覆面座談会、カモネギ年金に食らいつく肉食獣
2014-07-24

国際金融資本の魔窟
【覆面座談会】矛盾を突いて食い尽くす これが投資銀行の本性 週間ダイヤモンド 2014年7月26日号
グローバル規制強化のあおりで大量リストラ、はたまた年金への過剰接待問題まで……。日本でも逆風にさらされている外資系投資銀行。中で働く人たちは現状をどのように眺めているのか。タブーなしに本音を語ってもらった。
【出席者プロフィール】
A氏 50代。米系、欧州系を問わず複数の外資系投資銀行で勤務経験あり。
B氏 40代。米系、欧州系を問わず複数の外資系投資銀行で勤務経験あり。
C氏 40代。欧州系投資銀行に勤務。
D氏 30代。米系投資銀行に勤務
──英バークレイズやドイツ銀行などのリストラもあったせいか、東京支店でも外資系投資銀行業界には暗鬱とした空気が漂っていますね。
A氏 最近笑ったのは、フジテレビのドラマ「ファースト・クラス」(2014年4~6月放送)。
ウェブ公開してるショートドラマの中で、外資系金融の「2億円トレーダー」との合コンの話が何度も出てくるんだけど、だいたいこういうふうに扱われるころが業界のピークですよね。
B氏 実際はトレーディング業務自体、今や規制強化とマクロ環境悪化のダブルパンチで下火ですから。
C氏 全盛期は2000年代で、リーマンショックまで。あのころの投資銀行は史上空前のバブルで、あんな時代は未来永劫来ないでしょう。
B氏 もともと投資銀行は自己勘定でリスクを取るトレーディングサイドが主導してきたんだけど、対顧客のディストリビューション(金融商品の販売)側の主導に変わっていったのは2000年以降の特徴。
低金利の運用難で、それだけ世界的に高利回り、かつオーダーメードの仕組債に対するニーズが爆発したから、投資銀行も営業主導でもうかるような構造に変わっていったんだよね。
A氏 中でも日本は世界で最初に低金利時代に突入して、過剰貯蓄の運用難が問題になったから、仕組債に対するニーズが高かった。
東京支店は特にそういう“毒薬”みたいな商品を売りさばく最前線。
米ゴールドマン・サックスもドイチェも本国のトップは営業出身者だけど、昔では考えられない話だよ。
C氏 ゼロ金利になって運用難が表面化する以前から、各省庁傘下の公的年金は独自に高い予定利率で運用していたから、最初に仕組債に手を染めざるを得なくなった。
いわゆるティーチャーズ(教職員共済)とか警察共済とか、運用担当者に運用の能力もないのに兆円単位の資金を抱えて、利回りが足りなくてのたうち回っていたので、仕組債をどんどん打ち込まれていったの。
B氏 ウソのような本当の話なんだけど、警察共済なんて営業に行くと元警察官が出てきて、「本官は、異動してきたばかりでして、よく分からないのでよろしくお願いします!」って言われてあぜんとしたもん。
ほ、本官って(笑)。
ぼったくりバーに無防備に入って、「じゃあ、取りあえずビールください」「5000円です」って言われても気付かないようなものですよ。
A氏 正直に言うと、最近、年金基金への過剰接待で捕まったドイチェの越後さんなんて本当にかわいそう。最後の搾りカスみたいなところで頑張ってたんだから。
B氏 最近問題になっているのは、年金の3階建ての3階部分(厚生年金基金)。せいぜい1000億円の世界で、規模は大きくないんだよね。
1~2階部分っていう最初の“油田”が投資銀行に掘り尽くされてから、さすがに年金側も「これじゃマズイ」となって、どこもインデックスに連動したパッシブ運用に変わっちゃった。
だから今は、そんな3階部分のところまで降りていって営業するしかない。
A氏 だいたい、この手の年金基金の運用担当者も厚生労働省の天下りで、さっきの警察と同じように運用なんて知らない人がやってるわけ。
こういう楽勝な客を見つけてくるのは、ゴールドマンがうまい。
さすがはカネの匂いに敏感な肉食獣だね。
D氏 過剰接待で金融庁の処分を食らったドイチェからは「もともとはゴールドマンがやっていたことなのに」って恨みつらみが聞こえてきますね。
逆にゴールドマンは、その辺の立ち回りがうまい。
A氏 ゴールドマンとドイチェはレピュテーションリスク管理のレベルが比べものにならなくて、大人と子供くらい違う。
欧州系はもともと商業銀行だから、いわば米系の“コピーバンド”にすぎない。逆に“本家本元”の米系は脇が固い。
B氏 ゴールドマンで働いていると、後ろに目がある感じがするそうですよ。
派閥闘争も激しいというから、いわば相互監視モデルなんでしょうね。
そういう社内環境で鍛え抜かれているから、規制のギリギリを渡っていけるんじゃない?
C氏 逆にドイチェは末端の越後さんが逮捕されて、トカゲのしっぽ切りもいいところ。「私のあずかり知らぬところで」って秘書に押し付けて逃げる、どこかの政治家みたい。
そういう意味では、ドイチェの組織的な問題は、自浄作用がないことかも。
責任者が責任を取らなければ、社内の空気もよどんでしまうのでは。
──キャバクラや高級クラブでの接待だけでなく、女性社員による接待もすごかったと聞きます。
A氏 いわゆる「アマゾネス軍団」。伝説の人たちが結構いるんですよ。
女性の営業担当にね、「世界経済はうんぬん」なんて朝から解説されても、投資家さんも気分悪いでしょ?
C氏 それよりも、「何にも分からなくて……」「ちょっと教えてください」って言ってこられた方が、おじさんは気分がいい。
機関投資家が教えたくなる女性が営業を担当するくらいが、ちょうどいいんだよ。
B氏 重要な機関投資家の情報は投資銀行にとって命。だから、運用担当者に“刺さってる(気に入られている)”女性営業は、各社の争奪戦になってたんです。
C氏 地方銀行とか年金担当の女性営業となると、あえて金融知識はあまり教えない。とにかく“女性を武器”にできる営業が強いから。
もっとも、知識を兼ね備えた女性社員もいましたけどね。
D氏 こないだも接待についていったら、女性営業が某地銀のお偉いさんの膝の上に座ってましたよ(笑)。
とはいえ最近は、そういう光景も随分見なくなってきましたけど。
そもそも注文が来ないから、接待もあまり意味がなくなってきたんです。
A氏 でも、根っこにある需要は今も変わってない。
無理なリターンを求めて無理な運用をしなくちゃいけない年金の需要がある限り、投資銀行にタガをはめても何の解決にもならないよ。
投資銀行はただ、市場のゆがみを見つけて、そこに収益機会を見いだしただけなんだから。
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※ 各国の規制によって逆風にさらされ始めた投資銀行。
一見そのように見えるかもしれないが、なにせ背後は国際金融資本である。
もっと大きな政治を動かし巨大な利益を上げようとしているのが実態だ。
以下にこの覆面座談会を含む週間ダイヤモンドの特集についての、山崎元氏の論評から抜粋を掲載する。
山崎氏にしては珍しく婉曲話法の少ない文章が、氏の特集への反駁を表している。
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呆れるか? 腹が立つか? 働いてみたいか?週刊ダイヤも知らない投資銀行ビジネスの「今」 山崎元 7/26 ダイヤモンド・オンライン
(略)
なお、投資銀行とは何なのかだが、商業銀行のように他人のお金を融資するだけでなく、あるいは純粋なブローカレージ業務の証券会社のように注文をつなぐだけでなく、「自分の手金も投資する金融機関」というくらいの理解で良かろう。
(略)
「代打ち屋」「コーチ屋」に相当?投資銀行マンのビジネスモデル
投資銀行の、より正確に言うと投資銀行マンのビジネスモデルはシンプルだ。「他人にリスクを取らせて、アドバイス料と成功報酬をたっぷり取る」というものだ。
ギャンブルの世界で言うと、「代打ち屋」あるいは「コーチ屋」などに相当する原理のビジネスだ。
リスクを取らせる他人は、年金基金のような投資家やM&Aを行いたい企業のような「顧客」である場合もあるし、投資銀行マンが勤める会社の株主の資本金である場合もある。
投資銀行ビジネスにあっては、資本及び資本家も「カモ」あるいは「搾取」の対象なのだということは覚えておくに値する。
今や資本家が強くて、労働者を搾取するような古典的資本主義の枠組みで金融ビジネスを見ても、起こっていることが正確には理解できない。
投資銀行マンの主な収入源は、仕事で稼いだ利益に応じて支払われる成功報酬的なボーナス(ストックオプションなどである場合もある)だが、この成功報酬は、ファイナンスの世界で言うとオプションの性質を持っており(利益を原資産とするコールオプションだ)、オプションの評価価値はリスク(ボラティリティ)が大きいほど大きくなるので、成功報酬型の報酬システムには、リスクの拡大に対するインセンティブがビルトインされている。
これは頻繁に起こるバブルの主要な原因の1つなのだが、上手く制御する方法がまだ見つかっていない。
リスクをとれる資金が十分あれば 彼らにとって会社はどこでもいい
さて、金主に大きなギャンブルを打たせるほど期待収益が増加する「代打ちギャンブラー」である投資銀行マンにとって、活動する場は必ずしも、あれもこれもが一社の中でできる2000年代前半型の投資銀行のような組織でなくとも良い。
カモが大きなリスクを取ってくれるなら、仕事の器はヘッジファンドでもいいし、M&Aやベンチャーのコンサルティングに自己資金を絡めるブティック型の金融会社でもいい。
(略)
ビジネスの形が変わって金融システムのリスク管理が少々ましになることがあるとしても、無知な顧客、不都合な状況を隠蔽したい顧客、儲けにつながる市場の歪みなどが存在する場合に、金融マンに「カモられる」顧客や資金がなくなるわけではない。
(略)
呆れるか、腹を立てるか、興味を持つか?有識者まで道具に使う投資銀行マンの生命力
では、年金資金に対するビジネスに関して、投資銀行を含む金融ビジネスが、残っているマーケットに満足しているかというと、全くそのようなことはない。
端的にわかる例は、目下話題のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用計画見直しの背景にあった、公的・準公的資金の運用・リスク管理などの高度化などに関する有識者会議の、結論をまとめた報告書だ。
(リンク>http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koutekisikin_unyourisk/houkoku/h251120.pdf)
GPIFの運用する資金は、合計約130兆円に及ぶ1階~2階部分の本体だが、報告書はリスク資産運用の増額、アクティブ運用の採用増、プライベートエクイティなどの新しい運用の採用などを提言している。
要は、現在よりも手数料の高い運用を行えと言っているのだと理解すればいい。
心証として、有識者には金融界からの毒がたっぷり回っている。
運用の専門家から見ても投資銀行家から見ても、少々意味は違っても内容的には「笑える」報告書だと思う。
もちろん、国民の年金の大きな1階~2階部分がカモになるのだから、笑ってばかりはいられないのだが、
とりあえず投資銀行マン的な金融マンの尽きることのないビジネス的欲求と根気、そしてゴキブリに勝るとも劣らない生命力を感じ取ってみてほしい。
大きな獲物も諦めずに狙って、政治家や有識者なども道具に使って、徐々に仕留めにかかるのだ。
その後で、呆れるか、腹を立てるか、あるいは自分もこうしたビジネスに関わりたいと思うかは、読者にお任せする。
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