことだ。
特に、経済規模が大きな日本、アメリカ、ドイツの三カ国が上記を実施すると、世界は今回の恐慌の危機を脱することができる。
来週もこの話を続けたい。
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関連するページリンク。
「公平な分配で経済成長を続けるアルゼンチン」、「破滅するユーロか、破滅する国家か」、「アイスランドの教訓、ギリシャはドラクマに戻せ」。
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二極化する世界(後編)に続く。
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