国際決済通貨ということ、通貨の減価、増価ということ
2014-08-28

ウクライナ紛争を契機にロシアを追い込むため、米英は欧州と共に経済制裁を加えている。
このことがロシアをドル離れ、ユーロ離れに追い込み、ロシアとBRICS、南米諸国との協調に進むことで、中国人民元の国際通貨化を一段と早めている。
人民元の国際通貨化の進展と日本の円安政策は、非常に日本に不利な状況となるだろう。
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人民元が国際化する意味 8/26 闇株新聞 (※ )は北風の補足注釈。
米国とEUがロシアに対する経済・金融制裁を強化した結果、ロシア企業が対外取引の決済通貨や手元に確保しておく通貨を、ドルやユーロから香港ドルや人民元に変更している可能性があります。
ロシアに対する経済・金融制裁とは、米国とEUの銀行がロシア企業と取引することを禁じるため、当然に(すべてではありませんが)ロシア企業はドルとユーロの資金決済ができず、ドルとユーロを調達することもできず、最悪の場合は保有しているドルとユーロを凍結される恐れまであります。
ドルとユーロの資金決済ができないと、ロシア企業が例えば天然ガスをEUに輸出しても代金(ドルやユーロ)を支払ってもらえません。
またロシア企業が欧米から製品を輸入しても、その代金(ドルやユーロ)を支払うことも一時的に調達することもできません。
こうなるとロシア企業は外貨(ドルやユーロ)を手元に確保しておく必要もなくなり、ひいてはロシアも外貨準備をドルやユーロにしておく必要もなくなります。
直近のロシアの外貨準備は4750億ドルほどあります。
まずロシア企業が保有するドルやユーロを大量に香港ドルに交換しているようです。
香港ドルは1ドル=7.75~7.85香港ドルの範囲内に収まるように香港金融管理局が介入していますが、
ちょうどロシアへの経済制裁が始まった7月以降、連日の香港ドル売り・米ドル買い介入を繰り返しています。
つまりロシアが大量の米ドル売り・香港ドル買いを持ち込んでいることになります。
最近、香港の株価指数のハンセンが上昇しているのは、ロシアからの資金流入が理由と考えられます。
(※ この行については著者が翌日訂正。ロシアのドル売り香港ドル買いは、香港ドルがドルペッグしている以上は差し引き資金流入にならない。ゆえにハンセン株価指数の上昇はロシアの香港ドル買いが主因ではない。)
人民元は中国人民銀行が厳しい為替管理を行い、建前では実需以外の為替取引を禁じているため、ロシアが単純に米ドル売り・人民元買いを持ち込んでいることはなさそうです。
その代わりにロシアから中国に輸出している天然ガスや天然資源の代金決済を、ドル建てから人民元建てに変更しようとしています。
ロシアもドルやユーロが受け取れないなら人民元ででも決済しようと考え、中国は天然ガスや天然資源の輸入代金を紙切れ(人民元)で支払えることになります。
中国は近年、エネルギーや天然資源を大量に輸入する中東や中南米や豪州に対し、人民元での決済比率を引き上げるように申し入れ、直近では人民元決済比率が中東で58%、中南米で66%、豪州でも23%まで引き上がっています。
つまり中国はすでにエネルギーや天然資源の輸入代金を紙切れ(人民元)で支払っており、今般のロシアに対する経済・金融制裁のおかげで、ロシアにも紙切れ(人民元)で支払うようになります。
各国に輸入代金として紙切れ(人民元)を支払うと、各国は受け取った紙切れ(人民元)を手元に置き、銀行に預金し(銀行で換金しても人民元は銀行に留まります)、今度はその運用として中国国債や、より有利な(有利にみえるだけですが)理財商品などの別の紙切れに投資し、中国経済を豊かにすることになります。
まさに基軸通貨・ドルが米国にもたらす特権を、国際通貨となった人民元が中国にもたらすことになります。
実は、これこそ日本が最優先で取り組むべき「国策」だったはずです。
円が国際化して決済通貨となれば、例えば原油の輸入代金を円で支払うと円安で輸入代金が膨らむこともなく、何よりも紙切れ(円)で原油が買えることになります。
そして輸入代金として受けとった円を各国が保有していれば、その運用手段として日本の国債が自然に海外で消化されることになります。
アベノミクス開始前の円高の間に、本誌は円を国際化する必要性を「いやっと」いうほど主張していました。
ところがアベノミクスとは「円の価値を自ら毀損する政策」のため、その瞬間に円が国際化するチャンスは消滅してしまいました。
値下がりする通貨(円)を好んで決済通貨にする国(企業)はなく、値下がりする通貨(円)建ての国債を好んで保有する国(投資家)もいません。
アベノミクスはこれだけでも大いに国策を損ねたのです。
その隙にいつのまにか共産主義であるはずの中国政府が、そのメリットをしっかりと認識して実践しているのです。
日本円が国際化しない意味
昨日付け「人民元が国際化する意味」の続編ですが、その昨日の記事に正確ではない部分がありましたのでお詫びして訂正させていただきます。
ロシアが大量の米ドル売り・香港ドル買いを持ち込んでおり、それがハンセン指数を押し上げていると書いたのですが、香港上海銀行など香港の発券銀行がロシアの香港ドル買いに応じて香港ドルを発行すると必ずそれに見合う米ドルを買い入れなければならず、計算上はロシアが売却した米ドルを買い入れるため差し引きでは香港に資金は流入していません。
つまりそれでハンセン指数が上昇していたわけではありません。
さて本題ですが、自国通貨が国際化する(基軸通貨化するともいいます)意味を考えてみましょう。
実物資産である金(きん)と同じように、ドルは国際通貨(基軸通貨)として世界中で抵抗なく受け取られ、交換され、保管(貯蓄)されています。
つまり世界中どこでも単なる紙切れであるドルの価値が疑われていないことになります。
ドル高になるかドル安になるかは全く違った概念です。
(※ 米ドルは概ね十数年前後で購買力が半分程度になっているが、これは通貨の「価格」であることに注意。
国際決済通貨としての流通し、保存されるという性質維持の価値自体には変わりがないということ。
また、緩慢な下落を作り出すのは、世界覇権国とその基軸通貨であることから、世界にドルを流通させ還流させる循環が絶えず流動性の増加に結びついているからである。
つまり、米国への資金蓄積のために、FRBは常に需要を超えるドルを発行し世界に供給してきたことの証左である。)
このドルはFRBの永久債務であり(※ ながら)、FRBは償還(返還)義務がありません。
確かにFRBの資産には米国債やMBS(住宅ローン担保証券)がありますが、別にドルを持っていても担保の住宅を引き渡してくれるわけではなく、要するに「紙切れ」です。
(※ このことは世界の中銀や政府が発行する担保なき不換紙幣の共通特性。
FRBや日銀が国債を買って通貨を供給しているのは金利も償還も配当も無い無担保証券に切り替える行為。
そのままでは通貨価値が危険になるので、経済が安定の方向性の見えた時点からは、買って保留した国債などを売って流動性を吸い上げるが、いわゆる「出口戦略」が必須となるが、これは極めて困難。
円は国際決済通貨ではないので、国外に流通の余裕がなく、国債などを放出しても買い手がいない。金利の暴騰を招くのみ。
円の場合は不可能である。)
「そりゃ米国だから大丈夫だよ」と世界中が納得しているだけです。
昨年4月に出版した「闇株新聞 the Book」には、もう少し理論的に解説してあります。
最近はさすがにドルだけだと不安なので「一部はユーロにしよう」となり、ユーロもドルに次ぐ国際通貨(基軸通貨)となりましたが、間違ってもアルゼンチン・ペソやブラジル・レアルやトルコ・リラなどは国際通貨とはなりません。
誰もその価値を(あるいはその価値が維持されることを)信用していないからです。
それでも日本ではブラジル・レアル建てやトルコ・リラ建てなどの投資信託が溢れかえっています。
販売している証券会社や銀行(それもメガバンク)の常識が「世界標準から大きく遊離している」ことになります。
自国通貨が国際通貨(基軸通貨)であることのメリットは、世界中から財やサービスを「紙切れ」で買えることですが、同時に世界中にその「紙切れ」が蓄積されることになり、その運用のために自国の国債も世界中で買われます。
国債ももちろん「紙切れ」です。
つまり自国通貨が国際通貨(基軸通貨)となるメリットは計り知れないことになります。
中国は1994年に人民元をドルに対して大幅に切り下げ(1ドル=5.4人民元から8.7人民元に)そこからドルに実質固定し、2005年からドルに対して緩やかに切り上げました。
本年に入って少し方針変更したようですが「人民元は確実に値上がりするもの」とのイメージを世界に植え付けました。
(※ 人民元が通貨の減価を抑止するのは非常に古くからの伝統である。
解放区内の流通通貨として始まった人民元は流通需要を超えて増発しないことが鉄則であった。(当然
ながら増発、下落は死に直結する。)
国民党が紙幣を乱発し、絶えず減価を続けたにも関わらず、人民元は耐えぬいて通貨の購買力を維持した。
国共内戦時代から日本の敗北、いったん国民党軍が解放区以外の全土を制圧するが、逆に流通通貨の信用は人民元が圧倒しており、共産党軍は反攻からわずか2年で国民党軍を台湾に駆逐する。
現在の市場経済においても、金融機関の貸出しは預金量に対して半分程度に規制されている。
理財商品なる闇の与信がなされている(現金準備不足事件)が、概ねでは他国に類を見ないほどに人民銀行の通貨管理が徹底的に流通量を制御していると考えられる。
不換紙幣はなんの担保もないので、常に通貨の流通需要量に合わせることが基本である。端的に言えば経済成長に合わせた流動性供給である。
一般的には、物的供給不足の場合は流動性を多く供給した分が生産投資にまわりその分が経済成長すると考えられるが、物的需要不足の場合は過剰分はインフレとなり、循環恐慌に繋がる。
ドルは基軸通貨だが、通貨において国内流通需要のみの日銀がしている量的緩和は、成功しても失敗しても極めて危険な行為である。)
そして近年は、昨日も書いたように原油や天然資源を大量に輸入する中東や中南米や豪州に「人民元で受け取れ」とゴリ押しして認めさせ、最近もロシアへの経済制裁の隙をついてロシアからの天然ガスも人民元で決済しようとしています。
中国政府も人民元の国際化(基軸通貨化)のために、このような努力をしているのです。
それでは、最近は貿易赤字が定着し、国債残高が膨らみ続ける日本では、円の国際通貨化(基軸通貨化)は最優先で取り組むべき「国家プロジェクト」のはずです。
しかしマネタリーベースを再現なく膨らませて円の価値を毀損させる金融政策を続ける国の通貨(円)が世界中で喜んで受け入れられるはずがなく、同じ円建ての日本国債が世界中で買われるはずがありません。
日本国債の利回りが低いことは問題ではありません。
2%の物価上昇目標も円の価値を2%ずつ減価させる政策に外ならず、円の国際化を妨げます。
だったら「円を毎年2%ずつ上昇させる」とでも宣言すれば、世界中から日本国債が買われるはずで、弊害が目立つ日銀「異次元」量的緩和などは必要がなくなります。
円はせっかく2年前の70円台から100円台まで円安となっているので、ここから年間2%くらい円高になってもまだまだ円安です。
円安でも貿易収支が改善するわけではなく、むしろ円高と円の国際化のメリットを考えるべき時期に来ています。
円安になると株高になるというのも決して健全な考え方ではなく、長い目で見れば緩やかな円高こそ外国人投資家の日本株買いを増やすような気がします。
誰も指摘しませんが、「異次元」量的緩和を含むアベノミクスは、見直すべきタイミングに来ているのです。
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コメント
実体経済の実需と投機の違い
> 輸入代金として受けとった円を各国が保有していれば、その運用手段として日本の国債が自然に海外で消化されることになります。」
通貨取引は貿易などの実需(実体経済と)と投機で交際されていますが、少しでも長い目で見るならば、実際の国民経済に影響するのは実需です。
実体経済としての貿易代金などは投機などのように有利な対象があるからといって短期に対象が変わることは少ない。何故なら、輸出入は相手国との産業構造的な組み合わせによるので、短期にはあまり変わらないためです。
つまりここでは投機市場としての通貨移動ではなく、貿易など実体経済上の通貨移動をいっているわけです。
「輸入代金として受け取った円」は通常多くは現地通貨に変えられ、その国の政府の外貨準備となり、少しが企業の外貨準備となります。
通貨ですから、いずれも金利も付かなければ、償還期もありません。
ので、当該通貨建ての当該国国債に転換して外貨準備とするわけです。
一般的には、通常こうした外貨準備を投機運用にはリスク負担が大きいので、できません。
通貨取引は貿易などの実需(実体経済と)と投機で交際されていますが、少しでも長い目で見るならば、実際の国民経済に影響するのは実需です。
実体経済としての貿易代金などは投機などのように有利な対象があるからといって短期に対象が変わることは少ない。何故なら、輸出入は相手国との産業構造的な組み合わせによるので、短期にはあまり変わらないためです。
つまりここでは投機市場としての通貨移動ではなく、貿易など実体経済上の通貨移動をいっているわけです。
「輸入代金として受け取った円」は通常多くは現地通貨に変えられ、その国の政府の外貨準備となり、少しが企業の外貨準備となります。
通貨ですから、いずれも金利も付かなければ、償還期もありません。
ので、当該通貨建ての当該国国債に転換して外貨準備とするわけです。
一般的には、通常こうした外貨準備を投機運用にはリスク負担が大きいので、できません。
補足です
世界に類を見ないほどの「売れない米国債」を抱え込んでいる日本と、「売れる米国債」を持つ中国を除くと、先進各国がもつ外貨準備は驚くほどのわずかです。
本来、貿易決済に足りればそれで良いからです。
中国が巨額の米国債をもつのは人民元の対ドル固定価格を維持するために、貿易代金のドルを常に政府が吸い上げているためです。
日本は米国の財政を支えているためです。
方や大ぴらに、方やこっそりと、対外援助や通貨基金などに使っていますが、世界的にはまれな例と言って良いでしょう。
決して得にならないやり方です。
それよりも自国通貨を決済に使うほうが準国際通貨として、本文で述べたようにはるかな利益が得られます。
それが本文の主張です。
闇株新聞氏も私も、ここでの論旨は通貨の国際価値と決済性の原理の指摘です。
本来、貿易決済に足りればそれで良いからです。
中国が巨額の米国債をもつのは人民元の対ドル固定価格を維持するために、貿易代金のドルを常に政府が吸い上げているためです。
日本は米国の財政を支えているためです。
方や大ぴらに、方やこっそりと、対外援助や通貨基金などに使っていますが、世界的にはまれな例と言って良いでしょう。
決して得にならないやり方です。
それよりも自国通貨を決済に使うほうが準国際通貨として、本文で述べたようにはるかな利益が得られます。
それが本文の主張です。
闇株新聞氏も私も、ここでの論旨は通貨の国際価値と決済性の原理の指摘です。
どうも有難う御座います。理解ができました。
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の部分の理由が良く分からないです。
円で受け取ったからといってそれがそのまま円での運用に繋がるとはとは限らないのではないでしょうか。
他の国に魅力的な投資対象があればマネーをそっちに向かう筈なのでは。。。