通貨戦争(37)財務省・日銀の窮乏化政策
2011-08-12
米国の過剰な流動性供給により、基軸通貨ドルの下落と共に、商品国際価格の高騰と途上国通貨のさらなる下落、そして世界インフレが創りだされている。
世界通貨戦争という国際要因であるが、日本側の国内要因もある。
世界が通貨の膨張を競っている中で、日本のみが通貨の供給を増やさない、デフレ政策をとっていることである。
通貨の相対価格は相手との金利差、貿易収支などの諸要因で決まるが、最も大きい要因は、この世界通貨戦争で解るとおりに供給量である
早い話が、財務省・日銀がやっていることは「インチキ為替介入」を含めて、「近隣」窮乏化政策ならぬ、「自国」窮乏化政策である。
なお、巨額なインチキ為替介入については、「日銀の為替介入はトリック」、「為替介入のふりをして米国に巨額資産を献上、新帝国循環」を御覧ください。
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米債務問題が解決してもなぜ円は強いのか
円高・株安の責任は政府・日銀の怠慢にあり 高橋洋一 8/11 ダイヤモンド・オンライン
世界同時株安、円高などで世の中は大混乱している。マスコミの報道を見ていても、いろいろな原因をその場限りで説明しているようで、どこか釈然としない。
円高をうまく説明できない
マスコミを始めとする巷の俗論
例えば、為替は国力の反映とみる意見がよくある。素人が漠然とそう思うのはわかるが、専門家ですらそうした意見があるのには驚かざるを得ない。例えば、速見優・元日銀総裁は「その国の通貨の強いことがその国の国力や発言力に直接、間接に影響を持つ」(速水優著『強い円 強い経済』東洋経済新報社)といっていた。
東日本大震災直後には、円の暴落という意見が多かった。その後、そうした意見に反して円高が進むと、今度は欧州財政危機を持ち出し、次には米国の債務上限問題まで取り上げて、日本が消去法で選ばれているという説明が多かった。ところが、米国の債務上限問題がクリアされても円高は止まらなかった。そこで、今度は米国債格下げになって、それでも円高は変わらなかった。ところが、米国株式市場は動揺して暴落した。その資金が、消去法的に円に流れ込んで、円高基調だと説明されている。
その場しのぎの「滑った転んだ」という現象記述であって、どういうメカニズムなのか、さっぱりわからない。
若干不謹慎かもしれないが、これは経済学の格好の題材だ。マスコミなどの話には、為替がどのように決まるのか、株価がどのように決まるのかという話が決定的に欠けているので、何がどうなっているかがわからない。
為替レートを決めるのは
どちらの通貨が多いか、少ないか
為替の動きは複雑でその要因もいろいろだ。しかし、何が一番有力なのかが重要だ。為替では、金利差、貿易収支、国家の信認で説明する有識者が多い。為替は2国間の通貨交換比率なので、2国間の金融政策の差が影響するのは当然だから、金利差は一つの説明項目である。しかし、貿易収支のようなフローはほとんど関係ない。さらに、国家の信認となるともはや雰囲気のみのお話レベルである。
為替は需給関係が重要だが、短期的には各種の思惑や政府の介入などで決まる。この種の説明は、直感的にも分かりやすくテレビ向きだが、その場限りだ。8月4日に財務省は4兆円もかけて市場介入したが、中長期的な円高要因を除かない限り、再び円高になって、介入によって政府が取得した外債が値下がりして国民負担になる。
中期的には、貿易収支のようなフローで為替は決まるという考え方を学生時代に習ったことがあるだろう。例えば貿易黒字だと円高になるというわけだ。ところが大震災で貿易収支が赤字になっても円高になったことからわかるように、今ではもうこれは成立していない。というのは、為替取引では実需取引の割合は少なく、金融資産として取引されている割合が圧倒的に多いからだ。
となると、為替がどう決まるかがわかる。原理は単純。円とドルでどちららが相対的に多いか少ないかだ。多いほうの通貨は希少価値がなく安く、少ない方の通貨は希少価値が出て高くなる。
この考え方は、国際金融ではマネタリーアプローチの基本エッセンスである。ちなみに、若き日の白川方明総裁は、シカゴ大学に留学後、この考え方を日本に紹介した。まっとうな考え方であるが、財務省にとっては、為替が金融政策によって決まるので、自分たちの権限を浸食することになって不都合だ。それもあってか、白川総裁が日銀内でサラリーマン人生を歩むにつれて、このマネタリーアプローチを口にすることはなくなった。
なお、円高とデフレは表裏一体のものだ。円とドルとの相対量で円のほうが過小でドルのほうが過大であれば、相対的に多いドルの価値が低くなってドル安・円高になる。また、円とモノとの相対量で円のほうが過小でモノのほうが過大であれば、相対的に多いモノの価値が安くなってデフレになる。円高もデフレも、円の相対量が少ないことによって起こる現象なのである。
円ドルレートの動きは
マネタリーベースの比で90%説明できる
いずれにしても、実際に為替の動きをどの程度説明できるかが重要だ。リーマンショック以降を見ると、円・ドルレートの動きは、日米のマネタリーベースの比によって、90%程度も説明できる。他の通貨に対しても、その説明力は高い。円・ユーロ、円・ポンドについても、それぞれマネタリーベースの比によって85%、80%程度説明できる(図1、2参照)。


こうして為替のメカニズムが分かると、円・ドルレートの動きも分かる。リーマンショック以降円高で、大震災でも円安にならなかったのは、他国が金融緩和しているにもかかわらず日銀が金融緩和を渋ったからだ。
円高になるのは、消去法で選ばれるのではなく、他国の通貨に比べて円に希少性があるからだ。
さらに、4日に日銀が10兆円の金融緩和を発表したが、これもショボイことが分かる。これまでのデータでは、円を30~50兆円程度増やせば5円程度円安になる。ということは、10兆円では1円程度の円安にしかならないからだ。
円安はメリット・デメリットがあるが、円高で一番被害を受けるのは、輸出市場という厳しい競争にさらされている日本のエクセレント企業だ。だから、円高が全体として日本経済にマイナスである。内閣府の試算でも、10%円高で実質GDPは1年目0.2%、2年目に0.6%低下する。
日銀の通貨の過小供給は
「自国窮乏化政策」
そこで、自国通貨を安くするのを近隣窮乏化政策というが、これは他国がやったときに非難する言葉で、自国向けにはいわない。日銀のように、通貨を過小供給のままにして、円高・デフレにするのは、自国窮乏化政策である。なお、近隣窮乏化政策は世界全体を通貨切り下げ競争に走らせ、世界にとって不幸な結果を招くとする意見がある。
しかし、過度に自国通貨安にすると自国が酷いインフレになる。失業率が低いマイルドインフレになる程度の自国通貨安は、結局、隣国の輸出にもプラスで、自国も隣国も「WIN-WIN関係」になることが、国際経済学で知られているから、そう心配しなくてもいい。
10日、米FRB(連邦準備理事会)は、少なくとも今後2年間は低金利を維持する方針を示した。となると、日銀の自然体によれば円は過小供給気味なので、ドルは相対的に多くなると予想される。というわけで、円高は当分続きそうだと連想できる。
そうなると、日本の株式はさえない展開が予想される。もちろん、世界の株式市場の影響も受けるが、日本の株式市場が為替レートの動きに大きく左右されるからだ。
日米の株価指数の動きを見ると、かなり連関していることがわかる(図3参照)。
そこで、米国の株価指数、円ドルレート、大震災のショックの3要因をとると、日々の日本の株価指数の動きを80%程度説明できる(図4参照)。


大震災で800円程度株価は下落しているが、円高の影響もかなり大きい。そこで、仮に円ドルレートが1ドル100円で維持されていたらと仮定して、どの程度の株価になっていたかを推計したものが図5だ。今でも1万1000円程度であっただろう。
世界同時株安はたしかに大変なことであるが、円高の要因を海外要因だけだと決めつけ、日本だけが渋い金融政策だと、日本だけが自国窮乏化してしまう。

世界通貨戦争という国際要因であるが、日本側の国内要因もある。
世界が通貨の膨張を競っている中で、日本のみが通貨の供給を増やさない、デフレ政策をとっていることである。
通貨の相対価格は相手との金利差、貿易収支などの諸要因で決まるが、最も大きい要因は、この世界通貨戦争で解るとおりに供給量である
早い話が、財務省・日銀がやっていることは「インチキ為替介入」を含めて、「近隣」窮乏化政策ならぬ、「自国」窮乏化政策である。
なお、巨額なインチキ為替介入については、「日銀の為替介入はトリック」、「為替介入のふりをして米国に巨額資産を献上、新帝国循環」を御覧ください。
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米債務問題が解決してもなぜ円は強いのか
円高・株安の責任は政府・日銀の怠慢にあり 高橋洋一 8/11 ダイヤモンド・オンライン
世界同時株安、円高などで世の中は大混乱している。マスコミの報道を見ていても、いろいろな原因をその場限りで説明しているようで、どこか釈然としない。
円高をうまく説明できない
マスコミを始めとする巷の俗論
例えば、為替は国力の反映とみる意見がよくある。素人が漠然とそう思うのはわかるが、専門家ですらそうした意見があるのには驚かざるを得ない。例えば、速見優・元日銀総裁は「その国の通貨の強いことがその国の国力や発言力に直接、間接に影響を持つ」(速水優著『強い円 強い経済』東洋経済新報社)といっていた。
東日本大震災直後には、円の暴落という意見が多かった。その後、そうした意見に反して円高が進むと、今度は欧州財政危機を持ち出し、次には米国の債務上限問題まで取り上げて、日本が消去法で選ばれているという説明が多かった。ところが、米国の債務上限問題がクリアされても円高は止まらなかった。そこで、今度は米国債格下げになって、それでも円高は変わらなかった。ところが、米国株式市場は動揺して暴落した。その資金が、消去法的に円に流れ込んで、円高基調だと説明されている。
その場しのぎの「滑った転んだ」という現象記述であって、どういうメカニズムなのか、さっぱりわからない。
若干不謹慎かもしれないが、これは経済学の格好の題材だ。マスコミなどの話には、為替がどのように決まるのか、株価がどのように決まるのかという話が決定的に欠けているので、何がどうなっているかがわからない。
為替レートを決めるのは
どちらの通貨が多いか、少ないか
為替の動きは複雑でその要因もいろいろだ。しかし、何が一番有力なのかが重要だ。為替では、金利差、貿易収支、国家の信認で説明する有識者が多い。為替は2国間の通貨交換比率なので、2国間の金融政策の差が影響するのは当然だから、金利差は一つの説明項目である。しかし、貿易収支のようなフローはほとんど関係ない。さらに、国家の信認となるともはや雰囲気のみのお話レベルである。
為替は需給関係が重要だが、短期的には各種の思惑や政府の介入などで決まる。この種の説明は、直感的にも分かりやすくテレビ向きだが、その場限りだ。8月4日に財務省は4兆円もかけて市場介入したが、中長期的な円高要因を除かない限り、再び円高になって、介入によって政府が取得した外債が値下がりして国民負担になる。
中期的には、貿易収支のようなフローで為替は決まるという考え方を学生時代に習ったことがあるだろう。例えば貿易黒字だと円高になるというわけだ。ところが大震災で貿易収支が赤字になっても円高になったことからわかるように、今ではもうこれは成立していない。というのは、為替取引では実需取引の割合は少なく、金融資産として取引されている割合が圧倒的に多いからだ。
となると、為替がどう決まるかがわかる。原理は単純。円とドルでどちららが相対的に多いか少ないかだ。多いほうの通貨は希少価値がなく安く、少ない方の通貨は希少価値が出て高くなる。
この考え方は、国際金融ではマネタリーアプローチの基本エッセンスである。ちなみに、若き日の白川方明総裁は、シカゴ大学に留学後、この考え方を日本に紹介した。まっとうな考え方であるが、財務省にとっては、為替が金融政策によって決まるので、自分たちの権限を浸食することになって不都合だ。それもあってか、白川総裁が日銀内でサラリーマン人生を歩むにつれて、このマネタリーアプローチを口にすることはなくなった。
なお、円高とデフレは表裏一体のものだ。円とドルとの相対量で円のほうが過小でドルのほうが過大であれば、相対的に多いドルの価値が低くなってドル安・円高になる。また、円とモノとの相対量で円のほうが過小でモノのほうが過大であれば、相対的に多いモノの価値が安くなってデフレになる。円高もデフレも、円の相対量が少ないことによって起こる現象なのである。
円ドルレートの動きは
マネタリーベースの比で90%説明できる
いずれにしても、実際に為替の動きをどの程度説明できるかが重要だ。リーマンショック以降を見ると、円・ドルレートの動きは、日米のマネタリーベースの比によって、90%程度も説明できる。他の通貨に対しても、その説明力は高い。円・ユーロ、円・ポンドについても、それぞれマネタリーベースの比によって85%、80%程度説明できる(図1、2参照)。


こうして為替のメカニズムが分かると、円・ドルレートの動きも分かる。リーマンショック以降円高で、大震災でも円安にならなかったのは、他国が金融緩和しているにもかかわらず日銀が金融緩和を渋ったからだ。
円高になるのは、消去法で選ばれるのではなく、他国の通貨に比べて円に希少性があるからだ。
さらに、4日に日銀が10兆円の金融緩和を発表したが、これもショボイことが分かる。これまでのデータでは、円を30~50兆円程度増やせば5円程度円安になる。ということは、10兆円では1円程度の円安にしかならないからだ。
円安はメリット・デメリットがあるが、円高で一番被害を受けるのは、輸出市場という厳しい競争にさらされている日本のエクセレント企業だ。だから、円高が全体として日本経済にマイナスである。内閣府の試算でも、10%円高で実質GDPは1年目0.2%、2年目に0.6%低下する。
日銀の通貨の過小供給は
「自国窮乏化政策」
そこで、自国通貨を安くするのを近隣窮乏化政策というが、これは他国がやったときに非難する言葉で、自国向けにはいわない。日銀のように、通貨を過小供給のままにして、円高・デフレにするのは、自国窮乏化政策である。なお、近隣窮乏化政策は世界全体を通貨切り下げ競争に走らせ、世界にとって不幸な結果を招くとする意見がある。
しかし、過度に自国通貨安にすると自国が酷いインフレになる。失業率が低いマイルドインフレになる程度の自国通貨安は、結局、隣国の輸出にもプラスで、自国も隣国も「WIN-WIN関係」になることが、国際経済学で知られているから、そう心配しなくてもいい。
10日、米FRB(連邦準備理事会)は、少なくとも今後2年間は低金利を維持する方針を示した。となると、日銀の自然体によれば円は過小供給気味なので、ドルは相対的に多くなると予想される。というわけで、円高は当分続きそうだと連想できる。
そうなると、日本の株式はさえない展開が予想される。もちろん、世界の株式市場の影響も受けるが、日本の株式市場が為替レートの動きに大きく左右されるからだ。
日米の株価指数の動きを見ると、かなり連関していることがわかる(図3参照)。
そこで、米国の株価指数、円ドルレート、大震災のショックの3要因をとると、日々の日本の株価指数の動きを80%程度説明できる(図4参照)。


大震災で800円程度株価は下落しているが、円高の影響もかなり大きい。そこで、仮に円ドルレートが1ドル100円で維持されていたらと仮定して、どの程度の株価になっていたかを推計したものが図5だ。今でも1万1000円程度であっただろう。
世界同時株安はたしかに大変なことであるが、円高の要因を海外要因だけだと決めつけ、日本だけが渋い金融政策だと、日本だけが自国窮乏化してしまう。

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