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もうすぐ北風が強くなる

三橋:ショック・ドクトリン後編(2)

 (ショック・ドクトリン後編(1)からの続き)

 そもそも、日本のマスコミのように農業を一体化して捉える傾向には、問題があるとしか言いようがない。製造業については、家電産業、自動車産業などと区別して論評する傾向が強い割に、農業は全てが「農業」なのである。

 もちろん、農業と言っても、色々とある。

 菅直人首相は、
「日本の農業は競争力がある。TPPで世界に打って出て、農業を輸出産業に育てる」
 といった発言をしていた。この主旨は間違っていないが、「農業を輸出産業にするためにTPP」といった論旨は意味不明である。何しろ、現在、TPPに参加している国々、あるいは参加を検討している国々のGDPを合計すると、日米両国で九割を占めてしまうのだ。TPPとは世界でも何でもない。日本にとってのTPPとはアメリカであり、アメリカにとってのTPPとは日本である。

 さらに、農業を十羽一絡げのように捉える認識も、問題だ。なぜならば、国民の安全保障に直結する「穀物」を、他の農産物と同一視する態度は、少なくとも一国の首相としては許されるものではないためである。

 例えば、日本産の美味しい野菜や果物が、アメリカで大流行したとしよう。日本の果物などは味覚的に世界有数であるため、実際にアメリカ人が日本産の果実に殺到する可能性はありうる。

 ところが、ある年に日本が大不作になったとして、日本産の果実の対米輸出が止まったとしても、アメリカ人はさほど困らないのだ。単に「贅沢な日本産」を味わう機会が減るだけの話で、国民の生命に影響が出るわけではない。

 ところが、TPPで日本国民の穀物消費に関する対米依存度が高まり、ある年にアメリカが天候不順で対日輸出を禁止した場合はそうはいかない。

 2010年夏の天候不順により、ロシアが実際に中東・北アフリカ諸国への小麦の輸出を禁止した。結果、チュニジア、エジプトを皮切りに、食料価格高騰に激怒した国民が大暴動を起こし、複数の国で政権が倒れる羽目になった。

 深刻な不作で、自国の需要すら賄えなくなったとき、TPPを締結していようとも、アメリカはロシアと同じことをするだろう。1973年、アメリカは実際に極度の不作に陥り、大豆を輸出規制した。アメリカ政府は日本国民のために存在しているわけではなく、アメリカ国民のために存在する。自国の需要を満たすために、他国への輸出を禁止するなど、当たり前すぎるほど当たり前な、アメリカの「国権発動行為」だ。

 現在の日本は、すでにして穀物自給率が極端なまでに低下している。


【図100-1 07年 主要国穀物自給率(単位:%)】
20110505_01.png
出典:農林水産省

 ちなみに、農水省お得意のカロリーベース自給率ではなく、国際指標である生産高ベース自給率で見た場合、実は日本の自給率は70%で、イギリス(40%)よりもはるかに高い。ところが、生産高ベース自給率で日本よりも圧倒的に低いイギリスさえ、穀物自給率だけは92%なのだ。

 人口が五千万人を超える主要先進国の中で、穀物自給率が30%を切っているのは、唯一、日本だけである。

 農業一つとっても、上記のような様々な問題があるにも関わらず、経団連は「東日本大震災後の復興に寄与するためにTPP参加」などとシンプルに言ってのける。怖い話である。

 そもそも、先の経団連のTPP参加促進に関する記事は、問題点が多い。まず、見出しからして意味不明だ。記事を何度読み返しても、なぜ「復興のためにTPP早期参加」なのか、理解不能なのである。貿易も投資も、国際的サプライチェーンも、東北の復興とは特に関係ない。

 さらに、部品と製品の国際的サプライチェーン構築をTPPで実現できるとは、恐れ入る話だ。アメリカ、豪州、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、シンガポール、ベトナム、ペルー、マレーシアとTPPを結ばないと、国際的なサプライチェーン構築に後れを取ってしまうとは、なかなか斬新的である。「国際的」という概念も、随分と範囲が狭くなってしまったものだ。

 また、記事中に、
「日本と参加国との貿易額は日本の貿易額の25%、直接投資残高は同41%を占めている」
 とあるが、そもそも日本の貿易依存度(=貿易額(輸出+輸入)÷名目GDP)は、二割程度である。日本のGDPの二割の貿易の25%を占めている。すなわち、対GDP比で5%の貿易がTPP諸国と絡んでいるというわけだ。

 この5%という数字の大小は、個人の価値観の問題だ。だが、それにしても、いかにも「日本経済はこれだけTPP諸国に依存している」なる論調は頂けない。

 さらに、直接投資残高に触れておくと、日本の対外直接投資残高の31%(09年)は、アメリカだ。アメリカがTPPに参加するのであれば、直接投資残高のシェアが高まって当たり前である。まさしく「何を言っているのか」という話だ。繰り返すが、TPPとは日本にとってはアメリカに過ぎず、アメリカにとっては日本に過ぎない。

 そして、記事の最後の部分。

「不参加の場合は日本企業の売上高が減り、日本国内の生産拠点を海外に移さざるを得なくなるとした」

 一体いつから、経団連は「日本国民を富ませる」という本質的な目的を忘れ、政府を「脅す」真似をするようになったのだろうか。しかも、国民が大震災によりショックを受けているところに、追い討ちをかけるように政府に脅しをかけている。


 経団連に限らず、ショック・ドクトリンを目論む様々な勢力と対抗するためには、結局のところ、日本国民一人ひとりが「正しい情報」を読み取る能力を高めるしかない。そして、今回の震災が、日本国民の情報リテラシー(読み取り能力)向上の一助になると、筆者は固く信じている。
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