広瀬隆インタビュー浜岡停止後の課題(1)
2011-05-11

広瀬隆 特別インタビュー
「浜岡原発全面停止」以降の課題 2011/5/11 ダイヤモンド・オンライン
菅直人首相が浜岡原発の全原子炉停止を中部電力に要請し、日本のエネルギー政策が大きく軋み始めた。これから脱原発の流れは加速するのか、夏季に向けて電力供給に支障は生じないのか。原発とエネルギー問題に詳しい作家・広瀬隆氏に語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)
――これまで広瀬さんは原発の危険性、とりわけ浜岡原発の危険性について警告してこられましたが、今回の運転停止をどう受け止めていますか?
この問題は『原子炉時限爆弾』(ダイヤモンド社)で、私も著書を通して訴え続けてきた一人なので、まず何よりも菅首相の決断を讃えたいです。新聞やテレビの報道では「拙速な要請」「唐突な発表」などの論調が目立ちますが、東海地震はいつ起きてもおかしくないわけですから、国民の安全を考えれば即刻止めるのは正しい判断です。
そもそも、2006年1月に「東海地震が今後30年間に起こる確率は87%」と公表したのは政府の地震調査研究推進本部です。政府自ら東海地震は必ず起こると明言していました。唐突に起こるのが大地震です。その震源域の中心にある浜岡原発を止めることが、どうして唐突でしょうか。むしろ、遅すぎたくらいです。
5月9日に中部電力が運転停止を受け入れたことで、注釈付きですが原発廃止への第一歩を踏み出しました。今後はこの動きをさらに加速させるために、国民規模で論理的な議論を積み上げなければなりません。
――首相要請は地震対策が完成するまでの「運転停止」で「廃炉」ではありません。この違いはあまり伝わっていないようです。
私が言いたい問題は、そこにあるのです。原子炉の内部、あるいは貯蔵プールに核燃料があるかぎり、運転中の原子炉と危険性は何ら変わらないという事実は、誰もが理解したはずです。
福島第一原発の事故では、運転停止中の4号機で水素爆発が起こりました。原子炉から取り出した使用済み核燃料棒が貯蔵プールに保管されていたため、電源喪失によってアッという間に温度が上がり、水素爆発を起こしたと発表されました。
今になって、あれは水素爆発ではなかったという怪しげな説が出ていますが、いずれにしろ、電源喪失で冷却不能になれば、爆発します。したがって、最終的な目的は燃料を搬出することにあるわけです。
残念ながら今回の首相発言は「廃炉」には言及していません。2、3年で防波壁あるいは防潮堤を建設し、その間に安全性を検証するといった話です。
もし中部電力が本格的な工事に取りかかってしまえば、そのために大金を投じますから、浜岡原発が延命するという最悪のシナリオが進んでしまい、浜岡の危険性が去らないまま、菅首相の意図とまったく正反対の結果を招きます。
それを止めなくてはなりません。「防波壁の建設計画ちょっと待て!」という世論が、いま急いで起こされなければなりません。
――津波対策として建設される防波壁は、実際にはどれだけ効果が見込めるのでしょう。東日本大震災の津波被害を見ると、そう簡単には食い止められそうにありません。
まったくです。計画では高さ15m超の防波壁をつくるようですが、その程度ではとても防げません。今回の東日本大震災で津波が陸上を這い上がった最大遡上高さは岩手県宮古市の38.9mでした。これは観測史上の記録では最大ですが、ほんの100年前の1896年(明治29年)の明治三陸地震津波で、岩手県綾里ではほぼ同じ高さの38.2mが記録されています。
さらに1771年(明和8年)の八重山地震津波では、石垣島に85.4mもの津波が押し寄せました。日本の歴史から見れば、こうした規模の津波は、頻繁に起こっているわけです。
しかも、勘違いしている人もいるようですが、中部電力が計画してきたのは「防潮堤」ではなく「防波壁」なのです。
防潮堤はダムと同じような堅固な構造物ですが、防波壁はただの高い塀です。そこに津波が一気に押し寄せればひとたまりもないでしょう。津波とは、後ろから次々と水波が押し寄せてくる現象です。それは、巨大な体積とエネルギーをもった水の塊だから、壁の高さ、防潮堤の高さは関係ありません。
たとえ堅固な防潮堤が建設されても、今回、宮古市の閉伊川河口で堤防を簡単に津波が乗り越えたように、どこまでも乗り越えてきます。
仙台平野を、海水がどこまでも陸をなめつくす津波のおそろしさを私たちは目撃しました。内陸に侵入した範囲は、実に6kmにおよんだのです。
また中部電力は、電源を高いところに設置すると言っていますが、あの人たちの頭を疑います。これで、大丈夫だと思う人はいますか?
津波がさらってきた自動車も、船も、岩石も、家屋も、濁流となって、電源のケーブルに激突してくるのです。地盤が2mも隆起するのが東海地震です。それでも電源ケーブルは大丈夫ですか? ケーブルが切断されても、電気が送られるのですか?
地震対策にしても同じです。今回の東北地方三陸沖地震は、沖合130kmとかなり遠くで起こりました。しかし、想定されている東海地震は、それと同じ規模の巨大地震が浜岡の真下で起こるわけです。想像したくもありませんが、浜岡原発は一撃で終わり、福島第一原発より大規模な放射能放出を一瞬で起こすでしょう。そこへ津波もくるし、電源も遮断される。結論を言えば、そもそも有効な地震対策など、あり得ないのです。
もちろん、他の原発も危ないのですが、まずは歴史的な周期性から考えて、最も大地震が逼迫している浜岡を止めることは、日本人が生き残るための緊急課題です。そして浜岡を真の廃炉にもって行き、中部地方の経済が大丈夫だと証明されれば、すべての原発を止めてもよいという意識が、日本人のなかに確実に高まってゆくでしょう。
――浜岡を止めても中部電力は、計画停電はしない、電気料金は上げない、節電は要請する、と発表しています。しかしマスメディアは電力不足になるという懸念を書いている。この点をどうご覧になっていますか?
それは報道に携わる人たちがデータをきちんと調べていないからです。中部電力の言い分だけを聞いて、電力問題の本質を調べたことがないからです。日本全体で見れば、原発がまったく稼働しなくても火力と水力で十分賄えます。
下のグラフは、発電施設の設備容量と最大電力の推移を表したものですが、1960年代から最近まで、真夏のピーク時の最大電力が「火力+水力」の発電能力を超えたことは一度もありません。しかも2008年度以降は電力消費が大幅に落ち込んで、ますます発電所が余っている状況です。

具体的に、中部電力の場合を見てみましょう。異常な猛暑を記録した昨年、2010年夏の最大電力と発電能力を示したのが下のグラフです。ピーク時の最大電力2698万kWに対して、発電能力は原発を除いても3101万kW。つまり、あの猛暑のときでさえ、浜岡原発なしに403万kW(約15%)もの余力があったということです。

今年の夏が昨年のように猛暑になることはまずあり得ないので、余裕をもって乗り切れます。だから何を騒ぐのかというのが第一の疑問です。テレビと新聞が、産業界や庶民に要らぬパニックを煽っているのです。私が報道記者に言いたいのは、電力会社の発表を鵜呑みにせず、実績値を自分たちで調べてみなさいということです。そうすれば、もっとレベルの高い議論ができるはずです。
中部電力が今年夏のピーク電力を2560万kWと予測していることは、昨年の異常気象時の2698万kWより138万kW少なく、正しい判断です。電力が不足するかも知れないと言っていたのは、持っている火力を停止しているからです。
そのプラントを稼働させるには、燃料の手当てだけが必要なので、三田敏雄会長が急遽カタールに飛んだことも、まったく正しい行動です。その手当てがついたので、浜岡停止を決定したわけです。
加えて、来年7月には、中部電力が新潟県に建設中の上越火力発電所が運転を開始するので、最新鋭のLNG2基238万kWが加わって、電気があり余るほどになります。
ほぼ360万kWの浜岡原発の稼働率は50%、つまり180万kWが精一杯だったので、上越火力だけでお釣りがきます。
(広瀬隆インタビュー浜岡停止後の課題(2)へ続く)
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