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中原圭介インタビュー「これから日本で起こること」

    「これから日本で起こること」とは何か?  2/2  東洋経済オンライン

  経済予測を的中させるための4つのポイントとは?

三井:中原さんのこれまでの著書や東洋経済オンラインの記事を読ませていただいたのですが、最近も「シェール革命によって、原油価格が大幅に下落すること」や「その結果としてロシアをはじめ資源国の経済が打撃を受けること」、「アメリカ経済の復活とドル高の進行」、「欧州経済が長期低迷すること」などを見事に予想されています。どうして的確に将来を見通すことができるのでしょうか?

中原:あえて挙げるとすれば、4つのポイントを意識しているからだと思います。

1つめは、「物事の本質とは何か」ということを、常に突き詰めて考えるようにしていることです。

私が考える本質とは、「物事の根本となる性質」という辞書に載っている意味に加えて、昨今の流動化が激しい時代で見通しにくい物事についての「構造」「正解」「真相」といった意味合いを多分に含んでいます。

この点について、ここ数年で特に気になっているのは、経済をガチガチに学んできた識者のなかには、経済の本質を見抜くという以前に、物事の道理や本質を踏み外して考えている方々が多いということです。

それでは、経済の予測において精緻性を保てるわけがなく、2014年7-9月期のGDPショックのようなことが起こってしまうのです。

2つめは、「歴史の教訓をどのように生かすのか」ということです。

歴史学においては、過去に起こった出来事を単なる知識としてだけではなく、その出来事が起こった理由や時代背景、条件、状況、その当時の人々の価値観、その出来事の与える影響などを分析することが、とても重要とされています。

そういった分析力を磨くことによって、将来的に同じ出来事が起こるのか、起こらないのかを予測することができるようになります。

ところが、世界的に著名な経済学者であっても、過去の歴史と現在の出来事の比較がまったくできていないのです。
「あのとき、この政策で成功した」と単純に歴史的な出来事を並べてその真似をするだけなら、誰でもできることです。

三井:私のような株式アナリストは、どうしても短期の視点にばかり目が行きがちですが、大きな視点というか、大局的に物事を視ることが大切なわけですね。

中原:ええ。その通りです。3つめは、自然科学的な発想を取り入れながら、経済を見るようにしていることです。経営コンサルタントや経済アナリストを生業とするのであれば、経営学や経済学に精通していれば大方は問題ないのではないかと、多くの方々が思われるかもしれません。

ところが、私が実際にアドバイスをする場合は、社会科学系の学問の発想をすることよりも、人文科学系や自然科学系の学問の発想をしていることのほうがずっと多いのです。
物事の本質を見極めながら、高いレベルのアドバイスをしようと心がけると、どうしてもそのような発想に行き着いてしまうわけです。
とくに経済を俯瞰する時には、地質学や気象学などの知見を無意識的に使っていることが多いと思います。

たとえば、地殻のひずみが限界を超えると大きな地震が発生しますが、経済のメカニズムも同じです。
経済的なひずみ=不均衡が限界を迎えると、大きな経済危機が生じることになります。
バブルの崩壊などは一番わかりやすいケースです。

そして、4つめは、経営者の視点で経済を見るようにしていることです。現実の経済は、経済学の理論どおりにはなかなか動いてくれないものです。
なぜなら、経済は主にビジネスの現場が動かしているのであって、企業の経営者は合理的でない経済の理論など当てにはしていないからです。

実際の経済はビジネスの世界で動いているのであり、ビジネスのルールや前提が変われば、当然のところ経済の中身も変わっていきます。
経済は生き物のように、刻一刻と変化しています。
それに伴って、企業の経営も確実に変化してきています。
したがって、企業がこれからの経営戦略を考える時に、2000年あるいは2010年の時に取った戦略と同じ戦略を安易に選択することはありません

ですから私は、経済学者と呼ばれる先生たちは経済学という狭いフィールドに閉じこもることなく、ビジネスの現場や企業経営の現場を積極的に学ぶ必要があるのではないかと考えています。

  原油が半値になると予想できたワケ

三井:今でこそ原油価格の動向が注目されていますが、中原さんは『シェール革命後の世界勢力図』(ダイヤモンド社・2013年6月刊)やその他の著書でも、原油価格は半値になると予想されていました。2013年の段階でなぜそのように予想できたのですか?

中原:その予想を書いた当時(2013年春)は、OPECが原油需要の将来見通しを上方修正するなど、世界の名だたる主要機関が原油価格の上昇トレンドは変わらないという見通しを立てていました。
しかし、経済はビジネスの現場で動いているという視点から、経済的合理性や企業経営の視点、需給関係などから総合的に判断すると、原油価格は下がらざるを得ないという結論にしか達しなかったのです。

たしかに、シェール革命による供給過多がもたらす原油安のトレンドについては私の想定どおりであったと言えると思います。
ただし私にも誤算だったのは、WTI原油価格が70ドルまで下落してきても、OPECによる減産の対応がなされなかったということです。
そのために、下落のペースが予想していた以上に速くなってしまい、私が想定していた時間軸の半分くらいで半値になってしまいました。

いずれにしても、サウジアラビアとアメリカの原油における覇権争いは、現時点の世界情勢から判断すると、アメリカに有利であると言わざるをえないでしょう。
原油安は過去のケースでもアメリカ国内で消費増加をもたらしており、アメリカ経済にはプラスに働くこととなるからです。
その一方で、サウジアラビアは財政均衡を達成できる原油価格が80ドル前後であり、長期戦に持ち込むほど中東の地政学リスク(北はイスラム国、南はイエメンに挟まれて軍事費の増額が求められている)が重荷になってくるのは避けられそうもありません。

経済の視点からだけでなく、地政学的な視点から見ても、明らかに原油戦争ではアメリカが有利な状況にあるわけです。
その結果、今後はアメリカ経済の一人勝ちの様相が強まっていくでしょう。

三井:国内の出来事では「円安によって日本の貿易赤字が膨らむこと」や「円安によって輸出は増えないこと」、「日本経済は2014年にかなり厳しい局面に陥ること」、「安倍首相は2015年予定していた消費増税を断念すること」などを事前に予想されていましたが、まったくその通りになっていますね。やはり、アベノミクスは上手く行かないのでしょうか?

  アベノミクスは、最初から間違っていた

中原:私が先ほど述べた4つの視点から申し上げると、そもそもアベノミクスは失敗したというよりも、最初から間違っていたと考えるのが自然な回答になると思います。

というのも、経済の質は、刻一刻と変化しているからです。そもそもクルーグマンが唱える「インフレ目標」は、15年以上も前に述べられた理論です。
ところが、2000年代に経済のグローバル化が加速するなかで、資源価格が高騰することによって「21世紀型インフレ」が始まってしまいました。

実際の経済はビジネスの世界で動いているので、ビジネスのルールも資源価格の高騰を前提にしたものに変わらざるをえなくなる。
当然のところ、企業の対応も変化せざるをえなくなり、経済の中身も変わっていくということになる。
だから、資源エネルギー価格が高騰する前の時代の理論を、今の時代にそのまま当てはめた経済政策が成り立つわけがなかったのです。
ですから、結果は最初から見えていたわけです。

ただし、私は「安倍首相は本当に運の良い人だ」と思っています。
なぜなら、原油価格の急落が想定していたよりも早く訪れたために、この原油急落がアベノミクスによる景気低迷や国民生活の痛みを緩和してくれるだけでなく、アベノミクスの失敗から政権が退陣に追い込まれるリスクまでも軽減してくれるからです。

三井:実は、私の周りにはアベノミクスを評価している人もいまして、アベノミクスに対してはどう評価してよいのかわからないのですが、中原さんがおっしゃるように日本の経済政策が間違った方向に進んでしまっているとすれば、なぜそうなってしまったのでしょうか?

中原:おそらくはリフレ派と言われる人々は経済学の権威を後ろ盾にして、思考停止の状態に陥ってしまっているのでしょう。

実は、これと同じような現象は中世から近世にかけての西ヨーロッパの歴史にも見ることができます。
ルネサンスが起こる14世紀以前の西ヨーロッパは、経済的な繁栄においても学問のレベルにおいても、アラビア半島や中国に大きく劣っていました。
それは、キリスト教における神の権威があまりに強かったために、自然科学や技術の発達が著しく妨げられてきたからです。

西ヨーロッパがあらゆる面においてアラビア半島や中国を追い抜き文明的に圧倒的な差を付けたのは、18世紀から19世紀にかけての時代になってからのことです。
この時代の西ヨーロッパは、産業革命の影響で急激に近代化した時代、フランス革命の影響で自由主義が広がった時代でありますが、その時代の原動力となったのは自然科学を裏付けとした技術力の向上だったのです。

しかし、それ以前のヨーロッパでは、神の教えが記された聖書が唯一絶対の真理であると考えられていたので、キリスト教は人々の思想だけでなく、政治や学問までも支配していたのです。
それゆえに、聖書の内容と矛盾する学説や教会と真っ向から対立する学説は、たとえ科学的に裏付けられた学説であったとしても、社会的に抹殺または迫害される傾向が強かったわけです。

要するに、西ヨーロッパの社会では絶対的な神の権威を信じるあまりに、学問における思考が停止している状態に陥っていたわけですが、現代の経済学においても、アメリカの主流派経済学を信じる識者のあいだでは、絶対的な権威を前にして思考の停止が起こっているように思えてなりません。

ポール・クルーグマンやベン・バーナンキなどの権威の前に、リフレ派と呼ばれる識者たちは自分で歴史やデータを客観的に分析する行為そのものを敬遠してしまっているに思われます。

リフレ派の識者たちの言質で私がいつも気になっているのは、「クルーグマンは……と言っている」とか「バーナンキは……と言っている」とか「世界基準では……である」といった言い回しを多用する傾向が顕著に見られることです。
リフレ派の識者たちは経済学の権威の前に思考停止の状態に陥ってしまっているために、こういった間違った理論が未だに正しいと信じたいと思っているばかりか、物事の道理や本質がまったく見えなくなってしまっているように思います。

三井:なるほど。そのような考えから、中原さんは著書や連載などでアベノミクスに対する批判を展開してきたわけなのですね。このたび東洋経済新報社から新刊を出されましたが、この本で一番に伝えたいこととは何でしょうか。

中原:読者のみなさんに「経済政策とはいったい誰のために存在するのか?」ということを考えてもらいたいと思い、今回の『これから日本で起こること』を書き上げました。 
経済政策とは富裕層のためにあるのか? 中間層のためにあるのか? 貧困層のためにあるのか? あるいは、大企業のためにあるのか? 中小・零細企業のためにあるのか?
もう一回みなさんに考えていただく機会になればと思っています。

「誰のための経済政策なのか?」という問いかけは、いま大ブームとなっているフランスの経済学者・ピケティ氏の主張にも通じていることだと思います。
ケインズの師匠でもあるケンブリッジ大学のアルフレッド・マーシャル教授は、学生たちをロンドンの貧民街に連れて行き、そこで暮らす人々の様子を見せながら、「経済学者になるには冷徹な頭脳と暖かい心の両方が必要である」と教え諭したと言われています。

アメリカの主流派の経済学者たちも、それを支持する識者たちも、アルフレッド・マーシャル教授と同じ志を持って、
経済の構造変化に気付かずにインフレ政策を志向してきたアメリカでいったい何が起こっているのか、
アベノミクス以降の日本で国民生活がどうなっているのか、
そういった現実を直視しながら国民生活を苦難に導くアベノミクスを再考すべき時期にきていると、私はこの新刊を通じて強く訴えたいと思っています。

また、私のことを「もっとも予測が当たるエコノミスト」と評価してくださる方も多いので、その期待に応えるべく、為替市場で円安が進むことによって、これからの日本にいったい何が起こるのか、マーケットはどう動くのか、最終的にはどういった結末が待っているのかなどについて、これからの政府と日銀の対応が非常に読みづらいなかで、私なりの分析や予想も伝えたいとも思っています。

中原圭介(なかはら・けいすけ)アセットベストパートナーズ代表 経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など幅広い視点から経済や消費の動向を分析。 「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、熱烈なファンも多い。著書多数。
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※ 企業が利益を上げ、資産家がますます豊かになっても、勤労者が惨めならばいずれ経済は破綻し、循環恐慌となる。

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