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もうすぐ北風が強くなる

リー氏遺稿:米国での論文審査、学会発表

  故リー湘南クリニック院長の遺稿「異端医師の独り言」から

ロチェスター大学医学部時代

★  論文の審査  2011年11月07日

 アメリカ時代(1985~90年)、ある日、一流誌から僕宛に、誰かの「論文原稿」を送りつけてきた。
 開けてみると:原稿を査読し、1 このまま掲載、 2 批判を加え、批判に正当に回答した場合掲載、 あるいは、批判を加えた上 3 不掲載、にチェックし送り返せという内容。
 また「査読できない場合は、査読にふさわしい科学者に、このまま転送してください」と記されていた。

 「なんじゃこれ」と研究室のボス Dr.Slussに聞いたら、彼は大笑いしながら、「これは大変に名誉なことだよ」と教えてくれた。
 その後、送りつけられて来た論文原稿を 3編ほど査読した。無償である。
 翻ってこの島国、バカが論文を密室で審査する不透明さ、科学性の欠如、巨大製薬会社よりの姿勢。だから、いつまでたってもこの島国の医学雑誌は、四流なの。
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★アメリカで初めての学会発表  2009年12月16日

 ロチェスターはオンタリオ湖に面した、のんびりした田舎町。コダック発祥の地で、創始者の寄付で建てられたイーストマン博物館が観光スポットである。
 在米 6ヶ月目、初めての学会、会場はイーストマン博物館という? 
 学会が近づくにつれ研修医達の緊張が高まる、全米から大物教授が集まるからだ。
 私も発表を命じられ、原稿をこさえ、同僚・Garyに録音してもらい、それを何十回も聞き練習した。
 Lと Rをうまく発音できないので Lか Rを含む単語は、極力はずし、他の単語に置き換えた。

 本番前の予演会(大学のスタッフや開業医、40人くらいが聴衆)、研修医と私、計 9人が 10分の持ち時間で演説し、質問をうける。
 私の演説が終わると、主任教授・Cockettが手を挙げ「なぜ、Ladies and Gentlemenで始まらない。」「?」 
 Cockettが後ろを振り返り「今の演説を聞き取れた者は手を挙げろ」。
 ぼそっとGaryと Bobが手を挙げてくれた。
 Cockett「研修医に原稿を録音してもらい、練習しろ」…。

 イーストマン博物館での学会本番、講演が終わると、驚いたことにカーテンが開きオーケストラが演奏をはじめ、カクテルパティーが始まった。念のためスーツを持参してよかった。
 ゲストは全米からの教授 20人くらい。ホストはロチェスター大学のスタッフ 6人と、発表者 9人。Kaufmann に挨拶に行った、UCLAの教授で「カウフマン 型、 型法」という手術を次々に考案し、世界で最も著名な泌尿器科医である。
 ダンディーで陽気な方で、彼も私を見つけ「How do, KAN-EI」「Hi Dr Kaufmann」と挨拶を交わし、日本でのこととか思い出話をした。
 Kaufmannは私の英語を理解し、下手なジョークも受け、2人で大笑いをした。

 翌日、Garyが「何で Kaufmannを知っているの、みんな腰を抜かしていたぜ。」演説の時、声が震えていなかったけど「インデラル」のんだ?
 Kaufmannが日本泌尿器科学会の招きで、奥さんと、その後愛人と来日した時、小柴教授の命令でカバン持ちしをたし、カリフォルニアに遊びに行った時、会ったから。
 インデラルは血圧の薬だが「研修医はアガリ止めに内服していることを知った」、以来、大舞台では内服するようにした。
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☆★★ 科学者として最高の瞬間  2010年08月10日

 1990年秋帰国後、1991年スイスの田舎町で「血管新生」に関する小さなシンポジウムがあった。ちなみに、シンポジウム(Synposium「シンポージィウム」と発音)とは「飲み食いしながら討論する」ギリシャ語が語源らしい、夕方からはワインが振舞われた。

 僕が発表するセッションのチェアマン(司会者)は、私がもっとも尊敬する科学者の一人 J. Folkmanで、冒頭「質疑応答の時間は決めないで、討論しよう」と提案した。
 普通、各演者が持ち時間内で発表し、質問を受けるが、時間は「5分」とか決められていて、十分な討論はできない。
 演者は 10数人と記憶している。当時は、血管新生(angiogenesis)と「その阻害」に関し、世界中で研究が始まった黎明期である。

 「悪性度が高い癌ほど血管新生能力が高い」と信じられていたが、私の研究結果は「膀胱癌の悪性度と血管新生能力の多寡は相関しない」というものだった。
 質疑応答で、私はそれこそ袋叩きにあい、全員が私の研究結果に異を唱えた。
 助け舟を出してくれたのは、Folkmanだった。
 「この青年は、私達より先にいるのだよ」とコメントした。
 科学に対し、真摯で謙虚な姿勢に強く胸をうたれた。(2006年12月の記事、校正)

☆★Jainからの申し出
 シンポジウムの夕食会で、Folkmanの右腕 Jainから「ハーバードに来ないか」と誘われた。
 Jainは新進気鋭の工学博士で「なぜ固形がんに抗癌剤が効かないか」を工学論的に説明し、その打開策として血管新生の阻害に注目していた。
 非常に名誉ある申し出だったが、「天才 Folkmanに比べ、自分のちっぽけさを自覚していた」のでお断りする方向でお話をすすめた。
 彼の執拗な勧誘攻撃に、自分の年齢を挙げたが、Jainが「それは、理由にならないよ、僕は君より 6歳上」と退路を断たれ、一瞬言葉を失ったが、丁寧にお断りしました。

 2005年、Science誌(超一流の科学雑誌)に Jainが記した総説「抗血管新生療法における新しい概念*」が掲載された。「抗血管新生薬は、不規則な腫瘍内血管を正常化するので、抗癌剤が効きやすくなる」という内容。合点がいかなかった。
 残念ながら「Jainの仮説」は誤っている。
 *Rakesh K. Jain : Review Normalization of Tumor vasculature: An Emerging Concept in Antiangiogenic Therapy, Science, 307:58, 2005  
 ーーーーーーーーーーーーー
★★ フロリダ地方会での演出  2010年05月09日

 在米中(1985~1990年)学会出張は大好きだった、旅行できるからだ。
 在米一年目は Garyと Bobの NY出張に同行したが、滞在費は支給されなかったので、二人のベッドの間の床に寝た。
 2年目は実費支給、3年目(助教授になって)からは実費プラスαが支給され、家計の足しになった。

 3年目、フロリダの地方会に参加した。パームスプリング・ホテルが学会場で、空港でタクシーに行き先を告げると、運ちゃんが後ろを何度も振り返る。
 到着して分かった、ゴルフ場を有する、お城のような超豪華ホテル。オイスター(牡蠣)を食べに行くため、フロントでタクシーを頼んだら、何と黒塗りリムジーン(リモ)が横付けされ、びっくりしたが、運転席にひっそりとメーターがついていた。
 リモがレストランに到着すると、ウエイターがうやうやしくドアーを開け、VIPを演出してくれた。
 ホテルにもどると専属のエレベーター開閉係、上品な中年女性が笑顔で「リー様お帰りなさい」とエレベーターのドアーを開け、行き先階をおしてくれた。
 全く威圧感がない見事な演出、心から楽しんだ。

 学会当日、Cockett教授から会場に「早く来るように」言われた。
 その頃は、まだ演説原稿を読まざるをえず、スライドを指せなかった。
 一計を案じた Cockettが、ウエイターにポインターのコードが Cockettのテーブルに届く位置に演壇(ポディウム)を移動させ、私が演説を担当、Cockettがポインターを担当した。
 私を一流のアメリカ人科学者にみせる演出を計ったのである。

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  故リー湘南クリニック院長の遺稿「異端医師の独り言」の関連ページ。

異端医師の独り言
がん検診の無理、効果に根拠はない
後世学(Epigenetics)の誕生
長寿国、自殺者数の増加、がん死者数の激増の真実
胃がんと抗がん剤治療
癌の縮小(奏効率)で患者は延命しない
ニセ科学の犠牲者、売上を誇る医師
食塩の政治学
The (Political) Science of Salt(全訳)
疑わしいサプリメントの効能と副作用
薬の犠牲、薬害を撒き散らす医師
乱用されている医療放射線機器
地中海型の食事と健康
地球温暖化の怪
「医療」の餌食にならない、無作為化対照試験(RCT)
なぜ日本に証明医療が定着しないのか
特定保健食品、黙認される誇大広告
風邪薬の犠牲者
有害な検診、有害な前立腺摘出
東電に群がる原発芸人文化人たち
詐欺:効かない薬の大量処方と有害無益の手術など
簡素な睡眠者、ハエや虫もぐうぐう眠るらしい
癌:希望と詐欺、そして現実と認識のギャップ
こんなにあるニセ科学
動物の深い悲しみの謎
リー湘南クリニック院長のご冥福を
検便の日
ヨッチャンの想い出
恐怖のカーレース、酒気帯び、起訴
僕の母親は、韓国の思い出
-40度、パーティ、Cockett城
睡眠とアルツハイマー、胃がんの原因、高血圧症?
医療の繁栄、コレステ、高血圧と認知症
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