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もうすぐ北風が強くなる

中国の影響力拡大と日本:田中

 地球儀
 中国を中心に見た地球儀。

 中国の経済成長と米国の財政危機が相まって、ユーラシア大陸での中国の影響力が一貫して増している。
 BRICS,上海協力機構などでの露中協力がますます中国の国際政治力を強いものにしている。
 方や日本は実体経済がデフレ恐慌のままで「異次元金融緩和」に走り、国際金利上昇と株バブルといった「異次元副作用」が現れ始めている。
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   中国の影響力拡大 5/27  田中宇

 4月15日夜、インドと中国が領有権を争うラダック地方東部の中印国境地帯で、30人の中国軍兵士が谷に沿ってインド側に19キロ侵入し、テントを設営して滞在し始めた。
 ラダック地方では以前から、中国軍兵士が夜間にインド側に侵入してテントを張り、近くの岩に「ここは中国領だ」と大書したり、ゴミを散らかして滞在の痕跡を残したりしつつ、翌朝に中国側に戻る示威行為を繰り返してきた。
 インド側は当初、今回もそのような示威行為だろうと考えていた。 (India, China and yet another border dispute)

 しかし前代未聞なことに、中国兵士は何日経ってもインド領内にテントを張ったまま滞在し、インド軍が警告を発しても、中国側に戻ろうとしなかった。
 印中は第二次大戦後、ラダック周辺で何度も戦闘を繰り返しており、今回の中国軍侵入も、中印戦争に発展しかねなかった。インドの右派(親米派)は「中国をやっつけろ」と色めき立った。 (Chinese incursion leaves India on verge of crisis)

 しかし、インド側は冷静に対応した。
 印中間では、5月9日にインドのクルシード外相が訪中し、5月20日には中国の李克強首相が訪印する予定になっていた。
 特に、李克強は首相になって初めての外国訪問がインドであり、中印の関係強化を象徴する訪問と目されていた。中国の侵略行為にインドが怒って高官の相互訪問を取りやめることもできたが、相互訪問は予定通りに行われた。 (China says will improve India ties)

 中国側は、一方で首相がインドを訪問して関係を改善しようとする一方で、ラダックで中国軍が国境侵犯を行うという矛盾した姿勢を見せた。
 このため、中国共産党の中枢でインドとの関係改善を推進する派閥と、それに反対する派閥が方針の対立を引き起こしているのでないかという推測も出た。 (China's border rows mirror grim history)

 しかし、クルシード外相訪中の直前に行われた印中間の和解と、中国軍帰還の見返りにインド軍が譲歩したことをみると、中国は、国境紛争でのインドの譲歩を引き出すために、李克強訪印の直前というタイミングを意図的に狙って越境行為を行ったのだと考えられる。
 中国軍が越境滞在をやめる見返りに、インド軍は国境地帯に設けた前哨の監視所を撤去し、陣地などの防御施設を自ら壊し、国境近くでの道路などインフラ施設の工事を中断することに同意した。

 インフラ工事の中止はインド側だけで、中国側は依然として紛争国境地帯と外部を接続する道路などのインフラ工事を続けている。
 中国はわずか30人の兵士に3週間テントで生活する手間をとらせただけで、何十年も和平交渉と死者を出す戦闘を繰り返して得られなかったインド側の譲歩を引き出した。越境居座り戦略は中国側の勝利に終わったと、米右派のWSJ紙がいまいましげに書いている。 (Beijing's Triumph of Coercive Diplomacy)

 南西アジア全体の地政学的な状況を見ると、インドが中国に譲歩せざるを得なかった事情がわかる。
 来年、米欧軍(NATO)がアフガニスタンから撤退し、南西アジアに軍事的な空白ができるが、それを埋めるのは中国とロシアが率いる上海協力機構だ。
 中露は、アフガンの東隣のパキスタンと、西隣のイラン、北隣の中央アジア諸国のいずれとも親しく、これらのすべての国々が中国から経済的な恩恵を受けている。
 NATOのアフガン撤退後の南西アジアでは、中国の影響力増大が必至だ。 (CIS & Russia plans to deploy troops along Tajik-Afghan border)

 インドは従来、中国やパキスタンと敵対が続いてかまわないと考える戦略をとってきたが、それは米国の覇権があったからだ。米国がアフガンから撤退し、その後の南西アジアの主要な勢力の多く(サウジなど湾岸アラブ産油諸国以外)が、中露と協調して地域を安定化する姿勢をとっている。
 パキスタン、イラン、アフガニスタンが上海協力機構に入る方向で、トルコまでがNATOより上海機構を重視し始めている。(NATOは最近、トルコに置いていた空軍司令部を閉鎖した) (NATO closes air command headquarters in Turkey) (Turkey becomes partner of China, Russia-led security bloc)

 インドと中国は、BRICSの枠内で、すでに同盟国に準じる関係にある。中露は、インドとパキスタンの和解を仲裁し、和解の成立後、印パが上海機構に同時加盟するシナリオを描いている。
 中国の基本姿勢は、インドとの関係を敵視から協調に変えることだ。米国は、アフガン撤退や軍事費削減で、世界に対する関与を縮小している。インドの戦略として、中国と関係改善できるときにしておいた方がいいはずだ。李克強の訪印は、またとない機会だった。 (インドとパキスタンを仲裁する中国

 商人の民族である中国は、ぎりぎりになって李克強訪印の値段をつり上げてきた。それが、ラダックでの中国軍の越境居座りだった。
 居座りをやめてほしければ、以前から求めてきた国境地帯の軍事施設撤去をやってほしいものですな、と中国側が求め、インドは要求をのんだ。 (Border dispute exposes faultline in China-India relations)

 中国は90年代当初、ロシアやカザフスタンなどとの国境紛争を解決したが、この時は中国がまだ今のように国際政治の中で強くなかったので、国境画定のためにかなり譲歩した(このとき中露関係を良くしたことが、今の上海機構やBRICSの安定につながっている)。
 インドは、10年前に中国との国境を画定していたら、もっと有利に決められたかもしれない。だが今や、中国の国際的な立場はインドより強く、もしかするとロシアより強い。
 インドは譲歩せざるを得ないが、今後、国境画定に向けて動きがあるかもしれない。この構図は、中国との間で尖閣問題を抱える日本にとって他人事でない。

 さらに西に目を向けると、中国は最近、北大西洋上の島国アイスランドと自由貿易協定(FTA)を締結することを決めた。中国が欧州の国とFTAを締結するのは初めてだ。
 アイスランドの輸出品の9割は魚介類だ。FTA締結によって、アイスランドは魚介類を中国に関税なしで輸出できるようになり、経済効果が大きい。アイスランドはEUに加盟していないのでFTAが結びやすかった。 (Iceland agrees trade pact with China)

 中国がアイスランドとFTAを結んで魚介類を買ってやるのは、単なる食品貿易の話にとどまらない。アイスランドはスカンジナビア諸国、ロシア、米国、カナダという北極圏に面した他の国々とともに「北極評議会」を構成している。
 北極圏は未開発の地下資源が多く、北極圏に面していない多くの国が資源開発に参加したがっている。中国はその一つだ。北極評議会は5月に閣僚会議を開き、中国、日本、インド、EU、韓国、シンガポールなど、北極圏に面していない14カ国のオブザーバー参加を認めた。アイスランドは、中国のオブザーバー参加を支持した。 (Arctic Council to rule on observer status for China)

 北極評議会にオブザーバー参加するために、日本は新たな国際努力を特に何もしていない。中国も、オブザーバー参加を獲得するだけならアイスランドに対中魚介類輸出の利権を与える必要はなかっただろう。
 だが、今後の北極圏の共同開発に関する北極評議会の議論を中国に有利に展開させようと思えば、正式加盟国であるアイスランドと良い関係を持っておくことが有効だ。
 中国は世界各地で資源あさりに熱心で、従来米欧の利権地域だったアフリカやイラクの石油ガスなどが中国のものになる傾向を強めている。中国は、北極圏の石油ガス利権も狙っているだろう(その点、日本は淡泊すぎる)。
 中国はASEANで、ラオスに経済支援を行って、ラオスがASEAN内で中国の肩を持ち、中国をきらうベトナムやフィリピンと論争してくれるよう仕向けている。
 アイスランドは、北極評議会におけるラオスになるかもしれない。 (イラクの石油利権を中露に与える)

 このほか中国は、これまで米国の裏庭と呼ばれてきたカリブ海諸国でも、従来の台湾との外交関係の争奪戦を超えて、経済援助の拡大などを通じて影響力を増している。
 財政難の米国は、カリブ海諸国に対する支援を減らしており、リーマン後の不況で米国からの観光投資も減った。中国がそれらを穴埋めしている。カリブ海諸国は、米国の関与縮小を嘆きつつ、中国を歓迎している。 (China steps up Caribbean strategy)

 中国の政治影響力が世界的に拡大していくことを、日本は脅威とみなすだろう。
 しかし米国の右派有力紙であるWSJ紙は逆に、中国が国際政治の場でもっと主導力を発揮した方が、米国の負担が減るので望ましい、中国は国際的にまだ消極的すぎる、もっと野心的に動くべきだ、と書いている。 (The World Needs a More Active China)

 中国敵視の波に乗って人気を保持する日本の安倍政権も、実は中国の政治影響力にぶら下がっている。
 5月14日、安倍首相の名代として飯島参与が北朝鮮を訪問して拉致問題を交渉した。
 安倍自身が7月の総選挙前に訪朝し、以前に訪朝した小泉首相のように拉致問題を解決する指導者として人気を高め、総選挙の勝利につなげたい戦略だったのだろう。 (North Korea Glosses Over Tensions After Its Special Envoy Visits China)

 飯島訪朝の背景には、中国が北朝鮮に圧力をかけて核問題の6カ国協議を再開できそうなことがある。
 5月25日、北朝鮮政府の特使が北京を訪問し、中国主催の6カ国協議に北朝鮮が参加する旨を中国側に伝えた。
 北朝鮮はすでに核兵器を持っており、6カ国協議が再開されても北が簡単に核を手放すとは思えず、協議は失敗に終わるかもしれない。
 だが、中国主導で朝鮮半島問題が解決していく流れ自体は再び動き出しそうだ。
 日本が北朝鮮に対して敵視の一点張りだと、6カ国協議が進展した場合、北朝鮮でなく日本の方が東アジアで孤立しかねない。 (North Korea sends signals it may be willing to rejoin disarmament talks)

 孤立を防ぐなら、日本は、とりあえず6カ国協議に参加しておく方が得策で、北が拉致問題を解決(謝罪プラスアルファ)する気があるなら、日本がそれに乗って問題を解決し、安倍が人気を高め、選挙で勝つことに利用した方が得策だ(日本国内の朝鮮敵視が強すぎて、安部自身の訪朝は難しいようだが)。
 中国でなく日本が、北朝鮮に核武装を解かせて国際社会に受け入れるところまでの外交努力をするなら、国際政治的に、日本は中国より立派な大国になれる。
 しかし残念なことに、現実は逆だ。安倍政権は、北朝鮮問題を解決する中国の外交努力にぶら下がる、ちゃっかりな戦略をとろうとした。
 実際のところ今の日本は、国債と株式の金融市場が崩壊寸前で、外交どころでない。 (財政破綻したがる日本) (The Japan Implosion Is Progressing)
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