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もうすぐ北風が強くなる

インフレで実質賃金が大きく下がるなら、デフレのほうが大いにマシだ:中原

GDP家計貯蓄率
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   なぜインフレよりもデフレがいいのか 安倍政権の経済政策が最悪なワケ  2/16  中原圭介 東洋経済オンライン

  ピケティの理論が、日本では当てはまらない理由

三井:中原さんは「過去の著書の主張がピケティに似ていると言われたことがある」とおっしゃっていましたが、それについてお話をうかがえないでしょうか。

中原:私の本を担当してくれた編集者から、そのようなことを昨年の夏頃に言われました。
「アメリカでピケティの英訳本が売れているのですが、僕が担当した中原さんの著書と似ている点がとても多かったんですよ」と、少し興奮気味でしたね。

その時はどこが似ているのかを聞かなかったのですが、日本で最近出版された本のサマリー(要約)を見た限りでは、株主資本主義では格差が拡大し続けること、経済学で使われている数学には惑わされないようにすること、著書に哲学的な思想や歴史的な考察が入っていることなどが似ているくらいではないでしょうか。
全体としては、私とピケティの著書が似ているとは思っていません。

(※ 北風:勤労家計の可処分所得の上り下りが国民経済を左右するものであり、資本の過剰蓄積が信用恐慌につながること。つまり勤労国民の労働と生活を最も重視する経済学でなければならない。この点が中原とピケティの共通点と思う。
 当然、文章表現的な展開の結末は似ていることになるが、実証的な理論結果そのものは結構差異がある。
 この差異は野口悠紀雄氏、吉田繁治氏なども同様と思う。)

そもそも、米欧の世界では通用するピケティの理論は、日本ではまったく当てはまりません
それは第2回目の「なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか」でもお話したように、日本の企業は株価が下がろうとも、収益率が下がろうとも、アメリカ企業のように大量解雇や大幅賃下げを行わずに、社員全員で賃金を少しだけ下げて痛みを分かち合うことで対応してきたからです。
これが「デフレの本当の正体」であり、米欧に比べて日本で格差が拡大しない原因でもあったわけです。

(※ 「全員で賃金を少しだけ下げて分かち合う」ことは欧米では極めて困難である。
 なぜなら、企業内労組ではなく、欧米の労働組織は横断職種の産別単組が圧倒的であって、企業単位での賃下げなどは許されない。
 闘えない企業内労組だからこそ可能な賃下げなので、勤労者の自立した闘う組織がないという長期歴史的には権利の擁護ができないため、労働力市場の機能がなく、労働者保護の規制もザルになっており、欧州並みの労働党、社民党が発達もしない。
 私としては企業内労組を評価しない。労使、政治関係、経済関係などに弊害がありすぎるからである。)
 
ところが、その日本の長所を捨てさせようとしているのが、政府が成長戦略で示した「企業におけるROE重視の戦略」です。
この成長戦略をやりすぎてしまうと、日本の企業はアメリカ企業のように株主にしか迎合しない存在、すなわち労働者にとっては血も涙もない存在になりかねないのです。

三井:新刊『これから日本で起こること』では、地方経済が苦しんでいる現状について多くのページを割かれていらっしゃいますが、中原さんは地方経済の実態を、どのようにご覧になりますか。

  アメリカの後追いで、日本は本当に格差社会に

中原:私は仕事で地方に足を運ぶ機会も多く、地方に行くたびにその地域の景況感をいろいろな立場の方々にお伺いしているのですが、すでに2013年後半には、大企業に勤める人々は「景気は少しずつ良くなっている」と喜んでいるのに対して、その他の多くの人々は「ぜんぜん景気は良くなっていない」とあきらめてしまっていました。

とりわけ、地方では弱い立場にある中小企業や零細企業の経営は、いっこうに良くなる兆しが見えず、円安による原材料費の高騰や電気料金の値上げなど、むしろ物価高からのコスト増によって苦しくなるばかりです。

大半の中小企業の声は、「コストダウン要請が厳しい」「先行きが見えない」など、いまだに悲観的な意見が多く聞かれている始末です。
このような意見は、地方に行けば行くほど、多く聞こえて来るようになっています。

厚生労働省の毎月勤労統計によると、日本全国の実質賃金は2014年(1月~11月)の平均で2.7%減となっていますが、都道府県別の毎月勤労統計によると、大都市圏と地方の労働者の間では実質賃金に大きな開きが生じてきています。

地方のなかでは県単位で見ると、実質賃金が4%あるいは5%下がっている自治体が、少なからずあるのです。

その一方で、富裕層と呼ばれる人々は「もっとアベノミクスを続けてくれ」と言っています。東京都心の赤坂や六本木界隈で聞いてもみなさん「景気はいい」と言っていますし、ある大企業の役員会でお話した時は、みなさん「僕のまわりはみんな景気がいい」と言っていました。

最近の日本の状況を見ていて思うのは、日本が2000年代前半のアメリカに似通った状況になってきていると感じられることです。
このままでは日本が本格的な格差社会になり、アメリカのように治安が悪く、国民同士が信じ合えない、ギスギスした社会になってしまわないかと、大いに懸念しているところです。

三井:話を聞いていると、円安よりは円高のほうが、日本経済、日本国民にとっては良いということなのでしょうか。

  ドル円相場は「1ドル90円台半ば」が適正

中原:私がアベノミクス以降に一貫して主張してきたことは、日本の経済構造の変化に合わせて、行き過ぎた円高や行き過ぎた円安の水準は変わるはずであるということです。

たしかに、2000年代初めであれば、私も適正なドル円相場は120円くらいだと言っていたかもしれませんが、いまや日本経済の構造変化に伴って、行き過ぎた円安は弱者にしわ寄せが偏る性格を持ってしまっています。

そう考えると、国民全体にとっても、企業全体にとっても、国家財政にとっても、三方一両損ではないですが、ドル円相場は90円台半ばくらいが適正ではないかと思っています。そして、そういったことを考慮に入れながら、経済政策や金融政策は決めていかなければならないと強く思っているわけです。

第2回目の「なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか」で述べた通り、2000年以降のアメリカの事例は、通貨安・物価高よりも通貨高・物価安の組み合わせのほうが、国民の生活水準の向上に寄与するだろうという事実を見事に示しています。
本当の景気回復とは、大多数の庶民と呼ばれる人々の生活が豊かになることであり、決して一部の大企業や富裕層たちに富が集中することではないのです。

また、アメリカの事例だけでなく、円安で好景気が続いたと言われる2005年~2007年の事例からも、「GDPは順調に拡大したが、実質賃金はマイナスとなり格差が拡大した」という教訓を、私たちはしっかりと学ぶ必要があるでしょう。

くどいかもしれませんが、かつては先進国でも見ることができたような「景気の拡大=実質賃金の上昇」「企業収益の拡大=実質賃金の上昇」という相関関係は、2000年以降のグローバル経済の進展やエネルギー資源価格の高騰によって、成立しなくなってしまったのです。

日本人は自らの価値観を守るために、すなわち雇用を守るために全体で賃金を引き下げてきました。
だから日本はデフレになったわけですが、2000年以降の実質賃金の推移を見ると、リーマン・ショック前後とアベノミクス以降を除いて、ほとんど下落していなかったという事実を無視してはいけません。
今のように経済がインフレ下で実質賃金が大きく下落している状況に比べれば、デフレ期のほうが大いにマシだったと言えるわけです。


私は常々、政治家ほど庶民の暮らし向きに敏感であってほしいと願っているのですが、
仮にも一国の首相が自分の周囲のお金持ちだけを見て「景気が回復している」と考えているようでは、日本の未来は少なくともあと数年は暗いものになるだろうと考えざるを得ません。

三井:今回は久しぶりにマーケットの見通しについても触れられているそうですね。中原さんが外国人投資家の動向について書かれているので、なんか懐かしい感じがいたしました。

  次のマーケットの転換は、2015年から2016年前半か

中原:大きな流れがわかっている経済の予想とは異なり、マーケットの予想は殊のほか難しいので、拙書ではできる限り相場の予想を述べないことにしています。

ですから近年の私は、『2015年までは通貨と株で資産を守れ!』(フォレスト出版・2012年3月刊)を最後に、拙書の内容にはできるだけマーケットの予想を入れないことにしてきました。
2013年~2014年の拙書を振り返ってみても、マーケットに関しては「エネルギー価格は下がる」「ドル高になる」くらいしか述べていないと思います。

ところが、今回の新刊『これから日本で起こること』を書くに当たり、出版社サイドから『2015年までは通貨と株で資産を守れ!』での円相場・株価・金相場の予想が非常に良かったので、「何としても本書にも入れてほしい」という強い要望がありました。

そこで本書にかぎって「円安はどこまで進むのか?」と「外国人はいつ日本株を売ってくるのか?」の2本立ての予想を最後に持ってくることにしたわけです。
おそらく、このような試みは、拙書にとって最後のものとなるでしょう。

やはり、マーケットの予想は不確定な要素が多すぎるので、新しい情報が入ってくるたびに適宜修正を加えていく必要があります。そういう意味では、書籍はマーケットの予想には適していないと考えています。

しかし、それでも私がマーケットの予想を新刊で書いたのは、『2015年までは通貨と株で資産を守れ!』を書いた時のように、私自身がマーケットの転換点が2015年~2016年前半にやってくると感じているからなのかもしれません。

三井:最後の質問となりますが、日本経済が回復するためには、中原さん自身はどのような経済政策を行えばよいとお考えでしょうか?

中原:私がこれまで日本が取るべき経済政策として主張してきたのは、けっして過剰な金融緩和に頼ることなく、地道に時間をかけて成長産業の育成に力を注いでいくということです。
いくつもの成長産業を育成していけば、そのうちに外部環境が自然と日本に有利なように変わってきて、日本経済は良くなっていくだろうと考えていたからです。

詳しくは過去の著書でも触れていることですが、アメリカ経済が想定通りドル高を伴って2014年~2015年に本格的な復活をすれば、日本経済も2015年以降にその恩恵を受けることができるようになると、私は考えていました。
というのも、従来の貿易統計ではなく、付加価値で計算し直した貿易統計を見ると、日本が大幅な黒字を保っているのはアメリカに対してだけであるからです。

  アベノミクスで、本格的な景気回復は3年遅れに

さらには、早ければ2016年にも原油価格が50ドル割れまで下落し、家計の消費余力が拡大すると見込んでいたので、成長戦略が実を結ぶ前であっても、日本経済は明るさを取り戻すだろうと考えていたわけです。


ところが、原油価格が想定以上に早く半値以下になることによって、世界的にガソリン価格が大きく下がっているにもかかわらず、日本ではその効果の大半が円安によって相殺されてしまっているので、他の国々に比べればガソリン価格が安倍政権発足時とそれほど変わってはいないのです。

結局のところ、安倍政権は(※ 日銀の量的緩和などしないで)成長戦略だけに専念して、アメリカの景気回復と原油価格の下落に伴うデフレを待っていれば、それだけで日本の景気にはだいぶ明るい兆しが見えてきていたはずなのです。
国民の実質賃金はそれだけで上がっていくわけですから。

今となっては、なぜアベノミクスのような筋の悪い政策を実行してしまったのか、残念に思えてなりません。
現状を冷静に見てみると、日本の本格的な景気回復は、あと3年は遅れてしまうだろうと見ています。
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