国民に思考停止を強制する秘密保護法:山田
2013-12-08

秘密保護法は自民公明の巨大与党によって、文字通りに強行採決された。
文字通りにというのは、まともな議論さえなしで発言を封殺し、問答無用で強行したその過程こそが、秘密保護法の凶暴さを表しているからである。
「デモはテロ」だという石破発言は彼らの本音を表したものだが、同時に秘密保護法の本質も表している。
だからこそ、石破は部分的に修正しても発言の基本を撤回しない。
以下の山田厚史氏の記事はジャーナリストとしての立場からのものであるが、ジャーナリストとしての主義主張をはっきりと述べている点で、真っ当な「報道」である。
参議院強行採決の前に書かれたものであるが、内容に変わりはない。
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特定秘密保護法案は成立目前 「成長戦略国会」はどこに消えたのか 12/5 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
「期待されていることより、やりたいことを優先したことが失敗だった」
第一次安倍内閣を反省した安部首相は、どこへ行ったのだろう。
内閣法制局長官の首をすげ替え、NHK経営委員をお友達で固め、道徳教育教科書を押し付け、そして特定秘密保護法(以下、秘密保護法)である。
本来は「成長戦略国会」のはずが……
「やりたかったこと」ばかり。日本が直面する優先課題はどこに行ったのか。
秋の国会は「成長戦略国会」になるはずだった。特区をあちこちに作って特例の規制緩和や資金投入をすることが本当に力強い成長につながるか、そこは疑問である。
だが与野党が正面から議論し、日本再生への処方箋を探ることこそ国会のなすべきことだった。来年4月から消費税増税が始まる。賃金が伸びない中での増税は消費を委縮させる。
アベノミクスも化けの皮が剥がれつつある。
インフレ期待を煽って物価を上昇させるはずだったが、今起きているのは、円安による輸入インフレ。つまり「悪い物価上昇」である。
円安を喜んでいられない。輸出企業の採算を向上させたが、輸出数量は増えていないばかりか、消費者の購買力を委縮させる。そんな中での消費増税である。
「汚染水は完全にコントロールされている」という首相発言がウソであることも日々の事実が示す。
フクシマでは早急に手を打たなければならない非常事態が続いている。
汚水処理、除染は急務だが、放射能にまみれた土や水や核廃棄物の処分地が決まらない。
真剣な合意形成に政治が取り組んでいないからである。
普天間基地の移転はどうだ。「沖縄の負担軽減」は口先だけで、「振興策」と呼ばれる心をカネで買ういつもの手法。心は無視されカネは特定の人たちだけに落ちる。
政治の核心は、山積する課題に優先順位をつけ、着手できるよう合意形成をすすめることである。首相に欠落しているのが優先順位付けと合意形成へのやる気である。
石破流のテロの解釈
秘密保護法国会はその象徴ではないか。
昨年12月の衆議院選挙で政権に返り咲き、7月の参議院選挙で足場を固めた安倍政権だが、いずれの選挙でも秘密保護法は影さえ見えなかった。
政権を取った後に、突然持ち出したのである。
秘密保護法の核心は次の3つだ。
①知る権利の制約
②国家権力の強大化
③社会を暗くする公安国家
安倍さんのいう「強いニッポン」とはこういう姿なのか。
秘密保護法がコワいのは、いくらでも拡大解釈できること。「テロ対策」が象徴的だ。
自民党の石破幹事長が、秘密保護法反対を叫ぶ抗議活動を「本質的にテロと変わらない」とブログで書いた。大音量の絶叫を耳にして恐怖感を抱いた、という。
秘密保護法案は、テロリズムを次のように規定する。
「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」
デモ隊のシュプレヒコールは「特定の主義主張」であり、石破氏が恐怖を感じたから「社会の不安もしくは恐怖を与える目的」の行動にあたる。
「人の殺傷」や「重要施設その他の破壊」はないが、本質的にはテロと同じ、というのが石破流解釈である。
笑いごとではない。巨大与党の幹事長が真顔で示した解釈である。警備の機動隊ともめごとが起き防止柵が壊れたりしたら、正真正銘の「テロ行為」とされかねない。
秘密を漏らしたら懲役10年。教唆・共謀も厳しく問われる。漏えいに至らなくても、働きかけたたり謀議しただけで処罰される。
権力を持つ者がその気になったら、この法律を治安維持法のように使って「国家の反逆者」を摘発することができる。
医者は患者カルテの提出を拒否できない
マンションの郵便ポストにセールのチラシを入れても普通は犯罪とされないが、政党のチラシだと「家宅侵入罪」で立件され逮捕・起訴される事件が起きている。
公安警察というのは、政治性のある警察で事件を作り出すことが可能だ。
今の法律でもその気になったら個人や組織を攻撃できる。
前回の「世界かわら版」で、都内のイスラム社会に対する警視庁捜査の一端を紹介した。普通に暮らしいている人たちに捜査の照準が当てられ、人権を無視した監視活動が続いている。
秘密保護法が成立すれば「テロ防止」「特定有害行為(スパイ)防止」と称し、本人の知らないところで身辺調査や監視活動が増えることは間違いない。
秘密を扱う公務員や民間の担当者は「適格性」があるか調べられる。配偶者の親族の元の国籍から本人の酒癖まで……。
国会で「病歴調査」が問題になった。患者のカルテの提出を求められたら医師は拒否できるか、が問われた。政府答弁は「提出は医師の義務」だった。患者との信頼関係で診立てた「病歴」も医師は拒否することはできない。
なじみの酒場に警察がやってきて酒癖を聞き出す、というシーンも絵空事ではない。
情報操作が狙いのリークは大目に見る?
われわれジャーナリストの仕事は秘密との戦いである。官庁取材はその典型だ。
最近はどこの役所も広報課を設け、取材は広報を通して、と防壁をめぐらす。
だが広報や発表を待っていたら行政が何をしているか、国民は知ることはできない。
役所だろうと企業だろうとハラワタを探らなければ本音や活動実態は見えてこない。
公務員には「職務上知り得た秘密は漏らしてはならない」という法律の縛りがかかっている。
ハラワタすなわち内部情報を探ることは、厳密にいえば公務員法違反教唆である。
この障壁を越えるため個人的な信頼関係を築き、場合によっては相手の立場を応援したり、逆にきわどい情報をもらったりする貸し借り関係が取材の基盤になっている。
取材先がどこまで「秘密の壁」を越えられるかは、その人物の価値観もさることながら、地位・権限、信頼感など組織の掌握力も無関係ではない。つまり組織の上に行くほど秘密を漏らす自由度が高い。
この漏えいは、多くの場合「組織の都合」を背負っている。分かりやすく言えばリークである。
秘密ではあるがその情報を流した方が仕事を進めやすかったり、組織の社会的評価が高まる、という種類の漏えいだ。検察が流す捜査情報は捜査の秘密を漏らす行為だ。
容疑者の供述や事件の背景情報を流し、検察の捜査が社会正義に沿っているという世論工作をする。
組織の社会的評価につながるリークの典型は国税庁の脱税摘発だ。税務調査は秘密が原則で、どこの誰が申告漏れしたとか重加算税を課せられた、ということは公表しないことになっている。
それでも時々、脱税が紙面に載るのはリークがあるからだ。
この種の漏えいは、情報操作とも言えるもので、秘密保護法が施行されても大目に見られるだろう。
権力の情報操作は、秘密の網を広く掛け、都合のいい情報だけリークするという手法を取る。
異分子が活発に動ける組織は強い
新聞や放送など大手のメディアには、リークの受け皿になる敏腕記者がいる。警視庁、検察、国税などの担当記者、政治部の番記者、経済部の業界記者など。
取材先と一心同体で批判記事などまず書かない「与党記者」が少なからずいる。
その一方で、付かず離れずで権力のハラワタに迫る記者もいる。
いい仕事をすればするほど取材先の風当たりは強くなる。
この場合の取材対象は組織上層部だけでは済まない。
大組織になれば組織の方針に疑問を抱く人は少なくない。役所は特にそうだ。
方針や慣例はすぐに変わられない。先輩が定めた轍(わだち)の上を着実に進むのが安定した運営だが、時代や世界情勢は変わる。
志をもって官僚を目指した人の中にはしっかりした人がいる。方針や裁定を巡り意見の違いも必ずある。
ハラワタ取材で一番大事なのは「内部にいる健全な批判者」に出会うことだ。
役所の方針の変更や、既得権益の打破は、少数ではあるが時代の方向を先取りした「健全な異分子」が増えることで実現する。
長年の取材で感じたことは「異分子が活発に動ける組織は強い」ということだ。
役所によっては「隠れ異分子」が調査課長とか企画課長といった要職にいることもある。逆にやたら秘密の多い組織は弱い。
無能な役人ほど「マル秘」のハンコを押したがる。人に知らせない方が仕事がやり易い。だが外部のチェックを受けない隠しごとは組織を弛緩させ、時には腐敗させる。
監視社会を内包する秘密保護法は「健全は異分子」の活動にブレーキを掛ける。
組織の中だけに通用する論理や、皆がうなずき合い形式的な会議で物事を決めるようになるだろう。
秘密の厳格な管理を求める米国は、一方で情報公開制度が発達している。政府は自分たちが作り、情報は自分たちのもの、という感覚が背景にある。
未だ民主主義は発展途上
天皇の統治で近代が始まり、政府は「お上」とあがめる日本で、官僚は上から目線で民を見ている。
頭の悪い民衆に情報を流せばバカなことを言い出すから「知らしめるべからず」という態度だった。
戦後の憲法で主権在民が謳われたが、未だ民主主義は発展途上である。
大事なのは民が自分で考えること。
情報公開がこれからの流れのはずだった。
それが逆流する。
国家には「秘密」がある。国民には「知る権利」がある。
どちらが大事か。知る権利に決まっている。
秘密は税金で集めた国民のものである。
安倍さんは「私は選挙で選ばれた。好きなようにやる」という調子だ。
「アンタには、そこまで頼んでいないよ」と叫んでも、聞く耳を持たない。
問答無用の国会運営がそれを示している。秘密保護法は間もなく参議院で強行採決されそうだ。
「傲慢」と「秘密」が結合すると、この社会は間違いなく息苦しいものになる。
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