詐欺師ジョン・ローのスキームに突き進む日本の金融・財政:野口
2014-07-07

18世紀初めのフランス。詐欺師といわれるジョン・ローは「無担保紙幣」を発明した。
現代不換紙幣の元祖ともいえるこの「実験」は、3年で「詐欺」であることがばれて破綻する。ローは追放された。
不換紙幣である現代通貨は10%の金準備などない。
つまり担保はなにもないのだ。
貴方がお金を持って行っても、銀行は同じ通貨に交換するだけである。金(gold)はもちろん、間違っても何かしらの有用物には交換してくれない。交換はあくまで流通市場なのである。
いくらでも増発できるし、帳簿上、電子上は紙幣を印刷しなくても債権債務として通貨流通量を増やせるという「特質」を持っている。「流動性」と呼ぶ所以である。
流通の根拠は法定通貨の強制性と、通貨需給の均衡による信認である。
流通価値としても極めて不安定で、危険な代物であるため、通常は厳しい規制・調整がなされている。
端的に言えば、発行量が経済成長を上回れば通貨価値が下がり(インフレ)、成長を下まわれば通貨価値が上がってデフレであるが、現代では為替投機への対応調整など多くのデータにより、金利、発行量、マネーストックなどを調整してゆかなければ、信認の崩壊という「無担保」の脆さが奈落へ導く。
異常な金融緩和策はその規制を反古にして、通貨を増やそうとするわけで、最初から実体経済が伸びずにインフレを引き起こす。
何の担保もなきカラ証文(紙幣通貨)で国債を消化し、その通貨を強制流通させる。 国家債務は通貨債務に形を変えて、歯止めなき天文学的な巨額債務となる。
通貨は完全な無担保であり、金利も無ければ償還もない。国家債務をその「通貨」に変換するわけである。
そんなことがいつまでも続くことはない。 ねずみ講だと気づきながらも、投機筋がババ抜きゲーム(バブル)をしている。
正気とは思われないことですが、現実になんとか行われています。
通貨の信認がいつまで続くか?一般大衆が気づく時点まで?
「伝説の詐欺師ジョン・ロー、国際と通貨の増発:野口」にて現在日米欧が行っている異常な金融緩和が、フランスを破綻に追い込み、インフレと生産力破壊を招いた詐欺師ジョン・ローの行為と同じものであることを指摘しました。
引き続いて、勤労所得が増えてそれが消費需要の拡大に反映しない限り、通貨が増えれば景気が良くなるのはなく、デフレ縮小循環のままにインフレになること。
通貨が増えないで、つまり国債代金が日銀当座に巨額なブタ積みのままとなれば、マネーストックは増えないが、いずれは通貨流通に変わり、バブル崩壊とともにインフレとなる。
黒田の異次元金融緩和なる巨額の国債買い入れとベースマネーの増加策が、2年をめどにしているのは目算が合ってのことではない。
物価上昇「期待」を熟成するに1年そこらでは不可能だからだ。
そして、同時に3年では「期待」が詐欺だったと知れ渡るからである。
ジョン・ローの詐欺「ミシシッピ株式会社の「期待」は3年持たなかったのである。
現代では3年どころか既に知れ渡り始めている。
ボロ隠しに年金積立金の運用の国内株を、3倍に増やそうなどと、さらに愚劣危険なことを言い出したのがその証左である。
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ジョン・ローのスキームに突き進む日本の金融・財政 野口悠紀雄 週間ダイヤモンド2014年7月12日号
日本銀行の資金循環統計(速報)によれば、2014年3月末の日銀の国債(国庫短期証券、国債、財投債の合計)保有残高は、1年前から73.1兆円(57.2%)増えて、201兆円となった。
国債残高に占める日銀の保有割合は20.1%となり、最大の保有主体となった。
この比率は、08年秋から量的緩和を行ってきたアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のそれを0.1ポイント上回るものだ。
国債残高総額の増は28.6兆円だったので、他の機関は保有額を増やしていない。
国内銀行は、メガバンクを中心に1年前より国債保有を減らした(18.1%減の計130兆円)。保険会社は0.3%増と横ばいで、193兆円となった。
なお、日銀の国債購入によって大量のマネーが市中に供給されたと説明されることが多いのだが、それは事実に反する。
銀行が国債を売却した代金の大部分は、日銀の当座預金として滞留している。
これは、マネタリーベースの一部にはなっているが、マネーストックにはなっていない。
市中に流通するマネーの量がさして増えないにもかかわらず大量の国債購入がなされるのは、その真の目的が、経済の活性化ではなく、日銀による財政ファイナンスであるためだ。
すなわち、市中金利の高騰を防ぐことによって、新規国債の円滑な発行を可能にし、また、財政の利払い費負担を抑えることが目的である。
これは、前回述べたジョン・ローのスキームと同じものだ。規模から見ても、ローの場合と大差がなくなってきた。
日銀の保有比率上昇は、国債市場の動向を日銀が左右するという意味で問題であるばかりでなく、中央銀行による財政ファイナンスが本格化してきたという意味で、重大な問題をはらんでいる。
なお、中央銀行による財政ファイナンスは、「国債の貨幣化」と呼ばれることもある。
ただし、いま述べたように、マネーの供給量は目立って増えていないので、現在の日本では、まだ文字通りの「貨幣化」にはなっていない。しかし、後で見るように、本質は貨幣化と同じである。
異次元緩和で急増した日銀の国債保有残高
日銀は01年からの量的緩和政策によって長期国債の購入を増やした。
この結果、01年1~3月期に48.2兆円(総残高に対する比率は10.6%)であった日銀の国債保有残高は、1年後には84.6兆円となった(比率は16.3%)。
03年10~12月期から06年1~3月期まで、残高は90兆円を超えていた(比率は03~05年で13~15%)。
しかし、国の財政状況が好転したため、日銀保有残高は06年1~3月期からは減少した。
08年1~3月期から09年7~9月期には、残高は60兆円台にまで減少した(比率は8%台)。
結局、量的緩和策開始時とあまり変わらぬ水準まで減ったことになる。
従って、結果的には、日銀の財政ファイナンスとはならなかったわけだ。
ところが、08年10~12月期を底に再び増加に転じ、11年1~3月期には78.4兆円となった(ただし、この期間では比率は8%台にとどまった)。その後さらに増加が続き、12年7~9月期には100兆円を超えた(比率は11.0%)。
この傾向は、13年4月に開始された異次元金融緩和措置によって、加速された。そして、冒頭で述べたような事態になったのだ。
ところで、過去の量的緩和時に購入したのは、残存期間が短い国債が中心だったので、時間がたてば、償還されて、自然になくなる。
しかし、異次元緩和措置では、残存期間が長い「長期国債」を金融機関から毎月6兆~8兆円買っている。
このため、時間がたっても、国債残高が自然には減少しない。
市場に放出すれば、値崩れを起こし金利が暴騰する。だから、保有し続けざるを得ない。
現在の方針では国債を年50兆円積み増す計画なので、保有シェアは1年後に25%程度まで高まる可能性がある。
異次元緩和措置は2年間の政策とされているので、日銀の国債残高が年間約50兆円ペースで増える状況がいつまでも続くわけではない。
しかし日銀の国債購入が減ると金利が高騰する恐れがあるため、延長される可能性もある。
すると、日銀の保有比率は15年末には30%に近づく可能性もある。
国債の2割は事実上返済する必要がなくなった
日銀は、政府の一部ではなく、政府から独立した主体である。
従って、日銀が国債を買い上げたところで、政府の債務が消滅するわけではない。
例えば、日銀が保有している国債に対しても、政府は金利を支払う。
しかし、日銀法53条によれば、日銀の利益の95%は国庫に納付しなければならない。
だから、日銀が受け取った利子の大部分は日銀納付金という形で政府に還流する。
つまり、政府と日銀は、財政的に事実上一体なのだ。
銀行など民間部門が保有する国債は、民間の側から見ると、利子の支払いを受け、返却を要求できる債権だ。
しかし、その国債を日銀が買い上げてしまうと、民間部門から見た債権の性質は変わるのである。
前述のように、日銀が購入した代金の大部分は、現在のところ、日銀当座預金という形態になっている。
その払い戻しを民間金融機関が求めるのはもちろん可能だ。
しかし、日銀は自ら印刷する日銀券で払える。
つまり、日銀は貸し付けを回収したり借り入れをしたりして資金を調達しなくても、返却要求に応じられるのである。
こんなことで返済できてしまうのは、不思議なことだが、こうしたことができるのは、中央銀行だけだ。これが、法貨の発行権を保有していることの意味である。
政府ですら、このようなことはできない。政府が民間保有国債の利払いをしたり、借り換えせず償還するとき、政府は税または国債発行で財源を調達する必要がある(原理的には、政府も政府貨幣を発行することができるが、これは、現実的な方法ではない)。
「政府から見て返却する必要があるか?」という観点から考えてみると、
民間が保有する国債なら、償還期限になれば償還しなければならない。
しかし、日銀当座預金になっていれば、日銀が銀行を指導して過剰準備金を保有させ続ければよい。
あるいは、払い戻し要求があれば、日銀券増発で対応できる。
日銀券になってしまえば、利子を支払う必要も、償還する必要もなくなる。
そして、それはいずれインフレを引き起こす。
結局、民間は自分自身が実質的に貧しくなることによって債務の返済を受けることになる。
日本の国債残高の2割がすでにそうなってしまっていることを認識しなければならない。
国債残高が国の負債として残っていることも、それが民間から見て債権であることにも変わりはない。
しかし、国から見ると、返さなくてよい債務に、民間から見ると実質的な返却を要求できない債権になってしまったわけだ。
前回述べたジョン・ローのスキームをもう一度振り返っておこう。
彼は、ミシシッピ会社を設立し、国の債務をこの会社の株式に変えた。
これによって、国は事実上、国債の負担から解放された。
株価がバブルを起こしたが、会社に実体は何もなかった。
このため、バブルが崩壊して価値はゼロとなった。
そして、インフレが起こった。
日本はいま、同じ方向に向かって突き進みつつある。
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