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もうすぐ北風が強くなる

三橋:ショック・ドクトリン前編(1)

 震災と原発放射能汚染によって、日本の経済はデフレ不況どころか、十数%の落ち込みさえ懸念される。
 復旧、復興の遅れは甚だしいが、いま気になるのは、このどさくさ紛れに緩和と締め付けが進行しようとしていることだ。
 火事場泥棒と言ってもよいだろう。
 
 三橋氏はこの策謀をショック・ドクトリンと呼ぶ。
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
   ショック・ドクトリン前編  三橋貴明


予め書いておくが、筆者のスタイルは「適切なタイミングで、適切なソリューションを実施する」である。この基本スタイルは、筆者が言論活動を開始して以来、一度も変わっていない。

 何を言いたいのかと言えば、
「増税は常に悪!」
「TPPなどの構造改革は、常に間違っている」
 などと、イデオロギー的な政策反対論を展開する気は、全くないということである。増税が正しい局面もあれば、間違っている局面もある。あるいは、TPPに代表される自由貿易協定や構造改革についても、正しい時期もあれば、間違った時期もあるということだ。

 現在の日本が、増税やTPPが正しい局面であれば、筆者はこれまでの主張を一転し、
「政府は消費税をアップするべきだ」
「TPPにより、外需を獲得することを成長戦略の基本に置くべきだ」
 などと叫び始めることになるだろう。

 別の言い方をすれば、日本国内で消費税増税やTPPなどの構造改革を主張する人々は、あまりにもイデオロギー的なのである。何しろ、環境が変わろうとも、あるいは何度失敗しようとも、彼らは決して意見を変えない。その「一貫した」スタイルには、違和感を覚えざるを得ないのである。

 例えば、1995年に阪神・淡路大震災が発生した。その後、橋本政権により消費税増税や公共投資削減などの緊縮財政、さらに金融ビッグバンに代表される構造改革が推進された。ご存じの通り、改革断行の97年の翌年(98年)から、日本のデフレ深刻化と名目GDPの低成長が始まったのである。

 橋本政権は、
「震災で日本経済の基盤が揺らいだからこそ、強靭な経済を作り上げなければならない」
 という、極めて印象的、イメージ的な理由で緊縮財政や構造改革を強行したわけだが、結果的には日本国民の「幸福」を奪う羽目になった。

 橋本政権が97年に緊縮財政や各種構造改革を実施した結果、日本国民の平均給与は下がり始めた。日本国民の給与水準が上がらなくなってしまったのは、グローバル化で大手輸出企業が人件費を上げられなくなった影響と言われる。確かに、02年以降はグローバル化の影響も大きいが、日本の平均給与は98年から下がり始めているのだ。グローバル化よりも、橋本改革によるデフレ深刻化の影響の方が、間違いなく大きい。

 デフレ下では、企業は同一の製品を同数販売したとしても、売上が下がってしまうのである(価格下落により)。そんな環境下において、人件費を引き上げることができる経営者は稀だろう。


【図98-1 日本の自殺率、失業率、平均給与の推移(1980年=1)】
20110419_01.png
出典:警察庁、総務省、国税庁

 図98-1の通り、97年の橋本改革を切っ掛けに、平均給与の下落と失業率上昇が同時に発生した。これが自殺率に影響を及ぼしていないと主張するのは、さすがに強弁に過ぎる。

 日本の年間自殺者数は、97年までは2万人前後であった。それが橋本改革以降、いきなり3万人の大台を超えたのである。年末になると、新聞などで、
「今年の自殺者数も、3万人を上回る模様」
 などの記事が出るが、これが始まったのが、まさしく橋本政権なのである。

 橋本政権が強行した緊縮財政にしても、あるいは構造改革にしても、確かに「正しい時期」あるいは「やるべき環境の国」はあるのである。とはいえ、現在同様に96年の日本も、緊縮財政や構造改革をやるべき環境ではなかった。図98-1を見る限り、異論を唱える人は少ないだろう。

 橋本政権が強行した緊縮財政にしても、あるいは構造改革にしても、確かに「正しい時期」あるいは「やるべき環境の国」はあるのである。とはいえ、現在同様に96年の日本も、緊縮財政や構造改革をやるべき環境ではなかった。図98-1を見る限り、異論を唱える人は少ないだろう。

 図98-1(自殺率、失業率、平均給与の悪化)という結果があるにも関わらず、当時から緊縮財政や構造改革を主張していた人々は、未だに論調を変えていない。ひどい人になると、
「日本が低成長なのは、構造改革が不充分だからだ」 
 などと言い放つ。ここまで来ると、イデオロギーというよりは、ほとんど宗教である。宗教の教祖が、
「あなたが不幸なのは、信心が足りないからだ」
 と言っているのと変わらない。

 別に、筆者は宗教を否定したいわけでも何でもないが、少なくとも政策の場にこの種の強硬な論法を持ち込むのはやめてほしいと切に願う。政策の失敗は、日本国民の幸福はもちろん、時には生命さえをも奪い取る。図98-1にもあるように、政策の失敗で自殺率が1.5倍に跳ね上がったという現実は、極めて重い。

 そもそも、バブル崩壊後の国において、緊縮財政と経済成長を両立できるはずがない。緊縮財政とは増税により民間の支出(個人消費、設備投資など)を削り取り、同時に政府の支出(公共投資など)を縮小する政策だ。個人消費にせよ、設備投資にせよ、あるいは公共投資にせよ、GDPの需要項目の一部である。そして、経済成長とはGDPの拡大なのだ。GDPを政府が政策により削り取りつつ、GDPの拡大が達成できたとしたら、まさしく神業だ。

 現在、欧州ではアイルランドなどが、バブル崩壊後の日本と同様の環境にある。すなわち、不動産バブル崩壊により民間の支出意欲が極度に落ち込んでいる環境において、政府が財政支出を絞り込み、景気をますます悪化させているのである。

 無論、国内の需要が縮小中であっても、輸出を伸ばし、外需により成長することは不可能ではない。実際、小泉政権下の02年以降、日本は外需拡大により、実質GDPは多少は増やすことができた。しかし、肝心要のデフレ脱却はついに果たせなかったため、名目GDPは横ばい、平均給与も下がり続ける結果になった。

 しかも、その外需拡大にしたところで、アメリカの不動産バブルのおかげである。アメリカの家計が、年間に百兆円規模で負債(借入)を増やし、住宅投資や個人消費に注ぎ込んでくれたからこそ、07年までの世界同時好況は実現したわけだ。そして、すでにアメリカの不動産バブルは崩壊した。

 先のアイルランドを例にとると、同国は02年から07年までの日本とは異なり、アメリカという世界最大の市場が拡大局面にない中において、緊縮財政を強行しつつ、外需中心の成長を目指さなければならないわけだ。しかも、アイルランドはユーロ加盟国であるため、07年までの日本のように、通貨安を利用した輸出増も見込めない。この厳しい環境下において、アイルランドが「緊縮財政」と「経済成長」を両立することができたら、冗談抜きで奇跡である。

 (ショック・ドクトリン前編(2)へ続く)
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