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もうすぐ北風が強くなる

セウォル号と原発事故、利益至上主義と人命軽視

セウォル号

   韓国旅客船沈没事故と福島原発事故  4/21 「河信基の深読み」から

規模や分野はまるで異なるが、前途ある多数の高校生が犠牲になった旅客船事故は、日本中を震撼させた原発事故と驚くほど似ている。
市場経済社会が宿命的に抱える病巣みたいなものが見えるのである。

その感を強くしたのが、セウォル号が沈没直前に珍島沿岸海上交通管制センターと交わした交信である。
福島原発事故直後に現場が東電本社、首相官邸と交わした通信記録を想起せしめた。
危機に直面した人間心理が露出している。

20日に韓国政府が公開した交信記録には「船が傾いて脱出不可能」「今脱出させれば救助できるのか」と、セウォル号側が状況を絶望的に捉え、船長が適切な指示を出せず、乗客よりも自分等の安全を考えていたことが如実に出ている。
実際、船長、航海士、操舵士、機関士ら操船に携わる15人全員が脱出し、置き去りにされた乗客や一般乗務員に多くの犠牲者が出た。
二時間もの間、「動かないように」との船内アナウンスを真に受けて多くの生徒が沈む船と運命を共にしたが、職場放棄により助かるはずの命をも奪った船長らには、未必の故意による殺人罪を問うべきであろう。

福島原発事故でも、東電が水素爆発前後に全員退避命令を出した事が判明している。
それに従っていたら、原発三基は大爆発を起こし、何も知らされていなかった周辺住民、ひいては、私の住む首都圏全域も高濃度放射性物質に汚染され、死の地帯と化していたことであろう。

絶望的な状況に直面すると保身を第一に考える人間のおぞましい本性が剥き出しになる瞬間であるが、無論、そうでない人もいる。
沈没事故では客室乗務員14人は最後まで子供たちの救助に奔走し、大半が船と供に沈んだ
福島原発事故でも、現場の所長が有志と最後まで原子炉対策に当り、被害の拡大を防いでいる

想定外の事故であったため、政府があたふたとし、対応に遅れが目につく点も酷似している。
中央災害対策本部が発表した救助者、失踪者数が二転三転し、救助活動は統率がとれず、バラバラであった。
被害者家族が現場海域を事故翌日に視察した朴槿恵大統領の直接指揮を求め、大統領府に抗議デモをかけようとした心情は十分に理解できる。

日本でも菅直人首相が事故の一報を受けて東電本社に乗り込み、現場からの撤退指示を撤回させた。
この経緯については現場を混乱させただけとの批判が起こり、未だに真相は藪の中だが、それだけ指揮系統が乱れたという反証でもある。

しかし、両者に共通する最大の問題は、事故など起こるはずがないと高をくくっていたため、いざ起きた時にパニックに陥り、迅速適切な措置が取れなかったことにある。

船長はベテランで、四年前に安心と無事故をテレビで豪語したこともある。その船長を無責任男にしてしまったのは、ユ一族のファミリー会社である清海鎭海運の人命軽視とも言える利益至上主義にある。
実に危うい話だが、セウオル号は一昨年、日本の九州観光会社から購入した1994年建造の老朽船である。
18年も使えば観光船としては寿命とされるが、ユ一族は補修をして15年寿命を伸ばし、同時に簿記上の価値を高めてそれを担保に産業銀行から120億ウオンの融資を受けている。

以上は21日に金融監督院が発表した監査報告書で明らかにされたことだが、不正を見抜けない行政監督の杜撰さも浮かび上がってくる。
海洋警察庁によると、さる2月の特別安全点検でセウオル号は良好とされたが、水密扉などの作動不良が発見されていた。
その10日後に修理と海運組合仁川支部に報告されて済まされている。
客室や貨物室の無理な増設で、船の重心が不安定化していたことも見逃されていた。

出港にあたって報告外の貨物やコンテナが積み込まれていたことが判明している。
沈没事故当時、ドーンという音を聞いたと救助された複数の乗客が証言しているが、急な旋回で積み荷が崩れ、バランスを失ったと推測されている。
一部に飛び交う座礁説や潜水艦衝突説は無責任な憶測に過ぎない。
信じがたいことに、乗務員たちは退避訓練をしたことが無いことも判明している。

清海鎭海運は昨年赤字を計上し、経営が厳しかった。船主が詐欺まがいの方法でセウォル号を改装、借金し、経費をギリギリに切り詰めて運航していたことは明々白々である。
大株主ユ父子3人と海運会社代表らに出国禁止措置が取られ、厳しい捜査が行われているというが、至極当然である。

しかし、そうした危険な運航を長年放置してきた行政当局の責任も免れない。
その背景にあるのは利益至上主義と人命軽視からくる馴れ合い
である。

朴槿恵大統領は就任早々、行政安全部を安全行政部と変え、人命重視を打ち出したが、下部に徹底しているとは到底言い難い。
韓国の安全管理に対して世界が疑いの目を向けている。
観光立国の名誉にかけても、全船舶への再点検が欠かせない。

全く同じことが日本にも言える。
原発事故は地震火山大国に原発を乱造した原発安全神話が招いた人災である。
その背後に利益至上主義と人命軽視があったことは言うまでもない。
沈没事故は、改めてその苦い教訓を思い起こさせる。
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