前にISIS、後ろに通貨暴落
2014-12-19

国債を日銀が買い取り、過剰流動性を供給するが需要が無いためブタ積みと投機、ドル資産に流れるのみ。
前門のイスラム国、後門の財政破綻 安倍長期政権を待ち受ける死活問題 12/18 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
「この道しかない」。安倍首相はアベノミクスを前面に押し立て総選挙に臨み、これから4年間の信任を得た。
憲法改正を視野に長期政権を目指す首相の前には数々の難題が待ち受ける。日本の政界では敵なしでも、経済や国際政治の現場は容赦ない。
シナリオが狂ったアベノミクスにどう始末をつけるのか。
さらに手ごわいのはイスラム国だ。米国が地上戦に踏み切った時、日本の命運が問われる。
対イスラム国で協力を求められたら
この二年間で安倍政権の性格を鮮明にしたのが集団的自衛権を合憲としたことだろう。
憲法9条がある以上認められないとするこれまでの解釈を覆した。次のステップは憲法改正であるという指針を鮮明にした。
強引な手法で目指すところは米国との同盟強化である。隣国の中国と緊張関係を高め、米国の後ろ盾で対抗する。
この姿勢はこれまで「極東」に限定していた日米安保条約の対象地域を「世界」に広げる結果となった。
集団的自衛権を踏まえて変更される日米防衛協力のガイドラインの見直しも、与党が3分の2超を占める国会は難なく通すだろう。
防衛協力は制度として強化される。次は行動が問われる。
米国にとって最大の懸案はイスラム国とロシアである。
弱腰と非難を受けるオバマ政権はイスラム国に強硬姿勢で臨む構えだ。
空爆には限界がある。地上戦は時間の問題とされる。戦いにはすでに多くの国が参加している。
協力を求められた時、日本はどうするのか。
閣議決定で決めた集団的自衛権には「三要件」が付けられた。(1)我が国に対する急迫不正の侵害、(2)他の適当な手段がない、(3)必要最小限度の実力行使、である。この三要件がある限りイスラム国への武力行使に参加できない、というのが政府の考えだ。
その通りに行くだろうか。戦闘の参加できなくても、後方支援という協力がある。
イラク攻撃の時、日本は輸送機による兵員輸送や艦船への給油、サマワでの給水事業など後方での支援に参加した。今度は自ら集団的自衛権に加わりながら、安倍首相は米国に「何もできません」と言えるだろうか。小泉首相はブッシュ大統領に頼まれ「自衛隊のいるところは非戦闘地域」という珍妙な説明で自衛隊を派遣した。
後方支援でもイスラム国と闘う有志連合に日本は加わることになる。
イラクと違い、イスラム国の戦闘員は世界各地に潜んでいる。後方支援すれば自衛隊は標的にされるだろう。
大使館など世界各地の日本の施設が狙われるかもしれない。
「私が安倍さんの立場なら後方支援に自衛隊を出すでしょうね」
外務官僚だった孫埼亨氏はいう。
イスラム国との戦闘は後方支援でも危険だ。自衛隊員に犠牲者が出たら、日本の世論は武力攻撃へと傾くのではないか。
日本人が狙われる事態になったら三要件など吹っ飛びかねない。
それこそ安倍政権の狙い、と孫埼氏は言う。
日本は欧州や米国のように中東で手を汚していない。
中東を傍観するゆとりのある国だが、後方支援に参加すれば当事者となる。
集団的自衛権で米国との同盟が強化され、空文化された憲法の精神は立ち枯れる。
圧倒的戦力を投入すればイスラム国を蹴散らすことは容易だろう。
だがそれは火種を世界にばらまくだけだ。
世界の覇権構造、先進国に蹂躙された中東の歴史、市場経済がもたらす格差・貧困、石油権益、宗教対立。
世界の矛盾を煮詰めたようなイスラム国の存在は、武力では解決しない。
イラクでもアフガニスタンでもそうだった。
戦火がくすぶる中で米国の次期大統領選が動き出す。共和党大統領でも誕生したら安倍政権は要請を断れないだろう。
外遊好きの首相は行く先々で「価値観を共有する国家の連帯」を表明する。
その「こころ」は米国を軸とした対中包囲網だが、オバマ政権にその気はない。
そもそも日米は「共通の価値観」だろうか。
民主主義・法治国家・市場経済などお題目を羅列するが、中味はだいぶ違う。
そもそも国柄が根本的に異なる。
米国は「国際紛争を武力で解決する国」。
日本は「国際紛争の解決を武力にもとめない国」と憲法で決めている。
集団的自衛権は日本が「米国の国柄」に染まることではないのか。「イスラム国」にどう対処するか。歴史的選択が安倍政権で問われるだろう。
市場が狙う日本の財政問題
内政の重要課題は財政問題だろう。税と社会保障の一体改革は崩壊寸前だ。
もともと安倍首相は、財務省の描く財政健全化シナリオに懐疑的だ。財政再建は増税より名目GDPの拡大が有効、と考える新自由主義の経済学者がブレーンを占める。
財政再建より目先の景気が重視される。
消費税増税の先送りもこのラインによって決まった。タイミングを合わせたように米国の格付け会社ムーディースは「日本国債の格下げ」を発表した。
日本政府の信用は中国・韓国より下位に落ちた。もう一つの格付け会社フィッチも「格下げの方向で見直す」と表明した。
四半期成長率が4~6月に続き7~9月も二期連続のマイナスになった。
円安株高が進んでも日本経済は回復しない。その結果、増税を先送りせざるを得なくなり、アベノミクスへの冷ややかな評価がウォール街にも浸透している。
投機筋は、日本経済や財政のことを心配しているわけではない。考えているのは市場の次のテーマである。
金融関係者によると「アベノミクスでは儲けさせてもらったが、どうもうまくいっていないようだ」と突き放して見るファンドが少なくないという。
「格下げ」は市場の関心事の反映でもある。次のテーマに日本の財政問題が浮上している、という。
消費税率10%を1年半先延ばししたことで政府が掲げていた「2020年基礎的財政収支黒字化」の目標は絶望的になった。
政府借金1000兆円を抱える財務省は、歳出から国債費(国債の利払い・元本返済)を除いた額を税収など国債以外の財源で賄うことを目指している。
そのためには消費税10%でも足らない。2015年秋に10%にして時間をかけて15%程度まで引き上げを検討していた。
10%税率が2017年になったのでは、さらなる増税を20年までに断行するのは難しくなった、と財務省幹部はいう。
「消費税収入は社会保障に充当」と言いながら安倍政権は景気対策に気前よくカネを使い、膨張財政を支えているのは国債だ。
国債の膨張は金利上昇によって歯止めがかかるとされてきた。そうならないのは日銀が猛然と国債を買い上げているから。
金利は下がり、節度無き国債発行が続いている。
12月14日の日経新聞に日銀の国債保有が600兆円に達した、という記事が載った。
政府が新たに発行する国債の額より、日銀が銀行から買い上げる国債の額が大きい。つまり日銀資産はどんどん膨らむが中味は国債。お札と国債の交換で日本の財政は維持されている。
日銀が輪転機を回して国家の生業を支える「キツネの小判」現象が定着化した。
消費税繰り延べで、黒田日銀総裁が珍しく政権への不満を表明した。「異次元緩和」、「国債大量買い上げ」など危ない橋を渡るのは「財政規律を保つ」という約束があったからだ、というのが黒田総裁の思いだろう。
やめられない量的緩和の先にあるもの
政権の足元で財政を巡る力関係が変わりつつある。財政健全化を叫ぶ財務官僚は遠ざけられ、インフレ政策を主張する側近が力を増している。
今回の解散・総選挙は、アベノミクスを掲げる改革派の首相と、増税に固執する守旧派の官僚の対立から生まれた、という解説が首相周辺からしきりに流された。
財務省が自民党にまで手を回し「増税延期」を封じようとしたから首相は対抗策として解散を決意した、いう筋書だ。安倍の勝利で財務省は力を失う、という。
大統領制の米国ではホワイトハウスの補佐官が行政を統括する。
議会民主制の日本は、首相官邸の力が強まったとはいえ、官僚機構と対立する側近が行政を仕切るのは無理がある。
野党もメディアも抑え、大統領のように振る舞う安倍首相の足元に経済政策を巡り亀裂が生じている。
劇薬のはずだった国債の大量買い上げが、常備薬になったが、金融の量的緩和は永遠に続けることはできない。
米国も10月末に量的緩和を打ち切った(※ 世界に通貨需要のある基軸通貨ドルでさえ、金融緩和の危険性に7年で終了とした。黒田が2年を目処としたのは円の信認限界=暴落限界である)。
日本はその目途さえ語れない。
予定では2015年4月までに黒田日銀は「2%の物価上昇」を達成する約束だが、実現は難しい。量的緩和は引き続き維持されるだろう。
2016年には参議院選挙がある。場合によってはダブル選挙になるかもしれない。
政治の季節に金融緩和をやめるのは至難の業だ。
2017年には消費税が10%になる。本当に増税に踏み切ることができるか定かではないが、いずれにしても景気対策が求められ、緩和打ち切りはここでも難しい。
ずるずると日銀が国債を買う日々が続き、財政節度は霞んでゆく。2020年、宴の後に破局が訪れることを心配する人もいる。
危機の引き金は国内とは限らない。
原油の値下がりはロシアをデフォルトの危機に陥れた。やがて始まる米国の金利上昇がグローバルマネーの逆流を起こすかもしれない。中国はじめ新興国の危機も夢物語ではない。
過剰流動性と呼ばれるマネーの乱流は世界各地で危機を頻発させてきた。
デフレの海に沈みながらGDPの2倍を超える負債を貯めた日本の財政は、世界での図抜けた火薬庫である。火をつけるのはインフレ政策か。投機筋の日本売りか。
「日本の国債は返済できない」と市場に思われた時、皆が寄りかかっているシステムが音をたたて崩れる。
選挙で手にした4年間、首相は地雷原を行く覚悟が必要だろう。
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