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もうすぐ北風が強くなる

例えば「過剰所得没収課税」など:クルーグマン

 クルーグマン

 資本家が事業によってあげる純利益は資産となり、再投資による拡大循環を常に上回ろうとする。
 資産は金融運用によって実体経済とは関係なく更に資産の拡大として、それなりの循環をするが、その拡大圧力は歴史的事実として経済成長を上回り、勤労家計の相対的窮乏化をもたらす。
 つまり、資本の過剰蓄積が消費需要を抑えこみ、設備投資を減少させることで金融の信用創造が停滞し、通貨の拡大再循環が途絶え、信用恐慌となる。
 この過程で所得と資産の格差は極大化し、いわゆる民主主義の制度的な崩壊となる。
 格差の拡大を放置することで、国民経済と民主制度の破壊に至るわけである。 

 対策は?
 ピケティは過去、欧州で試みられてきた税制、福祉、社会保障など階級間の妥協的な所得の再分配では到底追いつかないことを明らかにした。
 欧州で一般的に付加価値税が普及してしまったことは、富裕階級の力と抵抗の強さを表している。
 欧州よりもアメリカにこの非妥協的な「階級格差の強制改革」を行える可能性があるとみる意見もある。
 クルーグマンがその可能性を弱々しいが発言している。

 資本主義の御用エコノミストが一般に語らないことの一つに「資本は競争があろうがなかろうが最大限に自己を増殖しようとする。」という原理がある。
 何故なら、このことが資本の最初から最後までの存在動機だからである。
 この性質は資本の反社会性と言って良く、ゆえに資本主義を社会原理であるかのように規定する新自由主義は反社会思想であるわけだ。

 欧州、米国は典型例であり、全世界的な危機の問題である。
 近代から現代にかけての変革は、封建制末期のあだ花であった農奴制の絶対王政を台頭した商工資本家と労働者階級が打ち倒したものだった。
 現代の巨大な格差もやはり激しい階級間格差であり、実態はトップ資産階級との階級闘争である。
 既存の民主制度によって、変革できるかは不明である。
 今ある制度の活用で立て直すには、巨大な富裕階級の力と抵抗に勝ち抜くだけの強力な政治権力が必要に思える。  
  ーーーーーーーーーーーー
   ポール・クルーグマン「米国における課税の伝統」  NYタイムス 5/17 現代ビジネス

  「富の集中は危険である」というかつての認識

格差に関する問題が米国でさらに活発に議論されるなか、右派からは猛烈な反発が起こっている。
保守派のなかには、格差に目くじらを立てるのは賢明ではない、高所得に税金をかければ経済成長が損なわれると主張する者がいる。
また、高税率はアンフェアであり、自分の稼ぎは、自分のものにできて然るべきだと主張する者もいる。さらに、それは米国らしからぬことだという主張も見られる。

アメリカ人は常に、富を築いた人物を称賛してきた。あまりにも多くの富を誰かが握っているとほのめかすことは、この国の伝統に反するというわけだ。

確かに、生粋のアメリカ人なら「政府、特に連邦政府が、不公平な形で富を得ることを効果的に制限しなかったために、権力を握りそれを拡大することに躍起になる、とてつもなく金持ちで経済力をもった少数の人々を生み出すことになった」とは言わない。
そして、「財産の規模にともない、急速に拡大し続ける大きな富に対する累進課税」を求めるようなことはしないだろう。

これを言った左派の人物はだれか?
1910年の有名な新しい国家主義演説を行ったセオドア・ルーズベルト(※)である。
20世紀初頭、米国の指導者の多くは、極端な富が集中する危険性について警告を発し、膨大となり得る富を制限するために、租税対策の導入を促したというのは事実だ。

もうひとつの例として、偉大な経済学者のアービング・フィッシャーが、1919年に米国経済学会で行った会長演説のほとんどは、「非民主的な富の分配」の影響に対する警告であった。
彼は、財産に多く課税することで、富の相続を制限する提案に賛成している。ちなみに、今日の経済問題を理解する上で、彼の「債務デフレ論」は必須だ。

(※)テッド・ルーズベルトとも呼ばれる。第26代アメリカ合衆国大統領。第32代大統領フランクリン・ルーズベルトは従弟(12親等)で、姪の婿でもある。

  格差縮小が目的の「過剰所得没収課税」は「米国の発明」

富、特に相続からの富の集中を制限する、という概念は、話だけで終わったわけではない。
トマ・ピケティは画期的な著書『21世紀の資本論』(※)の中で、1913年に所得税、1916年に相続税を導入した米国は、欧州よりも「はるかに早く」に進歩的な課税方法を主導したと指摘した。
ピケティ氏は、税収を得るよりも、むしろ所得と富の格差の縮小を目的とした課税法である「過剰所得没収課税」は「米国の発明だ」とまで言っている。

この発明は、小規模農家の平等主義社会に関するトーマス・ジェファーソン(第3代アメリカ大統領)の考え方がもともとのはじまりだ。

テッド・ルーズベルトが講演を行なった当時、極端な格差が、その展望を無意味なものにするだけでなく、世襲の富に支配される社会となる危険性があることに、多くの思慮深いアメリカ人は気がついた。
つまり「新世界」が古いヨーロッパのようになってしまうリスクに気がついたのだ。
彼らは、経済的な理由だけでなく政治的観点からも公共政策によって格差を制限すべきだとし、巨大な富が民主主義を脅かすものであるとズバリ指摘した

では、なぜこうした見解が主流から締め出され、不当なものだと考えられるようになってしまったのだろうか?

2012年の選挙で、格差と高所得層の税金の問題が、どのように扱われたかを考えてみればよい。

共和党員は、オバマ大統領は富裕層に敵対的だとよびかけた
ミット・ロムニー(2012年大統領選候補者。共和党)は、「大きな成功を収めた者を罰するのが優先事項なら、民主党に投票すればいい」と言ってのけた。
民主党はこうした非難を強く(そして誠実に)否定したが、ロムニー氏は実質上、オバマ氏が、デッド・ルーズベルトのような考え方だと非難したことになる。
いったい何故、それが許されない政治的罪となるのか?

(※ 北風:ロムニーがまるで富裕層が選挙民の多数派であるかのように発言するのは、非常に象徴的である。
 建国以来の平民主義は忘れられたのみならず、カネと資産を人生のすべての価値とするイデオロギーが300年にわたって蓄積強化されてきたのである。
 その間に、選挙制度も勝つためには莫大な資金を必要とするシステムに発展してしまった。
 ロムニーは残念にも正しく、富裕層の支援こそ選挙の勝敗を決するという事実を述べたつもりなのだ。
 「資本主義vs民主主義:エドソール」)

  20世紀初頭と同じ水準に倍増した最富裕層の富

今日の経済で大きな富を手にしている者は、相続ではなく、自分で稼ぎ頂点の座を獲得した人々なので、富の集中はもはや重要な問題ではない、という議論をときどき耳にする。
しかし、そうした見方は一世代前のものだ。
エマニュエル・サエズとガブリエル・ザックマンによる新しい研究では、人口の上位0.1%の最富裕層の富の割合は1980年から倍増し、いまやテッド・ルーズベルトやアービング・フィッシャーが警告を発した20世紀初頭の水準であることが明らかにされている。

その富のうち、相続された分がどれだけかは分からないが、フォーブス誌の米国富豪リストを見てみるとおもしろい。
私がざっと数えたところ、上位50人のうち約3分の1は莫大な財産を相続している。
ほか3分の1は65歳以上なので、おそらくは相続人たちに莫大な富を残すことになるだろう。

われわれの社会は、まだ世襲貴族社会にはなっていないが、このまま何も変わらなかったら、このあと20年のうちにそうなるに違いない

富の集中がもたらす危険について議論する者を悪魔のように言うのは、過去と現在の両方の間違った解釈に基づくものであることは明らかだ。
それは「アメリカらしからぬこと」ではなく、まさにアメリカの伝統に沿った議論だ。そして、それは断じて近代世界に無関係なことではない。

では、今世代のテッド・ルーズベルトになるのは誰だろう?
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