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もうすぐ北風が強くなる

世界通貨戦争(8)財政問題化

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 このところ、アメリカのインフレ政策とイギリスの財政削減を批判しています。
 「英国の歳出削減」「世界通貨戦争(6)ドル」「世界通貨戦争(7)バーナンキ」をご参照してください。
 また通貨と信用創造、国家の関係については「通貨、金利と信用創造の特殊な性質」をご参照ください。

 2008年来、各国はじゃぶじゃぶの金融緩和、流動性供給を続けてきたが、生産、雇用、消費は回復せずに、投機市場へまわるばかりである。
 実際はさらに強力な財政出動で、消費拡大へのてこが必要だ。
 「ところが不思議なことに、この段階になると必ず財政赤字を問題にする声が急に大きくな」るのだ。

 これは不思議でもなんでもない。
 実体経済の資金需要が無いために、流動性供給が投機市場に回っていることの裏返しである。
 投機資本には莫大な資金需要があり、金融資本は投機資本に与信した方が、はるかに利益率が高くなっているためである。

 つまり、金融政策は実体経済でなく、投機の金融経済を向いているのである。
 金融資本は法人の利益ではなく、私的な金融資本「家」の富の蓄積が目的である。
 従って、金融資本にとっては、一国の実体経済の回復よりも、信用創造へ国家保証の方が大切なのは当然なのだ。
 
経済コラムマガジンから引用します。

10/11/22(640号)不況下の反ケインズ政策

FRBは11月3日に追加金融緩和として6,000億ドルの長期国債の追加購入を決めた。これは市場がほぼ予想していた数字である。さらにFRB保有の住宅ローン担保証券の償還分による国債購入をこれに加えると、合計で8,500~9,000億ドルの国債購入となる。

FRBの狙いは「米ドル安による米国製品の輸出促進」「金利低下による住宅投資や設備投資の喚起」「株式などの資産価格上昇による資産効果」などによる景気浮揚である。ところがこのFRBによる米国債の購入は、後ほど述べるが非伝統的金融政策だとして各方面から批難されている。しかしFRBは批難があることを承知した上で、今回の決定に踏出したのである。


それほどまでに米経済の回復が順調さを欠いている。リーマンショック後、FRBによる金融緩和に加え、米政府は財政支出の拡大による景気対策を行ってきた。これらの政策は一定の効果を生んだが、効果が一巡すると経済の拡大は足踏み状態になった。この程度の経済回復では、なかなか失業は減らない。

本来なら金融緩和に加え、さらなる財政政策が必要な場面であるが、後ほど述べるが経済危機を脱する頃には必ず財政赤字を問題にする勢力が出てきて、財政政策続行を潰す。先の中間選挙で民主党が負け、共和党が躍進したのも、そのようなことが影響したと考える。したがって今後の財政拡大策が難しくなる。そしてこのような現象は、日本でも見られたことである(細川政権や第二次橋本政権)。

追加的な財政政策が難しい米国の現状では、どうしても金融政策に負担が掛かることになる。ところがこの金融緩和策さえ足枷を課すような意見が出ている。


FRBは、日銀など他の国の中央銀行と異なり、物価の安定に加え雇用の安定も政策目標にしている。つまり「雇用の安定」といった他の国なら政府の役目となっていることまで、FRBが担っているのである。しかし今回の大胆な金融緩和策の実施をきっかけに、FRBの政策範囲を制限しろという声が出てきた。「FRBは中央銀行の本来の役目である物価の安定に機能を限定しろ」と言うのである。

また新興国からも今回の金融緩和には批難が出ている。米国の金融緩和により、資金が新興国に向かい、これによってまず米ドル安・自国通貨高が起る。さらに資金の流入によって資産価格の上昇と物価の上昇を招くというのである。


このような批難が集まっているため、FRBは、さらなる金融緩和、つまり米国債の追加購入が難しくなったと捉えられている。したがって一時的と思われるが、これまで買われていた米長期国債が逆に売られ、長期金利が上昇している。米国の長期金利が上昇したため、これまで上昇の一方であった日本円も少し売られ、83円台まで円安に振れている。

株価を除き最近の米国の経済指標は決して強くない。またこの程度の米ドル安では輸出増加も見込めない。したがってFRBへの逆風は強まっている。しかしバーナンキFRB議長は必要に応じさらなる追加措置を断行するものと筆者は見ている。


ユーロからの離脱
バブル経済崩壊後、経済がデフレに陥るメカニズムは10/8/9(第627号)「世界に広がるデフレ」で取上げた。通常、バブル経済崩壊後によって経済は急速に縮小し、マイナス成長に陥ることも珍しくない。これに対して国家(今回は欧米諸国全体のバブル崩壊だったためほとんど全ての国)は緊急の経済対策を講じた。対策は金融緩和と財政政策といったまさにケインズ政策である。

これによって経済はある程度持直した。しかしバブル崩壊による経済不調は、通常の景気循環の不況より根がずっと深い。経済学的には、膨大なデフレギャップが生じている。しかしこれが軽視されていて、人々は経済が一旦持直すと経済は簡単に自律成長路線に乗るものと思い込んでいる。


しかし政策が途切れると途端に経済成長が鈍化する。特に経済が成熟した先進国ではこの傾向が強い。したがって本来なら追加的なケインズ政策が必要なところである。

ところが不思議なことに、この段階になると必ず財政赤字を問題にする声が急に大きくなり、財政再建派が勢いを持つようになる。景気対策より財政の健全化が重要というのである。そして反ケインズ政策が採用されるという驚く事態になる。このことは10/7/5(第622号)「サミットの変質」で取上げたが、もはやこれは経済学ではなく社会学上の問題でありテーマである。


日本の場合は、ケインズ政策に財政再建と構造改革が結び付いた奇妙で中途半端な政策が採られ続け、いまだにデフレ経済から脱却できない。また前段で述べたように、米国も金融政策だけの片肺飛行状態である。しかし問題が最も深刻なのは欧州である。

英国なんて政権交代が起って、この不況下に増税しようというのだから尋常ではない。いまだに資産(住宅)価格が下がり続けているアイルランドは、財政赤字の削減を迫られている。他の国も似たりよったりである。資産価格が下がり続けているということは、銀行の不良債権が増えていることを意味する。その点米国と日本は、資産価格は一応底を打ったと見られる分救いはある。

欧州の唯一の救いは通貨安である。これによってどけだけ貿易収支が良くなるかがポイントである。もしこの効果が小さいならば、欧州経済は再び縮小に向かう可能性がある。このような状況では、資産価格の下げ止まることがなくなり、不良債権がさらに増えるといった悪循環に陥ると考えられる。


EUというものは奇妙な集まりである。経済は統合し、少数国を除き通貨も統合した。しかし経済政策は基本的に各国に委ねられている。EUを日本に例えるならアイルランドやポルトガルは北海道や九州などにあたるはずである。日本でもし北海道が深刻な不況なら、日本政府が北海道に重点的な経済対策を講じることが可能である。

しかしEUの場合は複雑であり、アイルランドやポルトガルなどといった個別の国に対して、EUとしての財政政策はない。全体としての金融緩和を行うことを除けば、各国の国債を少々買上げることぐらいである。これではバブル崩壊の影響が大きい国はとても救われない。


ユーロ安はEUの中でドイツだけに大きなメリットがある。ドイツの経常収支は大幅に黒字であるが、EU各国の経済不安(財政赤字と銀行の不良債権問題)によってユーロ安が続いている。つまりドイツはどれだけ貿易黒字を拡大しても通貨は高くならないといった有利な立場にある。

本来ならドイツが、経済的に追い詰められたEU加盟国に財政支援を行うべきと筆者は考える。しかしドイツにはその気が全くない。ドイツには、財政危機のギリシャに中国に島を売ってしまえという声があるほどである。冗談にしてもほどがある。このような状況では、ユーロから離脱する国が出てくる可能性がある。もっとも筆者も、EUが統一国家にならない限り、通貨統合なんて無茶な話だとずっと思っている。
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