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ユーロは崩壊か分裂か

   見捨てられるユーロ    三橋貴明   Klugから

 12月9日にブリュッセルで開催されたEU首脳会議を経て、英米両国が「ユーロを見捨てる」動きが決定的になった。

『2011年12月10日 産経新聞「「もう米国民は関わらない」迷走欧州に米報道官 IMF資金供出も否定」

 カーニー米大統領報道官は9日、欧州連合(EU)がまとめた危機対策は不十分との見方を示すとともに、国際通貨基金(IMF)への資金拠出にも応じないと明言した。

 EUが財政規律強化へ新協定を打ち出したことに、カーニー氏は「進展の兆しはある」としながらも「一層の取り組みが必要なのは明白だ」と強調。EU新基本条約制定やユーロ共同債で合意できなかったことに不満を隠さなかった。

 一方、米有力シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のエコノミスト、デスモンド・ラックマン氏は「EUは欧州で広がる信用危機への処方箋を示せなかった」と分析。EUがIMFへ最大2千億ユーロの融資を決めたことにも、ブルッキングス研究所のダグラス・エリオット研究員は「市場を納得させるには不十分」とみる。カーニー氏も「米国の納税者がこれ以上関わる必要はない」として、米国はIMFに拠出しないと指摘。「欧州が解決すべき問題だ」と突き放した。(後略)』


『2011年12月10日 ブルームバーグ「EU財政合意「幸運を祈る」、蚊帳の外の英首相-スウェーデン追随か」

 キャメロン英首相は、ユーロを救済するために主権を犠牲にすることを拒否し、財政規律を強化する欧州諸国の合意に参加しない道を選んだと語った。

 キャメロン首相は、欧州連合(EU)の合意に伴う規制から金融取引の中心であるシティー(ロンドンの金融街)を保護する手段を確保することができず、フランスのサルコジ大統領やドイツのメルケル首相と袂(たもと)を分かつ結果となった。英国のほか、場合によってはハンガリーとスウェーデン、チェコが新たな財政規律の枠組みの外にとどまる見通しだ。

 首相はブリュッセルでのEU首脳会議の夜を徹した協議の終了後、記者団に対し、「提案内容は英国にとって良いものではなかった。彼らだけでしたいようにやらせる方がよい。幸運を祈っている」と突き放した。』


 正直、ここまで英米両国が露骨にユーロを見捨てにかかるとは、予想していなかった。とはいえ、EU首脳会議の結論を見る限り、英米がこのような態度をとるのも無理もないといえる。

 現状のユーロの問題を解決するには、もはや二つの道しか残されていない。


(1) ギリシャ、ポルトガルなど、「経常収支赤字」「対外純負債」が延々と続き、ユーロに加盟している限り財政危機を沈静化できない国々を切り離す。(ギリシャなどが独自通貨を導入し、あるタイミングでユーロから切り替える)

(2) ユーロ共同債を発行し、さらにECBが国債買取枠を増やし、「ユーロ全体で」危機を沈静化させる。すなわち、ドイツが『地方交付金』のイメージで、ギリシャなどの国に自らの税金を注ぎ込み、救済する。さらに、ECBがまさに「地方債」を買い取るコンセプトでギリシャ債などを買い取り、長期金利を抑え込む。

 無論、ECBが各国の国債を買い取ると、各国のインフレ率が急騰する可能性が高い。均衡財政至上主義のドイツ政府や、ユーロという通貨を「こよなく愛する」ドイツ国民は、財政赤字が増え、ユーロの価値が下がっていくのを是認しなければならない。

 すなわち、「腐った部分を切り捨てるか、もしくは完全に一体化する」以外の道は、ユーロにはもはや残されていないわけである。そもそも、各国が金融政策に関する「主権」をECBに委譲しているにも関わらず、財政政策の主権は各国個別に持つというユーロのコンセプト自体に、無理があったのだ。

 ユーロ加盟国が財政支出のために国債を発行するのは、これは完全に各国の主権行為である。例えば、スペインの失業率は20%を超えているが、それにも関わらずスペイン政府が雇用改善のための国債発行、財政出動に乗り出さないのでは、政府が存在する意義がなくなってしまう。と言うよりも、普通に政治家が選挙で落選してしまうだろう。

 本来、財政政策と金融政策は不可分である。例えば、スペインが失業率対策のために国債を増発し、長期金利が上昇してきたならば、スペイン中央銀行は国債を買い取り、利回りを抑制しなければならない。無論、結果的にインフレ率が高まっていくだろうが、インフレ率上昇は企業の設備投資意欲を高め、失業率低下に貢献する。

 財政政策を実施する政府と、金融政策を管理する中央銀行は、協調して国内の問題解決に当たらなければならないのである。ところが、ユーロ加盟国は金融政策をECBに委譲している。結果、独立した金融政策を採ろうとしても、完全に不可能という奇妙な状態に陥ってしまった。すなわち、主権の一部を喪失した国々の典型例こそが、現在のユーロ加盟国なのである。

 一応、現在のユーロ諸国は上記の内の(2)について推進しようとはしている。

 ところが、今回のEU首脳会議で決められたのは「財政規律強化」のみで、ユーロ共同債導入も、ECBの国債買取増大も決定することができなかった。ブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)のバイトマン総裁に至っては、
「税金を各国に再分配する任務は明らかに金融政策の中にはない。国家の債務が中銀を通じて資金手当てされることは引き続き条約で禁止されている」
 と、ECBの国債買取増大を明確に否定してしたのである。ドイツらしいと言えば、ドイツらしいのだが、これで破綻に直面したPIIGS諸国を救う手だては、ほぼなくなってしまった。

 現在、欧州諸国の長期金利(新規発行十年物国債金利)の利回りは、明らかに「二極化」の局面に入っている。すなわち、経常収支黒字国で対外純資産がふんだんにある国の金利が下がり、逆に経常収支赤字かつ対外純負債国の金利が急騰していっているのだ。

 また、ユーロに加盟していないイギリスも、ポンド高と長期金利の低下が同時に発生している。明らかに、ユーロからポンドへの両替が増え、イギリス国債に資金が流れ込んでいるのである。

【図132-1 欧州諸国の新規発行十年物国債金利の推移(単位:%)】
20111214_01.png
出典:ユーロスタット
 
 長期金利が完全な二極化状態にあるにも関わらず、EU首脳会議では解決に繋がる対策をまともに打つことが出来なかった。

 結果、まずはアメリカがユーロを見放し、IMFへの資金拠出を求められても応じないことを明言したわけである。結局のところ、IMFは「救済できるところ」しか救済しない。すなわち「助かるところしか助けない」のがIMFなのだ。08年のアイスランドの危機の際に、IMFがなかなか緊急支援に応じなかったのは、同国が「助けられるかどうか不明」だったためである。

 今回のアメリカの決断は、
「ユーロは自らを救済することができない」
 と判断したに等しいわけだ。

 何しろ、IMFの融資は出資者の85%の同意を経なければ、実行されない。そして、アメリカはIMFの出資の16%を保有しており、事実上の拒否権を持っているのだ。一応、アメリカはIMFからユーロ諸国への緊急融資には同意しているが、それにしても最大出資者が資金拠出に応じないと宣言したことは、衝撃的だ。

 さらに、イギリスのキャメロン首相は、EUの首脳会議で話し合われた新基本条約について、
「(独仏が主導した)EU新基本条約締結は英国の国益には合致しない。不参加は厳しい決断だが、正しいものだ」
 と、完膚なきまでに拒否をした。結果、EU新基本条約の目玉である財政規律に関する規則強化は、EU27カ国全体の合意にはならなかった。

 イギリスがEU新基本条約を拒んだ理由は、同条約が含む「財政規律の違反国に対する自動的制裁発動」などが、英国の主権を侵害するものであると判断したためだ。「他国が定めた基準」により、自国の財政に対して自動的に制裁が発動されてしまうのでは、これは確かに主権侵害である。

 何というか、結局のところユーロとは「各国の主権」の問題であることがよく分かる。各国が金融政策に関する主権を放棄し、かつ今回は財政に関する主権についても、一歩踏み込んだ条約を締結しようとしたわけだ。

 各国が主権を失っても、代わりに得られるメリットがそれを上回るのであれば、ユーロは今後も存続しうるだろう。しかし、現状は主権喪失の代償として得られるメリットが、あまりにも少ない。特にドイツなどは、自国の国民経済発展のために使われるべきお金が、ギリシャなどの「不良国」に支払われてしまうのである。

 無論、ユーロがすでにナショナリズムを醸成し、各国国民が「ユーロ国民」としての意識を持っていれば、特に問題はない。日本の都市部の人が、地方交付金についてブツブツと文句を言いつつ、決して拒否はしないのと同じだ。ところが、現時点でユーロ・ナショナリズムは存在していないのである。ドイツ国民はドイツ国民で、ギリシャ国民はギリシャ国民なのだ。すなわち、ユーロ国民というものは未だ存在していないのである。

 ドイツ国民からしてみれば、自らの主権の範囲は「ドイツ」のみにしか及ばないにも関わらず、他国(ギリシャ等)を救済するために自らのお金が使われるわけだ。これで政治的な反発が起きなければ、そちらの方が不思議である。

 もちろん、反発は起こっている。結果的に、ドイツはユーロ共同債やECBによる各加盟国の国債買取には断固反対し、各国が「財政規律を強化する」という、むしろ逆効果になりそうな案しかEU首脳会議で話し合われなかったわけである。(ドイツらしいと言えば、ドイツらしいのだが)。

 いずれにせよ、ユーロ圏の各加盟国の経済モデルや発展段階、国民所得はバラバラであり、メリットが一致することはまずない。さらに、ユーロ・ナショナリズムを醸成するには、もはや手遅れだろう。例えば、ドイツとフランス、それにベネルクス三国のみで共通通貨ユーロを使用するのであれば、一応、最適通貨圏ということもあり、何とか維持することができただろう。しかし、ユーロはあまりにも加盟国を増やしすぎた。

 アメリカ(及びIMF)が、半分見捨てた状態になり、かつ、英国が「付き合っていられない」と距離を置き、各国が「主権」の一部を放棄することで成立していたユーロという社会実験は、いよいよ最終段階を迎えたように思える。次なるイベントは、ほぼ確実に各ユーロ加盟国のソブリン債の格下げだろう。

 そもそも、現在のユーロのように「共通通貨」を兼用する国の一部が、事実上、破綻状態にあるにも関わらず、独仏などの国債がAAAと格付けされている時点でおかしな話なのだ。しかも、ドイツ国債はユーロ全体の信用不安が進行した結果、巻き添えを食った形で札割れを起こしているにも関わらず、最高格付けなのだ。

 格付け機関のムーディーズは、EU首脳会議がユーロ圏の危機解決への決定的政策対応を打ち出せなかったとして、EU全加盟国の格付けを見直すと発表した。また、S&Pは先週、最高格付けのドイツやフランスを含め、ユーロ圏15か国を格下げ方向で見直すと発表している。

 とにかく、ユーロ加盟国の各政府は、国債の外国消化率が高い。日本の場合、国債の95%を国内で消化し、かつ100%が円建てであるため、格付け機関など無視することが可能だ。とはいえ、ユーロ加盟国はイタリアという例外を除き、国債の外国消化率が極めて高い。さらに、各国政府は共通通貨ユーロ建てで国債を発行しているため、デフォルトリスクは日本とは比較にならない。

 格付け機関が相次いでユーロ主要国の格下げを実施したとき、ユーロは崩壊への道をまた一歩、大きく踏み出したと判断して間違いない。
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