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TPPのウソと真実(後編):三橋

 TPPのウソと真実(前編)からのつづき

TPPのウソと真実(後編)   11/17  三橋貴明    Klugから

 2011年11月11日。東日本大震災から八ヵ月後、未だに復興予算が成立していない(現時点で衆議院は通っているが、参議院は通っていない)状況にも関わらず、野田総理は「TPP参加交渉に向け関係国との『協議』に入る」ことを宣言した。

 「協議開始」宣言の前に、野田総理は参議院予算委員会において、自民党の佐藤ゆかり参議院議員からの質問で、TPPの最も問題ある条項である「ISD条項」について正しく理解していない事実を暴露された。何しろ、佐藤ゆかり議員が、
「国内法が(TPPの)IDS条項によって曲げられる可能性があると思うが、いかが?」
 と質問したところ、野田総理は、
「基本的には我が国が守ってきた法律で対応できるよう交渉していきたいと思います」
 と答えたわけであるから、言い訳のしようがない。TPPもISDも「国際法」だ。そして日本国憲法には、第九十八条「最高法規、国際法の遵守」において、
「国が結んだ条約や昔からある国際法規は、これを誠実に遵守するべき」
 と書かれている。国際法であるTPP協定に含まれるISDに対し、国内法で対応できるはずがないのだ。

 それ以前に問題だと思われるのは、国会質疑を見ている限り、どうも野田総理は「ISD条項」について全く知らなかったようなのである。佐藤議員からの質問に際し、慌てて文書に目を通し、
「これですね。投資協定・・・国際仲裁判断に委ねる、そういうような場合ですね。仲裁人が入ってきて、仲裁人により決めていくというわけなんで、というプロセスがあるということで。(中略)
 ISDS(ISD条項)は、寡聞で詳しくしらなかった」
 と答弁している。

 断言しておくが、野田総理はISDのみならず、TPPについて具体的な中身をほとんど知らないのだろう。もし知っていたならば、安易な「協議開始」など宣言できるはずがない。

 さて、TPPとはそもそも何だろうか。

 日本にとってのTPPとは、簡単に書くと1989年の日米構造協議開始以来の、我が国に対する「構造改革」要求の現代版だ。アメリカの構造改革要求とは、分かりやすく書くと、
「貴国の社会制度システム(非関税障壁)が我が国の企業にとって都合が悪いので、法律を改正して社会制度システムを変えろ」
 という話である。例えば、日本は道路交通法により、自動車に関しては左側通行することが規定されている。それ故に右ハンドル車が多いわけだが、これもアメリカの自動車メーカからしてみれば、立派な「非関税障壁」になってしまう。冗談でも何でもなく、日米貿易摩擦が激しかった頃のGMは、
「日本は右ハンドルだから、我が社の自動車が売れないんだ!」
 と、文句を言っていた。ならば、GMなどの米国自動車メーカも、右ハンドル車を作ればよさそうなものだ。だが、GMなどのアメリカのビッグスリーは、二十一世紀に入って以降、業績が急激に悪化したこともあり、日本市場向けに右ハンドル車を製造する余力がなくなってしまった。結果、未だに日本市場において、アメリカ車は「マイナー」なままである。

 いずれにせよ、この種の企業が自国政府や他国政府に対し、「社会制度システムの変更」を要求することこそが「TPPの真実」なのである。本来、他国の社会制度システムなどの環境条件がボトルネック(制約条件)となり、自社の製品が売れないのであれば、企業は「環境(=需要)に応じた製品開発」を行うべきなのだ。ところが、アメリカの企業はロビイストや献金を使い、自国の政治家を動かし、社会制度システムの方を変えさせようとするのである。

 しかも、それを自国政府に対して行うだけならともかく、他国政府にまでやってくるわけであるから始末に負えない。そもそも社会制度システムとは、主権国家が自国の歴史、伝統、文化に基づき成立させた「法律」が基盤となっている。その法律を政治的圧力で変更させようというのだから、立派な主権侵害だ。

 法律を定めるのは、その国の国会議員である。民主主義国家において、国会議員は有権者から選挙で選ばれる。逆側から見ると、国民は有権者として「法律を制定する」国会議員を選挙で選ぶことができるからこそ、国民主権と言えるのだ。他国企業や他国政府が、無理やり法律を変えさせようとするのは、明確な内政干渉に当たる。


 そもそも、TPPのカバーする範囲はあまりにも広く、日本が加盟した場合、少なくとも30超の大きな法律を変えなければならないだろう。実際、米韓FTAを批准しようとしている韓国は、それに合わせて25もの法律を変更しようとしている。

 さらに、TPPにISD条項が含まれていた場合、日本政府が「日本国民の安全や健康、環境」を考え、ある分野において新たな法律で規制をしようとした際に、該当分野に投資していた米国企業に訴えられかねないのだ。(と言うよりも、NAFTAの事例を見る限り、容赦なく訴えられることになる)結果、日本政府は投資していたアメリカ企業に巨額の損害賠償を支払わされるか、もしくは規制を撤廃させられることになる。

 これほどまでに明確な「主権侵害条項」が入っているにも関わらず、野田政権はほいほいとTPP交渉参加に前向きになっているわけであるから、呆れてものが言えない。さらに呆れる事実は、野田総理がこれほどの重要条項について無知であったことになるわけだが。

 ちなみに、日本はこれまでにも発展途上国とEPA(経財連携協定)を結ぶ際に、ISD条項を入れてきた。とはいえ、これは日本企業にISDという「保険」を与え、発展途上国への投資を拡大させることが目的だったのだ。

 例えば、ロシアのサハリン2の事件を覚えておいでだろうか。日本の三井物産や三菱商事も開発に参加していたサハリン州の石油、天然ガスの開発プロジェクトだが、06年9月にロシア政府が突如「環境アセスメントの不備」を理由に、開発中止命令を出した。その後、ロシア政府は半国営企業のガスプロムに株式の過半数を取得させ、三井物産や三菱商事が減資となる形で環境是正計画を承認した。当然の話として、三井や三菱は大きな損害を被ったわけである。

 上記のような「政府による収容」が発生するリスクがある国に対しても、日本企業の投資を促進するためにこそ、日本政府はこれまでのEPAにおいてISD条項を入れてきたわけだ。日本とのEPAに際し、ISD条項を入れることで、自国への投資が増えるわけであるから、発展途上国側にとってもメリットのある話なのだ。ついでに書いておくと、発展途上国の企業が日本に投資し、政府の規制強化で損害を被ったからといって、日本政府を訴えることなどありえない。何しろ、日本は彼ら発展途上国に対するODA供出国なのだ。

 すなわち、ISD条項とは「投資の保険」という意味合いを持ち、本来は先進国と発展途上国との間の貿易協定においてのみ、含められるべき条項なのだ。それをアメリカは、先進国同士の貿易協定においても紛れ込ませ、米国企業が投資相手国の政府を訴えるケースが後を絶たない。何というか、さすが訴訟大国アメリカとでも言うべきなのだろうか。

 さて、2011年11月12日のホノルルのAPECに、勇んで乗り込んだ民主党の野田総理だが、いきなり強烈なカウンターパンチを食らうことになった。アメリカやオーストラリアなど、TPP交渉に参加している9ヶ国が出席した首脳会議に、日本は招かれなかったのである。

 日本側としては、せめてオブザーバーとして出席し、交渉参加に向けた日本の立場を説明したい考えだったのだろうが、無視された形になった。

 さらに、今回のAPECで決定的になった事実がある。すなわち、日本が本当にTPPに参加しようとした場合、ルールメイキングには全く参加できず、他の9カ国が決めたルールを「受け入れるか、否か」を迫られるだけという話が決定的になったのだ。

『2011年11月13日 日本経済新聞「「TPP、日本参加で交渉遅れ許されぬ」マレーシア首相」

 太平洋連携協定(TPP)拡大交渉の参加国、マレーシアのナジブ首相は12日、将来の日本の交渉参加について「原則的に賛成だが、交渉を遅らせることは許されない」と述べた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれた米ハワイのホノルルで、共同通信などの会見に応じた。

 交渉に参加するには現在拡大交渉中の9カ国の同意が必要。ナジブ首相は「すでに合意された事項について再交渉はありえない」として、これまでの交渉で9カ国が合意した通商ルールを受け入れることが日本参加の前提だと強調した。

 また、ナジブ首相は、同日開催の首脳会合で9カ国が「来年7月の交渉妥結が望ましいとの認識で大筋一致した」と明らかにした。

 一方、「残された作業は多い」と発言。「(来年は)参加国の一部が選挙を控えており、保護分野について繊細な扱いを要する」として、市場アクセスなどで難航する交渉の行方が不透明であることを示唆した。』

 上記の記事は極めて重要だ。ポイントを箇条書きにすると、

 1.TPP交渉三カ国は、日本の交渉参加を受け、合意までのスケジュールを遅らせること
   はない

 2.すでに合意された通商ルールが、後から参加した日本の要望により変更されることは
   有り得ない

 3.日本がTPPに参加する場合、9カ国全ての合意が必要

 4.現在の交渉三カ国は、2011年(※2012年?)7月までの交渉妥結を目指している

 日本が交渉参加する際には、9カ国それぞれから、何らかのコミットメントを要求されることになる。さらに、アメリカの了解を得るだけでも、事前協議に3ヶ月、米国議会の協議に3ヶ月と、少なくとも六ヶ月の時間が必要になる。

 すなわち、日本が9カ国に相当な「お土産」を用意し、交渉に参加できたとしても、交渉妥結予定月(2011年7月)の二ヶ月前ということになってしまうのだ。妥結予定月のわずか二ヶ月間では、日本の要望をTPPのルールに入れ込むことは不可能であろう。

 そもそも、既存の参加国側が、
「すでに決まったルールについては、変更することは有り得ない」
 と明言しているわけだ。

 すなわち、日本がTPPに入ろうとした場合、他の九カ国が決めたルールを「丸ごと」受け入れるしかないということになる。こんな状況で、果たして日本の国益を守ることなどできるのだろうか。

 ちなみに、APECにおける九カ国首脳会談を受け、USTR(アメリカ通商代表部)は、現時点におけるTPPの合意内容をアウトラインとして公開している。

『Outlines of the Trans-Pacific Partnership Agreement
http://www.ustr.gov/about-us/press-office/fact-sheets/2011/november/outlines-trans-pacific-partnership-agreement』

 上記、TPPのアウトラインの中には、これまで本ブログで批判を続けてきたISD条項やネガティブリストなど、過激(と言うか、アメリカに都合が良い)な項目が全て含まれている。

 特に、日本のTPP推進派が甘く見ていると思われるのは、「サービス分野のネガティブリスト方式による自由化」である。何しろ、ネガティブリスト方式であるため、リストに掲載されていないサービス分野については、全て法律を改正し、規制を撤廃しなければならない。また、新たにネガティブリストに分野を追加することは認められないため、「新サービス」については、基本的にTPP加盟国の企業に全面開放することになってしまう。

 サービスとは、実に幅の広い分野を含んでいる。例えば、「放送」や「新聞」と言ったマスコミ産業も、規制を真っ先に撤廃されるサービス分野になるだろう。具体的には、放送法の見直し及び新聞特殊指定の撤廃だ。何しろ、アメリカでTPPを推進している「TPPのためのアメリカ企業連合」の中には、タイム・ワーナーが含まれているわけだから、何をかいわんやである。

 無論、マスコミ以外にも建設、簡保、共済、運送、不動産、会計、法務、特許、コンサルティング、医療、流通、小売、電気通信、電子商取引などなど、日本の特に中小企業が担っている内需向けサービスは、ネガティブリストに掲載したもの以外は「全面自由化」「ルール撤廃」そしてそのための「法律改正」が実施されることになる。まさに、日本の社会制度システムを全てアメリカ化するとしか、表現のしようがない。

 さすがのTPP推進派であっても、上記のようなISD条項やネガティブリスト方式、それに公的医療サービスの見直しなどについては、全面的に反対している。ところが、それでもTPP自体には反対をしない。その理由の多くが、
「日本の政治力で、都合の悪いルールを撤廃させればいい」
 というものであるわけだから、心底から愕然としてしまう。日本は別に、世界の超大国でも何でもないのだ。

 来年五月にノコノコと遅れて交渉に参加し、二ヶ月間で上記に列挙した問題のある条項を「すでに合意された事項について再交渉はありえない」と言われている環境下においてひっ繰り返す。これを「日本の政治力で実現する」などと真剣に思っていたとしたら、その人物は誇大妄想狂以外の何者でもない
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コメント

女子高校生に破廉恥なことをしたゴキブリ米軍一人も裁けない情けないこの国が
TPP交渉でアメリカに対して日本に不利なルールだから撤廃したいと言えますかね?

ネットの普及で真実を直視し、意識改革している国民が多くなった今でも
戦後のままの意識で停滞している官僚と政治家たち、目をそらしたくなります。

しかし、たまに接する20,30代の若い方たちが社会に対しても国に対しても
意外としっかりした考えかをしていることの多さに
数十年後の日本の未来図へ期待してみます。

コメントをありがとうございます

地方都市に住んでいると若者が減っていることで、失業が増えているのが間接的に解ります。
雇用が無くなり、最低賃金のパートさえ減少傾向です。
あまり、楽観的な気分にはなりません、
今は羊の国民が、窮乏化して荒んでゆくと、また小泉郵政選挙とか石原、橋下、そのまんま東などの馬鹿者に意識が向かうのではないか、危険を感じています。

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