人口オーナス社会と経済:吉田(上)
2014-01-27

生産年齢人口の減少が低成長あるいはマイナス成長を招くことは、「デフレの正体」を著した藻谷浩介氏が主張したところである。
大胆に私なりの骨子を述べるなら、
資本主義経済はグローバル化の道を進んでいるが、基礎的な資本循環は一国内である。
それは労働生産を制御するため、物的流通と通貨、金融、財政、強制暴力装置などが一国単位の構造をとっているために当然となっている。
これを一応「国民経済」と呼んでいる。
従って、一国の労働生産に最大の影響を及ぼす生産年齢人口などの人口構成の推移は、「国民経済」に長期であるが確実な影響を及ぼす。
というものである。
それが経済のすべてではないが、長期には極めて大きな要因となることは当然であると考える。
藻谷氏の人口経済論については、「御用経済学」の側から多大な批判を受けている。
だが、「独立系エコノミスト」からはほとんど批判を受けていない。
というより、多くのエコノミストが藻谷氏と同様の人口論を述べている。
生産年齢人口の核を成すのはもちろん勤労者(いわゆる労働者階級と中間層)である。
労働生産のほとんどを担うとともに、生活の維持と子どもの育児、教育は労働力と新たな労働力の再生産構造である。
この層が消費需要と国民公共負担(税収と社会保険負担)の核である。
この層が増加傾向か減少傾向かは、有効需要のすべてにわたって影響するので、もっとも確実、堅実な基礎的条件を成している。
統計の「勤労家計」はほぼ同じ意味である。
今回は、藻谷氏と基本的な骨子は同様ですが、またやや異なる観点からである吉田繁治氏が、この生産年齢人口の減少社会とその経済について述べているので紹介します。
吉田氏は経済の基礎的な概念も労を惜しまず説明しています。
ために長文になっていますので上下に分けて掲載します。
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人口オーナス社会 1/24 吉田繁治
本稿のテーマは、人口オーナス(onus)の社会と経済です。20年前の1990年代、日本は2010年代から、激しく生産年齢人口の減少する社会に入ると言われたものでした。
そして、2014年、実際に人口オーナス(onus)期に入ると、マスコミもあまり言わなくなっています。そこで、本稿です。
1.日本の人口オーナス期
2.生産性と労働人口
3.実質GDPの増加と、政府の政権維持の立場
4.実質GDPゼロ成長を、決して言えない政府になった
5.世界の人口ボーナス期の転移
6.資産バブルは、人口ボーナスの末期5年に起こる
7.生産年齢人口の頂点からの、ピークアウトする時期は、共通に資産バブルの崩壊
8.生産年齢人口の長期推移と、人口オーナス:2010年→2040年
■1.日本の人口オーナス期
人口オーナスは、生産年齢人口の減少が、経済にマイナス要素になる時期を言います。
人口ボーナスは、人口オーナスの逆です。
生産年齢人口(15歳~65歳)がどんどん増えて、働く人が増えるため、生産性が高まると、実質GDPが大きく増加する時期になります。
GDPとはその国で生産された商品とサービスの総額です。
商品は店舗で売る有形のものです。
サービスは、物理的な形のない商品であり、具体的には医療、ホテル、観光、交通、通信、電気、教育など、お金で売買されるものです。
実質GDP=1人当たり生産性×労働者数、です。
この生産性は、1人当たりの有形の商品及びサービスの生産額です。
▼GDPの三面等価
GDPは3面等価です。以下の(1)~(4)は480兆円で等しい。
(1)需要面のGDP=
(5200万世帯+260万企業+中央・地方政府+海外)の需要
(2)所得面のGDP=
個人所得 +企業の利益+減価償却費+間接税-補助金
(3)生産面のGDP=
企業と個人事業の生産高-中間財投入=商品生産の付加価値額
(4)生産性で見たGDP=
商品の1人当たり付加価値生産性×労働人口×(1-失業率)
(注)小売・流通業では、売上高-仕入高=売上総利益=付加価値高=GDPです。
製造業では、商品生産高-原材料費=付加価値高=GDPです。
サービス業でサービス生産高-仕入高=付加価値額=GDPです。
以上の、需要面のGDP=所得面のGDP=生産面のGDP=生産性で見たGDP=商品の1人当たり付加価値生産性×労働人口×
(1-失業率)
付加価値額は、売上から仕入原価を引いた粗利益です。売上総利益とも言う。
GDP=商品の1人当たり付加価値生産性×労働人口×(1-失業率)です。
■2.生産性と労働人口
・労働人口(生産年齢人口)が1年に2%増え、
・商品の1人当たり付加価値生産性が3%高まるときは、
その国の実質GDPは、5%増加します。
逆に、生産年齢人口が、現在の日本のように年1%減っていると、生産性の上昇が1%のとき、GDPの増加は0%です。
6000万人は、農林漁業、製造業、流通・交通・通信・電気・教育・サービス業、公務、医療等で働きます。
働く人1人当たりの生産性を、経済学では全要素生産性と言います。
新しい仕事の仕方、または機械や設備の買い替え等による機械生産効率の向上による、人的な生産性の向上です。
企業では、この全要素生産性は、[売上総利益額(粗利益額)÷8時間労働に換算した社員数]で計ります。
生産性を高めることは、企業でもっとも肝心なことです。
日本経済では、国全体の、1人当たり全要素生産性は、以下の推移でした。
GDP=全要素生産性×生産年齢人口×(1-失業率)です。
【10年毎の、全要素生産性上昇率/1年間】
1960~70年 3.3% (高度成長期)
1970~80年 1.7% (オイルショック期)
1980~90年 1.1% (資産バブル経済期)
1990~00年 0.2% (資産バブル崩壊期)
00年~10年 0.7% (2006年~2010年平均:OECD)
この推移から、全要素生産性は、今度、もっとも高く希望しても、+1%/年が上限であることがわかるでしょう。
2%伸びたのは、東京オリンピックもあった1960年代の後期です。
50年前のような経済の高度成長の再来は、わが国の2010年代にはあり得ません。
一方で、生産年齢人口は、今後10年、毎年60万人(1%)ずつ減少します。
誰がどう言っても、どう見ても、未来の事実として確定しています。
そうすると日本のGDPは、[全要素生産性上昇で最大1%×生産年齢人口(-1%)=±0%]です。
現在の実質GDPが続くことが、最良です。
(注)物価が2%上がれば、名目GDPは、実質GDP×(1+2%)=1.02で2%増加します。
しかし名目GDPは、物価が上がることによる金額だけの増加です。商品購買数が増える成長ではない。
実質GDP成長率=需要=生産=所得=生産性×労働人口=0%
名目GDP成長率=物価上昇=+2%
■3.実質GDPの増加と、政府の政権維持の立場
・・・ところが、実質成長率0%では、政府の税収は40~45兆円規模のままで、増えません。
▼社会福祉費と国債金利
【増えづける社会福祉費】
他方で、政府負担の社会福祉費は、最低でも毎年1%(1兆円)ずつ増えて行きます。
医療費は、単価(診療費+医薬品費)を1年に3%の割合(2年毎の改定期に-6%)で切り下げ続けないと、1年に3%以上増えてしまいます。
理由は、1人当たり医療費が1年に68.7万円と大きな65歳以上の人口の増加です。
医療費は、65歳未満の1人当たり平均は16.3万円ですが、65歳以上になると、1人当たりでその4倍に増えます。
65歳になって突然増えるわけではない。
60歳を超えるころから、慢性の生活習慣病のため、徐々に、しかし急な上昇カーブで増えて行きます。
1人当たりの医療費は、60歳代が40万円ですが、70歳代68万円、80歳代以上は104万円です。
(注)公的保険で70%~90%を支給するため、個人の負担は保険料を含んでも12万円から20万円くらいと少ない。
他の世代の保険料から、及び赤字国債、そして税での負担が増えるのです。
【増える国債の利払い】
金利は現在、史上最低(10年債の金利は0.6%)です。
1000兆円の政府債務と国債の利払いは、9.9兆円(2013年度)と極めて低い。
この金利が仮に1.6%に上がると、増加利払いの1%分(10兆円)が、満期が来る度に、増えてゆきます。
国債を増発しなければならない政府にとって、実質GDP増加の0%は、税収が増えないことでもあるので経済政策面では認めることができない。
■4.実質GDPゼロ成長を、決して言えない政府になった
実質GDPの増加をゼロとすると、政府にとっては所得税の増加がない。
他方、社会保障費は、経済成長の低下や景気には関係なく、財政支出として増え続けます。
このため、国債の増発しかなくなる。
財政赤字の構造的な増加によって、1年に43兆円以上の新規国債の増発が続き、翌年は44兆円、次は45兆円、3年目は46兆円・・・と
増えるとなれば、100%、国債リスクが起こり、金利上昇の恐れが強くなる。
(注)2014年度の、16兆円の財投債を含む、実質的な新しい国債の発行は59.4兆円です。
一方では、返済の満期が来る国債が122.1兆円分あります。
政府財政が赤字で返済ができないため、政府は、借り換え債を発行しますがこれが122.1兆円です。
合計で181.5兆円という巨額な新規債の発行があります。
財務省と新聞は、財投債(16兆円)と借り換え債(122.1兆円)を含まない43.4兆円の発行だと強調しますが、実際はその4倍です。
国債発行の増加が招く金利の上昇を防ぐには、財政支出を減らし、経済が更に不況になることを受容せねばならない。
しかし毎年が、社会福祉費や政府支出を減らす緊縮財政で、不況の連続では、内閣がもたない。
経済ももたない。
このためGDPの見通しを、政府は、常に高くします。
GDP計算でも、誤差とは言いながら、「鉛筆なめ」があります。
サンプリングでの統計データでは、これがある程度は可能です。
(注)中国のGDP集計を見てください。
▼政府の「呪術(じゅうじゅつ)」になったGDP成長
政府は、実質GDPは、1%は伸びる。物価は1.5%~2%上がる。
このため、実質GDPは1%増え、名目GDPは2.5~3%増える、と言わざる
を得ない。
言いたくなくても、言わねばならない。
【高い経済成長への願望】
とりわけ2000年代の後期(08年9月リーマン危機以降)、政府のGDP目標は、民間の予想より一段高いことを続けています。
安倍政権は、今後10年で、実質GDPの成長において、平均2%という高い目標値(本当は、呪術の願望値)を掲げています。
1990年以降、23年間の平均成長率はせいぜい0.9%でしかなかった。
何をどうすることで、毎年2%成長させるのか。お分かりになる方、おられますか?
【マネーの増発は、実質経済の成長にはならない】
2013年4月以降、異次元緩和として、毎月8兆円のマネタリー・ベースを増やしている日銀によるマネー増発は、直接に、円安とインフレ要素ではありますが、経済の実質的な成長要素ではありません。
ただしインフレになることによって、設備投資が増え、その後の実質GDP成長が高くなるという可能性はないとは言えません。
しかし安倍政権が言うのは、1年や2年間の2%成長ではない。驚くべきは、10年間の2%成長(1.22倍)であることです。
・今後の全要素生産性(最大で+1%:10年で+10%)と、
・生産年齢人口(毎年1%減少が確定:10年でマイナス10%)によ
って、不可能なことです。
しかし主流の経済マスコミは、不可能とは言わず、迎合しています。
当方なぜか、少数派側の見方になります。
【2014年度の対比】
2014年度の政府経済見通し
・・・実質GDP +1.4% :名目GDP+3.3%:物価上昇1.9%
民間エコノミスト41人の平均予想
・・・実質GDP+0.8%:名目GDP+2.3%:物価上昇1.5%
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/131221/fnc13122121210005-n1.htm
(注)GDP増加=全要素生産性の増加×生産年齢人口の増加、です。
一体、なぜかな? と不思議に思うのです。
政府に、科学的な、言い換えれば数値的な根拠を、聞いてみたい。
根拠は数値的なものでしかあり得ないはずです。
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人口オーナス社会と経済:吉田(下)へ続きます。
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