放射線被曝を避けるために:岡山
2011-12-27
東北大教授で仙台日赤呼吸器内科の岡山博氏が、主に子を持つ親向けに書いた文章をHPで公開してくれたので、紹介します。
放射能の基本と被曝。内部被曝の呼吸と飲食。汚染と除染の肝心なこと。基本は避難が優先であること。決して野焼きなどしないこと。処分管理を考慮しない除染は極めて危険なこと。
等々が、解りやすく簡潔に説明されています。
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放射線被曝を避けるために (放射線被曝から子どもを守る会 いわて HP2011年9月) 12/25 岡山博氏ブログから
仙台赤十字病院呼吸器内科
東北大学臨床教授
岡山 博
原発爆発後初期数週間の放射能汚染
本年3月12日、福島第一原子力発電所が爆発し、その後爆発や漏洩、意図した放出が繰り返され、3月15日から3日間と3月21日から数日間、それぞれ何度も、莫大な放射能が大気中へ放出されました。
放出された放射性物質は、風に乗って運ばれ風下を汚染し、空中に浮いていた放射能ほこりが雨や雪が降るとそれに吸着され、大量に地表に降り注ぎました。
宮城県北部から岩手県南部もこのようにして仙台などの宮城県中部よりも強く汚染され、現在も環境放射能は事故以前の数倍に上がったままです。
爆発直後から2~3週間の間、最も危険だったのは、空気中に浮遊しているヨウ素とセシウムの放射能ほこりを呼吸して吸い込んでしまったことでした。
空気中に存在する放射能は放射性気体と、小さなほこり=固体に吸着した放射能ですが、放射性物質のほとんどはほこりに吸着しており、ほこりの放射能が最大の危険物質でした。
人は一日中呼吸しているので、大気中に放射能などの有毒物質があれば、息を吸うと必ず吸気として吸い込んでしまいます。
水に溶けない気体は吸ってもほとんどすぐに呼気として吐き出されますが、水に溶ける気体は気管支表面や一番奥の肺胞で体の水に溶け、血液に溶けて全身に広がり、蓄積します。
直径が0.01mmより大きな粒子は、肺の一番奥の肺胞までは到達せず、気管支表面の水に吸着し、その後、気管支表面の線毛運動によってベルトコンベアのように連続的にのどまで運び出されます。
運ばれたものが大きく硬い場合は痰として喀出されますが、ほとんどのものは少しずつ連続的にのどまで運ばれるので、気づかずに全て飲み込まれ、放射能のほとんど全部が腸で吸収されて全身に運ばれます。
0.01mm より小さい粒子は肺の一番奥の肺胞まで到達します。
肺胞は線毛運動が無いため、のどまで運んで捨てることはできません。
少しずつ溶けて全て血液に吸収され全身に運ばれます。
石の粉やアスベスト、プルトニウムなど、いつまでたっても溶けない物質は何十年も肺の同じところに留まります。
甲状腺の細胞は、ヨウ素を運び入れるポンプの働きがあるため、肺や腸から吸収されたヨウ素は、甲状腺に集まります。
一方、セシウムは体内の水に溶け体中に運ばれて分布します。
セシウムは体中の水に溶けて分布しますが、細胞外よりは、どの細胞でも細胞内の水に多く分布します。
セシウムは筋肉に多く含まれると説明されていることがありますが、これは筋肉は細胞の割合が多いこと、筋細胞には他の細胞よりやや高濃度に含まれることと、体の中で筋肉の割合が多いので、筋肉の中に多く含まれるという意味です。
この時期、被曝を防ぐには放射能ほこりのない地域へ避難することが最も有効でした。
それができない場合は、マスクをしてほこりの吸入を減らすことでした。
普通のマスクでも大きなほこりは防げます。やや小さなほこりは、花粉症のマスクがさらに有効でした。
目の細かいN95 マスクを適切に使えば0.001mmのほこりでも99.9%を防ぐことができました。
髪の毛や皮膚についたほこりは、シャワーで簡単に洗い流せます。
放射能ほこりが家の中に落ちると、ほこりが外に出るまで、何年も放射能を出し続け、少しずつ舞い上がるほこりを吸入してしまうので、衣服や荷物、髪の毛についた放射能ほこりを家の中に持ち込まないことも大切でした。
次に危険だったのは放射性物質で汚染された食物を飲食したことです。
初期の2~3週間、空気中に放射能ほこりが浮いていた時期は、ほこりはそのまま、あるいは雨や雪に混じって、野菜など、植物の葉に落ちて留まります。
これは水洗いをすれば取り除けますが、水洗が不十分だと食物とともに摂取されて内部被曝を起こします。
時間がたつと葉の表面に留まったセシウムは葉から吸収され、葉だけでなく、葉から茎や実に運ばれ蓄積されました。
これは洗っても取り除くことはできません。
食べてはいけないのですが、それでも食べる場合は、葉のように薄いものであればゆでて細胞を壊し、細胞内のセシウムをお湯にしみださせることができます。
水をかえて、2回ゆでるとかなり減るはずです。
大根やイモ類のように薄くないものは、細胞を壊してもゆでる水までの距離が長いため十分染み出させるのは難しい。
大根を煮て料理しても醤油の色や味がなかなか中までしみとおらないのと同じです。
海産物の放射能についてと、ストロンチウムも大切ですが、本論では省略します。
現在の汚染状況
現在、大気中に浮かんでいる放射能ほこりはずっと減っています。
現在環境中に測定される放射線のほとんど全ては、放射能ほこりが地面に落ちて、地面に留まったセシウムの放射線源からのものです。
3月末と比べると、環境放射能はかなり低くなっていますが、これは放射性物質が取り除かれて減ったのではなく、ヨウ素の放射能が弱くなったためです。
ヨウ素の放射能は半減期が8日で、8日たつと放射能は半分になりさらに8日たつとその半分に、と弱くなって80日たつとはじめの1000分の一に、160日たった現在では、放射ヨウ素の放射能は100万分の1に弱まりほとんどなくなっています。
現在、地表や環境に残っている放射能は大部分がセシウムです。
セシウムの放射能半減期は30年なので1年や2年ではほとんど減りません。
30年たって半分、また30年たってその半分の1/4というように、半減期に従って減る以外には、放射能は自然や人が分解したり減らしたりできません。
普通の毒物は分解されたり何かに吸着して毒性が減りますが、放射能ではそのようなことはまったくありません。
今後、自然に、少し減るのは、放射能が分解されるからではなく、放射能のついた枯れ草やごみがほこりとなって飛び散るか、少しずつ水で流れて地面に入り、やがて湧き水などになって川に入って運び去られて減るだけです。
どちらも急速に減ることは期待できませんし、急速に減ったとしたら、別の場所の放射能汚染を拡大しているということで、望ましくありません。
環境中の放射能を減らそうと言うのであれば、セシウムの放射線源を集め運び去ること以外、放射能を減らすことはできません。
環境の放射線を減らすためには、セシウムで汚染されている枯れ草やごみを取り除くことが最も簡単で効率的です。
放置しておくと、その間、被曝受け続けるだけでなく、少しずつごみや枯れ草から土に移動するので、同じ量のセシウムを除くのに手間や費用が今よりかかります。
今でもセシウムは土に移動しています。
枯れ草やごみだけでなく、今なら、表土を数センチ除去すると環境放射能をかなり減らすことができます。
時間がたつとセシウムはさらに地面の下までしみとおっていくので、除去するなら、早いほど効率的です。
放射能は減らすことも分解することもできません。
人ができることは移動することだけですから、除染というのは、「放射線源を集めどこかに持ち出し集めて管理すること」です。
いくら取り除いても、集めて管理しなければ、別のところに汚染を拡大してしまうので、すべきではありません。
十分な集塵機能を持たない焼却処分は、せっかく集まっている放射能を拡散させてしまうことなので、処分しないことよりも悪いのです。
野焼きについて
子どもたちの放射線被曝を心配しするお母さんたちから、野焼きについて相談をいただきました。
わらや枯れ草に放射能雨が降り注いだ後、水は蒸発しますが、放射能はそのまま残ります。
放射能ほこりが降り、放射能雨・雪でぬれて乾いたわらや枯れ草、水溜りが乾いたごみは、最もセシウム放射能がたまっているところです。
宮城県で雨にぬれた稲わらを全国の牛に食べさせ、牛肉が高度に汚染されていることがわかり、出荷停止になり、稲わらを食べさせるのも禁止されました。
宮城県は知事が「宮城県は汚染されていない」という強い信念を持っており、文部省指示による降下・雨中放射能を今でも測定・発表していないただひとつの県です。
降下放射能の軽視が、稲わらと肉牛のセシウム放射能汚染の背景にはあります。
4月時点で存在し、放射能ほこりが降下し、放射能雨にぬれた植物や枯れ草、枯れ草、わらなどは、強く汚染されています。
これを野焼きすると、放射能は煙になって拡散し、残りは燃えかすや灰になって残ります。
野焼きしているときに見える煙は、気体ではなく、小さな粒子で、これに放射能が含まれています。放射能は目に見えないもっと小さな粒子にも含まれています。
空気中に拡散すれば、それを呼吸して放射能を肺に吸入、吸収してしまいます。
これは、放射能が枯れ草やわらとして、地表に固まって存在し、そこからの放射線で人が外部被曝するより、はるかに危険なので、すべきではありません。
野焼きで出た煙などの放射能ほこりは、原発の大爆発と違い、比較的近くに大部分が降下すると予測されます。
それをまた住民が呼吸し、また農作物や植物を汚染します。
原発爆発によって起こされた放射能拡散と放射能被曝をもう一度繰り返すということです。
原発事故から時間がたち、ヨウ素の放射能はありませんから、ヨウ素剤服用の必要はありませんが、セシウムによる第二次汚染・第二次被曝といえる危険な汚染です。
これから行われようとしている野焼きに、4月時点ですでに存在し、放射能雨にあたったわらや枯れ草が含まれているとしたら危険で、止めるべきです。
止めさせることができなかったら、避難すべきです。
避難できない場合は、マスクをし、家を密閉すべきです。
後でほこりを掃除して家の外に出すよう掃除します。
掃除は、子どもを避難させた上で、良いマスクをして、隙間などのたまったほこりを掃除機で吸い出してもよいが、やりにくい場所は逆噴射して巻き上げるほうがよいかも知れません。
窓は全部開放して、巻き上げたほこりを風で戸外に出します。
目に見える床や家具の表面は、ぬらした新聞紙をそっとの上において、こするのではなくぬれた新聞紙にほこりを吸着させ、そのまま捨てるのがよいと思います。
雑巾で拭くのは、要注意。ふき取って取り除けるのは一部で、床に広げて擦り付けてしまうものもあります。
雑巾に吸着した分だけが床から取り除かれた分です。雑巾についた放射能ほこりを洗い流すのは困難なので捨てるのがいいです。
もし、4月の草やわらが既に野焼きで燃やされてしまったとしたら、放射能のかなりは、煙として大気に拡散し、その後地面に降り注いだはずです。
燃えカスと残り灰には強い放射能が含まれている可能性が高く、きちんと処分すべきです。
煙の中の粒子と、煙になって飛び去らずに残った灰と燃えカスの重さの合計が燃やす前の10%に減っていたら、放射能は減らないので、kgあたりの放射能は10倍になります。
1kgで1000ベクレルだったら、焼いた後は1kgで1万ベクレル、はじめに1万ベクレルだったのなら、焼いた後は1kg10万ベクレルの放射能煙と、放射能灰です。
5月以降に育った稲などの汚染は、大部分が土と水から放射能を吸収して蓄えたものだけなので、4月以前からあった植物やごみよりはかなり少ないはずですが、どの程度危険かは測定してみないとわかりません。
確認するまでは大気中に拡散すべきではありません。
9月になって一関の米から27ベクレル/kgの放射能が検出されました。
稲わらは米粒より多量の放射能を含んでいると予測されます。
環境除染と除染後の放射能汚染物質処分
田畑や道路の水溜り跡のごみなどは、放射能量が多く、放射能実験施設から持ち出し禁止レベルの強い放射能がいたるところに大量にあります。
これも取り除いて除染して、安心して生活できるレベルにすべきです。
放射能はなくすことも減らすこともできません。
人ができるのは移動することだけです。
放射能処理や除染というのは、散らばっている放射性物質を集めて管理するということです。
拡散することは除染・処理と逆のことで、放置よりもまずいことです。
高性能の集塵装置を持つごみ焼却場で焼却すれば、放射能のほとんどを回収することができますが、野焼きでは全て大気に放出、汚染してしまいます。
焼却場で回収はできても、回収した放射能はどこかに集め管理するしかありませんが、集める場所も方法も決まっていません。
高性能でない焼却場で償却すれば放射能を大気中に再放出・拡散汚染します。
したがって、放射能除染をするためにまず第1に行うべきことは、除染して取り除いた放射性物質を「どこに」「どのような形で」「どの程度集めるか」という、処分方法と処分場を決めることです。
これなしに、社会全体の除染の方針を決めることはできませんが、決まっていません。
私は、福島原発近くのできれば東電敷地内に、すべての汚染物質を集め、数百メートル四方以上の巨大な丘に築き、管理することが正しい処分、管理法と考えています。
原発敷地にある超高レベルの放射能とは違い放射能レベルはずっと低いので、地面にしみこまないことと、風で飛ばない対策をするだけで、積み上げておくだけで管理できます。
丘に積み上げるだけなので、無制限に集めることができます。
各地で、地域除染の熱意があれば、集めた汚染物質の保管先を心配せずに、いくらでも除染活動ができます。
処分場の方法や場所、規模を決めない政府は無責任・無能力です。
これ以外の処分法を言うのは打算か、考えが浅く全て誤りだろうと私は考えます。
大規模処理場を作らないということは、今後、環境除染をあまりせず、残りは放置するということです。
一日も早く、原発近くに、汚染物を無制限に集めるという処分場の方針を決めるべきです。
実行するまで、莫大な費用と、放射能拡散を増やしつづけてしまいます。
除染には莫大な費用がかかります。無駄に使うべきではありません。
-----------------------------------------------------------------
(付録)
放射線の安全性、放射線処理を考える参考のために、「電離放射線障害防止規則」の抜粋を示します。
法律の文章を断片的に紹介するため言葉を少し変えていますが内容は元のままです。
現在でも放射能を扱う大学などの実験施設や、事業所、企業はこの基準で放射線を管理し、繰り返し守られないなどの場合は、罰則を受けます。
放射能管理区域から持ち出し禁止量の放射能が、生活環境の中に沢山放置されています。
電離放射線障害防止規則抜粋 (一部語句をかえています)
第二条
「放射性物質」とは、40Bq/cm2を超えるもの。74Bq/g以下の固体のもの及び密封されたものでその数量が3.7メガベクレル以下のものを除く。
第三条
管理区域を標識によって明示しなければならない。外部放射線と空気中の放射性物質合計が三月間につき一・三ミリシーベルトを超えるおそれのある区域。・表面密度が 4Bq/cm2 を超える恐れのある区域。必要のある者以外の者を管理区域に立ち入らせてはならない。取扱い上の注意事項、事故の応急の措置等を掲示しなければならない。施設。遮へい物を設け、密閉する設備を設けなければいけない。
第四条
業務従事者の受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。
第二十六条
飛沫又は粉末が身体又は衣服、履物に付着しないように
第二十七条
ピンセットなど用具を他の用途に用いてはならない
第二十八条
汚染した場合、直ちに汚染のおそれがある区域を標識し、4Bq/cm2 (注:およそ400Bq/kgの土、80Bq/kg枯草)以下に除去しなければならない。
第二十九条
清掃を行なうときは、じんあいの飛散しない方法で行なわなければならない
第三十三条
貯蔵はかぎ閉鎖の貯蔵施設
第三十五条
焼却は、気体がもれるおそれがなく、かつ、灰が飛散するおそれのない構造の焼却炉
第四十四条
放射性物質を誤つて吸入摂取し、又は経口摂取した者などは、診察又は処置を受けさせなければならない。
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※本論は、「放射線被曝から子どもを守る会 いわて」の皆さんからご要望を頂いて、解説し、私の意見を含め、2011年9月同会ブログに書いたものです。
放射能の基本と被曝。内部被曝の呼吸と飲食。汚染と除染の肝心なこと。基本は避難が優先であること。決して野焼きなどしないこと。処分管理を考慮しない除染は極めて危険なこと。
等々が、解りやすく簡潔に説明されています。
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放射線被曝を避けるために (放射線被曝から子どもを守る会 いわて HP2011年9月) 12/25 岡山博氏ブログから
仙台赤十字病院呼吸器内科
東北大学臨床教授
岡山 博
原発爆発後初期数週間の放射能汚染
本年3月12日、福島第一原子力発電所が爆発し、その後爆発や漏洩、意図した放出が繰り返され、3月15日から3日間と3月21日から数日間、それぞれ何度も、莫大な放射能が大気中へ放出されました。
放出された放射性物質は、風に乗って運ばれ風下を汚染し、空中に浮いていた放射能ほこりが雨や雪が降るとそれに吸着され、大量に地表に降り注ぎました。
宮城県北部から岩手県南部もこのようにして仙台などの宮城県中部よりも強く汚染され、現在も環境放射能は事故以前の数倍に上がったままです。
爆発直後から2~3週間の間、最も危険だったのは、空気中に浮遊しているヨウ素とセシウムの放射能ほこりを呼吸して吸い込んでしまったことでした。
空気中に存在する放射能は放射性気体と、小さなほこり=固体に吸着した放射能ですが、放射性物質のほとんどはほこりに吸着しており、ほこりの放射能が最大の危険物質でした。
人は一日中呼吸しているので、大気中に放射能などの有毒物質があれば、息を吸うと必ず吸気として吸い込んでしまいます。
水に溶けない気体は吸ってもほとんどすぐに呼気として吐き出されますが、水に溶ける気体は気管支表面や一番奥の肺胞で体の水に溶け、血液に溶けて全身に広がり、蓄積します。
直径が0.01mmより大きな粒子は、肺の一番奥の肺胞までは到達せず、気管支表面の水に吸着し、その後、気管支表面の線毛運動によってベルトコンベアのように連続的にのどまで運び出されます。
運ばれたものが大きく硬い場合は痰として喀出されますが、ほとんどのものは少しずつ連続的にのどまで運ばれるので、気づかずに全て飲み込まれ、放射能のほとんど全部が腸で吸収されて全身に運ばれます。
0.01mm より小さい粒子は肺の一番奥の肺胞まで到達します。
肺胞は線毛運動が無いため、のどまで運んで捨てることはできません。
少しずつ溶けて全て血液に吸収され全身に運ばれます。
石の粉やアスベスト、プルトニウムなど、いつまでたっても溶けない物質は何十年も肺の同じところに留まります。
甲状腺の細胞は、ヨウ素を運び入れるポンプの働きがあるため、肺や腸から吸収されたヨウ素は、甲状腺に集まります。
一方、セシウムは体内の水に溶け体中に運ばれて分布します。
セシウムは体中の水に溶けて分布しますが、細胞外よりは、どの細胞でも細胞内の水に多く分布します。
セシウムは筋肉に多く含まれると説明されていることがありますが、これは筋肉は細胞の割合が多いこと、筋細胞には他の細胞よりやや高濃度に含まれることと、体の中で筋肉の割合が多いので、筋肉の中に多く含まれるという意味です。
この時期、被曝を防ぐには放射能ほこりのない地域へ避難することが最も有効でした。
それができない場合は、マスクをしてほこりの吸入を減らすことでした。
普通のマスクでも大きなほこりは防げます。やや小さなほこりは、花粉症のマスクがさらに有効でした。
目の細かいN95 マスクを適切に使えば0.001mmのほこりでも99.9%を防ぐことができました。
髪の毛や皮膚についたほこりは、シャワーで簡単に洗い流せます。
放射能ほこりが家の中に落ちると、ほこりが外に出るまで、何年も放射能を出し続け、少しずつ舞い上がるほこりを吸入してしまうので、衣服や荷物、髪の毛についた放射能ほこりを家の中に持ち込まないことも大切でした。
次に危険だったのは放射性物質で汚染された食物を飲食したことです。
初期の2~3週間、空気中に放射能ほこりが浮いていた時期は、ほこりはそのまま、あるいは雨や雪に混じって、野菜など、植物の葉に落ちて留まります。
これは水洗いをすれば取り除けますが、水洗が不十分だと食物とともに摂取されて内部被曝を起こします。
時間がたつと葉の表面に留まったセシウムは葉から吸収され、葉だけでなく、葉から茎や実に運ばれ蓄積されました。
これは洗っても取り除くことはできません。
食べてはいけないのですが、それでも食べる場合は、葉のように薄いものであればゆでて細胞を壊し、細胞内のセシウムをお湯にしみださせることができます。
水をかえて、2回ゆでるとかなり減るはずです。
大根やイモ類のように薄くないものは、細胞を壊してもゆでる水までの距離が長いため十分染み出させるのは難しい。
大根を煮て料理しても醤油の色や味がなかなか中までしみとおらないのと同じです。
海産物の放射能についてと、ストロンチウムも大切ですが、本論では省略します。
現在の汚染状況
現在、大気中に浮かんでいる放射能ほこりはずっと減っています。
現在環境中に測定される放射線のほとんど全ては、放射能ほこりが地面に落ちて、地面に留まったセシウムの放射線源からのものです。
3月末と比べると、環境放射能はかなり低くなっていますが、これは放射性物質が取り除かれて減ったのではなく、ヨウ素の放射能が弱くなったためです。
ヨウ素の放射能は半減期が8日で、8日たつと放射能は半分になりさらに8日たつとその半分に、と弱くなって80日たつとはじめの1000分の一に、160日たった現在では、放射ヨウ素の放射能は100万分の1に弱まりほとんどなくなっています。
現在、地表や環境に残っている放射能は大部分がセシウムです。
セシウムの放射能半減期は30年なので1年や2年ではほとんど減りません。
30年たって半分、また30年たってその半分の1/4というように、半減期に従って減る以外には、放射能は自然や人が分解したり減らしたりできません。
普通の毒物は分解されたり何かに吸着して毒性が減りますが、放射能ではそのようなことはまったくありません。
今後、自然に、少し減るのは、放射能が分解されるからではなく、放射能のついた枯れ草やごみがほこりとなって飛び散るか、少しずつ水で流れて地面に入り、やがて湧き水などになって川に入って運び去られて減るだけです。
どちらも急速に減ることは期待できませんし、急速に減ったとしたら、別の場所の放射能汚染を拡大しているということで、望ましくありません。
環境中の放射能を減らそうと言うのであれば、セシウムの放射線源を集め運び去ること以外、放射能を減らすことはできません。
環境の放射線を減らすためには、セシウムで汚染されている枯れ草やごみを取り除くことが最も簡単で効率的です。
放置しておくと、その間、被曝受け続けるだけでなく、少しずつごみや枯れ草から土に移動するので、同じ量のセシウムを除くのに手間や費用が今よりかかります。
今でもセシウムは土に移動しています。
枯れ草やごみだけでなく、今なら、表土を数センチ除去すると環境放射能をかなり減らすことができます。
時間がたつとセシウムはさらに地面の下までしみとおっていくので、除去するなら、早いほど効率的です。
放射能は減らすことも分解することもできません。
人ができることは移動することだけですから、除染というのは、「放射線源を集めどこかに持ち出し集めて管理すること」です。
いくら取り除いても、集めて管理しなければ、別のところに汚染を拡大してしまうので、すべきではありません。
十分な集塵機能を持たない焼却処分は、せっかく集まっている放射能を拡散させてしまうことなので、処分しないことよりも悪いのです。
野焼きについて
子どもたちの放射線被曝を心配しするお母さんたちから、野焼きについて相談をいただきました。
わらや枯れ草に放射能雨が降り注いだ後、水は蒸発しますが、放射能はそのまま残ります。
放射能ほこりが降り、放射能雨・雪でぬれて乾いたわらや枯れ草、水溜りが乾いたごみは、最もセシウム放射能がたまっているところです。
宮城県で雨にぬれた稲わらを全国の牛に食べさせ、牛肉が高度に汚染されていることがわかり、出荷停止になり、稲わらを食べさせるのも禁止されました。
宮城県は知事が「宮城県は汚染されていない」という強い信念を持っており、文部省指示による降下・雨中放射能を今でも測定・発表していないただひとつの県です。
降下放射能の軽視が、稲わらと肉牛のセシウム放射能汚染の背景にはあります。
4月時点で存在し、放射能ほこりが降下し、放射能雨にぬれた植物や枯れ草、枯れ草、わらなどは、強く汚染されています。
これを野焼きすると、放射能は煙になって拡散し、残りは燃えかすや灰になって残ります。
野焼きしているときに見える煙は、気体ではなく、小さな粒子で、これに放射能が含まれています。放射能は目に見えないもっと小さな粒子にも含まれています。
空気中に拡散すれば、それを呼吸して放射能を肺に吸入、吸収してしまいます。
これは、放射能が枯れ草やわらとして、地表に固まって存在し、そこからの放射線で人が外部被曝するより、はるかに危険なので、すべきではありません。
野焼きで出た煙などの放射能ほこりは、原発の大爆発と違い、比較的近くに大部分が降下すると予測されます。
それをまた住民が呼吸し、また農作物や植物を汚染します。
原発爆発によって起こされた放射能拡散と放射能被曝をもう一度繰り返すということです。
原発事故から時間がたち、ヨウ素の放射能はありませんから、ヨウ素剤服用の必要はありませんが、セシウムによる第二次汚染・第二次被曝といえる危険な汚染です。
これから行われようとしている野焼きに、4月時点ですでに存在し、放射能雨にあたったわらや枯れ草が含まれているとしたら危険で、止めるべきです。
止めさせることができなかったら、避難すべきです。
避難できない場合は、マスクをし、家を密閉すべきです。
後でほこりを掃除して家の外に出すよう掃除します。
掃除は、子どもを避難させた上で、良いマスクをして、隙間などのたまったほこりを掃除機で吸い出してもよいが、やりにくい場所は逆噴射して巻き上げるほうがよいかも知れません。
窓は全部開放して、巻き上げたほこりを風で戸外に出します。
目に見える床や家具の表面は、ぬらした新聞紙をそっとの上において、こするのではなくぬれた新聞紙にほこりを吸着させ、そのまま捨てるのがよいと思います。
雑巾で拭くのは、要注意。ふき取って取り除けるのは一部で、床に広げて擦り付けてしまうものもあります。
雑巾に吸着した分だけが床から取り除かれた分です。雑巾についた放射能ほこりを洗い流すのは困難なので捨てるのがいいです。
もし、4月の草やわらが既に野焼きで燃やされてしまったとしたら、放射能のかなりは、煙として大気に拡散し、その後地面に降り注いだはずです。
燃えカスと残り灰には強い放射能が含まれている可能性が高く、きちんと処分すべきです。
煙の中の粒子と、煙になって飛び去らずに残った灰と燃えカスの重さの合計が燃やす前の10%に減っていたら、放射能は減らないので、kgあたりの放射能は10倍になります。
1kgで1000ベクレルだったら、焼いた後は1kgで1万ベクレル、はじめに1万ベクレルだったのなら、焼いた後は1kg10万ベクレルの放射能煙と、放射能灰です。
5月以降に育った稲などの汚染は、大部分が土と水から放射能を吸収して蓄えたものだけなので、4月以前からあった植物やごみよりはかなり少ないはずですが、どの程度危険かは測定してみないとわかりません。
確認するまでは大気中に拡散すべきではありません。
9月になって一関の米から27ベクレル/kgの放射能が検出されました。
稲わらは米粒より多量の放射能を含んでいると予測されます。
環境除染と除染後の放射能汚染物質処分
田畑や道路の水溜り跡のごみなどは、放射能量が多く、放射能実験施設から持ち出し禁止レベルの強い放射能がいたるところに大量にあります。
これも取り除いて除染して、安心して生活できるレベルにすべきです。
放射能はなくすことも減らすこともできません。
人ができるのは移動することだけです。
放射能処理や除染というのは、散らばっている放射性物質を集めて管理するということです。
拡散することは除染・処理と逆のことで、放置よりもまずいことです。
高性能の集塵装置を持つごみ焼却場で焼却すれば、放射能のほとんどを回収することができますが、野焼きでは全て大気に放出、汚染してしまいます。
焼却場で回収はできても、回収した放射能はどこかに集め管理するしかありませんが、集める場所も方法も決まっていません。
高性能でない焼却場で償却すれば放射能を大気中に再放出・拡散汚染します。
したがって、放射能除染をするためにまず第1に行うべきことは、除染して取り除いた放射性物質を「どこに」「どのような形で」「どの程度集めるか」という、処分方法と処分場を決めることです。
これなしに、社会全体の除染の方針を決めることはできませんが、決まっていません。
私は、福島原発近くのできれば東電敷地内に、すべての汚染物質を集め、数百メートル四方以上の巨大な丘に築き、管理することが正しい処分、管理法と考えています。
原発敷地にある超高レベルの放射能とは違い放射能レベルはずっと低いので、地面にしみこまないことと、風で飛ばない対策をするだけで、積み上げておくだけで管理できます。
丘に積み上げるだけなので、無制限に集めることができます。
各地で、地域除染の熱意があれば、集めた汚染物質の保管先を心配せずに、いくらでも除染活動ができます。
処分場の方法や場所、規模を決めない政府は無責任・無能力です。
これ以外の処分法を言うのは打算か、考えが浅く全て誤りだろうと私は考えます。
大規模処理場を作らないということは、今後、環境除染をあまりせず、残りは放置するということです。
一日も早く、原発近くに、汚染物を無制限に集めるという処分場の方針を決めるべきです。
実行するまで、莫大な費用と、放射能拡散を増やしつづけてしまいます。
除染には莫大な費用がかかります。無駄に使うべきではありません。
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(付録)
放射線の安全性、放射線処理を考える参考のために、「電離放射線障害防止規則」の抜粋を示します。
法律の文章を断片的に紹介するため言葉を少し変えていますが内容は元のままです。
現在でも放射能を扱う大学などの実験施設や、事業所、企業はこの基準で放射線を管理し、繰り返し守られないなどの場合は、罰則を受けます。
放射能管理区域から持ち出し禁止量の放射能が、生活環境の中に沢山放置されています。
電離放射線障害防止規則抜粋 (一部語句をかえています)
第二条
「放射性物質」とは、40Bq/cm2を超えるもの。74Bq/g以下の固体のもの及び密封されたものでその数量が3.7メガベクレル以下のものを除く。
第三条
管理区域を標識によって明示しなければならない。外部放射線と空気中の放射性物質合計が三月間につき一・三ミリシーベルトを超えるおそれのある区域。・表面密度が 4Bq/cm2 を超える恐れのある区域。必要のある者以外の者を管理区域に立ち入らせてはならない。取扱い上の注意事項、事故の応急の措置等を掲示しなければならない。施設。遮へい物を設け、密閉する設備を設けなければいけない。
第四条
業務従事者の受ける実効線量が五年間につき百ミリシーベルトを超えず、かつ、一年間につき五十ミリシーベルトを超えないようにしなければならない。
第二十六条
飛沫又は粉末が身体又は衣服、履物に付着しないように
第二十七条
ピンセットなど用具を他の用途に用いてはならない
第二十八条
汚染した場合、直ちに汚染のおそれがある区域を標識し、4Bq/cm2 (注:およそ400Bq/kgの土、80Bq/kg枯草)以下に除去しなければならない。
第二十九条
清掃を行なうときは、じんあいの飛散しない方法で行なわなければならない
第三十三条
貯蔵はかぎ閉鎖の貯蔵施設
第三十五条
焼却は、気体がもれるおそれがなく、かつ、灰が飛散するおそれのない構造の焼却炉
第四十四条
放射性物質を誤つて吸入摂取し、又は経口摂取した者などは、診察又は処置を受けさせなければならない。
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※本論は、「放射線被曝から子どもを守る会 いわて」の皆さんからご要望を頂いて、解説し、私の意見を含め、2011年9月同会ブログに書いたものです。
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