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21世紀インフレは勤労者を不幸にする:中原

資本収益成長賃金
 経済成長と資本収益率、賃金伸び率(グラフは田村秀男氏による)。

   なぜ21世紀型インフレは人を不幸にするのか  中原圭介 2/10 東洋経済オンライン     ピケティでは日本の格差問題はわからない

  なぜ「アベノミクス」で格差は拡大するのか

三井:中原さんはこれまでの著書のなかで、アベノミクスによって格差が拡大してしまうということを訴えてきたそうですね。

中原:今回の新刊を出す以前からの経緯をお話しましょう。
私は、安倍政権発足前後の2012年12月に、ある週刊誌から「アベノミクスは正しいのか?」という取材を受けた時、「歴史的に見れば、悪いインフレになり、国民の生活は苦しくなる。アメリカのように格差を拡大させる政策を実施してはいけない」と述べました。

そのうえで、「経済政策とは誰のために存在するのか。なぜ富裕層や大企業のためにしかならない政策を実行するのか」と強く訴えたことを、今でも鮮明に覚えています。

私は元々、アベノミクスは国民生活に悪影響を及ぼすことがわかっていたので、「この政策は軌道修正させなければならない」という、強い信念を持っていました。
だから私は、何とか本来の仕事と両立をしながら、2013年の1年間に、7冊もの著書を執筆するというストイックなスケジュールをこなすことができたのです。

著書の主要テーマがアベノミクスと関係がない場合でも、少なくとも1章分くらいはその批判に充てて、できるだけ多くの人々が合理的に理解できるように述べてきたつもりです。

通常なら年間2~3冊の執筆ペースでも時間的に厳しい私が、2013年に7冊もの書籍を執筆できた理由は、まさしくアベノミクスに警鐘を鳴らしたいという思いが非常に強かったからです。
2000年頃とは経済構造がまったく変わってしまった日本では、大規模な金融緩和によって円安とインフレを引き起こすというアベノミクスは、一般の国民生活を苦境に追いやるのが目に見えていたのです。

だからこそ、歴史的な視点からわかりやすく合理的に説明すれば、そのことを多くの人々に理解してもらい、世論を変える一助になるのではないかと考えたわけです。

しかしながら、そういった考えは私の思い上がりだったようです。
時が経過するとともに、アベノミクスの結果がある程度見えてくる状況にならなければ、マスメディアは「失敗するかもしれない」と騒ぎはしなかったし、国民も現実をなかなか認識できなかったからです。

  「2つのインフレの違い」がわからない米欧の経済学者

三井:(第1回目)のお話の中で、中原さんは「21世起型インフレ」は日本にとって良くないということでしたが、かつての日本の高度成長期のインフレとはどこが違うのでしょうか。「失われた20年」の元凶はデフレにあると言われていましたので、インフレへの転換は望ましいような気がしてしまうのですが、そうではないのでしょうか?

中原:「21世紀型インフレ」とは、原油をはじめとした資源価格の高騰によってもたらされているインフレのことを指しています。
それは、資源消費国から資源生産国への所得移転を意味しており、日本のほか多くの先進国の企業・家計部門から資金(貯蓄)が国外へ流出しているわけです。

これに対して、「20世紀型インフレ」とは消費の拡大により物価が上昇していた時代のインフレを言います。非資源国から資源国への急激な所得移転がなかった時代のインフレと言うこともできるでしょう。

「21世紀型インフレ」や「20世紀型インフレ」とは私の造語でありますが、現在の米欧の主流派経済学の根本的な誤りは、この両者のインフレの違いをまったく認識していないことにあるのではないでしょうか。

だから、経済構造が大きく変化している今でも、一律にインフレは良い、デフレは悪いと決めつけ、間違った経済政策を提唱してしまっているのです。

過去数十年の世界の歴史を振り返ってみて、高度成長期のインフレは国民生活にとって苦にならないが、成長の減速期や低成長期のインフレは、国民にとって隠れた税金を払わされているということができます。
国民の視点に立てば、給料が上がらず物価が高くなるということは、実質賃金を下げてしまうことになります。それは実質的に増税になるのと変わりがないのです。

三井:中原さんは、2014年に大手シンクタンクの経済予想が大外れした理由についても明確に分析されていますね。

中原:当時の私が大いに疑問を感じていたのは、2014年のシンクタンクの経済見通しの前提が輸出の増加、すなわち貿易黒字の増加によって成り立っているということでした。
シンクタンク大手12社の全社が2014年7~9月期から2015年1~3月期まで3四半期連続のプラスを見込んでいましたが、前回述べた経済を正しく予測するための4つの視点から見れば、当時から私にはまったく理解ができませんでした。

大手シンクタンクのエコノミストたちが揃って見通しを大きく外した理由を改めて振り返ってみると、私はやはり「Jカーブ効果」への信仰が彼らの目を曇らせていたのではないかと考えています。
自然科学の分野から見れば、理論と言うにはお粗末な理論であっても、私の経験からは、経済識者は「Jカーブ効果」をかなり強く信じていると思っているからです。

まだアベノミクスが始まったばかりの頃、私はある議論の場において、「たとえ円安が進んでも、輸出数量は思うようには増えない」という予想を展開したところ、ある大学の先生からは「あなたはマクロ経済学がわかっていない」「Jカーブ効果はどのようなケースでも有効である」というような反論をいただきました。

それはいいとして、2014年の半ばになっても、夜の経済番組で大手シンクタンクのコメンテーターが視聴者の質問に対して「2014年は秋ごろから経済が良くなります。期待していいです」と自信を持って言っていましたが、さすがにこれは重傷だなあと、苦笑いをせずにはいられませんでした。

  なぜ「実質賃金」が重要なのか

三井:中原さんは指標の中で、「実質賃金」を重要視していらっしゃいますが、なぜ「実質賃金」が大切なのでしょうか。

中原:リフレ派の識者たちは自らの正当性を主張する根拠として、アメリカにおけるインフレ目標政策の成功事例を積極的に取り上げていますが、私に言わせればこのような見解は、前回に述べた「経済政策とはいったい誰のために存在するのか」という命題の答えを完全に無視したものです。

アメリカのインフレ経済政策は、資源価格の高騰が始まった2000年以降も、住宅バブルが崩壊した2007年以降も、国民の実質賃金を引き下げてきたにとどまらず、格差が拡大していくのを助長してきたからです。

2000年を100とした場合のアメリカの名目賃金と消費者物価指数の推移を見ると、2013年のアメリカ国民の平均所得は97.9と下がっている一方で、消費者物価指数は135.3と上昇してしまっているのです。そこで、名目賃金を消費者物価で割り返して実質賃金を計算すると、実質賃金は72.4まで下がってしまっているわけです。

2013年時点でアメリカ国民の名目賃金は1995年の水準に下がってしまっているのに、ガソリン代が2.45倍、電気代が1.64倍、食料価格が1.47倍に跳ね上がってしまっていたので、暮らし向きが苦しくなるのは必然です。2011年に「ウォール街を占拠せよ」をスローガンに大規模なデモが起こったのは、起こるべくして起こったと言えるでしょう。

アメリカでトマ・ピケティの『21世紀の資本』が大ベストセラーになった背景には、彼ら急速に没落する中間層の危機意識がたぶんに働いたことが大きいと思われます。
このままでは、富の格差はどんどん拡大してしまうという危機意識があったところに投げかけられたピケティ氏の主張は、彼らには「蜘蛛の糸」のように思えたのではないでしょうか。

21世紀型インフレが大多数の中間層と呼ばれる人々の生活を疲弊させてしまっている事実から目をそらして、日本経済がインフレ2%を目指すということは、いかに愚かなことであるかが理解いただけると思います。
また、名目賃金よりも実質賃金がいかに大事であるかも実感していただけるのではないでしょうか。

このような事実をしっかりと認識した上で、インフレ目標政策を議論する与党政治家やリフレ派の経済識者がいないのには本当に残念でなりません。

  「失われた20年」を歩んでいるのは、アメリカである

三井:日本の「失われた20年」は、そんなに悪い時代ではなかった。「失われた」という見方は欧米の価値観の押しつけであると主張されていますね。非常に印象的な内容でした。

中原:アメリカと比較して日本はGDPも株価も伸びていないことから、よく「失われた20年」だと言われていますが、私はこの言葉は米欧の価値観の押し付けであって、日本の世界に誇れる価値観を反映していないと確信しています。

アメリカのGDPの内容を分析すると、とくに2000年以降は国民の消費の伸びよりも企業部門の利益の伸びが突出していること、
あるいは、株式市場における企業価値の増大と格差の拡大は反比例に近い関係にあることを考えると、「失われた20年」はとても正しい表現であるとは考えられないのです。

低成長期に入った先進国として、日本は「21世紀型インフレ」に上手く対応してきた数少ない国の一つであると言えるでしょう。
2000年代のエネルギー価格の高騰に対して、多くの大企業は社員全体の賃上げをなるべく抑えることで、中小零細企業は社員一丸となって賃下げの痛みを分かち合うことで、格差を必要以上に広げることなく無難に対応できてきたわけです。

これに対して、アメリカの企業ではインフレ下で実質賃金が減少している状況であっても、少しでも業績が悪くなると大量の首切りや大幅な賃下げが頻繁に行われています。
日本の企業であれば、存続の危機に陥らなければやらないことを、アメリカの企業は平気でやってのけるのです。
人口の2人に1人がワーキングプアと呼ばれる格差大国であるアメリカのほうが、むしろ「失われた20年」を歩んでいるのではないでしょうか。


日本で賃金が上がらずにデフレになったのは、日本の企業が従業員の賃上げよりも雇用を守ることを優先してきたからです。

こうした日本の企業風土には、社員が一つの企業だけで定年になるまで勤めることに対して、企業はその貢献に報いるために老後までの生活を保障するという、日本人の価値観が凝縮された「約束事」がありました。

日本の企業はこの価値観を重んじて、低成長に陥ろうとも、デフレになろうとも、雇用を守り通してきたのです。その結果が、先進国でもっとも低い失業率を何十年にもわたって維持し続けてきたわけです。

私は「失われた20年」とは米欧の価値観の押し付けであって、日本社会の真相を歪めて伝えてしまっていると考えています。
米欧の人々は他の国々のことについて自分たちの価値観に基づいて勝手に評価を下し、それを世界標準として広めてしまうという悪しき習慣を持っていますが、日本人はそのような世界基準は無視して、もっと自信を持っていいと思います。
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