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もうすぐ北風が強くなる

バブル崩壊後の政府の負債と家計の資産 後編:三橋(2)

 (後編(1)からの続き)

 お金の流れについて理解していないといえば、まさしく、
「1400兆円の家計の金融資産があるため、政府は借金ができる」
 説も同様だ。別に「家計に金融資産があるため、政府が借金可能」という話ではない。むしろ話は真逆で、「政府が借金をしたために、家計の金融資産が増えた」のが真実なのである。

 と書いたところで、理解に戸惑う読者が多いと思うので、順を追ってご説明しよう。前回の【図90-2 2010年9月末時点 日本国家のバランスシート(単位:兆円)】をご覧頂きながら、この先を読み進めて欲しい。

 10年9月末時点の「政府の負債(右上)」は1001.8兆円だ。この状況から、政府が銀行(金融機関)に10兆円分の国債を発行したとしよう。図90-2の「金融機関の資産(2755兆円)」として計上されていた現預金10兆円分を、政府が借り入れるわけだ。

 すると、確かに政府の負債は10兆円増え、1011.8兆円になる。ところが、同時に「政府の資産」として、借方(左側)に10兆円の現預金が新たに出現することになる。図90-2の政府の資産は481.9兆円であるため、これが491.9兆円に増えるわけだ(同時に、金融機関の資産「現預金」が「国債」に姿を変える)。

 例えば、読者が銀行からお金を借りた場合、確かに読者は銀行に対し負債を負うことになる。だが、同時に銀行から借りたお金が「資産」として読者の手元に残るわけだ。当たり前の話である。

 銀行に国債10兆円分を発行し、10兆円の現預金を借り入れた政府は、それをそのまま資産として放置しておくだろうか。とんでもない。そもそも政府が国債を発行し、お金を借り入れるのは、景気対策などの目的で「支出」をするためである。

 話を単純化するために、政府は銀行から借りた10兆円を「手当て」として国民に配るものとする。すると、政府の資産から「現預金10兆円」が姿を消し、家計の資産に移動することになる。図90-2で言えば、家計の資産が1452.8兆円から、1462.8兆円に増えるわけだ。

 上記は「手当て」という形で、政府が家計にお金を「振り込む」ケースの説明だが、別に公共事業などでも同じだ。公共事業で政府が企業に支払いを行うと、お金は政府の資産から「非金融法人企業の資産」へと移る。
 さらに、企業が給与の支払いなどで従業員に支払いを行うと、やはりお金が最終的には家計の資産へと移ってくる。

 「政府が国債を発行し、支出を行う」ことで、政府が借りたお金は最終的には家計の金融資産として計上されることになる(企業の内部留保になるケースもあるだろうが)。すなわち、政府が負債を増やすと、家計の資産も増えるというわけだ。


 図90-2は、2010年9月末時点という一点におけるバランスシートを見たものだ。バランスシートについが、長期的な推移をグラフ化すると、上記「政府が負債を増やすと、家計の資産が増える」現象を、より明確に確認することができる。

【図91-2 日本の各経済主体の資産の推移(単位:十億円)】
 91-2.png
 出典:日本銀行「資金循環統計」

【図91-3 日本の各経済主体の負債の推移(単位:十億円)】
 91_03.png
出典:日本銀行「資金循環統計」
※上記は「負債額」であるため、本来はプラス表示になる。分かりやすくするため、負債額についてはマイナス表示とした。


 図91-2及び図91-3は、それぞれ日本の各経済主体のバランスシートにおける「資産」と「負債」の推移をグラフ化したものだ。

 バブル崩壊以降、確かに「一般政府の負債」は激増している(図91-3の赤色部)。ところが、その反対側では「家計の資産」(図91-2の黒色部)が、これまた激増しているのである。

 結局、バブル崩壊後の日本では、
「政府が国債を発行し(=負債を増やし)、景気対策を行う」
「お金が最終的には家計の資産になるが、デフレ下で家計が支出を増やさず、金融資産が増大する」
「デフレ下で民間の資金需要がないにも関わらず、預金(家計の資産)が増え、銀行が過剰貯蓄状態になる」
「民間の支出が増えず、デフレ不況から脱却できないため、政府が国債を発行し、景気対策を行う」
「お金が最終的には家計の資産になるが、デフレ下で家計が支出を増やさず、金融資産が増大する」
 という、バカバカしい循環が発生していたという話である。

 政府の負債が増えると、財務省やメディアが「財政危機! 財政破綻!」と煽り、不安に駆られた家計は、政府が景気対策として支出をしても、それを自らの資産として溜め込んでしまう。
 家計がお金を使わないと、景気が回復しないため、政府は仕方なく国債を発行し、景気対策を実施する。
 すると、またもや財務省やメディアが「財政破綻!」と騒ぎ、政府が国債を発行して調達したお金が、最終的には家計の金融資産として凍りつく。

 別に、日本は「1400兆円の家計の金融資産があるため、政府は借金ができる」わけでも何でもない。政府が借金をした結果、家計の金融資産が膨れ上がっていってしまったのである。

 この種の「妙な現象」は、経常収支黒字かつデフレで過剰貯蓄が問題になっている日本であるからこそ、発生するわけだ。ギリシャのように経常収支赤字で、政府が資金調達を外国に頼っているような国では、こうはいかない。

 いずれにしても、日本が採るべき選択は、まずは「無用な危機感」から脱却することだ。その上で、政府と日銀が適切な政策を打ち、デフレから脱却することである。

 上記の「日本の妙な現象」は、我が国がデフレから脱却し、名目GDPが健全な成長率を取り戻しさえすれば、いずれは消えてしまうだろう。

 とはいえ、何しろ日本のメディアは29年前から「財政危機」を煽り続けてきたわけだ。日本の名目GDPが成長力を取り戻したところで、彼らが危機を煽ることをやめるとは到底思えない。

 結局のところ、日本国民がメディアの煽りに振り回されないようにするためには、一人一人が情報の読み取り能力(リテラシー)を高めていくしかないわけである。


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