TPPの崩壊が始まった:山田
2014-02-28

昨年12月に書いたこと。
米国のあまりの強引さ傲慢さに、協議参加国は抵抗を強めている。
ここでも日本のみが米国に追従している。
太平洋で日米が孤立している形になっている。
やはり、TPPは外形はともかく、実質的には日米協定になりそうである。
そして今。その外形さえまとまらず、漂流を始めた。
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TPP幻想の崩壊が始まった 交渉停滞、困るのは誰か? 2/27 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
シンガポールで行われていたTPP交渉閣僚会議が、次回会合の日程さえ決められないまま閉会した。昨年末に「大筋合意」するはずだった交渉は、いよいよ漂流しそうな気配である。
新聞は、「長引けば経済政策に影」(朝日新聞)などと書いている。「交渉の停滞=困ったこと」という捉え方だ。
このマインドセットが、誤っている。
TPPは農業交渉ではない。その他の分野で、何が決まったのか。どの国が、誰のために、どんな主張をしているのか。説明も報道もない。
中身さえ分からない協定は疑ってかかるのがメディアの仕事である。
交渉停滞は大いに結構。TPPとは何か、誰が得し、損するのは誰か。じっくり考えよう。
熱心な記者ほど「同調思考」にはまる
私も記者クラブで仕事をしていたから、分かる。
経験が浅く、熱心な記者ほど、「同調思考」にはまる。
TPPでいえば、取材記者の頭の中は、交渉担当者や、後ろから指示を出す官僚などと波長が重なってくる。
記者と官僚(あるいは政治家)とは対等ではない。権力者は情報を持っている。記者は教えてもらわなければ仕事にならない。
TPPは「秘密交渉」(たいした秘密ではないが)なので、官僚は「守秘義務」を盾に、口を噤(つぐ)む。「そこを何とか」とにじり寄り、「迷惑かけないから」と相手の歓心を買ってちょっぴり話をしてもらう。
当然、権力側に都合いい情報しか出てこない。
秘密交渉なのに、交渉24分野の進展状況や、合意の一部が報道されている。
政府に都合いい情報を並べるとTPPとはこんな姿です、ということだ。
メディアは、中身が分からないから、交渉のスケジュールや、自民党内の関心事項、大臣の談話などでお茶を濁す。
一方で声の大きい団体の反対論を紹介する。その結果、TPPはあたかも関税交渉で、農産品以外は大した問題ではないような刷り込みを世間に与えてきた。
「国際的な貿易のルール作りは大事なことだ。しかし、農業団体がいうこともよく分かる。上手く調整できないものか」とか「日本は貿易立国だから自由貿易促進は国益だ。農家は大変かもしれないが、農業も国際競争に曝されることは覚悟しなければ」などという世論が形成されつつある。
メディアの論調もこの域を出ていない。
だが「TPPが築こうとする国際的な貿易のルール作り」とはどんなものか。そのルールが出来ると、どんないいことがあるのか。
交渉内容の全体像は明らかにされていないが、公表されている範囲で考えれば
①関税を限りなくゼロにする
②知的財産権を持つ者に高額の特許料や著作権を認める
③国有企業の優遇は認めない
④政府や自治体の事業を外国企業に無条件で解放する
⑤外資企業が不利になる制度は廃止する
⑥国内の法制度をTPP基準に合わせる
⑦不当な扱いを受けた外国企業は政府を訴えることができる
こんなところだろう。一言でいえば、地球規模の規制緩和だ。
強い企業が思い切りビジネスできる環境を作ろう、という試みだ。
企業は競争によって強くなる。劣るものは市場から退場する。その新陳代謝で、世界は成長する、という思想が背景にある。
一理ある考えだが、力が拮抗する者の競争は切磋琢磨につながるが、大きな力の差があると、弱者は根こそぎ奪われる。
米国の狙いはアジアでの経済覇権
TPPはもともと、持ち味が違う4ヵ国、シンガポール(運輸、化学)、ブルネイ(資源)、ニュージーランド(農業)、チリ(鉱物)の集まりだった。
そこに米国が加わりアジア太平洋の経済圏を目指したところから変質した。
米国という強い経済が、アジアで経済覇権を握る足がかりとなった。
みすみす米国企業が勝つTPPに、なぜアジアや中南米の途上国が加わるのか。
米国の強みである「総合的な外交力」の成果である。日本だって断われなかった。
米国には強大な軍事力があり、世界の保安官としての役割をになっている。
国連、IMF、世銀など国際機関を牛耳り、軍隊と金融を握り、豊穣な国内市場をかかえている。
米国を敵に回すと国内政局での厄介なことになる。
思い出して見たらいい。日本で最初にTPPに同調したのは民主党の菅直人首相だ。不安定な政権を維持するために米国との摩擦を避けた。
ベトナムやマレーシア、アルゼンチンなどは、対中国との関係や軍事・資金で世話になり、米国の意向を無視できない、という事情がある。
G2時代と言われるように、米国は中国の巨大化を意識している。
中国には13億人がいる。遠からず経済規模で中国に抜かれる。
アジア太平洋に経済圏を広げ、ここで作ったルールを国際標準にすることで 、やがて中国を米国のルールに巻き込み、米国企業が自由に羽ばたける市場にする。
日本のTPP担当者は言う。
「米国のTPP戦略は明白です。中国が強くならないうちに米国流の経済ルールを作ること。勝敗はルールで決まるから」
日本政府の立場を一言でいえば、
「日本には強い産業があるから、世界規模の規制緩和は賛成。
だが、農産物市場を開放すると地域経済に激震が走る。政治的にも都合が悪い。自動車や保険で米国の要求を飲み、農業は形だけの関税撤廃でなんとかまとめよう」
というものだ。
交渉を担当する経産省と財界は、その線で合意している。だから、米国が自動車関税を20年継続、と無茶を言っても飲んだ。アジアで儲ければいい、と思っている。
このほどホンダがメキシコで新工場を稼働させた。
日本から米国に輸出すれば2.5%の関税がかかるがメキシコからならゼロ。グローバル企業は、対応できる。
日本の産業界大手は基本的にアメリカと一緒だ。
「目立った成果」を早急に求めるオバマ政権
米国は国をあげてTPPに賛成か、というとそんなことはない。
米国は強い産業ばかりではないからだ。
日米交渉で明らかなように自動車業界は関税撤廃に反対している。オバマ政権の足元で、議会の民主党議員が反対している。
「TPPは弱者切り捨てだ」という声が米国でも強まっている。
オバマは、年頭教書で「格差との戦い」を強調した。ウォール街が占拠されたように米国では「1%の強者が99%を支配することの不当」が叫ばれている。
ホワイトハウスに働きかけているのは、多国籍企業で構成するTPP推進企業連合である。
薬品の特許期間を長くしろと主張をするファイザー、コンピュータソフトの著作権を主張するマイクロソフト、日本に攻勢をかけている米国保険会社協会、金融ビジネスの拡大を目指すシティバンクなど、そうそうたる企業が名を連ねている。
米国の政党は党議拘束がないので、政治資金が豊富なビッグビジネスの攻勢に弱い。
グローバル企業に雇われたロビーストがTPP推進をオバマ政権に振り付けたのだろう。
その一方で「反グルーバリズム」の潮流も増している。
資金力ではTPP推進派が有利でも、格差社会の敗者は頭数で上回る。
11月には議会の中間選挙が行われる。上院議員の3分の1、下院議員は全員が改選される選挙でTPPが争点になれば、一波乱あるだろう。
それを見越してオバマ政権は、「目立った成果」を早急に求めている。
その矛先の一つが日本に向かっているのだ。
オバマ政権は、少なくとも牛肉・豚肉の関税を限りなくゼロに引き下げたい。小麦やコメも同様である。
目に見える成果が必要なのだ。
悲劇か、それともチャンスか
安倍政権は甘かった。昨年秋にバイデン副大統領が来て、「関税ゼロ」の要求は建前でなく、本音だと知った。
日本は、重要5品目のコメ、ムギ、肉、乳製品、砂糖で関税表に載っている586品目の中で、あまり重要でない品目を選んで形だけの関税撤廃で凌ごうとしていた。
役人流の判断なら「日本は聖域に踏み込んで身を切った」となり、農協の非難を浴びても、実質的には本丸は護(まも)った、という形を作りたかった。
そんな芝居はオバマ政権には通じなかった。
米側の強行姿勢を知って甘利明TPP担当相は「ワシントンに行かなければよかった」悔やんだ、というが、見方が甘かったというしかない。
というより日米に互いを理解するパイプがなく、米国の事情がわからなかった。
底流には安倍晋三首相の登場がある。支持勢力の期待に沿って国粋的な言動を繰り返す。
靖国参拝問題では「失望」と米政府が表明するほど険悪な状況の中で、TPP交渉が大詰めを迎えてしまった。
これを悲劇と見るか、チャンスとみるかは、立場によって違う。
私は、国際的な通商ルールを創ることは大事なことと思う。
ただ、どんなルールを作るかが問題なのだ。
1%の強者を喜ばすルールであってはならない。
地域の文化や特性を大事にする配慮も必要だ。
大事なことは公開の原則に立ち、多くの立場の人が参加する民主的な話し合いだ。
そんなことをしていたら決まらない、というかもしれないが、合意形成への努力が互いを知ることに繋がる。
急ぐ必要はない。
日本のグローバル企業はTPP推進だが、大企業の利益=国益という考えも再検討すべきだろう。
21世紀になって企業利益が雇用や賃金に連動しなくなった。
民主主義になっても、カネと情報と人脈を持つ強者が政府を動かし、自分たちに有利な政策を進めているのは現実である。
官僚もグローバル企業の幹部も、それぞれ善良な人たちだが、所属する組織の都合や利益で動く。
その限りでは正しい判断でも、全体の流れの中では誰かを痛めつけている。
TPPはそうした個別の利益を積み上げた、地球規模の強者支配の道具になりかねない。
TPPが秘密協議になっているのは、公開したら交渉が瓦解する、という事情があるからだ。
人々が気付かないうちにサッサと決めてしまおう、というのが推進側の事情だ。
立ち止まってもう一度、TPPとは 何か、考えよう。
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