内部告発者を抹殺し、米軍に共同実質改憲へ:山田
2013-11-10

沖縄密約の闇を暴いた英雄。西山太吉記者
公共の利益を盾に表現の自由を制約 秘密保護法の狙いは内部告発者とメディア 11/7 山田厚史 ダイヤモンド・オンライン
特定秘密保護法案の審議が始まる。自民党は今国会で成立を目指す。
28年前、中曽根政権で廃案となった秘密保全法制(当時はスパイ防止法と呼ばれた)が、安倍首相の下で制度化されようとしている。
役所が勝手に機密を決め、未来永劫封印することも可能で、国民の「知る権利」を無視した法案だ。
「スパイ」から秘密を守ろうとした中曽根政権とは違い、今回の狙いは内部告発者とメディアを封ずることにある。
安倍首相は「日本を守るため」外交・安保の司令塔・国家安全保障会議(日本版NSC)を設けて、米国や英国と軍事情報を共有するという。
それには日本から機密が漏れない仕組みが必要というのだ。
「あのこと」はどうなっているか
テロ対策や中国・ロシアの情報を米国からもらうには機密法制の整備が欠かせない。
もっともらしいが、「あのこと」はどうなっているのだろう。
米国の諜報機関がドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領など友好国の首脳まで盗聴していたことだ。
米国は「今はやってない」と逃げながらも、過去の盗聴は認めた。
友好国の首相と笑顔で肩を抱き合いながら、裏でそんなことがありなのか、と驚いた人は少なくないだろう。
政府は「日本は問題なし」という。本当だろうか。
メルケル首相は私用電話まで盗聴されていた。
安倍首相の私用電話は聞かれてはいないのか。普通に考えれば「盗聴されている」はずである。だが日本政府から抗議の声は上がらない。理由は3通り考えられる。
①盗聴されていない。
②盗聴されているかどうか分からない。
③盗聴されてもアメリカに抗議できない。
①の盗聴が行われていない、としたら米国にとって日本の政治や政治家は「盗聴に値しない」と判断されている、ということだろう。
首都が他国の軍隊に囲まれている世界に稀な国柄だ。盗聴しようと思えばすぐできる。
していないなら日本の首相は忠実な子分と見なされている、ということではないか。
②だとすると、日本には秘密は守る仕組みができていない。
ドイツやフランスは調査して発見できた。
出来ないなら日本は、秘密漏えいする人を厳罰に処す以前の段階である。
そんな国に米国が機密情報を提供するだろうか。
③なら日本は米国の植民地同然である。
米国の諜報機関は、安倍首相の私用電話を盗聴しているだろう。親しい人との無防備な会話にこそ、人格やものの考え方がにじみ出るものだ。
オバマ政権が安倍首相に冷ややかなのも、盗聴から得た情報が影響しているのではないか。
憲法改正や核武装について安倍さんの本音を聞き「危ない政治家」と判断したのかもしれない。
もしかして米国は、日本人が知らない安倍さんの一面を知っているのかもしれない。
核の傘に入っているように、諜報活動も米国の傘に組み込まれている、と考えれば分かりやすい。
例え首相が盗聴されても、抗議さえ起こらない仕組みになっている、ということである。
そんな日本の安倍首相が、米国と情報連携を深めるために「機密の厳罰化」を急ぐ。
アメリカからの情報が漏れないように体制を固めろ、と言われたからだろう。
権力に脅威なのは告発者やメディア
米国は日本の現状を熟知していたはずだ。
なぜ今になってそんなことを言い出すのか。ショックな出来事が最近起きたからである。
CIAで働いていたスノーデンの一件である。大量に機密を貯めこんでいる「親会社(アメリカ)」から情報流出が起きた。つながっている「子会社(日本)」でも起こらないとは限らない。
重要機密が外部に漏れないよう体制を強化せよ、と本社から指示が出たのである。
スノーデンが流出させたのは国家という権力が、スパイ活動とは無縁の人たちまでコンピューターを覗いたり、電話を盗聴していたという事実である。
米政府が自国民に向けられた諜報活動ではないと釈明すると、次は「友好国の首脳」への盗聴が暴露された。
米国の国家権力のやりたい放題が明るみに出たのである。
権力に脅威なのは他国の権力やテロリストだけではない。
内部にひそむ告発者やそれを伝えるメディアが脅威である。
電子情報を流出させたウィキリークスのアサンジや確信犯スノーデンのような内なる敵との戦い。
特定秘密保護法は、そうした文脈から持ち上がった。狙いは内部告発者でありメディアなのだ。
同法案の21条の2にこうある。
「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」
報道機関の知る権利に配慮しているような表現だが、ここがポイントだ。
例えばスノーデンのような内部告発者が新聞社に、原発反対運動の市民団体代表の電話を盗聴しているような事実を持ち込んだとしよう。
その情報が「テロにつながる恐れ」として特定機密になっていたとしたら、漏らす行為は法令違反になる。
違法行為を通じて得た情報は「正当な業務」と認めらない。
つまり機密の内部告発をメディアが報ずることを縛ることができる。
「公益を図る目的」であっても取材過程に法律違反が絡めば、報道できないようにかんぬきが掛かっているのだ。
スノーデンが機密情報の提供を英国紙ガーディアンの専門記者に委ねたのは、アメリカのメディアでは危ないと判断したからだ。
9.11以降、米国メディアは政府による監視が厳しくなり、機密の暴露に腰が引けている。
暴露は「違法行為」であることから訴追を受ける覚悟が必要になる。
米国の法が及ばない英国紙を選んだのだ。
例えば朝日新聞に機密情報が持ち込まれたらどうなるか。そのまま記事にすれば「違法行為」に加担したことになる。
新聞社は、特別チームを編成し「情報の裏取り」に走るだろう。本当に盗聴活動がなされたのか、何時、どの組織が、何回、どんな内容を盗聴したか、など取材し、確認できれば記事になる。
だが当局は「特定秘密」を盾に事実を語ることを拒否するだろう。
誰かが話せば「漏えい」で違法行為とされる。
そうやって記事を葬り去ることができる。
沖縄返還密約・西山事件が物語ること
1971年の沖縄返還の裏で結ばれた日米密約を毎日新聞の西山太吉記者がすっぱ抜いた。
国会で野党が取り上げ問題になったが、西山記者がこの情報を外務省審議官付きの女性事務官から入手し、二人は「国家公務員法違反」で逮捕・起訴され有罪になった。
沖縄返還で米国が負担すべき基地地権者への地代を日本政府が肩代わりする密約だったが、政府は「密約はない」と否定した。
検察は「男女関係を利用した秘密漏えい事件」として取材のモラルに話をすり替え国家ぐるみで密約を隠蔽した。
後に米国の情報公開で密約の存在は明らかにされる。だが記者生命をかけて機密を暴いた西山の「国家公務員法違反」は消えていない。
西山事件が物語るのは、ことさら秘密保護法など作らなくても「国家公務員法」で漏えいを処罰できるということだ。
「公務員は職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」
という同法の規定で十分ではないのか。なぜ厳罰化を急ぐのか。
興味深い「テロ」の定義
今回の法案の構成は、「特定秘密」という国家の最上級の秘密を「行政の長」が定める。
特定秘密を扱うのは「適性評価」をパスした職員(民間人を含む)に限る。漏らしたら厳罰。
特定秘密は5年ごとに見直されるが更新を繰り返せば永遠に封印することができる。
特定秘密は4つの分野に分かれる。
①防衛、②外交・安全保障、③特定有害活動(スパイ)防止、④テロ防止。以上に関する情報が対象になる。
公務員の活動全般に守秘義務を課した国家公務員法の上に、さらに厳罰の秘密を上乗せした作りになっている。
法案は特定機密を扱う公務員や民間人への厳重な調査・監視を求めている(第5章、適性評価)。
スノーデンのような人物が出ないように、特定有害活動(スパイ活動)やテロリズムとの関係について本人だけでなく、配偶者の親族まで調べることを行政の長や県警本部長に義務づけている。
興味深いのが「テロ」の定義だ。
「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」とある。
フェンスを壊して原発施設に侵入しようとすればテロと見なされるかもしれない。
テロを拡大解釈すると市民運動もその対象になる。
この規定なら、グリーンピースなどテロ組織と認定されてもおかしくない。
表現の自由を公共の利益で制約する
自民党は1985年、中曽根首相に時に「スパイ防止法」と呼ばれた秘密法制を目指し市民運動などの反撃で廃案に追い込まれた。
当時はスパイ防止が狙いだったが、時代が代わり権力内部からの告発や漏えいに神経を使うようになった。
30年余前は米ソの冷戦があり、機密を脅かすのは他国のスパイだった。
冷戦が終わり失業の危機に陥った諜報機関は、友好国や市民など身内を新たな標的に仕立て上げ、職場を確保した。
「国家機密」を隠れ蓑に、平穏に暮らす市民や友好国の首脳にまで監視や盗聴を続ける。
そんな現実にやりきれなくなった内部関係者が告発に踏み切る。
重要書類をかばんに詰めてひそかに受け渡す、といった古典的な手口は映画の世界だけ。電子化された大量情報が一気に流出する時代である。
内部に潜む敵と戦おうというのが特定秘密保護法である。
米国を中心としたこうした傾向に日本的な味付けをしたのが安倍政権だ。
「ニッポンを取り戻す」を合言葉に、政権のゴールに憲法改正を置いた。
憲法9条を空洞化し、表現の自由を公共の利益で制約する改憲である。
とはいえ根付いている平和憲法を国会の三分の二を取って覆すのは難しい。
一歩後退し「改憲せず改憲状態を」という戦略を進めている。「平和憲法に手をつけず、戦争の出来る国に」である。
憲法解釈を変え集団的自衛権を認める。
アメリカの戦争を遂行した国家安全保障会議(NSC)をまねた日本版NSCを設立する。
防衛基本計画を見直して先制攻撃が出来る装備体制を作る。
アメリカの戦争に協力し、地球の裏側まで進撃できる体制作り。
これが出来あがれば平和憲法は空洞化する。状況を追認する実質的な改憲は抵抗なく進む、という目算だ。
安倍流ともいえる「反動法制」が、高支持率を背に一気に進もうとしている。
報道機関や野党の反撃に30年前のような力がこもっていないことが気がかりである。
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