報道されない中東、日本の読者は誘導されるがまま:国枝氏インタビュー
2015-01-22

「報道されない中東の真実」とは何か 国枝昌樹氏、「日本の読者は誘導されるがまま」 2014/10/15 東洋経済オンライン
2011年3月の民衆蜂起に端を発したシリア内紛は、混迷が続く中、さらにスンニ派過激組織イスラム国への外国軍侵攻で戦火が広がっている。
『報道されない中東の真実』の著者、国枝昌樹氏(元在シリア特命全権大使)は、ここに中東アラブ世界の地殻変動の予兆を見る。
──米CIAによればシリアの人口は2010年末2200万から2014年には1800万にまで減少したとか。
2010年まで4年間駐在した当時は、シリアの社会全体は非常に明るかった。
父の跡を継ぎ2000年に発足した現バシャール・アサド政権は紛れもない独裁政権です。が、彼自身は、反アサドの欧米や周辺国が作り上げた悪のイメージとは違い、体制内改革を推進していました。
閣僚たちには、傲慢を捨て国民とともにあれと折を見て訓示し、治安当局には国民との関係改善を進めさせていました。
一部の不満分子には厳しく対処しても、一般市民への態度は先代とは劇的に変化していたんです。
そういう意味でアサド大統領はかなり努力しました。
ところが2011年3月に最初の民衆蜂起が発生し、政権転覆をおそれた治安当局は再び牙をむきだした。
アサド現政権の10年間の改革は水泡に帰してしまった。
一連の反体制派による内紛を、アサドは外国から押し付けられた戦争だと思っています。
国内の反体制派組織は約3000で、大半はいわゆる強盗団ですが、いくつかの勢力は外国から支援を受けている。
アサド政権としては、外国が資金・武器・兵站支援を止めさえすれば、1カ月で事態は収まると考えていました。
過激な原理主義勢力がイラクに戻った
──そしてイスラム国の勃興が。
ソ連のアフガニスタン侵攻で、米国から支援を受けたアルカイダなど過激な原理主義勢力がイラクに戻った。
シーア派マリキ政権下でスンニ派市民の間に不満が高まると、それに乗じてイスラム国が活動を始めます。
彼らは一部をシリア国内に潜伏させ、2011年の民衆蜂起を機についに動きだし、支部のような形で反体制派ヌスラ戦線を発足させました。
ヌスラ戦線は戦闘行動の勇猛さと規律で名を上げ、シリア国内で影響力を拡大させました。
イスラム国はそのヌスラ戦線を吸収しようとしましたが、ヌスラ戦線側が拒否。
アルカイダはイスラム国にイラクを、シリアはヌスラ戦線に任せると指示します。
それを今度はイスラム国が拒否、アルカイダと絶縁します。
2014年1月、反体制派の著名な医者をイスラム国が殺害すると、ヌスラ戦線と他の反体制派が連携しイスラム国との武力衝突が勃発しました。
──反体制派同士の潰し合いを当時アサド政権は高みの見物だった?
ええ。ところがイスラム国がイラクのモスルを攻略し、戦闘放棄したイラク軍から戦車・武器・弾薬・軍用車すべて収奪して、またシリアに侵入してきた。
破竹の勢いにイスラム国へ外国人がどんどん参入します。
今年初め1万5000~2万5000人くらいとみられていた兵力は、2万~3万1500人に拡大したと先日CIAが報告しています。
イスラム国はある意味宗教に対し非常に純粋です。
彼らは7世紀、預言者ムハンマドの死後の4代カリフ時代をイスラム国家の理想と考えている。
イスラム国はそれを現代に再現するため敵や異教徒を容赦なく殺す。
欧米から加わった若者たちは社会に居場所がなく不満を持つ人々なので、イスラム国の青臭い純粋性と強い仲間意識に引き付けられる。
ユーチューブの斬首映像も、7世紀のイスラム法を独自解釈して厳格に実践しているんです。
戦国時代なら日本でもあったことですが、彼らは21世紀の現代でそれを実行している。
理想のイスラム国家樹立となると、これはもう信念の問題。
一般的に戦争とは敵の戦闘能力をそぎ無力化するのが目的ですが、信念の戦いでは敵を殺すことが至上命題。殺して初めて安泰を得るわけです。
しょせんは烏合の衆
──イスラム国の脅威が中東全域に広がる可能性はあるのですか?
私は彼らにそこまでの力はないと思っています。
彼らは混乱した現代の鬼子、あだ花です。
財力も武器弾薬も豊富、戦闘員には多額の報酬などといわれていますね。
サダム・フセイン時代の旧バース党生き残りが合流しているから行政、軍事、装備力も強力とかいうけれど、しょせん彼らは烏合の衆です。
モスルの銀行から奪ったカネがある、原油の密売でも資金を得ているといっても、パイプラインで輸出するわけじゃなし、ドラム缶で売りさばくだけのこと。
そもそも彼らにとってカネなど意味はない。食糧確保こそが彼らの生命線なのです。
米国は空爆で彼らの前進を今のところ止めている。
イスラム国にいる米国人約100人が帰国後テロを起こす危険性を想定すると、イスラム国殲滅は米国の治安維持に直接関係があるのです。
一方、シリアの本音はイスラム国を米国が潰してくれるなら好都合なわけですね。アサド政権はヌスラ戦線とその他反体制派への攻撃に集中できるわけですから。
──シリア情勢が中東アラブ世界の地殻変動を招くと見る理由は。
絶対王政を敷く中東湾岸諸国がシリア攻撃に参加している。
たとえばカタールは資金や軍を出してきたけれど、国民はそれを絶大な国富を握る国王の火遊びと見ていやしないか。
シリアの反体制派支援を民主主義のため、自由のためと唱えれば唱えるほど、自分たちカタール国民には自由もなければ民主主義もないじゃないか、と疑問が出てくるわけです。
アラブの春は、湾岸諸国には飛び火しなかったかのように見えましたが、実は湾岸諸国でも蜂起はあり、激しく弾圧されました。
バーレーンはサウジアラビアから兵士1000人を借りて鎮圧した。
シリアでは反体制派を支援しながら自国ではそれを許さない。
そんな政権が本当に正当な国民の代表なのかと疑問を持ち始める。王政にとってたいへん危険です。
シリア動乱が触媒となって湾岸地域の国民が奮起し、第2のアラブの春が起こりうる。
──日本の中東報道のあり方にも疑問がおありのようですね。
はい、とても疑問を持っています。
イスラム国みたいなセンセーショナルな存在が現れると集中報道されるけれど、一段落すると再び何も報じられなくなる。
中東の社会、文化、思想、人々の生活感を根底で理解した、継続的な報道には到底ならないのです。
丸腰の民衆が平和に行進してるところを政府軍が襲い市民が逃げ惑うという、一連の経過に見える映像が、実は継ぎはぎ編集されていたこともありました。
なぜそういう図式に固定化するのか。非常に違和感を覚えます。
それに国際報道の場合、よほどのことがないと訂正は出ませんし。
私は変だと思ったら裏を取って確認できるけど、日本の読者・視聴者は誘導されるがままですよね。
くにえだ・まさき●1946年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、外務省入省。在エジプト大使館一等書記官を振り出しに、在イラク大使館、在ヨルダン大使館の参事官、在カメ ルーン特命全権大使などを経て、2006年在シリア特命全権大使に着任。10年退官。『シリア――アサド政権の40年史』ほか著作活動を重ねる。
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