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米軍のイラク撤退とイスラム復興勢力:田中宇

 米軍のイラク撤退後の中東は、親米保守からシーア派中心のイスラム復興勢力に重心が移るだろう。
 イラン、トルコ、エジプト、そしてイラクである。
 シオニストへの包囲網でもある。

 関連するページ「復興するイスラムの力」、「復興するイスラムの力(2)」、孤立を深めるシオニスト国家と復興するイスラム」、「狂信的シオニストと闘うパレスチナ」。
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 イラクの夜明け    10/24   田中 宇

 10月21日、米オバマ大統領が、年末までにイラクから米軍をすべて撤退させ、イラクでの軍事行動を終了すると発表した。
 オバマはこの日、イラクのマリキ首相とビデオ回線を介して会談し、今年末に予定されている米軍のイラク撤退を延期するかどうか、詰めた話し合いをした。マリキは予定通り今年末の米軍撤退を望んだため、オバマはそれを承諾し、会談後の記者会見でイラク撤退を発表した。 (Obama: U.S. will pull troops out of Iraq by year-end)

 イラクでは昨年12月、マリキ首相が「2011年末までに米軍に撤退してもらう」と宣言した。
 米政府内には、米軍のイラク駐留を恒久化・長期化したいと望む人々もおり、今年初めから、米イラクの政府間で、米軍駐留の延長に関する交渉が続けられた。国防総省や軍事産業の関係者は、イラク側に、駐留を延長しろと圧力をかけた。 (Maliki's Troop Mistake) (In Surprise, Iraq May Enforce Withdrawal Deadline)

 イラク政界の最大勢力である親イランのシーア派指導者ムクタダ・サドルは、駐留延長に強く反対した。サドルの意向を重視するマリキ首相も、一貫して撤退延長はしないと表明し続けた。
 だが米国では「第二次大戦から60年経っても、日本や韓国には米軍が駐留している。イラクも同様に、米軍の駐留が恒久化されるだろう」「大油田があるイラクから、米軍が出て行くはずがない」「米軍が撤退したら、イラクは大混乱になる。米軍駐留が必須だ」といった報道が喧伝された。 (US Out of Iraq. Really.)

 これらは、だまし絵的な幻影報道だった。昨年末に米イラク政府間で締結された米軍撤退に関する合意文書では、交渉によって米軍駐留の延長すること自体ができないようになっていた。
 「マリキは米国の傀儡だ。駐留延長しないと言っているのは、反米感情が強いイラク国内向けのニセのポーズにすぎない」といった米国での分析は間違っていた。 (Iraqis Cancel Meeting on US Troops Extension)

 米軍は、駐留延長の条件として、米兵士がイラクで犯罪を犯してもイラク当局に逮捕されない不逮捕特権を要求したが、イラク政府は認めなかった。今年8月以降、米イラク間で米軍の駐留延長について、公式な交渉は行われなくなった。
 そして、10月21日のオバマとマリキの会談で、駐留を延長しないことが正式に決まった。 (US troops to leave Iraq by end of year)

 今回のオバマの発表に対し、米国の反戦運動家などからは「米軍がやすやすと撤退するはずがない。オバマの発表には裏があるはずだ」「イラクが米国の傀儡である状態は変わらない」「駐イラク米国大使館の警備などの名目で、少なくとも5千人の米軍傘下の傭兵部隊が残る」といった指摘が出ている。
 だが、不逮捕特権を持たない以上、米兵は事実上、大使館警備の範囲を超えてイラクに駐留できない。 (US to Withdraw From Iraq By December)

▼米国からトルコの傘下に移る北イラク

 米軍は10月20日、クルド人地域などイラク北部を担当してきたティクリートの米軍基地を閉鎖した。米軍は、北イラクのモスル市内などからも出て行き、イラク北部からの撤収を完了した。
 これとほぼ同時に、イラク北部に隣接するトルコが、北イラクに軍を越境派兵してきた。トルコの反政府武装勢力であるクルド人のPKKが、トルコ南部でテロ的な攻撃を起こし、トルコの警察官24人を殺したため、その報復としてトルコ軍が国内の南部で大規模なPKK掃討作戦を行い、隣接するイラク領内に15キロほど越境侵攻した。 (US Closes Northern Iraq Base As Turkey Intensifies PKK Border Operations) (Mosul celebrates US forces withdrawal)

 トルコ軍の侵攻に対し、イラク政府はPKKを非難する声明を出し、トルコが自国に侵攻したことを容認した。
 米国もPKKをテロ組織とみなし、無人偵察機で集めたPKKに関する情報をトルコに伝えている。米軍のイラク撤退後、米側がイラクで使っていた無人偵察機群をトルコに売る話もある。
 これらの状況からみて、イラク北部で米軍の撤退とトルコ軍の侵入が同時期に起きたのは、偶然でない。イラク北部で支配的な影響を持つ勢力が、米国からトルコ・イランに変わりつつある。 (Erdogan signals joint Turkish-Iranian action against Kurdish rebels in Iraq)

 クルド人はイラク、トルコ、イラン、シリアの4カ国に分散して住んでいる民族だ(第一次大戦後、英国の策略でクルド人の居住地域が4分割された)。北イラクには、反トルコ勢力PKKのほか、反イラン勢力PJAKもおり、トルコとイランは協調して北イラクの反政府勢力を制圧する戦略で合意している。
 米政府は、仇敵であるはずのイランが、イラク北部で影響力を拡大することを黙認している。 (Amid Own Tensions, Turkey and Iran Pledge Mutual Aid Against Kurdish Rebels)

 イラク政府が米軍を撤退させる方針を固めた今年初めから、トルコ企業がイラクのインフラ整備などの事業への参入を急拡大している。
 北イラクでは、物資の8割がトルコから入ってくる。バグダッドでは今春以来、米軍がテロ防止用に市内の各所に構築した隔離壁などを、壊して以前のような道路交通の流れを再確保するための工事を、トルコ企業が受注して行っている。米国が無茶苦茶にしたイラクを、トルコが元に戻している。
 このような全体の流れを見ると、イラクにおける米国の影響力が低下し、トルコやイランの影響力が拡大しているのは、不可逆的な動きと考えられる。 (Turkey learns rules of the game in Iraq) (Iraq Steps Back Onto the Regional Stage)

 クルド人はイラク国民の15%にすぎないものの、かつて米CIAやイスラエルの庇護のもと、イラクで最強の政治勢力だった。
 だが米軍の撤退が近づくにつれ、イラク政界におけるクルド人の政治力は低下している。米軍侵攻後、イラク北部やバグダッドでクルドの旗が堂々と掲げられていたが、最近では、クルドの旗を掲げることが違法行為と見なされ始めている。 (Raising Kurdish flag violates Article 140 of Constitution)

▼全中東のシーア派を覚醒させる

 クルドの力の縮小と対照的に、中東全域の民主化運動からの影響として、イラク国民の6割を占めるシーア派が政治的に覚醒してきたのも、今年の目立った動きの一つだ。
 その象徴は、エジプトの政権転覆から間もない今年4月、イラクのシーア派の政治家アハマド・チャラビがバーレーンの民主化運動を支持して「イラクはずっとスンニ派が支配している国だったが、今や民主化されてシーア派の国になった。バーレーンも同様に王政が転覆されて(多数派の)シーア派が主導する国になるべきだ」と宣言し、ロンドンで亡命生活を送っているバーレーンのシーア派の反政府勢力と会合を持ったことだ。 (Iraq's Chalabi Advises Protesters Abroad)

 チャラビはもともと米国に亡命していたイラク人で、イラク侵攻時に米中枢のネオコン軍団の一人として開戦の大義をでっち上げ、米国右派の傀儡として「活躍」した。
 だが実は、以前からイラン当局との関係がある二重スパイとも言われ、イラク侵攻後にイラクで政治家となり、反米主義に転じ、米軍の早期撤退を求めるようになった。チャラビは、イラクが中東全域のシーア派による民主化要求運動の主導役になるべきだと主張している。 (Iraq's Chalabi, who sought invasion, now wants US out)

 イラクで、バーレーンの民主化(王政転覆とシーア派政権の樹立)を支援しているのはチャラビだけでない。
 イラク政界のキングメーカーとしてチャラビより有力なサドルも、5月にカタールで開かれたバーレーンの民主化を話し合う会議に出席するなど、バーレーンの民主化を支援している。 (Al-Sadr in Doha to discuss Bahrain's crisis)

 イラクの中でも特にシーア派の比率が高い南部では、バーレーンだけでなく、その隣のサウジアラビア東部で起きているシーア派の権利獲得運動に対する支持も強く、サウジ製品に対するボイコット活動が行われている。
 米軍撤退によって政治抑圧から解放され、外交面で言いたいこと言えるようになる来年以降のイラクは、しだいに声高に、サウジやバーレーンの王政がシーア派を弾圧していることを非難するようになる。 (Shiites in Iraq Support Bahrain's Protesters)

 シーア派国民に対する差別を隠し、国際問題にしたくないサウジ王室は、これまで米国のマスコミなどに手を回し、サウジやバーレーンでのシーア派弾圧についての報道が大きく出ないようにしてきた。
 だが今後、イラクが声高にこれらの弾圧を批判するようになると、サウジやバーレーンの王室は国際批判の対象になって困窮する。サウジやバーレーンは対米従属の国是によって国際社会での優勢を保ってきたが、中東での米国の影響力が低下する中で、その状態も続かなくなる。
 サウジの大油田は、シーア派が多数を占める東部に集中している。東部の不安定化は、サウジ全体をゆるがす。油田なしのサウジは、砂漠の貧しい国である。

 サウジ周辺のペルシャ湾岸の産油諸国の中で、イラクに隣接するクウェートは今年、イラクの唯一の港であるウムカスルのすぐ対岸のモバラク(Mobarak)で港湾建設を開始した。航路の重複を引き起こしそうなので、イラク側から、嫌がらせの敵対行為だと非難されている。
 この問題は、かつて英国がイラクとクウェートの国境線を引いたとき、意図的にイラクの海岸線を短くして、イラクが港湾を作りにくいようにして封じ込めをはかった名残である。 (`Allegation to hurt Iraq, Kuwait ties' Calls made in Basra to protest against port project)

 今年、イラクとクウェートの関係は全体的に悪化した。米軍撤退によってイラクが再び国家として自由の身になることが確定するとともに、シーア派の国になったイラクを封じ込めようとする、クウェートなどサウジ主導のスンニ派勢力からの敵対行動が開始されている。
 この紛争は、イラクに対する米国の影響力が低下していることを示している。 (Sadr called for stern stand against Kuwait - MP)

 中東全体として、イラクやイランを中心とするシーア派の勢力が、1300年間の抑圧から解放されて盛り返し、サウジを中心とするペルシャ湾岸やヨルダンなどの対米従属のスンニ派諸国が弱くなっていくだろう。
 シーア派勢力は、イラクとイランを合わせると、OPECを支配してきたサウジと並ぶ石油埋蔵量となる。石油をめぐる国際政治の世界でも、イラクとイランの台頭が予測される。

 イラク侵攻から8年間、イラクでは10万人とも50万人ともいわれる市民が殺された。開戦大義のはずの大量破壊兵器がそもそも存在せず、でっち上げで侵略戦争をしてしまった米国は国際法上、重大な国家犯罪をおかしたが、国連の制裁も受けていない。
 だが今、米軍が撤退していく方向が定まり、ようやくイラクにとっての夜明けが近づいている。 (Iraq By The Numbers: The World's Costliest Cakewalk)

 米軍に政権転覆されたイラクが、やがてイランと結託し、中東全体としてのシーア派の台頭を導くことになる流れは、ブッシュ前政権時代の米国自身が作ったものだ。
 この流れのおかげで、反米のイランやイラクが台頭し、親米のサウジやヨルダンが窮して、米政界を牛耳っていたはずのイスラエルが国家存亡の危機に追い込まれている。
 米国(特に共和党)には、隠れた国際戦略があると考えるのが自然だ。共和党のマケインは「イラク撤退はイランの勝利になる」とオバマを批判したが、イランを勝たせる流れを確定したのは、オバマの前の共和党政権である(オバマでなくマケインが大統領になっていたら、もっとイランの勝利になっていただろう)。 (Iraq rejects US request to maintain bases after troop withdrawal)

 オバマは、10月21日にイラクからの米軍撤退を発表した際、イラクだけでなく、アフガニスタンやリビアでも「戦争の流れは退却している」と述べた。
 リビアではカダフィ大佐が拘束・殺害されて内戦が一段落したため、NATO軍が10月末に撤兵することを決めた。
 アフガン情勢ははっきりしないが、もはや米国にとって勝てない戦争であることが、すでに確定している。
 中東全域が、米国やイスラエルの抑圧から脱し、世界の極の一つとして機能していく「中東の夜明け」が、近いうちにやってくるだろう。この動きを誘発したのは米国自身である。
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