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食の裏側、ピザとチーズ

   某ファミレス「人気ピザ」とチーズの裏側  2014/6/24  河岸 宏和  東洋経済オンライン

  日本人だけが喜んで「ニセモノチーズ」を食べている

N君:「植物性タンパク」でカサ増ししたハンバーグといい、時間の経った「カット野菜」のサラダといい、この店、ボロボロですね……。どのファミレスも似たり寄ったりかもしれませんが……。あっ、最後に注文した「ミックスピザ」が来ました! ピザは……どうですか?

河岸:(一口食べて)冷凍品を仕入れて、チンしただけだね。でも、ファミレスで自家製ピザを期待する人はいないから、別にいいんじゃない。

N君:まあ、そうですよね……。スーパーで売っている冷凍ピザと大差ないってことですか?

河岸:この店はそうだね。上にのっているピーマンは韓国産じゃないかな。それにしても、このピザはチーズがひどいね。

N君:チーズですか? 生地は冷凍品でも、チーズは普通に焼きたてでおいしいと思いましたが。

河岸:このチーズは「チーズフード」といって、本物のチーズを水と小麦粉で薄めてカサ増ししたものだよ。いわば「ニセモノチーズ」。チーズの味も風味もないね。

N君:えっ? 「ニセモノチーズ」ですか? チーズ、好きなのに……ショックです!

前回、前々回に引き続き、ここは都内某所にある大手ファミレス・チェーン店です。新刊『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』執筆のための“市場調査”で、編集者のN君(34歳)と一緒に足を運びました。

前々回「人気ハンバーグの裏側」は、自他共に認める「肉のプロ」として、「植物性タンパク」でカサ増ししたハンバーグに激怒したという話をしました。
前回「人気サラダの裏側」は、「次亜塩素酸ソーダ」で何度も洗浄し栄養もおいしさも抜け落ちた「カット野菜」がサラダに使われていること、また輸入野菜のうち、95%が外食・中食に回され、その半分以上が中国野菜だという「現実」について述べました。

ファミレスシーズ3部作の“完結編”として、今回取り上げるのは「ピザ」です。
ファミレスでもイタリアンでも、ピザは人気メニューのひとつです。それにN君のように、老若男女を問わず、日本人はチーズが大好きです。

しかし、日本人が食べているチーズの多くは、残念ながら、世界標準で見れば「ニセモノチーズ」です。外食で使われているチーズの9割以上は「ニセモノチーズ」だと思って、およそ間違いないと思います。これほど外食に「ニセモノチーズ」がはびこっているのは、世界中を見渡しても日本だけです。

なぜ、日本人だけが喜んで「ニセモノチーズ」を食べているのか? なぜ外食には「ニセモノチーズ」がはびこっているのか?
今回は、某ファミレスの「人気ピザ」を題材に、日本人が大好きな「チーズの裏側」を公開します。

  チーズには「ナチュラルチーズ」「プロセスチーズ」「チーズフード」の3種類ある

N君:ピザにのっているチーズが「ニセモノチーズ」ということですが、それってどういうことですか?

河岸:そもそも、日本人がよく食べるチーズには3種類あるの。それは知っている?

N君:「カマンベールチーズ」とかですか……?

河岸:それは「ナチュラルチーズ」の種類の話。それ以前の、もっと大きな括りで。

N君:いえ、全然知らないです……。

河岸:日本で売っているチーズは、大きく分けて「ナチュラルチーズ」「プロセスチーズ」「チーズフード」の3種類あるの。「ナチュラルチーズ」というのは、本来のチーズの作り方で作ったもの。原料は「生乳」と「食塩」。

N君:確かに「ナチュラルチーズ」のラベルを見ると、原材料に「生乳、食塩」と書いてありますね。

ナチュラルチーズラベル

河岸:でも、「ナチュラルチーズ」は乳酸菌が生きているから、熟成とともに味も変わるし、食べ頃も変わる。何よりコストがかかるから値段が高い。

N君:それで、「プロセスチーズ」が出てくるわけですか。

河岸:そう。「プロセスチーズ」は複数の「ナチュラルチーズ」を混ぜ、加熱して発酵を止めて、「乳化剤」「安定剤」などを使用して食感を安定させたもの

N君:ホントだ……。「プロセスチーズ」は、原材料を見ると「ナチュラルチーズ、乳化剤」となっていますね。

プロセスチーズラベル

河岸:日本では、チーズといえば「プロセスチーズ」が一般的。大人気のスライスチーズだって「プロセスチーズ」だからね。

N君:なぜ日本では「プロセスチーズ」が一般的なのですか?

河岸:「プロセスチーズ」は「ナチュラルチーズ」よりもくせがなく、保存も利き、状態が安定していて、便利。そして何より安いから
「プロセスチーズ」はもともと、「ナチュラルチーズ」になじみのなかった日本人の口に合うということで広まったけど、いつしかチーズといえば「プロセスチーズ」を指すようになったの。

  チーズが51%以上入っていれば、残りは水と小麦粉でも「チーズフード」と呼べる

N君:で、今回のピザに使われている「チーズフード」というのは?

河岸:「プロセスチーズ」「ナチュラルチーズ」を溶かして、水と小麦粉を加えて「乳化剤」「香料」などを混ぜて固めたものが「チーズフード」

チーズフードラベル

N君:なぜそんなことをするのですか? 水と小麦粉を加えるのはカサ増しのためですか?

河岸:そう。「チーズフード」は、「プロセスチーズ」よりもチーズの含有量が少ない分、価格が安くなるから。
ピザに限らず、ドリアやグラタン、惣菜パン、チーズ加工品などにもよく使われているよ。

N君:みんなチーズと思って食べているけど、それは厳密には「チーズフード」のことも多いということですね。

河岸:外食で食べるチーズの9割以上は「チーズフード」と思って、まず間違いないと思う。
みんなチーズだと思って食べているけど、プロが食べれば、水っぽくて薄く、チーズ本来のうま味も風味もどこにも残っていないものも多いね。

N君:それが「ニセモノチーズ」と呼ばれるゆえんなのですね。

河岸:日本の法律では、製品中のチーズ分の重量が51%以上あれば、「チーズフード」と表記することができるからね。

N君:「チーズフード」は世界中で使われているのですか?

河岸:アメリカでも使われているけど、日本ほどはひどくない。
ここまで「チーズフード」がはびこっているのは、世界でも日本だけだよ。

N君:日本人だけが喜んで「ニセモノチーズ」を食べている、と。

河岸:イタリアを旅行した人が「ピザがおいしかった」「パスタがおいしかった」と口をそろえてよく言うでしょう。
あれはチーズの力によるところが大きいの。本物のチーズはそれくらいおいしいものだから。

  外食店にはJAS法等の法律が適用されない

そもそも「ニセモノ食品」というのは、コストを下げるために、本物にさまざまな「混ぜもの」を入れて本物のように売っているケースです。
代替食品」と呼ばれることもあります。
そのわかりやすい例のひとつが、今回、取り上げたチーズです。

なぜ日本の外食、特にチェーン店がニセモノ食品、代替食品の「宝庫」となっているのか。理由は大きく2つあります。

① 外食店にはJAS法などの法律が適用されない

食品をスーパーなどで販売するときは、原材料(使用した添加物も含む)、賞味期限、消費期限を表示する必要があります。
しかし、外食店でその場で作って提供するときは、その法律が適用されないのです。
外食店の法律は、簡単に言ってしまえば、「食中毒を出さなければいい」という程度のものでしかないのです。

ファミレス、居酒屋などのメニューに「○○産」「ビーフ100%」などと記されているのは、あくまでもその店が自主的に掲載しているものにすぎません。

メニューの自主表記では「都合のいい情報だけ書く」ということがよく行われています。
「北海道産ホタテ」や「スペイン産生ハム」はイメージがいいので書くけど、「ブラジル産チキン」や「台湾産豚肉」はイメージが悪いので書かないのです。

メニューを見て、一部の品だけに「国産レタス使用」「ビーフ100%」と書いてあれば、
「レタス以外は輸入野菜?」「ハンバーグ以外はビーフ100%じゃないの?」と“裏読み”するのが賢い見方です。

私は本来なら、外食店にも情報公開の義務がある、その場合は「国産」という表示ではなく「県名」まで出すべきだと思います
そうやって情報が公開されて初めて、消費者は「選択」できるわけですから。

② コンサルタントの“暗躍”

ニセモノ食品がはびこるもうひとつの理由は、外食店の効率化、合理化を進める「コンサルタント」の“暗躍”です。

外食コンサルタント」「フードコンサルタント」といった肩書きの人たちが、町の小さな飲食店にも乗り込んで「合理化」を進めています。
あるいは食材屋、添加物の営業マンもしきりに「合理化」をささやいています。

「どうせピザやドリアに使うチーズの味なんて、お客さんはよくわかりませんよ。
『チーズフード』を使えば、コストをこれだけ下げることができますよ。保存もラクだし、廃棄リスクも抑えることができますよ」といった具合です。

この効率化、合理化の波が、日本の外食をおかしくている大きな一因になっているのです。

  戦後の貧しさを引きずった悲しきニセモノ食品

「ニセモノ食品」を食べつづけた結果、あたかもそれが本物だとみんな勘違いしているような食品もあります。たとえば片栗粉は「ニセモノ食品」「代替食品」だったものが全国的に当たり前になってしまったケースです。

白い袋に入って「片栗粉」と書いて売っていますが、裏の表示を見ると、「馬鈴薯デンプン」と書いてあります。
これはジャガイモのデンプンなのです。

本来は、カタクリという植物から作ったものを「片栗粉」といいました。
カタクリは高価で稀少なため、馬鈴薯デンプンを片栗粉といって売っているのです。
これを日本人は全員がだまされて買っているのです。

馬鈴薯デンプンが悪いわけではありません。
片栗粉もどき」か「馬鈴薯デンプン」といって売れば済むことです。つまり、「がんもどき」にならえばいいと私は思うのです。

日本におけるニセモノ食品(代替食品)の先駆けは、がんもどきかもしれません。
がんもどきは雁という鳥の肉が高級品で食べられないから、豆腐を揚げて、雁の肉に味を似せて作ったものです。
がんもどきはがんもどきで十分おいしいし、潔く「もどき」と名乗っている。それならば何の問題もないのです。

それをいかにも「本物風」に見せかけて売るから、消費者は知らずに食べて「こんなものか」と思ってしまう
「ニセモノ食品」を食べ続けた結果、どんどん日本人の舌がマヒしてしまっている、そんな気がしてなりません。

冒頭でも述べたように、「ニセモノ食品」がここまで外食にはびこっているのは、世界中でも日本だけです。
なぜ日本だけが「ニセモノ食品」を作り、それを喜んで食べているのでしょうか?

実は「ニセモノ食品」は、戦後の貧しい時代の名残なのです。
食料のない時代、日本人は食べ物の切り落としでもクズでも大事に食べるために、一生懸命知恵を絞りました。
そうやって生まれた食品のひとつが「プレスハム」「チョップドハム」です。
プレスハムは端肉、クズ肉を寄せ集めて、つなぎに「植物性タンパク」やデンプンなどを入れ、ギュッと圧力をかけて成型したものです。
肉が高級品だった時代、少ない肉に大豆の搾りかすやデンプンといった「安いもの」を探して混ぜて、一生懸命膨らませて食べようとした、いじましくも切ない日本人の知恵だったのです。

しかし食べられない時代の知恵だったはずのものが、今は外食産業が儲けるため、値段を下げるための悪知恵に「転用」されているのです。
なぜ「世界のトヨタ」を擁する日本が、「植物性タンパク」でカサ増ししたいじましいハンバーグを食べなければいけないのか、水と小麦粉で増量した「ニセモノチーズ」を食べなければいけないのか。
つくづく情けなくなります。

食品業界だけ、「戦後」が終わっていないのです。

  来週、寿司チェーン店に覆面取材!次回は「豪華エビ天立ち食いそば」の裏側

(後日談)
N君:ファミレスは今回で最後にして、次は何を取り上げましょう?

河岸:みんなが好きなイタリアンがいいんじゃない? 「某イタリアン・チェーン店『人気ドリア』の裏側」とか。

N君:「このドリアはチーズとホワイトソースがひどすぎる。イタリア人が食べたら怒り出すよ」というやつですか?

河岸:そう。原稿段階ではもっと強い表現だったのを、あまりに過激だから表現を少し和らげたんだよね。

N君:でも新刊に詳しく書いたので、ほかの店にしましょうよ。読めば、どこのイタリアン・チェーン店か、わかる人にはわかりますし。
それに、あまりに過激な内容なので、ネット上で大騒動になりますよ。
ただでさえ、今でもネットの掲示板で「リアル『美味しんぼ』だ」とか「N君は実在するのか」と騒がれていますし……。

河岸:でも騒いでくれるのはいいことなんじゃない? 
「外食の裏側」を知ってもらうひとつのきっかけになると思うし。じゃあ、次は回転寿司にしようか。大手回転寿司チェーン店の食べ比べ。

N君:いいですね! ついでに、テレビで「話題」の寿司チェーン店にも行ってみましょうよ!

というわけで来週、N君とともに寿司チェーン店の食べ比べに行くことになりました。
その覆面ルポは次々回に紹介するとして、次回は「豪華エビ天立ち食いそば」の裏側を取り上げたいと思います。

なぜなら、今回の「ニセモノ食品」のもうひとつの代表例が「立ち食いそば」だからです。
そばなのに、そば粉は1~2割で、残りの8~9割は小麦粉
だから安いけど、もはや「茶色いうどん」と呼ぶべきシロモノといった話をしたいと思います。

先ほど述べた「某イタリアン『人気ドリア』の裏側」については新刊の中で詳しく書いているので、興味がある方はご覧ください。
なぜパスタが注文してすぐに出てくるのか?」という裏側から、「メニューの誇張表現がひどすぎる」という私の感想まで詳しく解説しています。
もちろん、今回、取り上げたチーズの問題も書いています。

ぜひみなさんも「外食の裏側」を知ったうえで、今日から使える「安くてうまいものを食べるスキル」を身に付けてください。
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