fc2ブログ

もうすぐ北風が強くなる

食品の生涯100mcvの意味と児玉教授発言

 関連するページは次のものです。
 衆議院参考人発言全文「東大アイソトープ児玉教授の怒り
 上記の質疑応答「児玉教授質疑応答!

食品安全委員会が初公表した規制値の今後の目安
生涯100ミリシーベルトの意味をよく考えてみよう
  坪井賢一 8/17 ダイヤモンド・オンライン
――福島原発震災 チェルノブイリの教訓(14)

 7月の第4週に2つの重要な議論が政府の食品安全委員会と衆議院厚生労働委員会で行なわれ、すぐに公表された。2つとも福島原発震災によって放出された放射性物質の影響に関わる大きな問題である。

 1つは、食品安全委員会がまとめた食品健康影響評価書案である。食品安全委員会は、3月11日の福島原発事故後、セシウムの食品における暫定規制値を1キログラム当たり500ベクレルとしている(詳しくは連載第4回を参照)。これは5mSv/y(年間5ミリシーベルト)におさまるように設定された数値である。
 食品、つまり内部被曝による影響を5mSv/yとするもので、ICRP(国際放射線防護委員会)が勧告している一般公衆の年間被曝1mSv/yより高い。重大事故による緊急事態であることを考慮し、5mSvまで引き上げた暫定規制値である。

 7月26日に食品安全委員会が公表した評価書案は、長期的な規制値をどうするか答申し、今後、パブリックコメントを集めて最終的に確定することになる。

 この評価書案では、生涯累積被曝線量を100mSvとした。以下、その根拠を小泉直子・食品安全委員会委員長のメッセージから引用しつつ解説する。

「この値(生涯100mSv)はあくまで食品のみから追加的な被ばくを受けたことを前提としていますが、この根拠となった科学的知見については、収集された文献に内部被ばくのデータが極めて少なく評価を行うには十分ではなかったため、外部被ばくも含まれた現実の疫学のデータを用いることとしました。

 累積線量としておよそ100mSvという値は、生涯にわたる追加的な被ばくによる線量の合計がこの値を超えた場合に、この被ばくを原因とした健康上の影響が出る可能性が高まるということが統計的に示されているもので、大規模な疫学調査によって検出された事象を安全側に立って判断された、おおよその値です。文献において、明らかに健康上の影響が出始めると考えられる数値的データは錯綜していましたが、この値は、それらも踏まえて検討されたものです。累積線量としておおよそ100mSvをどのように年間に振り分けるかは、リスク管理機関の判断になります」

 つまり、外部被曝と内部被曝を合わせて生涯の被曝限度を100mSvとなるように食品規制値を作成しようというものである。

 累積線量で100mSv以上を確定的影響(ガンが0.5%増加)、100mSv以下の低線量被曝の影響は解明されていないが、ゼロから確率的に増加するという仮説を確率的影響と定義しているのが「ICRP勧告」(最新は2007年版)である。

 したがって、人生を85年とすれば、生まれたばかりの子どもについては年間1.18mSvとなるから、「リスク管理機関」に言われずともわかる。

 これは、ICRPが一般公衆の年間被曝限度を1mSvとしている放射線防護の考え方に近く、むしろ「ICRP勧告」を追認したともいえよう。この数値に基づいて食品ごとに振り分け、放射性物質の規制値を決めていくのが厚生労働省の仕事になる。内部被曝と外部被曝の合計だから、食品に関しては相当厳しい数値になるだろう。

 実際問題、現状の東北・関東地方の放射線濃度が続けば、福島県だけでなく、首都圏を含む東日本全域でこの厳しい数値は守れないだろう。

 現在、文部科学省は、「ICRP勧告」に基づいて、重大事故緊急時の一般公衆被曝量を20-100mSv、事故収束時を1-20mSvとしている。そして、緊急時の下限、収束時の上限である20mSv/yを強制避難の基準としている。

 したがって、収束段階にいたっていない現在、1mSvは不可能であることはわかる。しかし、東京電力が工程表を作成しているように、厚生労働省や文部科学省も、1mSvへいつまでに、どのように引き下げていくのか国民に示す必要があるだろう。

 食品安全委員会の評価書案発表と委員長メッセージは、工程表作成を促す意味でも非常に重要で、大きな指針となるものである。食品安全委員会も緊急時には上限を引き上げている。現行の暫定規制値がまさにそうだ。

 福島県だけでなく、首都圏でも同様だ。千葉県東葛地区の放射線量は他の首都圏各地より一桁高いが、同じように、累積1mSvへ引き下げるために何をいつまでにどうすべきかを公表する義務がある。義務があるのは自治体である。

 もっとも、政府がなんら指針を出さないため、困惑しているであろうことは類推できる。

 相変わらず自治体のホームページには次のような説明が掲げられている。

 「計測の結果、これまでの測定では福島県内の学校の校舎・校庭などの利用判断における暫定的な目安である毎時3.8マイクロシーベルト(4月19日文部科学省発表)や、放射線量低減のための土壌対策の対象となる毎時1マイクロシーベルト(5月27日文部科学省発表)を下回っており、平常の生活をしても差し支えないものと考えております。」

 この連載で何度も書いているが、3.8μSv/hは20mSv/yを換算したもので、避難する基準になってしまう。つまり、「安全」と「避難」しかないわけだ。自治体は政府からこの基準しか与えられていないため、他に考えようとしない。

 食品安全委員会の評価書案を見ればわかるように、可能な限り早く1mSvへ近づける方策を考えるべきであり、工程表を作成したほうがよい。

   さて、ここで議論を混乱させているのが放射線専門家集団である。

 筆者がここまで書いてきた計数は、ICRPや日本医学放射線学会が書いている計数でもある。ところが、専門家によってはまったく違うことを発言している。

 多くの放射線専門家の反論は以下のようなものだ。

① 放射線防護の制度上、一般公衆の1mSv/yはそのとおりだが、健康への放射線影響を考えると、1mSv/yは危険水準ではない
② 確定的影響が出現する累積100mSvまでは何も問題ない
③ 放射線の健康リスクを厳しくみるのはいいが、他のリスク、たとえば避難の経済的リスク、転地した場合の精神衛生上のリスクなどを総合的に考えて判断すべきだ

 ざっとこんな具合だ。①は当たり前で、そんなことは分かっている。制度上の上限を議論しているのだ。②は、正しくは「わからない」だが、ここでさまざまな自説を開陳する専門家が多い。

 問題は③で、要するに国民はリスクと便益(ベネフィット)を総合的に考えることができないから、1mSvという非常に低い水準を危険だと捉えてしまう。国民には専門的な議論は理解できない、困ったものだ、というのである。

 国民は放射線専門家が想像しているほど馬鹿ではない。資本主義市場経済はリスクとリターンに支配されており、社会人ならばだれでもそのように行動している。学者は違うかもしれないが。

 専門家がわかっていないのは、原発事故による放射能汚染とは、まったくベネフィットのないリスクであり、通常の社会生活におけるリスクに、上から覆いかぶさったとんでもなく馬鹿げたリスクだということだ。

 ICRPが1mSv/yという厳しい数値を置いているのは、一般公衆にとってリターンが何もないリスクだからだ(原発作業者の限度量をはるかに高くしているのは給料というリターンがあるからである)。

 自然災害もリターンのないリスクだが、原発事故は天災ではない。事故の想定を甘く見ていた専門家の責任である。

「クルマを運転して事故にあうリスクがあるのに、人々はクルマを運転している。それに比べればこの程度の放射線リスクはたいしたことない」と、ある専門家が発言しているのを聞いて驚いた。クルマを運転するのはリスクがあるが、それ以上のリターンがあるからに決まっている。

 さすがに最近は、電気のベネフィットがあるだろう、という専門家はいなくなってきた。これまで「原発は絶対安全」といってきたわけだから、本来リスクフリーだったのである。

 こんな発言もどこかで読んだぞ。

「だれでも飛行機に乗る。その際、リスクの高い航空会社を避ける。最後はリスクを取って搭乗する。放射線リスクと避難の経済的リスクを総合的に考えるのは同じことだ。」

 飛行機に乗ることと原発事故の放射線リスクを比較すること自体バカバカしいが、市民が放射線リスクと他のリスクを比較しないのは、放射線リスクにはリターンが何もないので、リスクのポートフォリオをつくることができないからだ。

   では、どうすれば市民は安心できるのだろうか。

 初めて明確に答えてくれた専門家が以下に紹介する児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センター教授である。

 7月27日の衆議院厚生労働委員会に参考人として出席した6人の専門家の一人である。児玉氏の発言はインターネット上で話題となった。すでに発言を読んだりビデオを見た読者も多いだろう。


 児玉氏の発言のポイントをまとめると次のようになる(6人全員の速記全文が国会のホームページで公開されている

児玉龍彦教授 発言のポイント

① 福島原発から放出された放射性物質の総量がわからない。未公表のままなのはおかしい

② 熱量からの推計放出量は広島原発の29.6個分、ウラン換算で20個分

③ 原発からの放射性汚染物は原爆からのものよりも長く、多く残存することになる

④ 食品、土壌、水の検査に最新鋭のイメージング測定器を投入し、抜本的に検査を改善すること。日本の科学技術力で可能なことで、まだまったく行われていないことに、私は満身の怒りを表明する

⑤ 内部被曝では、ミリシーベルトに換算しても無意味。例えばセシウムは尿管上皮や膀胱に集まるため、集積点を計測しなければ意味がない

⑥ 放射線が特定の遺伝子を損傷し、20-30年後にガンを発生させることがわかってきている。疫学調査で統計学的に解明できるまでに20年とすれば、間に合わない。

⑦ 学問論争(筆者注・専門家の意見の相違)に対して厚生労働委員会(政治家)が結論を出す必要はない。国民の健康を守るために何ができるか考えて。広島原爆の20倍という膨大なセシウム137が飛散している事態に対して、積極的な対応を願いたい

⑧ 住民が戻る気になるのは、行政が測定し、除染している地域だ。何もやらずに「安全だ」といわれても信頼できない。数値ではなくて、最新の技術で測定し、最新の技術で除染に全力をあげる自治体が安心なのだ

 児玉教授の発言で驚いた点は、まず⑤と⑥で、内部被曝の影響を分子生物学のレベルで検証していることだ。遠い将来に疫学調査を始めてから統計学的優位性を検証する、という考え方が陳腐に思えた。

 次に、⑦である。何ミリシーベルトまでは安全、というような議論も馬鹿馬鹿しくなる。分子レベルの観察こそ重要だとわかった。

 最後に⑧。住民が本当に安心できるのは、「さまざまなリスクを総合的に判断せよ」と言う経済学を知らない放射線専門家の助言ではなくて、行政が最新鋭の技術で計測・除染する地域こそ安心だという指摘である。児玉教授の発言は、多くの人々の目を見開かせてくれたのである。
関連記事

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://bator.blog14.fc2.com/tb.php/610-1ec355ad

 | HOME | 

 

プロフィール

もうすぐ北風

Author:もうすぐ北風
こんにちは。
いろんな旅を続けています。
ゆきさきを決めてないなら、しばらく一緒に歩きましょうか。

最新記事(引用転載フリー)

カテゴリ

経済一般 (118)
経済一般~2012冬まで (161)
日本の経済 (224)
通貨戦争 (70)
ショック・ドクトリン (12)
震災関係 (23)
原発事故発生 (112)
事故と放射能2011 (165)
放射能汚染2012 (192)
汚染列島2013-14 (146)
汚染列島2015-16 (13)
福島の声 (127)
チェリノブイリからの声 (27)
政治 (413)
沖縄 (93)
社会 (316)
小沢一郎と「生活の党」 (232)
健康と食 (88)
環境と地球の歴史 (28)
未分類 (175)
脳卒中と入院 (7)

カウンター

最新コメント

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

リンク

このブログをリンクに追加する

カレンダー

02 | 2024/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

最新トラックバック

月別アーカイブ

RSSリンクの表示

Template by たけやん