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バブル崩壊後の政府の負債と家計の資産 後編:三橋(1)

 (前編(2)からの続きです)

 バブル崩壊後の政府の負債と家計の資産 後編
2011/03/01 (火) 12:58

 まずは、朝日新聞の記事を一つお読み頂きたい。


『1982年9月2日 朝日新聞「国債償還政策を転換 大蔵省方針」
-赤字国債借り換え 十年期限の原則崩す
 大蔵省は一日までに、国の借金である国債の償還(返済)に関する政策を大転換する方針を決めた。(中略)
-財政、"サラ金地獄"に「59年度脱却」公約は有名無実化(中略)
 また、赤字国債の借り換えは、借金の返済にまた借金をすることを意味する。文字通り"サラ金地獄財政"への転換だ。(後略)』


 上記記事は、別に日付を間違えているわけではない。1982年。今から二十九年前の9月2日、朝日新聞朝刊の一面トップに掲載された記事である。恐ろしいことに、日本の新聞は二十九年前から「政府の負債」を「国の借金」と呼び、財政について「サラ金地獄に!」などと、ヒステリックな見出しで国民を煽っていたわけだ。

 ちなみに、二十九年前に日本の内閣総理大臣であった鈴木善幸氏は、上記朝日新聞の記事にある、国債償還政策の転換の二週間後(9月16日)、首相自ら「財政非常事態宣言」を国民の前で発した。

 さらに、鈴木善幸元首相は回顧録において、以下のように書いている。

「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる」

 上記のヒロイズムに満ちた言い回しは、少なくとも日本の場合は明らかに間違いだ。単に国民の危機感を高めるために、頻繁に使われるレトリックに過ぎない。

 なぜならば、そもそも借金を背負っているのは、日本政府であり、日本国民ではないためだ。先週もグラフでご覧頂いた通り、経常収支黒字かつデフレの日本は、国内が「過剰貯蓄」状態にある。すなわち、投資や消費として使われなかったお金が、銀行などにおいて「過剰貯蓄」として蓄積され、運用先が見当たらないという問題が発生しているわけだ。

 結果、手元の預金などの運用難に悩む銀行は、国債を買わざるを得ない。分かりやすく書くと、政府に貸し付けて利回りを稼ぐわけだ。

 すなわち、日本国民は政府にお金を「貸している」立場であり、借りているわけではないのだ。

 さらに言えば、将来的に政府が国債を償還し、借金を返済した場合、そのお金を受け取るのは「将来の日本国民」だ。先の鈴木首相の言葉を正しく書くと、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な資産、債権が残ることになる」
 となる。

 何しろ、日本国民の金融資産は、将来の孫子の世代に受け継がれる。我々の子や孫の世代は、政府からお金を「返済してもらう」立場であり、借金を背負わされるわけではない。現在の日本国民は、政府に「金を貸している」債権者の立場なのである。

 これが例えば、日本政府が「外国」からお金を借りていた場合、それは確かに「将来世代に借金を背負わせる」という話になる。例えば、戦後の日本は世界銀行から借款を受け、国内のインフラ整備のために支出した。この「外国からの借金」が将来世代に受け継がれてしまった場合、政治家は確かに、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金が残ることになる」
 と言っても構わないだろう。何しろ、それが事実だからである。

 ところが、日本の場合は「政府が国民からお金を借りている」にも関わらず、首相まで務めた政治家が、真顔で、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金が残ることになる」
 などと断言するわけである。

 加えて、新聞などのメディアが「財政"サラ金地獄"」などと、無意味に国民の危機感を煽り続けるわけだ。それも、三十年近くという、極めて長期に渡る。

 日本の新聞は二十九年前から「財政危機だ! 財政危機だ!」と煽り続けてきたわけだが、そろそろ飽きてはこないのだろうか。財政危機が二十九年前から煽られ続けてきた日本の長期金利が、現在も世界最低である。摩訶不思議な話もあったものだ。

【図91-1 日本政府の長期債務残高の推移(単位:十億円)
9101.png
出典:財務省
※上記「政府」には地方自治体も含んでいる。


 図91-1は、日本政府(地方自治体含む)の長期債務残高について、その推移をグラフ化したものだ。鈴木善幸氏が首相を務めていた時代と比べると、政府の長期債務は九倍近くにまで拡大している。しかし、日本政府の長期金利は、延々と世界最低を流離っている。


 二十九年前に、首相自ら「財政非常事態宣言」を行い、その後、長期債務残高が九倍近くにまで拡大したのだ。それにも関わらず、長期金利は世界最低だ。

 繰り返しになるが、日本政府が発行する国債の金利が世界最低なのは、国内に運用先がない過剰貯蓄が溢れているためだ。経常収支の黒字が続き、国内が貯蓄過剰(もしくは投資不足)。デフレで民間企業の資金需要が高まらない中、銀行は国債を購入して運用するしかない状況に至っている。

 日本経済の問題はデフレ(及びデフレに起因する資金需要不足)であり、「国の借金!」などではないのだ。というか、「国の借金」問題も、デフレの問題の一部と言える。

 デフレ環境下では、物価が下がり、逆に「お金の価値」が日々上がっていってしまう。同じ金額のお金であっても、それで購入できる財やサービスが増大していくわけだ(物価下落により)。

 お金の価値が上がっていくということは、「借金」の実質的価値も上昇するという話である。デフレ環境下では、借金の実質的な価値が、日を追うごとに高まっていってしまうのだ。結果、政府の負債の実質的な価値も、デフレにより高まっていく。

 これが逆にインフレ環境下であれば、政府の負債の実質的な価値は、放っておいても下がっていく。しかも、健全なインフレを伴う経済成長を達成すれば、税収も増える。財政の健全化は、デフレ環境下では決して達成できないのだ。

 すなわち、デフレを放置することこそが、鈴木善幸氏が言った、
「このままでは私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる」
 そのものと言える(実際に借金を背負うのは将来の政府で、国民ではないが)。

 上記の話は、別にマクロ経済学に精通していなくても、「お金の流れ」あるいは「お金の価値」について考えてみれば、誰でも理解できる。ところが、我が国は一国の首相までもが「政府の借金」と「国民の資産」について混同した上で、前述のように「このままでは私たちの孫子に・・・」などと発言し、社会的な危機感を高めてしまうのだ。

 (後編(2)へ続く)
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