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高橋洋一:大増税路線に騙されるな

大増税路線に騙されるな!
東電を潰さない政府案では国民負担10兆円、
解体すれば0.9兆円で済む

遅れる復興の裏で補償問題だけが進む不思議   高橋洋一   4/25現代ビジネス

 前回のコラムで、復興は遅いが、増税は凄いスピードで話し合われていると書いた。復興財源で、つなぎ国債を出して来年から3年間増税して、そのまま社会保障財源に転じて恒久増税化するという財務省増税マニアが仕組んだとしか思えないような話もある。

さらにこの時期、もう一つ超スピードで検討されているものがある。東電の賠償問題だ。

 正直いって、復興よりも増税と東電問題だけが迅速に対応されていることに違和感がある。財務省と経産省がやりたい放題だ。増税と東電問題は密接に関係していると私はみている。

 東電問題で今出ている政府案は、今回の賠償に備える「原発賠償機構(仮称)」を新設し、賠償の財源は国が拠出する交付国債や金融機関からの融資で賄うというものだ。

仕組みに目を奪われ、誰の負担かを忘れるマスコミ

 マスコミは、新機構や勘定などの仕組みに目を奪われて、誰が負担するかという本質的な話を忘れて記事にする。

 私は役人時代に金融機関の不良債権処理や金融機関の破綻処理実務をやっていたが、その時にも、スキームを書いた図を作ると、マスコミはその図の説明ばかり求めて、肝心の誰が負担するかを質問してこなかった。だから、負担関係を争点化しないために、目くらましとしてわざと手の込んだスキームにしたこともある。

 負担関係をきっちり把握するには、東電のバランスシートを見なければいけない。資産は13.2兆円、負債のうち流動負債1.9兆円、固定負債8.8兆円(うち社債4.7兆円)、純資産2.5兆円(2010年3月末。連結ベース)。
東電バランス
単位は兆円

 東電の賠償問題では、資産側と負債側にいろいろな要素を加味して考えなければいけない。まず資産側だが、原子力損害賠償法に基づき東電は原子力損害賠償責任保険に加入する義務があり、福島第一原発で0.2兆円だ。これは東電への支援になるので、資産側に加算する。

 さらに、この責任保険でカバーできない範囲については、国が東電を相手として原子力損害賠償補償契約を結んでいる。これは2010年度予算で1.7兆円だ。これも資産側に加算できる。

 その一方、今回の原発問題への賠償は一義的には東電にかかる。その金額は今の段階では確定できないが、将来負担や各種経済への負担まで含めると数兆円から10兆円までありえる。これが負債側にのっかる。

 これで、修正されたバランスシートを見ると、完全に債務超過になる。その超過分は国民負担になる。これが、東電補償問題を考える上での原理原則だ。

 これさえ押さえておけば、負担関係の理解は容易になる。

東電が債務超過にならないように国民負担をする?

 今回の政府案にでてくる交付国債は、国民負担の一部である。また、金融機関からの融資は、一時的に資金融通されるがいずれ電力料金の引き上げによって賄われるので、これも国民負担の一部である。電力料金は独占価格であるので、電力会社からの持ち出しがなく、国民に負担が転嫁されるからだ。

 政府案は、東電全体を存続させる。具体的には、東電の上場は維持し、債務超過にされないとし、債券・社債はすべて毀損しないので、純資産や負債が保護され株主・債権者が負担することはない。株主は配当減少、希薄化で損失を受けるともいわれているが、100%減資でないのでたいしたことでない。

 その対極として、電力事業を維持しながら東電を解体するという考え方もある。東電を更正手続きのような解体処理すれば、電力事業を継続するとして流動債権者は守るとしても、それ以外はカットされ株主や長期債権者は負担を被る。この場合、東電の電力事業は、他の電力会社や他の公益事業会社が運営するということもありえる。

 いずれにしても、仮に補償額が10兆円として、今の政府案のように東電を温存すれば国民負担は8.1兆円にもなるが、東電を解体して電力事業だけを継続させれば国民負担は0.9兆円まで下がる。
東電なしあり

 これで、賢明なる読者はおわかりだろう。今の政府案は、これ以上ないまでに国民負担を最大化しているのだ。

 しかも、政府は「賠償が完全に行われ電力の安定供給が行われるよう国は資金援助する。ただし、東電の収益で返済し、最終的には財政負担を発生させない」としているのは笑える。

 いかにも財務省らしい仕組みで、財務省の庭先掃除はできる。しかし、東電の収益というのは、東電が地域独占であることから、財政負担はないが国民負担を発生させるわけだ。

 政府案が、巨額の賠償を考えると東電が債務超過になっているにも関わらず、債務超過にさせないように国民負担をつぎ込むのは、おかしい。これで利益を得る人は、東電株主や社債権者だ。個人株主や個人社債者がいるので救済だというのが表向きの理由であるが、実は金融機関の救済の色合いが濃い。

増税につながるとほくそ笑む財務省

 かりに個人であっても、資本市場のルールではいざというとき株式や社債は保護されない。こんな資本市場のルールを無視すると、世界から相手にされなくなる。

 素人は、東電の電力事情を継続するために、東電を温存しなければいけないと思い込むだろう。しかし、東電向けの通常流動債権のみを保護すれば足りる。

 日本航空(JAL)も、更正手続きの中で、株式減資や債権カットがおこないながら、航空業務を続けることができた。債務超過に陥った足利銀行も同様であった(りそな銀行は債務超過でなかったので、別の再建法だった)。

 こうした東電に甘い再建案が出てくるのは、経産官僚のやりたい放題だからだろう。本来は、国民負担を縮小すべき財務省も、増税の根拠となるのをこれ幸いとまったく放置状態のようだ。

 結局、復興の増税といっしょで、東電原発の補償問題も国民負担の増加となって、最後は増税につながっていく。民主党政権は、震災のどさくさ紛れで官僚が敷いた増税路線の上にのり、それを追認していくだけというのは、情けない。
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