実質賃金までマイナス、最悪のアベノミクスをいつまで続けるのか
2015-01-23

安倍政権はいつまで最悪の政策を続けるのか 10/22 中原圭介 東洋経済オンライン
民主党時代もひどかったが、実質賃金はプラス
私は2012年末に第2次安倍内閣が発足する前から、「過度な金融緩和は悪性インフレをもたらすので、絶対にやってはいけない」と言い続けてきました。
過度な金融緩和を行ってしまうと、たとえ物価を上昇させることができたとしても、国民の実質賃金は上がるどころか、むしろ下がってしまうだろうと確信していたからです(「東洋経済オンライン」で初めてこの問題を取り上げたのは、2012年12月13日のコラム「過度な金融緩和は、国民を苦しめる」においてです。興味がございましたら、そちらもご覧ください。)
アメリカのインフレ政策は国民の暮らしを犠牲にした
日銀の大規模な量的緩和に賛成する経済識者、政治家、メディアなどは、「アメリカは金融危機から立ち直り、安定した経済成長を続けている。
だから、アメリカの経済政策を見習ったほうがいい」という類の発言をよくしています。
しかしながら、私の見解では、「経済政策は誰のために行うのか」という命題に照らし合わせれば、そういった発言は明らかに間違っています。
アメリカのインフレ経済政策は、資源価格の高騰が始まった2000年以降も、住宅バブルが崩壊した2007年以降も、アメリカ庶民の実質賃金を引き下げてきたにとどまらず、絶望的に格差が拡大していくのを助長してきたからです。
このことは、アメリカの2000年以降の通貨安に伴うインフレの歴史が証明しています。
2000年を100とした場合のアメリカの名目賃金、実質賃金、消費者物価指数のそれぞれの推移を見てみると、2013年の名目平均賃金は97.5と下がっているのに対して、消費者物価指数は135.3と大幅に上がってしまっているのです。
名目賃金はまったく伸びていないのに、インフレ政策によって物価だけが伸び続けてきたために、驚くべきことに実質賃金は72.4まで下がり続け、アメリカ国民の暮らし向きは悪化していく一方であったわけです。
住宅バブルの崩壊後に、アメリカ国民の名目賃金は1995年の水準に下がってしまっているにもかかわらず、2013年の時点でガソリン代が2.4倍、電気代が1.6倍、食料価格が1.4倍に跳ね上がってしまっては、庶民は余裕を持って生活していくことなどできるはずがありません。
いくら自由主義経済を旗印に掲げているアメリカであっても、2011年にウオール街で大規模なデモが起こったのは当然のことだったと言えるでしょう。
世界のどこの国の人々にとっても重要なのは、名目賃金が上がったかどうかではありません。物価の変動を考慮に入れた実質賃金が上がったかどうかなのです。
名目賃金ではなく実質賃金こそが、市井で暮らす人々の生活水準のレベルを決めるわけです。
それでは、安倍政権が誕生してアベノミクスが始動したあとの日本では、国民の実質賃金はいったいどのように変化してきているのでしょうか。
実質賃金は、2013年7月から17カ月連続で減少中
厚生労働省の毎月勤労統計によれば、実質賃金(2010年平均=100)は、2013年7月から直近の2014年11月分まで17カ月も連続して減少しています。
2013年前半に名目賃金が少しだけ上がったところで、急激な円安によるインフレが進み、実質賃金を大幅に引き下げてしまっているのです。
実質的にアベノミクスが始まった2013年以降の実質賃金がどのように推移しているのかを見てみると、2013年1~3月は0.1%増、4~6月は0.4%増となりましたが、円安による輸入インフレの影響を受け始めた7~9月には1.5%減、10~12月には1.4%減、2014年1~3月は1.7%減、4~6月は3.4%減、7~9月は2.6%減と、減少傾向に歯止めがからなくなってきています。
以上の推移を見てわかるように、消費税の増税が行われた2014年4月以前の数字をありのままに受け止めると、そこで明らかになるのは、デフレの時よりもインフレの時のほうが実質賃金は大きく落ち込んでしまっているという事実です。
前回のコラム「アベノミクスは消費税5%でも失敗していた」でも指摘したように、「もしアベノミクスが失敗したら、それは消費税を増税したからである」と、リフレ派の経済識者たちがそろって保険をかける発言を繰り返していますが、そのような発言は実質賃金の推移を見れば真実ではないことが、誰の目から見ても明らかなのです。
確かに、消費税増税実施直前の2014年1~3月期のGDP成長率がプラス6.0%であったのに対して、4~6月期がマイナス7.1%に落ち込んだのですから、そういう理由付けをしたくなるのはわからないでもないですが、実のところ、高成長を達成した1~3月期においても実質賃金1.7%減となっていたわけです。
これはどういうことかというと、誤解を恐れずに申し上げると、アメリカのケースと同じように、日本でも一般国民の所得が富裕層と大企業の所得に移転しているということなのです。
だから、庶民の消費を象徴するスーパーの売上高は、アベノミクス後も一向に増えていない一方で、高級品を扱う百貨店の消費は堅調に増加していますし、輸出企業を中心に、利益が史上最高益を更新するまでになっているわけです。
私の見解では、消費税の増税がなかったとしても、アベノミクスはすでに失敗しているわけですが、リフレ派の識者たちはそれでも「アベノミクスが失速したのは、消費税増税が原因である。GDPを見れば明らかである」と言い張るのかもしれません。
そこで、安倍政権が2014年4月の消費税増税を行わないと決定して、国民にあらかじめ周知していたと仮定してみましょう。
そうであるならば、駆け込み消費が発生するわけがなかったので、1~3月期のGDPが6.0%もプラスになることはなかったし、その反動として4~6月期が7.1%ものマイナスになることもなかったでしょう。
現実としては、実質賃金が下がり続けているなかでは、消費税増税に伴う駆け込み消費がなかったとしたら、1~3月期はプラスどころか、マイナスになっていた可能性すらあるのではないでしょうか。
地方に暮らす人々や中小企業に勤める人々は、この時期にはすでに、物価高によって生活が苦しくなっていることを実感していたからです。
私は地方に仕事にいくたびに、その地方の景況感をいろいろな立場の方々にお伺いしているのですが、すでに2013年後半には、大企業に勤める人々は「景気は少しずつ良くなっている」と喜んでいるのに対して、その他の多くの人々は「ぜんぜん景気は良くなっていない」とあきらめてしまっていたのです。
アベノミクスの失速を消費税増税にあると主張している人々は、そもそもとして、2013年、あるいは2013年度の1年間のGDPは、安倍政権が消費税増税を行う経済環境を整えるためにつくられた数字であるということを無視してしまっています。
安倍政権は国民から増税に対する批判を受けないように、公共投資を大幅に増額したのですし、政権発足後の最初の2年間で、合計18兆円以上もの大型の補正予算を編成したのです。
もし、安倍政権が初めから消費税増税を行わないという決定をしていたのであれば、公共投資の大幅な増額はしなかったし、大型の補正予算を行う強い動機も持たなかったと考えるのが自然なのではないでしょうか。
そのように考えると、たとえ当初から消費税増税を行わないと決めていたとしても、円安に伴う実質賃金の下落によって、2014年からの景気低迷は避けられなかったと考えることができるわけです。
民主党時代もひどかったが、実質賃金はプラスだった
マスメディアで、いい加減な情報が跋扈しているなかで、本当にアベノミクスが成功しているのか否かを見極めるためには、アベノミクスが本格的に始動した2013年以降の実質賃金と、それ以前の実質賃金の推移を比べるのが、いちばん正しい方法であると考えられます。
そこで、アベノミクスが始まる前の2010年~2012年の3年間、すなわち民主党政権時代の実質賃金はどうだったのかというと、2010年が1.3%増、2011年が0.1%増、2012年が0.7%減となり、結果的には実質賃金は0.6%増となっています。
正直言って、民主党政権時代の経済政策は目も当てられないほどひどかったのですが、それでも安倍政権下での2013年の実質賃金が0.5%減、2014年が2.7%減(1月~11月の数字)となり、暫定的ながら2年間の成果が3.1%減となっていることを考えると、アベノミクスがあまりにも筋が悪すぎる政策であったことが露見してしまったのです。
この減少率は、リーマンショック後以来の大きさです。ただし、私は「安倍首相は本当に運がいい人だ」と思っています。
原油価格の急落は、アベノミクスによる景気低迷や国民生活の痛みを緩和してくれるだけでなく、アベノミクスの失敗から政権が退陣に追い込まれるリスクまでも軽減してくれるからです。この件については、また別の機会にでも話したいと思います。
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