健忘症のパイロット
2011-09-15

西川渉氏のHPから 小話
健忘症のパイロット
男の別荘は美しい湖水のそばにあった。しかし、そこまでゆくには自家用機で飛び、飛行場に着いてからさらに長く車で走らなければならない。
その長旅にうんざりした彼は、機体にフロートを取りつけることにした。そうすれば自分が持っているコテージの前の湖面に直接、飛行機で着水することができる。
さっそく機体にフロートを装着して別荘に向かい、いつものように飛行場に着陸しようとした。古くから続いている習慣はなかなか消えないもので、男が着陸操作に神経を集中していると、妻が夫の間違いに気がついて大声で叫んだ。
「あなた、何をしてるんですか。フロートがついてるんですよ、着陸はできませんよ」
幸い彼女の警告が間に合った。夫は着陸態勢に入っていた機首を引き起こし、姿勢をととのえて飛行を続け、危ういところで湖面に着水した。飛行機が停止すると、夫は安堵のあまり思わず大きなため息をつき、妻の方を振り向いて
「今までにやったこともない大ポカを仕出かすところだったよ」
彼はそう云いながら向き直ってドアを開け、飛行機の外に踏み出した。途端にドブーンと水の中に沈んでいった。
- 関連記事
-
- 制御されている私達:金原 (2011/10/15)
- S・ジョブス:2005卒業スピーチ (2011/10/06)
- スティーブ・ジョブス氏の功績を讃える (2011/10/06)
- 10月はたそがれの国 (2011/10/02)
- 思考停止してるから自分の意見が無い:武田 (2011/09/19)
- 健忘症のパイロット (2011/09/15)
- 生涯を忘れられた人々、モリーは何処にいるの? (2011/09/15)
- 絶対音感の正体、(百年忘れられたJ・S・バッハ) (2011/08/16)
- 7月の終わり (2011/07/31)
- 異端医師の独り言 (2011/07/06)
- たばこの景品 (2011/06/30)
コメント
コメントの投稿
トラックバック
この記事へのトラックバックURL
http://bator.blog14.fc2.com/tb.php/651-d39e4dfd