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もうすぐ北風が強くなる

三橋:ショック・ドクトリン後編(1)

 「ショック・ドクトリン前編」、「ショック・ドクトリン中編」に続く「後編」です。 

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ショック・ドクトリン(後編)   三橋貴明  
2011/05/03 (火) 09:08

 前回、前々回と「消費税増税を実現するためのショック・ドクトリン」について取り上げた。すなわち、「震災から復興するためにこそ、増税」なる奇妙な理屈である。

 断言しておくが、世界の歴史をさらっても、「大震災から復興するために、増税」などという、おかしな政策を実行に移した事例は存在しない。震災等の「ショック」が発生した場合、余程のことがない限り、国民の支出意欲は削がれる。国民の支出意欲とは、GDP(国内総生産)そのものである。

 震災等のショックで国民の支出意欲が減退すると、GDPは一時的に縮小方向に向かう。結果、政府の税収は黙っていても減ってしまう。そのため、普通の国であれば、震災後は国債発行など、GDPに「ショック」を与えない形で復興の原資を調達する。と言うよりも、それ以外の方法で復興資金を調達したケースなどない。

 もちろん、国債の発行のみでは長期金利の上昇や、円高による輸出企業へのダメージも発生する。当然の話として、日銀の国債買取などを「パッケージ」として行わなければならない。散々に繰り返して恐縮だが、日銀が金融市場から国債を買い取るのみならず、国会決議の上で、直接引き受けをしても構わない。この場合は、長期金利は上昇しないため、円高などの回避が、より容易になる。

 財政法第5条の条文は、以下の通りである。

『第5条 すべて,公債の発行については,日本銀行については,日本銀行にこれを引き受けさせ,また,借入金の借入については,日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し,特別の事由がある場合において,国会の議決を経た金額の範囲内では,この限りではない』

 東日本大震災という国難にが「特別な事由」でなくして、果たして何を持って「特別な事由」と呼ぶのだろうか。甚だしく疑問である。


 さて、実のところ「ショック・ドクトリン」の本命は、財務省が意図している増税ではない。増税同様、インフレ対策の一種である「自由化」あるいは「規制緩和」こそが、ショック・ドクトリンの本命なのである。

 何しろ、ショック・ドクトリンの元祖は、新自由主義の本家たるミルトン・フリードマンである。フリードマンは、新自由主義の本家として「完全なる自由主義経済」を主張し、ケインズ型の政策を批判した。フリードマンは、1930年代の大恐慌すらも、市場の失敗ではなく、政府の失策が原因だと主張しているのである。

 具体的な新自由主義の方策として、フリードマンは「あらゆる政府の規制の緩和」や、「徹底的な経済の対外開放(貿易の自由化)」などを主張している。

 無論、フリードマンは上記の政策を現実のものにするためには、困難を伴うことを理解していた。だからこそ、フリードマンは、
「真の改革は、危機的な状況によってのみ可能になる」
 なる言葉を残したわけである。

 「真」かどうかはともかく、危機的な状況により「改革」が可能になり、実際に実行に移したのが、96年に始まる橋本政権である。橋本政権は、震災により痛めつけられた日本経済を「強靭にする」というお題目で、金融ビッグバンや消費税アップなど、様々な規制緩和、緊縮財政を実行に移し、日本経済を奈落の底に突き落とした。

 くどいようだが、筆者は別にフリードマンの新自由主義や構造改革、あるいは財政健全化について、何らかのイデオロギーに基づき、全面的に否定しているわけでも何でもない。単に、環境によって「正しい政策」と「間違った政策」があると主張しているに過ぎない。フリードマン式の構造改革や、財務省がお好みの増税なども、実施する上で正しい環境というものは存在する。単に、現在の日本は違うと言いたいだけである。


『2011年4月18日 産経新聞「日本経団連 復興のためにも「TPP早期参加を」」

 日本経団連は18日、東日本大震災後の復興に寄与するためにも、日本は貿易・投資立国の立場を堅持し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を急ぐべきだとする通商戦略に関する提言をまとめた。

 提言は、TPPに参加しなければ、日本は部品と製品の国際的なサプライチェーン(供給網)構築に後れをとってしまうと警告。菅直人首相らがTPP参加判断の先送りを示唆しているが、「参加棚上げ論を聞くが、関係省庁から連絡は来ておらず早期参加に向けた政府のスタンスは不変だ」(経団連)と強調した。

 さらに、TPPはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築につながる重要な協定で、日本と参加国との貿易額は日本の貿易額の25%、直接投資残高は同41%を占めていると指摘。不参加の場合は日本企業の売上高が減り、日本国内の生産拠点を海外に移さざるを得なくなるとした。』


 あまりにも予想通りのタイミングで、予想通りの言説が登場し、筆者は思わず乾いた笑いを漏らしてしまった。「東日本大震災後の復興に寄与するためにも、TPP」というフレーズの響きはいいが、例により文章の前後の論理関係が不明である。というよりも、「震災復興」と「TPP」は、全く繋がらないと断言できる。

 そもそも、TPPとは農業や製造業、各種サービス業(金融、投資を含む)、政府調達(公共投資含む)などについて「経済を対外開放」し、競争を激化させようという政策である。日本の新聞はTPPについて論じるとき、「農業 対 製造業」といった、恐ろしく矮小化した報道姿勢を貫いている。とはいえ、現状のTPP規約や進行中の作業部会においては、農業、製造業の他にも、金融、保険、投資、建設、医療、法律など、アメリカが得意とするサービス業の規制緩和が含まれている。TPPは、農業の問題でもなければ、製造業の問題でもない。両者は現在のTPP作業部会において、それぞれ24分の1の項目を占めるに過ぎないのだ。

 そもそも、農業の問題に絞っても、TPP導入の弊害は大きい。何しろ、今回の東日本大震災において、大きな被害を受けた東北地区は、日本の「穀倉地帯」なのである。TPP推進論者は、震災による直接的な被害に加え、福島原発により多大な風評被害を受けている日本の農産業従事者に対し、
「TPPでアメリカやオーストラリアの農産業が日本に入ってきます。皆さん、頑張って競争してください」
 などと言ってのけているわけである。率直に言えば、神経を疑う。

 そもそも、TPP推進論者は農業と製造業を同一の指標で評価する傾向があるが、両者には一つ、決定的な違いがあることに気がついていない。製造業は場所を選ばず、さらに言えば「国を選ばず」操業することが可能だが、農業はそうはいかないのだ。

 製造業であれば、海外との競争が激化した結果、外国に直接投資を行い、生産ラインを移転することが可能だ。より人件費の低い国に製造現場を移すことで、生産性を高めることができるわけである。現実に、日本の製造業の「空洞化」が、問題視されるようになってから久しい。

 ところが、農業の基盤である「土地」は、外国に持ち出すことはできないのだ。米豪など極端に生産性が高い国々との競争を強いられ、苦境に陥った農業従事者は、最終的には廃業するしかない。

 農業従事者の離職は、国内の雇用環境を悪化させ、ただでさえ落ち込んでいる日本人の給与水準の低下圧力になる。それ以前に、外国産の農産物により外食産業などの競争が激化すると、これまた失業率の上昇要因、給与水準の低下要因になってしまう。デフレで苦しむ国家が「貿易の自由化」などのお題目で、国内競争を激化させたところで、問題が悪化するだけの話だ。

(ショック・ドクトリン後編(2)へ続く)
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