アベノミクスは根本から間違い、直ちに円安を抑制すべき:野口
2014-12-13
アベノミクス、最後の博打〜その先に待ち受けるものはなにか
アベノミクスのメカニズムは、「金融緩和を行なう」という宣言によって、円安への投機を煽ることだ。
円安によって輸出産業は潤うが、実体経済は改善していない。
実際は、円安が経済成長率を抑えている。
アベノミクスの失敗を明確に示すGDP改定値 金融緩和政策を根本から見直し、円安を抑制せよ 12/11 野口悠紀雄 ダイヤモンド・オンライン
12月8日に公表されたGDP(国内総生産)第2次速報によれば、2014年7~9月期の実質GDPの対前期比年率換算値はマイナス1.9%となり、第1次速報値のマイナス1.6%より悪化した。
これは、安倍晋三内閣の経済政策の失敗を明確に示すものだ。
以下では、
(1)円安による実質雇用者報酬の減少の影響は、消費税増税の影響より大きいこと、
(2)したがって、現時点でもっとも重要な経済政策は円安の抑制であることを示す。
実質GDP値は、安倍内閣発足時に戻る
法人企業統計による7~9月期の設備投資額は、季節調整済前期比増加率で見て、全産業で3.1%、製造業は9.3%という高い伸び率だった。
このことから、GDP第2次速報値は上方改定され、対前期比がプラスになるのではないかと期待されていた。
しかし、その期待は裏切られた。
GDP統計の実質民間企業設備(設備投資)の対前期比年率換算値は、第1次速報のマイナス0.2%より悪化して、マイナス0.4%となった。公的資本形成(公共事業)も1.4%と、1次速報の2.2%から下方改定された。
7~9月期の実質GDPは、523.8兆円だ。
これは安倍内閣発足直後の、2013年1~3月期の523.9兆円より若干少ない(図表1参照)。
つまり、一時的な需要の伸びによって13年のGDPが増えたものの、7~9月期には元の水準に戻ってしまったわけだ。

ただし、GDPの対前期比にそれほど大きな意味があるとは思えない。
なぜなら、7~9月期の実質GDPの対前期比をマイナスにしている大きな要因は、実質在庫投資が前期比で約2兆円も落ち込んでいることだからだ。これだけで、実質GDPの落ち込み約2.5兆円の過半を占める。
短期的な需要動向の予測で大きく変化する在庫調整の額自体に、それほど重要な意味はない。
重要なのは、個々の需要項目の動きである。なかでも重要なのは、実質消費だ。
以下では、実質消費がなぜ落ち込んでいるのかを検討しよう。
消費を落ち込ませる3つの要因
消費支出は、GDPの約6割を占める。したがって、その動向は、GDPに大きな影響を与える。実質消費が落ち込んでいる原因として、原理的にはつぎの3つのものが考えられる。
(1)消費税増税前の駆け込み需要の剥落と反動(需要前倒しの調整)
(2)消費税増税による落ち込み
(3)円安による消費者物価上昇の影響
実質家計最終消費支出を耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスに分けて推移を見ると、図表2のとおりだ。
自動車、家電製品などの耐久消費財は、リーマンショック後から増加しているが、2012年10~12月期頃から駆け込みで需要が増加している様子が見られる。
そして、14年1~3月期に大きく増えた後、4~6月期に減少している。半耐久財についても、駆け込みの影響が若干見られる。
サービスについては、需要の前倒しは原理的に難しい。
実際の推移を見ると、11年頃まではほぼ一定だったが、11年後半から増加している。
これは、後述のように、実質雇用者報酬が増加したためと考えられる。

円安で実質報酬が頭打ちから減少に
問題は、(2 増税落ち込み)と(3 円安物価上昇)の識別である。
いずれも物価上昇の影響であるが、仮に(2 増税落ち込み)の影響が大きいとすれば、消費税税率の今後の引き上げはすべきでないということになるだろう。
それに対して(3 円安物価上昇)の影響が大きいとすれば、消費者物価上昇を引き起している円安をコントロールすることが重要ということになる。
このように、(2)と(3)のいずれが主要な原因かの識別は、政策判断に大きな影響を与える。
図表3は、実質雇用者報酬(四半期・季節調整系列)の推移を示したものである。リーマンショックで落ち込んだ後、2013年1~3月期までは順調に増加してきた。
ところが、そこでピークに達した後、頭打ちになり、徐々に低下している。
つまり、14年4月の消費税率引き上げ以前から減少しているのである。
これは、円安によって消費者物価が上昇したためだ。
4月に減少したのは消費税増税のためだが、それがなくとも、減少過程に入っていたことに注意が必要である。

本連載の第2回では家計調査を分析したが、GDP統計の分析からも同じ結論が導かれるわけだ。
実質家計最終消費支出の推移は、図表4に示すとおりだ。つぎの2点を除けば、リーマンショックで落ち込んで以降、両者は強く相関している。
第1は、東日本大震災の影響で消費が落ち込んだことだ。
第2は、13年後半以降だ。実質雇用者報酬は減少したのだが、耐久消費財が駆け込み需要で増えたので、実質消費は頭打ちになっただけだ。

消費税の消費削減効果は0.9%未満
以上で述べたのは、「消費税増税前から実質消費が頭打ちになっていた」ということであって、消費税増税による消費削減効果を否定するものではない。
4月以降の消費の減少に消費税増税の影響があることは否定できない。
では、その大きさはどの程度だろうか?
実質家計最終消費支出は、2014年1~3月期から4~6月期の間に5.22%下落している。
しかし、ここには、駆け込み需要の影響で1~3月期の値が通常より増大していることと、4~6月期以降にその反動効果が生じていることの影響がある。
こうした効果がない場合の消費削減率はどの程度だろうか?
それを見るには、実質家計最終消費支出のうち「サービス」を見るのがよい。
なぜなら、これについては、駆け込み需要やその反動がないと考えられるからである。
したがって、14年1~3月期から4~6月期への「サービス」の変化は、消費税増税の影響のみであると考えられる。
その大きさは、0.89%だ。
もちろん、消費税率引き上げが実質消費に与える影響は、消費項目の価格弾力性によって異なる。
生活必需品は価格弾力性が低く、消費税率が引き上げられても、実質消費はあまり削減されない。
それに対してレジャー支出などの裁量的支出は、価格弾力性が高く、消費税率が引き上げられれば、実質消費は大きく削減される。
したがって、サービスの場合の結果を消費一般に拡大することはできない。しかし、データの制約から、ここでは、この値を消費税の消費削減効果と考えることとする。
重要なのは、0.89%という値が、一般に考えられている消費税の消費削減効果よりかなり小さいということだ。
上で見たように、14年1~3月期から4~6月期にかけての家計最終消費支出の減少はこれよりずっと大きいが、それは、前記の(1)、つまり、消費税増税前の駆け込み需要の剥落と反動の影響だと考えられるのである。
このことは、消費税率の2%引き上げの是非に関して重要な意味を持つ。
これまでの駆け込み需要には、2%の引き上げに対応する部分も含まれていたはずである。
したがって、これから2%引き上げるとしても、新たな駆け込み需要が発生することはないと考えられる。
したがって、税率引き上げによる消費削減効果は、前記の(2)、つまり、消費税増税による落ち込みだけであろう。
その大きさは、0.6%(=0.89×2÷3)程度であろうと考えられる。
アベノミクスは経済成長を阻害した
他方で、仮に消費者物価を安定化することができれば、実質所得が増加し、実質消費も増加する。
その効果は、どの程度であろうか?
現実のデータを見ると、実質雇用者報酬は、2011年1~3月期から13年1~3月期までの間に、(※ 2年間に)約2%増加した。
他方、駆け込み需要の影響を受けないと考えられる「サービス」は、同期間に3.75%増加した。
つまり、13年1~3月期までの趨勢が続けば、実質消費は年間2%強の伸びを示すはずなのである。
これは、上で見た消費税による実質消費削減効果よりずっと大きい。
実際には、アベノミクスが、リーマンショック以降続いてきた雇用者報酬の増加を止め、実質消費の増加を止め、それを通じてGDPの成長を止めた。
アベノミクスによって経済成長が促進されているのではなく、逆に阻止されているのだ。
したがって、現時点で最も重要なのは、円安を抑制して、この過程を止めることである。
今後は為替レートと原油価格の動向いかん
現在の政策が続いた場合に経済成長率がどうなるかは、実質消費の動向に大きく影響される。
そして、実質消費がどうなるかは、消費デフレーターの動きによる。
7~9月期のGDPには、その後進展したつぎの2つの要素の影響が現われていない。
第1は、円安の進展だ。
為替レートは9月以降顕著に円安になった。
これは、消費者物価を引き上げ、実質消費を減らすだろう。
第2は、原油価格の下落だ。
このため、円安の影響が緩和されている。
消費デフレーターは、この2つの要因のどちらが強く働くかで決まる。
原油価格下落が続いて消費者物価上昇が緩和されれば、政府日銀の掲げる物価上昇目標の達成は絶望的になる。
しかし、実質消費の減少には歯止めがかかるだろう。
他方、円安がさらに進めば、物価上昇目標には近づくだろうが、実質消費がさらに抑制され、経済成長も抑制されるだろう。
この状況は誠に皮肉なものだ。
政府の目標が達成できれば経済成長率が下がる。
経済成長率が高まるのは、政府の目標が達成できない場合だ。
このようなおかしな結果となるのは、2%の物価目標自体が誤っているからである。この目標は直ちに取り下げるべきだ。
また、金融緩和政策を根本から見直し、円安を抑制すべきだ。
アベノミクスの中核は金融緩和政策である。
それによって金利低下と円安が加速されている。しかし、ここには、つぎの2つの問題がある。
第1は、金利低下をもたらしているメカニズムだ。
金融政策に本来期待されるメカニズムは、「マネタリーベースの増大がマネーストックを増大させ、マネーに対する需給を緩和することにより金利が低下する」というものだ。
しかし、このメカニズムによる金利低下は、現在の日本では実現していない。
マネタリーベースは顕著に増加しているが、マネーストックはほとんど増加していないのである。
金利の低下は、日本銀行が国債を買い支えていることによって直接的に生じている。
それによって国債の市場が大きく歪んでいる。
第2は、円安がもたらす経済効果だ。
本来であれば、金融緩和政策は設備投資と輸出を増大させ、GDPを増大させるはずだ。しかし、そうしたプロセスが生じていない。
円安によって輸出企業の利益が増大し、株価が上昇しているのは事実だ。
だが実体経済に与えている影響は、ここで分析したようなものである。
つまり、消費者物価を引き上げ、雇用者報酬の実質値を下落させることによって実質消費を抑制している。
それによって実質経済成長率が低下しているのである。
アベノミクスのメカニズムは、「金融緩和を行なう」という宣言によって、円安への投機を煽ることだ。
円安によって輸出産業は潤うが、実体経済は改善していない。
実際は、円安が経済成長率を抑えている。
アベノミクスの失敗を明確に示すGDP改定値 金融緩和政策を根本から見直し、円安を抑制せよ 12/11 野口悠紀雄 ダイヤモンド・オンライン
12月8日に公表されたGDP(国内総生産)第2次速報によれば、2014年7~9月期の実質GDPの対前期比年率換算値はマイナス1.9%となり、第1次速報値のマイナス1.6%より悪化した。
これは、安倍晋三内閣の経済政策の失敗を明確に示すものだ。
以下では、
(1)円安による実質雇用者報酬の減少の影響は、消費税増税の影響より大きいこと、
(2)したがって、現時点でもっとも重要な経済政策は円安の抑制であることを示す。
実質GDP値は、安倍内閣発足時に戻る
法人企業統計による7~9月期の設備投資額は、季節調整済前期比増加率で見て、全産業で3.1%、製造業は9.3%という高い伸び率だった。
このことから、GDP第2次速報値は上方改定され、対前期比がプラスになるのではないかと期待されていた。
しかし、その期待は裏切られた。
GDP統計の実質民間企業設備(設備投資)の対前期比年率換算値は、第1次速報のマイナス0.2%より悪化して、マイナス0.4%となった。公的資本形成(公共事業)も1.4%と、1次速報の2.2%から下方改定された。
7~9月期の実質GDPは、523.8兆円だ。
これは安倍内閣発足直後の、2013年1~3月期の523.9兆円より若干少ない(図表1参照)。
つまり、一時的な需要の伸びによって13年のGDPが増えたものの、7~9月期には元の水準に戻ってしまったわけだ。

ただし、GDPの対前期比にそれほど大きな意味があるとは思えない。
なぜなら、7~9月期の実質GDPの対前期比をマイナスにしている大きな要因は、実質在庫投資が前期比で約2兆円も落ち込んでいることだからだ。これだけで、実質GDPの落ち込み約2.5兆円の過半を占める。
短期的な需要動向の予測で大きく変化する在庫調整の額自体に、それほど重要な意味はない。
重要なのは、個々の需要項目の動きである。なかでも重要なのは、実質消費だ。
以下では、実質消費がなぜ落ち込んでいるのかを検討しよう。
消費を落ち込ませる3つの要因
消費支出は、GDPの約6割を占める。したがって、その動向は、GDPに大きな影響を与える。実質消費が落ち込んでいる原因として、原理的にはつぎの3つのものが考えられる。
(1)消費税増税前の駆け込み需要の剥落と反動(需要前倒しの調整)
(2)消費税増税による落ち込み
(3)円安による消費者物価上昇の影響
実質家計最終消費支出を耐久財、半耐久財、非耐久財、サービスに分けて推移を見ると、図表2のとおりだ。
自動車、家電製品などの耐久消費財は、リーマンショック後から増加しているが、2012年10~12月期頃から駆け込みで需要が増加している様子が見られる。
そして、14年1~3月期に大きく増えた後、4~6月期に減少している。半耐久財についても、駆け込みの影響が若干見られる。
サービスについては、需要の前倒しは原理的に難しい。
実際の推移を見ると、11年頃まではほぼ一定だったが、11年後半から増加している。
これは、後述のように、実質雇用者報酬が増加したためと考えられる。

円安で実質報酬が頭打ちから減少に
問題は、(2 増税落ち込み)と(3 円安物価上昇)の識別である。
いずれも物価上昇の影響であるが、仮に(2 増税落ち込み)の影響が大きいとすれば、消費税税率の今後の引き上げはすべきでないということになるだろう。
それに対して(3 円安物価上昇)の影響が大きいとすれば、消費者物価上昇を引き起している円安をコントロールすることが重要ということになる。
このように、(2)と(3)のいずれが主要な原因かの識別は、政策判断に大きな影響を与える。
図表3は、実質雇用者報酬(四半期・季節調整系列)の推移を示したものである。リーマンショックで落ち込んだ後、2013年1~3月期までは順調に増加してきた。
ところが、そこでピークに達した後、頭打ちになり、徐々に低下している。
つまり、14年4月の消費税率引き上げ以前から減少しているのである。
これは、円安によって消費者物価が上昇したためだ。
4月に減少したのは消費税増税のためだが、それがなくとも、減少過程に入っていたことに注意が必要である。

本連載の第2回では家計調査を分析したが、GDP統計の分析からも同じ結論が導かれるわけだ。
実質家計最終消費支出の推移は、図表4に示すとおりだ。つぎの2点を除けば、リーマンショックで落ち込んで以降、両者は強く相関している。
第1は、東日本大震災の影響で消費が落ち込んだことだ。
第2は、13年後半以降だ。実質雇用者報酬は減少したのだが、耐久消費財が駆け込み需要で増えたので、実質消費は頭打ちになっただけだ。

消費税の消費削減効果は0.9%未満
以上で述べたのは、「消費税増税前から実質消費が頭打ちになっていた」ということであって、消費税増税による消費削減効果を否定するものではない。
4月以降の消費の減少に消費税増税の影響があることは否定できない。
では、その大きさはどの程度だろうか?
実質家計最終消費支出は、2014年1~3月期から4~6月期の間に5.22%下落している。
しかし、ここには、駆け込み需要の影響で1~3月期の値が通常より増大していることと、4~6月期以降にその反動効果が生じていることの影響がある。
こうした効果がない場合の消費削減率はどの程度だろうか?
それを見るには、実質家計最終消費支出のうち「サービス」を見るのがよい。
なぜなら、これについては、駆け込み需要やその反動がないと考えられるからである。
したがって、14年1~3月期から4~6月期への「サービス」の変化は、消費税増税の影響のみであると考えられる。
その大きさは、0.89%だ。
もちろん、消費税率引き上げが実質消費に与える影響は、消費項目の価格弾力性によって異なる。
生活必需品は価格弾力性が低く、消費税率が引き上げられても、実質消費はあまり削減されない。
それに対してレジャー支出などの裁量的支出は、価格弾力性が高く、消費税率が引き上げられれば、実質消費は大きく削減される。
したがって、サービスの場合の結果を消費一般に拡大することはできない。しかし、データの制約から、ここでは、この値を消費税の消費削減効果と考えることとする。
重要なのは、0.89%という値が、一般に考えられている消費税の消費削減効果よりかなり小さいということだ。
上で見たように、14年1~3月期から4~6月期にかけての家計最終消費支出の減少はこれよりずっと大きいが、それは、前記の(1)、つまり、消費税増税前の駆け込み需要の剥落と反動の影響だと考えられるのである。
このことは、消費税率の2%引き上げの是非に関して重要な意味を持つ。
これまでの駆け込み需要には、2%の引き上げに対応する部分も含まれていたはずである。
したがって、これから2%引き上げるとしても、新たな駆け込み需要が発生することはないと考えられる。
したがって、税率引き上げによる消費削減効果は、前記の(2)、つまり、消費税増税による落ち込みだけであろう。
その大きさは、0.6%(=0.89×2÷3)程度であろうと考えられる。
アベノミクスは経済成長を阻害した
他方で、仮に消費者物価を安定化することができれば、実質所得が増加し、実質消費も増加する。
その効果は、どの程度であろうか?
現実のデータを見ると、実質雇用者報酬は、2011年1~3月期から13年1~3月期までの間に、(※ 2年間に)約2%増加した。
他方、駆け込み需要の影響を受けないと考えられる「サービス」は、同期間に3.75%増加した。
つまり、13年1~3月期までの趨勢が続けば、実質消費は年間2%強の伸びを示すはずなのである。
これは、上で見た消費税による実質消費削減効果よりずっと大きい。
実際には、アベノミクスが、リーマンショック以降続いてきた雇用者報酬の増加を止め、実質消費の増加を止め、それを通じてGDPの成長を止めた。
アベノミクスによって経済成長が促進されているのではなく、逆に阻止されているのだ。
したがって、現時点で最も重要なのは、円安を抑制して、この過程を止めることである。
今後は為替レートと原油価格の動向いかん
現在の政策が続いた場合に経済成長率がどうなるかは、実質消費の動向に大きく影響される。
そして、実質消費がどうなるかは、消費デフレーターの動きによる。
7~9月期のGDPには、その後進展したつぎの2つの要素の影響が現われていない。
第1は、円安の進展だ。
為替レートは9月以降顕著に円安になった。
これは、消費者物価を引き上げ、実質消費を減らすだろう。
第2は、原油価格の下落だ。
このため、円安の影響が緩和されている。
消費デフレーターは、この2つの要因のどちらが強く働くかで決まる。
原油価格下落が続いて消費者物価上昇が緩和されれば、政府日銀の掲げる物価上昇目標の達成は絶望的になる。
しかし、実質消費の減少には歯止めがかかるだろう。
他方、円安がさらに進めば、物価上昇目標には近づくだろうが、実質消費がさらに抑制され、経済成長も抑制されるだろう。
この状況は誠に皮肉なものだ。
政府の目標が達成できれば経済成長率が下がる。
経済成長率が高まるのは、政府の目標が達成できない場合だ。
このようなおかしな結果となるのは、2%の物価目標自体が誤っているからである。この目標は直ちに取り下げるべきだ。
また、金融緩和政策を根本から見直し、円安を抑制すべきだ。
アベノミクスの中核は金融緩和政策である。
それによって金利低下と円安が加速されている。しかし、ここには、つぎの2つの問題がある。
第1は、金利低下をもたらしているメカニズムだ。
金融政策に本来期待されるメカニズムは、「マネタリーベースの増大がマネーストックを増大させ、マネーに対する需給を緩和することにより金利が低下する」というものだ。
しかし、このメカニズムによる金利低下は、現在の日本では実現していない。
マネタリーベースは顕著に増加しているが、マネーストックはほとんど増加していないのである。
金利の低下は、日本銀行が国債を買い支えていることによって直接的に生じている。
それによって国債の市場が大きく歪んでいる。
第2は、円安がもたらす経済効果だ。
本来であれば、金融緩和政策は設備投資と輸出を増大させ、GDPを増大させるはずだ。しかし、そうしたプロセスが生じていない。
円安によって輸出企業の利益が増大し、株価が上昇しているのは事実だ。
だが実体経済に与えている影響は、ここで分析したようなものである。
つまり、消費者物価を引き上げ、雇用者報酬の実質値を下落させることによって実質消費を抑制している。
それによって実質経済成長率が低下しているのである。
- 関連記事
-
- ロシアの資本規制、株も為替も国際資本の賭場になっているのを規制するべき (2014/12/30)
- 進む貧困が虐待と差別を生む、暴力のジャングルへ向かう日本 (2014/12/29)
- 企業や家計にとって朗報の原油安を 円安で打ち消す日銀の奇怪:野口 (2014/12/26)
- 他人事でないルーブル暴落、日本の場合は悲惨なことになる (2014/12/18)
- 不況と円安地獄、円の実質実効価値は1ドル265円当時に下がっている (2014/12/15)
- アベノミクスは根本から間違い、直ちに円安を抑制すべき:野口 (2014/12/13)
- 同時に加速する消費デフレと輸入インフレ、株価も来年は崩壊、 (2014/12/11)
- さらに下方修正された7~9月期GDP、マイナス1.9% (2014/12/09)
- 同一労働、同一賃金を阻害している「企業内昇進奴隷制」 (2014/12/06)
- アベノミクスのせいで国民は豊かになれない:中原 (2014/12/02)
- 年内選挙、来年は経済生活の崩壊と集団的自衛権行使 (2014/11/28)
コメント
アベノミクス・・・
コメントの投稿
トラックバック
この記事へのトラックバックURL
http://bator.blog14.fc2.com/tb.php/2567-8e87d708
円安の弊害・・・
ふむふむ(ー`´ー)