政府の対応を追及も、批判もしない最悪のマスコミ
2015-03-05

「日本のメディアは最悪」-邦人人質事件から/米NY・タイムズ マーティン・ファクラー 3/3 神奈川新聞カナロコ
過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件で2人が殺害されてから1カ月が過ぎた。
テロを含めた国際情勢にどう向き合っていくのか-。米有力紙ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんは、日本が重大な局面を迎えているにもかかわらずさほど論議が交わされていないことが不思議でならない。
その背景にメディアが機能していないことを指摘する。
◇
ジャーナリストの後藤健二さんの殺害映像がインターネットに流れた約1週間後の2月8日、ニューヨーク・タイムズは1枚の風刺画を掲載しました。
タイトルは「Could ISIS Push Japan to Depart From Pacifism?」(「イスラム国」は平和主義から日本を離脱させられるか?)。
テロの脅威で国民をあおり、憲法改正という政治目的の達成へ進む安倍晋三首相が描かれていました。
正確な数は分かりませんが、風刺画はツイッターだけでも何千とシェアされました。リツイート(拡散)している多くは米国人ではなく日本人です。
なぜか。邦人人質事件をめぐる政府の対応や思惑について、関心を持っているからです。
しかし、こうした風刺画や論評が外国の新聞に掲載され、日本の新聞には載らないのはなぜでしょうか。日本のメディアは一体何を報じてきたのでしょうか。
■「列強」への道
日本はいま、重大な局面を迎えています。
平和主義を守り続けるのか、米国や英国のように「列強」としての道を歩むのか。
その判断を突きつけられたのが、今回の事件だったのです。
安倍首相が望んでいるのは後者です。
かねて「積極的平和主義」を掲げ、米国の有力な同盟国として、国際社会の一員として、役割を果たすことの必要性を強調してきた。
今回の中東諸国訪問は、安倍政権の姿勢を世界に示す大きなチャンスと考えていたのでしょう。
湯川遥菜さん、後藤さんの殺害が予告された後も、安倍首相は「テロに屈しない」と強硬姿勢を崩さず、最終的に2人は殺害されました。
私にとって、政府がテロリストとの交渉を拒んだことは、何の驚きもありませんでした。
安倍首相は今回の事件を「国民が犠牲になったが、テロリストとは交渉しなかった」と米国や英国にアピールする材料にするつもりだろうと思っていました。
日本はこれまで「八方美人」でした。どこの国とも仲良く、その代わり、どこにも敵をつくらない姿勢を貫いてきた。
安倍首相が描く国家像は真逆です。米国との同盟を強化し、国際社会における存在感を強めようとしている。当然、リスクは増え、敵も多くつくることになるでしょう。
今回の事件でイスラム国のテロリストは「日本の首相へ。おまえはイスラム国から8500キロ以上離れているが、イスラム国を掃討する十字軍に進んで参加することを誓った」と言っている。
繰り返しますが、安倍首相はこれまでの日本とは全く異なる国家をつくろうとしている。
日本はそういう岐路に立っているわけです。
国家として重大局面を迎えているにもかかわらず、なぜ日本のメディアは国民に問題提起しないのでしょうか。
紙面で議論を展開しないのでしょう。
国民が選択しようにも、メディアが沈黙していては選択肢は見えてきません。
日本のメディアの報道ぶりは最悪だと思います。
事件を受けての政府の対応を追及もしなければ、批判もしない。
安倍首相の子どもにでもなったつもりでしょうか。
保守系新聞の読売新聞は以前から期待などしていませんでしたが、リベラルの先頭に立ってきた朝日新聞は何をやっているのでしょう。
もはや読む価値が感じられません。
私がいま手にするのは、日刊ゲンダイ、週刊金曜日、週刊現代といった週刊誌です。いまや週刊誌の方が、大手紙より読み応えがあるのです。
安倍政権になり、世論が右傾化したという人もいますが、私はそうは思いません。
世論はさほど変わっていないでしょう。
変わったのは、メディアです。
■批判こそ役割
米国のメディアもかつて失敗を犯しました。米国は2001年、同時多発テロという国家を揺るがす危機に直面しました。約3千人が亡くなり、政府は対テロ戦争に乗り出した。
03年には「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」という情報を根拠にイラク戦争を始めた。
米国の主要メディアはブッシュ政権の決断を後押ししました。後にそれが大きな誤りだったと気が付くのですが、国家的危機を前に国民だけでなく、権力の監視を託されているはずのメディアも冷静さを失ってしまったのです。
イラクに大量破壊兵器などありませんでした。誤った戦争だったのです。翼賛体制に協力したメディアは戦争に加担したのです。
この大きな反省から、メディアは権力監視の役割を果たすことの重要性、権力と距離を保つことの必要性を学びました。
二度と間違いを犯さぬよう、日々、現場で実践しようと努力しています。
「国家の危機」はメディアを機能不全に陥らせる怖さを潜んでいます。
今回の邦人人質事件でも「国家の危機に政府を批判するとは何事か」「テロを容認するのか」という声が一部で上がりました。
筋違いな話です。
今回、日本メディアはあまりにも簡単に批判をやめてしまった。
しかし、2人死亡という事態で沈黙してしまったら、国内で数千人が犠牲になるようなテロが起きた際、一体どうするのでしょうか。
国家の危機にこそ、メディアは権力が暴走しないよう目を光らせなければならない。
冷静さを保ち、建設的な議論を展開しなければならない。
日本のメディアには一刻も早く目を覚まし、本来のメディアとしての役割を果たしてほしいと思います。
さもなければ、メディアとして語る資格はもはやないでしょう。

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議論も起こらず懸念 英経済紙「エコノミスト」特派員 ディビッド・マックニール 2/26 神奈川新聞カナロコ
政治家が持ち出す自己責任論、そして責任が問われない政治家-。
英経済紙「エコノミスト」特派員、ディビッド・マックニールさんは、そうして肝心なことが論じられないこの国の先行きが心配でならない。
過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件は、海外から向けられる奇異のまなざしをあらためて浮かび上がらせてもいる。
・・・・・・・・・・・・
後藤健二さんが殺害された時、米ホワイトハウスは声明を発表し、オバマ大統領は「後藤健二さんは報道を通じ、勇気を持ってシリアの人々の窮状を世界に伝えようとした。われわれの心は後藤さんの家族や彼を愛する人々とともにある」と、ジャーナリストである彼をたたえました。
一方、安倍晋三首相は「テロに屈しない」「テロリストたちを決して許さない」とは言いましたが、後藤さんへの評価は一切口にしなかった。
このことは私たち外国特派員に「安倍首相は後藤さん自身のことは大して気に掛けていなかった」という印象を強く与えました。
興味があったのは、殺害されたのが後藤さんだったということでも、危険を冒してでも中東で何が起きているのかを世界に伝えようとしたジャーナリストだったということでもない。「日本人だった」ということだったのです。
安倍政権が憲法9条を改正し、戦後70年にわたって築き上げた平和国家を変えようとしているというのは、誰もが知るところです。
殺害された後藤さんの映像が公開された翌日、安倍首相は自衛隊による在外邦人の救出に向けた法整備の必要性を主張しました。
安倍政権は人質事件を根拠にして一連の政策を推し進めようとしているのだ、と私は思いました。
事件後、日本では「自己責任」だとして、後藤さんと湯川遥菜さんを批判する声が上がりました。
海外メディアにとっては理解し難い反応ですが、仮にそれが日本特有の考え方とするなら、なぜ、政治家の責任は追及されないのでしょう。
安倍首相は「国民の命、安全を守るのは政府の責任。その最高責任者は私」と発言しています。政治家として事件をめぐっての対応は適切だったといえるのでしょうか。
日本政府は、後藤さんが中東で拘束されている事実を知っていた。にもかかわらず、中東地域を歴訪して「イスラム国と戦う周辺各国を支援する」と演説し、総額2億ドルの人道支援を発表しました。
イスラム国が2人の殺害を予告したのは、その直後です。
日本人が人質に取られている状況下で、支援を公に表明することが適切だったとは私には思えません。
自己責任論は政治家にとっては非常に有利に働きます。政治家自身は追及されることはなく、責任逃れができる。何をしようとも無罪放免というわけです。
安倍政権の責任も含めて、今回の事件で何が起き、政府はどう対応したのかを分析すべきだと私は思います。
■批判勢力なく
最も懸念しているのは、人質事件後、日本が今後、テロを含めた国際情勢にどう対処していくのか、議論がほとんど起こらないことです。
なぜか。理由の一つに、メディアが機能していないことが挙げられます。
安倍首相や彼が影響力を持つ保守勢力は、右翼思想の人たちに多く支持されていますが、メディアにも同様のことが言えます。
読売新聞や産経新聞、複数の週刊誌は右翼的な声に支配されており、議論を交わす状況を阻んでいるように見えます。
安倍政権がメディアに直接、圧力を与えたという証拠はありませんが、「右翼」や「ネット右翼」と呼ばれる人々が一般市民を威圧する空気を政権が自らつくり出しているように思うのです。
私自身、戦争犯罪や従軍慰安婦、南京大虐殺などの記事を書くと「ネット右翼」から強いバッシングがありますが、驚いたのはそのこと自体ではありません。
外務省には外国特派員らの担当者がいますが、昨年12月、担当者が各特派員らに「慰安婦のことを取材する際は、今まで取材してきた人ではなく、この学者を取材してください」と言ってきたのです。
外務省が取材相手を勧めてくることなど、過去に例がないし、あり得ないことです。
安倍政権の支配力は強く、それに対抗できるだけの勢力も存在しない。いまや日本は右翼思想に包まれている。
今回の事件で政府の責任を追及しない、議論が起こらないというのは、こういった問題が潜んでいるからだと思います。
■列強のリスク
安倍首相は日本を軍事的にも政治的にも世界規模の影響力を持つ「列強」にしようとしています。
このまま突き進めば、憲法を改正し、有志連合に加わり、テロとの戦いに自衛隊が派遣されることになるでしょう。その先にはどんな事態が待っているのでしょう。
米国と同盟関係にある英国はかつて「テロとの戦い」を推進しました。イラク戦争では国民の反対があったにもかかわらず、米国とともに武力行使に踏み切った。
しかし、武力行使の根拠となった大量破壊兵器はイラクに存在しなかった。そして2005年にはロンドン同時爆破事件が発生し、国民が犠牲になりました。
日本は英国のように米国と強い同盟関係にある国を目指しているのかもしれません。米国とともに歩んでいく道を進もうとしているのかもしれない。それは必ずリスクを伴います。
考えてみてください。
そもそもなぜ、日本人がイスラム国に殺されなければならなかったのでしょう。
私はアイルランド人ですが、アイルランド人は一人も殺害されていません。
なぜなら、アイルランドは中東諸国のどこかの国や勢力に肩入れすることをせず、戦争にも参加していない。軍隊も送らず、シリアも攻撃していないからです。
中東諸国は日本を尊敬していました。
先の大戦で国家を破壊されたが、自力で発展を遂げ、経済大国に上り詰めた。そういった日本に対して敬意を表す親日派は多かった。しかし、そのイメージも変わろうとしています。
外務省はすでに海外渡航の制限をかけ始めています。今後、そうしたことが当たり前のようになるでしょう。
日本のパスポートを持っているというだけで、テロの対象になり得るのです。
代償を支払わなければならないのは政治家ではなく国民なのです。
私には日本人の妻との間に3歳の息子がいます。
代償の支払いをさせられるのは私の子どもであり、あなたの子どもたちです。
政府が推し進めようとしている政策は、私たちの子どもたちが代償を支払ってでも果たすべきものなのでしょうか。
今回の事件は、そういった重い課題を突きつけているのだと思います。
ディビッド・マックニール アイルランド出身。ジャーナリスト、上智大講師。2000年に来日し、現在は英紙「エコノミスト」「インディペンデント」などに執筆。49歳。
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なかなか、外国の日本を見る目は適格ですね。