fc2ブログ

もうすぐ北風が強くなる

世界通貨戦争(28)犠牲となる新興国、途上国

 ドルはアメリカの通貨だが、基軸通貨であるために、ドルと米国債の下落による被害は弱い通貨が受けてしまう。
 そのドルを大増刷しているために起こっている現象は、ドルの下落と資源・食糧の高騰、新興国の自国通貨インフレである。

 新興国よりも弱体の途上国は、基軸通貨に対しては、手も足も出ない。貧困と飢餓が迫っている。
 新興国はドルペッグを維持しようとドル買いせざるを得なく、自国通貨インフレが進んでいる。
 新興国はみな輸出依存国であるが、国民経済を犠牲にして基軸通貨と闘うのはとても無理がある。

 これが、通貨戦争の現状だ。 

 三橋貴明氏から
通貨安に基づくグローバル戦略の限界
2011/03/08 (火) 13:38

 アメリカが量的緩和第二弾(QE2)を継続している以上、予想されていたことだが、やはりWTI(ウエスト・テキスト・インターミディエート)が100ドルを上回ってきた。今回の原油価格上昇は、リビア情勢の混迷の影響が大きいわけだが、そもそも中東混乱の原因の一端は、アメリカのQE2にあるわけである。

 アメリカはオバマ大統領の「輸出倍増計画」の下、ドル安を志向している。無論、米国政府の要人は、口先では、
「強いドルがアメリカの国益である」
 などと発言するわけだが、そもそも今年の6月まで6000億ドルもの国債をFRBが買い上げることを計画しておきながら、強いドルも何もあったものではない。

 ドルは世界の基軸通貨である。そのドルがFRBから何千億ドルも新たに供給される以上、資源や食糧などのコモディティ価格が上昇して当たり前だ。特に、ドルペッグ(ドル固定相場制)を採用している国や、あるいは自国の通貨安を望む国々(中国、韓国など)は、コモディティ価格高騰の影響をまともに食らう羽目になった。


『2011年3月7日 日本経済新聞「NY原油、時間外で105.72ドル 2年5カ月ぶり高値」
 ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物相場は時間外取引で上昇基調を強めている。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油の取引の中心である期近4月物は日本時間7日10時30分過ぎに、一時1バレル105.72ドル程度まで一段高となり、日本時間9時過ぎに付けた高値105.44ドルを上回った。2008年9月29日以来、約2年5カ月ぶりの高値水準となっている。(後略)』

 図92-1の通り、WTI先物指数は2008年7月にピークを打ち、その後は半年間で100ドルも下落するという、大暴落になった。まさに、資源バブルの崩壊であるが、アメリカの量的緩和拡大の影響で、09年後半からまたもやジリジリと数値を上げ始め、11年3月についに再び100ドルの大台を突破したわけだ。

【図92-1 WTI原油価格先物指数価格の推移(06年-11年)】
92_01.png
出典:U.S. Energy Information Administration


 アメリカの量的緩和から産まれた流動性は、原油先物はもちろん、食糧にも雪崩れ込んでいる。そもそも、現在は新興経済諸国で中産階級が増えた結果、食糧の需要が世界的に増大している。さらに、ロシアなどで天候不順や天災により穀物供給能力が低下した結果、世界的に食糧価格が上昇しているわけだ。

 ちなみに、エジプト・ポンドは2010年1月をピークに、対ドルで価値を下げ続けていた。すなわち、エジプト・ポンド安だ。ドルの供給増により穀物の輸入価格が上昇した上に、通貨安が追い討ちを掛けた結果、エジプト国内では食糧価格が高騰した。

 しかも、エジプトはロシア産小麦の最大の輸入国であった。同国が穀物供給を頼るロシア(及びウクライナ)が、天候不順により輸出を停止したため、エジプトの人々が日常的に口にする食糧価格は、100%を超える上昇率になってしまったのである。

 結果、民衆の不満が高まり、ムバラク政権崩壊という「革命」に向けたデモ行進が始まったわけだ。チュニジアのジャスミン革命も、同様である。

 無論、中東諸国でインターネットが普及した結果、一般市民の情報交換能力が格段に上昇したというのも、中東の「革命」の一因ではある。それにしても、食糧価格高騰で市民生活が危機に瀕していなければ、さすがにここまで一気に革命が伝播することはなかっただろう。

 2011年3月3日。国連食糧農業機関が「世界食糧価格指数」を発表した。今年2月の世界食糧価格指数は、対前月比で2.2%も上昇し、統計開始(1990年)以降の最高値を更新した(これまでの最高値は2011年1月)。

 2011年1月以前の世界食糧価格指数のピークは、08年6月である。原油先物価格指数であるWTIがつけた前回のピークは、08年7月だ。WTIと世界食糧価格指数は、過去においてほぼ同じ動きでバブル化し、崩壊したわけだ。

 アメリカの量的緩和が継続する以上、少なくとも今後数ヶ月間は、WTIも世界食糧価格指数も上昇を続けることになる。特に、ドルペッグ諸国及び自国の通貨を対ドルで安く維持している国々は、国民生活に支障が出ること間違いない。

 実際に出始めている国の代表として、今回は韓国を取り上げよう。

 TPPに関連して、「第86回 TPPと「平成の開国」 前編(2/3)」において08年以降の韓国のウォン安戦略について取り上げた。08年、ウォン暴落という事態に直面した韓国の李明博政権は、日米中三国との通貨スワップで通貨危機に対する手当てをした。同時に、ウォン安で輸出競争力が向上した大手輸出産業に、経済を牽引してもらう成長戦略を描いたのである。

 その後の李政権は、サムスン電子などの大手輸出企業に対し、まさに至れり尽くせりの支援策を講じた。例えば、法人税の優遇措置である。

 日本の経済産業省が2010年5月に公表した「産業構造ビジョン」の骨子案によると、08年における韓国のサムスン電子と日本のシャープの法人税負担には、何と30%近い差が生じているとのことである。具体的には、サムスン電子が政府に支払った法人税が10.5%であるのに対し、シャープが日本政府に支払った法人税率は36.4%だったのだ。

 韓国の一般的な法人税は24.2%である。元々、韓国は法人税率が日本の40.7%と比べると低いわけだ。ここに各種の優遇措置を加えると、シャープの法人税の割合が、サムスン電子の三倍を超えてしまったわけである。

 法人税引き下げといえば聞こえはいいが、政府が大手輸出企業の法人税を引き下げると、企業はその分だけ税金を支払わなくていいという話になる(当たり前だ)。すなわち、その国の政府、ひいては国民が「損」をすることになるわけだ。

 韓国政府は、自ら(及び国民)が損をしても、大手輸出企業の純利益を拡大させた。体力をつけた企業が、投資拡大により国民経済を牽引してくれることを期待したわけである。

 とはいえ、実際には韓国の大手輸出企業は、法人税を引き下げてもらった割に、韓国国内で投資は増やしていない。韓国のGDPにおける民間企業設備の総額は、08年、09年と二年連続で減少した。

 国内の投資が減っている代わりに、韓国の大手輸出企業は海外直接投資を増やしている。こちらは07年以降、まさに激増という表現が相応しいほどに増えている。

 国内の設備投資を減少させつつ、対外直接投資を増やす。無論、企業単体にとっては、これはまことに合理的な判断なのかも知れない。しかし、国内の設備投資減は、韓国のGDP上の「民間企業設備」という需要項目の減少である。また、韓国の大手輸出企業がどれだけ対外直接投資を増やしたところで、同国の雇用改善には全く役立たない。

 一企業単体の合理的判断がマクロに集約されると、韓国国民にとって必ずしもポジティブな結果をもたらさない。韓国の大手輸出企業が対外直接投資を増やしたところで、韓国国民経済にとってはそれほどプラスにならないのである。まさしく、合成の誤謬だ。

【図92-2 韓国の対外直接投資・対内直接投資の推移(単位:百万ドル)】
92_02.png
出典:KOSIS

 英国の政治思想史学者のジョン・グレイ氏は、「新しいグレシャムの法則」を提唱し、いわゆるグローバリズムの進展について警鐘を鳴らしている。本来のグレシャムの法則とは、
「貨幣の額面価値と実質価値に乖離が生じた場合、より実質価値の高い貨幣が流通過程から駆逐され、より実質価値の低い貨幣が流通する」
 というものである。

 それでは、ジョン・グレイ氏が言う「新しいグレシャムの法則」とは何を意味しているのだろうか。

 グレイ氏は指摘する。
「自由貿易に対する規制の経済的不効率性はほとんど自明なことなので、規制なきグローバル自由貿易を批判する者はだれでも、すぐに経済的無知という罪を着せられてしまう。しかし、規制なきグローバル自由貿易への経済的観点からの賛成論は社会の現実から大きくかけ離れた抽象論になる。グローバル自由貿易の制約が生産性を向上させないことは真実である。しかし、社会的混乱と人間的悲惨というコストを払って達成される生産性の極大化とは、常軌を逸した危険な社会理念である」

 企業というミクロベースで見た「生産性の極大化」とは、各企業がグローバル競争に勝つべく、「ムダを徹底的に省く」「非効率な雇用を切り捨てる」「労賃を減らす」「生産工場を海外に移転する」「国内を徹底的に寡占市場化し、キャッシュマシーンとする」など、国民経済にダメージを与える形でしか達成されないのである。各企業が合理的判断に基づき「生産性の極大化」に邁進した結果、国民経済は大ダメージを蒙る。

 各企業の生産性が向上する中、国内の消費は縮小傾向に入り、失業や格差、それに貧困が社会問題化することになる。この状況において、企業は果たして「国民経済の目的」を達成しているといえるのか? という疑問をグレイ氏は提唱しているわけだ。

 そして、08年の危機以降の韓国こそが、まさしく大手輸出企業が「生産性の極大化」に突き進んでいる国の代表国なのだ。

 サムスン電子や現代自動車などによる国内の寡占市場化が推進されると、消費者たる韓国国民が損をする。大手輸出企業が「巨大需要家」としての地位を活用し、売上原価を削減すれば、下請の韓国企業が損をする。韓国は現在、実質賃金がOECDで二番目に減少している(一番は08年に破綻したアイスランド)が、これは従業員に損をさせているということだ。さらに、国内の投資を削減し、対外直接投資を拡大すると、国内の設備投資関連の企業が損をする。そして、法人税を引き下げる、あるいは大手輸出企業について優遇すると、政府が損をする。

 消費者、下請け企業、従業員、政府など、大手輸出企業以外の韓国国民が損をし、純利益が最大化したとして、それが果たして韓国の国民経済にとって有意義なことなのだろうか。しかも、韓国の場合は大手輸出企業の株式の四割強を、外国人により保有されている。2010年12月決算の韓国の上場企業(359社)が稼ぎ出した純利益から、莫大な配当金が外国人株主に支払われることになる。その額たるや、約4兆ウォン。韓国では外国人に支払われる配当金が、配当金全体の44%を占めるのである。

 国民や国内企業、政府に損をさせ、純利益を最大化し、配当金の四割以上を外国人に支払うわけだ。これこそが、いわゆる「グローバリズム」なのだろうか。もしそうであるとしたら、筆者はグローバリズムなど真っ平ごめんである。

 また、サムスンなどの大手輸出企業がグローバル市場における勝者を目指す場合、韓国の実質賃金は減少せざるを得ない。何しろ、韓国の輸出企業は中国やインドなど、国民所得が極端に低い国々の企業と競合しなければならないのだ。

 グローバル化が進んだ世界においては、労働賃金も「より実質価値が低い方」に収斂していくことになる。これがグレイ氏の言う「新しいグレシャムの法則」というわけだ。

 加えて、韓国政府は為替介入により「通貨安」を維持することで、大手輸出企業をサポートしている。韓国のウォン安は、確かに大手輸出企業にとっては好ましい状況だろう。しかし、韓国国民にとっては必ずしもそうではないのだ。

 現在、世界的な原油価格の高騰を受け、韓国では資源価格が高騰している(価格が高騰しているのは資源だけではないが)。同国の直近のガソリン価格は、すでに1リットル160円を超えるスタンドが出始めている。国民所得は日本の半分以下にも関わらず、韓国のガソリン価格は日本を上回ってしまっているのだ。日本の感覚で捉えると、ガソリン価格が1リットル300円を上回っている状況である。

 また、日本では全く知られていないが、現在の韓国は、何と深夜にネオンサインなどの消灯措置が導入されている有様なのである。無論、原油価格の高騰により導入された省エネ措置だ。

 韓国で価格が高騰しているのは、原油等の資源エネルギーだけではない。食糧価格も、当然ながら、価格が上昇を始めている。

 2011年1月には、李明博大統領が「物価との戦い」を政府の優先順位トップに上げる事態に至っているのだ。

 韓国が国内の物価高騰を抑制するには、ウォン安政策を改め、通貨高に持っていくのが最も適切である。しかし、ウォン安政策を翻すと、国内経済を牽引している大手輸出企業がダメージを受けてしまう。

 韓国の事例は、アメリカが雇用創出を重要視し、量的緩和を拡大している環境下においては、通貨安に基づくグローバル戦略に限界が生じていることを、明確に教えてくれる。


関連記事

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://bator.blog14.fc2.com/tb.php/204-d6d09f3b

 | HOME | 

 

プロフィール

もうすぐ北風

Author:もうすぐ北風
こんにちは。
いろんな旅を続けています。
ゆきさきを決めてないなら、しばらく一緒に歩きましょうか。

最新記事(引用転載フリー)

カテゴリ

経済一般 (118)
経済一般~2012冬まで (161)
日本の経済 (224)
通貨戦争 (70)
ショック・ドクトリン (12)
震災関係 (23)
原発事故発生 (112)
事故と放射能2011 (165)
放射能汚染2012 (192)
汚染列島2013-14 (146)
汚染列島2015-16 (13)
福島の声 (127)
チェリノブイリからの声 (27)
政治 (413)
沖縄 (93)
社会 (316)
小沢一郎と「生活の党」 (232)
健康と食 (88)
環境と地球の歴史 (28)
未分類 (175)
脳卒中と入院 (7)

カウンター

最新コメント

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

リンク

このブログをリンクに追加する

カレンダー

02 | 2024/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

最新トラックバック

月別アーカイブ

RSSリンクの表示

Template by たけやん