これからの世代と経済:吉田(2)7割が限界所得、高齢化単独世帯化
2013-05-11

すき家朝定¥200
これからの世代と経済(1)からの続きです。
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■3.年齢階層別に見た、世帯所得
日本のマーティング(メーカーの商品開発:小売の商品構成)では、学歴や職業別より年齢別・所得別が、商品購買に影響を及ぼします。
コンビニでは、商品のPOSスキャンのあと、顧客の10歳区分の年齢と性別をアルバイトが入れ、性別・年齢階層別に、どんな商品が、いつ、売れているかを集計し、個店別にマーティング(市場想定)しています。
個食の高齢者の、コンビニ利用が急増したのです。
年齢別のマーケティングデータを元にした、商品開発と、2700アイテムの商品構成が、近年の、コンビニ(5万店)の既存店売上の上昇、つまり、他の小売業態がマイナスを続ける中で5%増である理由です。
既存店では売上が増えていない食品スーパーは、顧客の年齢階層別のショッピング・バスケット・データ(時間軸での購入アイテムと価格)をもたない。
食品スーパーは、その商品の主なものは、減ったファミリー需要の対象店です。
【年齢階層別の所得:2010年】
29歳以下 30代 40代 50代 60代 70歳~ 平均
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世帯所得 314万円 515 634 714 544 415 538万円
1人所得 161万円 167 190 236 213 188 194万円
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(注)1人所得は、世帯所得÷家族数(全平均は2.6人)。つまり、働かない人を含む、家族の一人当たりの所得です。
世帯所得は、50歳代の714万円(有業者1.3人)がピークです。
一方、男性個人での、年齢別のサラリーマン賃金は、
10代 158万円
20代 300万円
30代 470万円
40代 600万円
50代 620万円
60~65歳 380万円(65歳以上は年金受給分が207万円)
65~69歳 400万円、です(国税庁:民間給与)。
20代の300万円が、20年後の40代にその2倍の600万円になって、45~49歳が、生涯賃金のピークである632万円です(2010年)。
20年で2倍は、1年で3.5%の賃金の上昇です。この年齢別の賃金カーブは、個人の将来賃金の平均額も示しています。
自分が30代なら、この表を見れば50代になったときの平均賃金のメドが分かります。
平均は、平均以下(3000万人)のうちの最良、平均以上(6000万人)のグループでの最大です。
〔注1:所得上昇〕
1980年代までは、1年7%の上昇で、20年で4倍でした。
年収180万円が初任給であり、20年後は、700万円くらいを想定できたということです。現在の公務員の賃金水準がこれです。
現在では、年収のピークの想定は、平均的には、600万円(40代後半)でしょう。
〔注2:非正規雇用の急増〕
非正規雇用(パート894万人、アルバイト344万人、派遣89万人、契約社員460万人:12年)は、1990年の20%(870万人)から、2012年は35%(1786万人)であり、2倍に増えました。
・他方で、正社員は、1990年が80%(3473万人)、2012年は65%(3304万人)で、5%減っています。
・両方を合わせた雇用総数は、2000年代は5000万人であり、ほとんど増加していません。
正規雇用の賃金は、414万円(全年齢平均)、非正規雇用は123万円です。3.4倍の格差です。
〔注3:高齢化〕
2012年からは、団塊の世代(5年で1000万人)の65歳超えがあるため、総雇用数は、減少の時代に入ります。
65歳になると、役員や自営業、農林漁業以外はほぼ完全退職になって、厚生年金で200万円くらいの年金生活に入るからです。
以下では、家族1人当たりに割った所得に着目してください。
【世帯主】 家族1名当たり所得
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29歳以下 161万円
30代 167万円
40代 190万円
50代 236万円
60代 213万円(65歳以上では所得の67%が年金分)
70代 188万円(同上)
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平均 194万円
29歳以下の世帯主から、50代の世帯主までは、家族1人当たりに割った所得が、1年に1.5%(2.4万円)の割合で増えます。
ただし、この世代は、子供が1人であっても教育費が年々増え、住宅ローンもあるため、1人当たりの消費額を増やすことができません。
正社員なら、むしろ結婚前が1人当たりの消費は多い。結婚できない理由でもあります。
(注)わが国の少子化の問題は、結婚ができない所得の問題です。しかし政府は、都合が悪いのか、これを認めていません。
本来、20代から50代までは、家族1人当たりの所得で、現状の1年1.5%ではなく、5~7%程度の所得増がなければならない。
この所得増がないと、消費も預金も増やすことができません。
60代以上は、子供の教育費からは開放され、住宅ローンも完済し、生活は、むしろ楽になります。ただし、2000年代には、子供の世代に、年収では200万円以下になる非正規雇用(20代では50%)が多いため、親が援助しています。
60歳代の家族1人当たりの所得は213万円と、支出がもっと多い40代より多い。
70代も、年金の受給があるので、家族1名当たりで188万円です。
60代、70代の旅行が多いのは、1人当たりの所得が、現役世代より大きいためです。
(注)60歳以上で、生活の問題になるのは、医療費が、60歳以上になると夫婦2人で130万円(自己負担39万円:保険支給が91万円)に増えることです。
高齢世帯の不安は、慢性の生活習慣病です。
病気は二つです。回復が早い急性の病と、治療に時間がかかる慢性の病。
60歳以上になると、自然な体力と抵抗力の衰えから慢性病が急に増え、一人当たり医療費を、65万円/年に上げます。
▼生活上の感想:70%の世帯は、生活が苦しい
児童のいる世帯(1232万世帯:世帯数の25%:4軒に1軒:子供は1.7人)では、35%(3世帯に1世帯)が、生活が非常に苦しいと答えます。
やや苦しいが35%、普通が28%、ややゆとりがあるが2.4%、大変ゆとりがあるとの答えは0.3%(1000軒に3軒)です。
ほぼ70%の世帯は、「生活が苦しい」という意識であり、普通や、それ以上の生活と感じている世帯は、30%と少ない(厚労省)。
〔失業の不安〕
2010年代に、働く世代で高まっているのは、職を失う失業とリストラの不安です。
目前の失業の不安を、14%(700万人)の人は抱えています。
日本も、製造業の家電産業に見えるように、輸出型の大企業で、米国のような、リストラの時代を迎えました。
大手企業のリストラが、2010年代の、特徴です。家電産業がその典型です。
大企業の雇用は30%(1500万人)です。
他方、平均社員数25名の中小企業の雇用が70%(3500万人)です。
【他の調査】
日経MJ紙の調査では、医療費、自宅での食費、光熱費、子供の教育費が、自由裁量できず増えるため、生活防衛で、以下の順で支出を減らすという回答です。
(1)外食費、(2)預貯金、(3)旅行、(4)娯楽・スポーツ、
(5)衣服・靴、(6)住宅購入、(7)交通費。
真っ先に外食費、次が預金、次が旅行の順で減らします。
世帯が考える生活問題は、順に、
(1)給与や事業収入が増えない、
(2)減ってきた貯蓄を増やさねばならない、
(3)物価が上がった、
(4)失業と仕事の継続に、不安がある、
(5)税金などの公的負担が増加する、
(6)医療費の負担が増える、
(7)ローン負担です。(日経、サンプル1154名の調査:2012年)
政府調査(2007年7月)で、
・将来の生活がよくなってゆくと答えた人は8%、
・同じ状態が続くが60%、
・今より悪くなるが30%です。
(注)本来は、30%:40%:20%でなければならない。
わが国で将来の生活が良くなると感じでいるのは、12世帯のうち1世帯に過ぎません。
ここが、経済の最大問題です。
政党と政府が、世帯所得の問題を取り上げないのも、これが理由です。
こうした中で、消費税を5%上げて、物価が5%上がるとどうなるのか・・・と杞憂します。
(1)良くなって行くと答えた8%(100世帯のうち8軒)が、商品購買を増やし、あるいは高額品を買い、
(2)悪くなると答えた30%(100世帯のうち30軒)は、消費を減らす傾向になります。
同じが、60%です。
(参考情報)
所得格差と失業が大きな米国では、68%の世帯が、「給料ぎりぎりの生活」と答えています(2011年)。
このため、2012年11月の大統領選挙では、失業率8%台を、どういう方策で減らすかが、民主党と共和党の、最大の政治課題になっています。
日本で同じ調査をすれば、やはり70%付近の人(70%の世帯)は、ぎりぎりの生活だと答えるでしょう。
日本では、これが政治の課題にならないのはなぜか? 官僚の所得が高いためでしょうか。
■4.単独世帯の急増:北欧並に向かう
2000年台、2010年台、2020年台のわが国を特徴づけるのは、単独世帯(結婚しない人と高齢者)の急増です。
単独世帯は、1975年には20%でしたが、2005年は30%です。今後も38%(2030年)に向かって増えます。
東京ではすでに45%が単独世帯です。
単独世帯 夫婦のみ 夫婦と子供 ひとり親 その他
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05年 29% 34% 14% 8% 16%
10年 30% 34% 15% 8% 14%
15年 31% 33% 15% 8% 13%
20年 33% 32% 14% 8% 13%
30年 38% 30% 12% 8% 13%
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夫婦と子供という、イメージ化された世帯類型(1990年代までの核家族)は、すでに、全世帯(5100万)の15%に過ぎません。
町を見渡したとき、7軒に1軒しかない。
また、離婚等によるひとり親が8%です。
マーケティンでは、過去の世帯イメージは、完全に捨てなければならない。マーケティングは、メーカーでは商品開発、卸・小売業では商品構成です。
(※ マーケティングの対象分析の中核は勤労家計ですから、勤労家計のマクロ経済でも最重要となります。)
常識は、いつも10年くらいは遅れます。
290円の「東京チカラめし」が、人気を得る理由がこれです。
100軒の町で言えば、
・単独世帯 30軒(これからも、高齢者で増加)(※年収200万以下の結婚できない若者たちも加わるでしょう。)
・夫婦のみ 34軒(減少傾向)
・夫婦と子供 15軒(減少傾向)
・ひとり親 8軒(横ばい)
・その他3世代等 14軒(減少傾向)、です。
以上は、食品を含む全商品分野で、
・過去の前提だった「ファミリー需要」は減って、
・「個人需要(結婚しない人と高齢者)」が増えるということです。
三世代家族が分解した核家族化(夫婦+子供2人)は、1980年代までです。2000年代と、今後は、単独世帯の急増です。
▼高齢化+未婚率の増加
主に単独世帯のうち生涯未婚(50歳時点で結婚経験がない:2012年)は、男性で20%、女性で10%に増えています。生涯未婚とは、50歳時点で、結婚の経験がない人です。
主因は、男性側の所得が300万円以上、あるいは(※将来)300万円を超える見こみになっていない人が、増えたからです。
アンケートでは、女性は、相手の男性に、最低でも年収400万円を要求しています。
[比較]個人所得が5%から7%は増えていた1980年の生涯未婚は、男性で2.6%、女性で4.5%しかなかったのです。
1990年でも、男性の生涯未婚は6%でした。
1990年代と2000年代の20年間で急増したのが、生涯未婚です。
(注)なお、フランスと北欧では、非婚の子供が50%以上です。日本では婚外子と言っていますが、これらが多数派です。
わが国の少子化は、男性の所得が低く、結婚できない人が増えたからです。
30代以下の人にとって「デートも割り勘で」が普通です。レストランで細かく割っている人をよく見かけます。
2000年代の離婚数は、毎年、25万組です。これも、1990年の15万組から増えました。
現在の傾向では、30年間で、離婚750万組ですからほぼ15%の人が離婚しています。
経済的な原因と、異性関係でしょう。
生涯では85%が離婚しない。15%が離婚という意味です。
〔注1:未婚率〕
25歳から29歳の男性では未婚が72%、女性の未婚60%、30歳から40歳で男性47%、女性35%が未婚です。
男性で言えば、40歳未満の、実に60%くらいもが未婚です。
結婚している人のほうが少ない。驚嘆すべき状況です。
20台後半からの結婚という見方は、ほぼ30年も過去のライフ・スタイルです。
〔注:高齢世帯の単独化〕
高齢世帯が単独になるのは、60歳未満で35%(離婚と死別)、60歳代で36%、70歳以上で28%です。
60歳代には、70%くらいの人が、1人住まいの単独世帯になっています。
70代以上では、病気で寿命が来る人も多く、ほぼ全世帯がひとり住まいになる。
1人暮らしの世帯で、健康状態が悪いと答える人は、22%です。
また、全国の要介護の人は530万人(介護の五等級合計)で、総介護費用は8兆円です。
1人あたりでは、医療費とは別に、1人平均130万円の介護費です。
以上のような、生涯未婚と高齢者の、ひとり住まいの増加のため、単独世帯の増え、「食も個食化」に向かっています。
人口2000人(800世帯)に1軒があり、すっかり町のお店になったコンビニが、「小パック化(量が半分)」で、単独化した需要に適合しています。これが、コンビニの売上げが増えている理由です。
コンビニの顧客単価は600円です。1日に、ほぼ1000人が、食品と飲料を中心に、600円分を買っています。1日に2回も多い。
【世界の単独世帯比率:北欧で高い:若年者の独身】
もっとも多いのはスウェーデンの46%です。ドイツ39%、ノルウェー・デンマーク38%、オランダ35%、オーストリア34%、日本30%です。米国は26%とまだ少ない。
北欧やフランスでは、未婚のままで、子供を産むことが多い(婚外子50%以上)。
「子供は男女に生まれるが、育てるのは社会」という、子供に対する社会福祉の思想があるからです。公立学校は、高等教育もほぼ無料です。医療も無料です。
ただしその代わりに、給料からの社会福祉費は50%を超えています。
国民負担が、世帯所得の60%や70%と高くても、それは還元されるという考えがあるため、北欧では、政治的な不満にはなっていません。
(※ 重要な政策は必ず、政労使交渉で検討される。もちろん労働組織は日本のような利己的な企業内労組ではない、職業職能組織の産別連合である。企業内労組で政労使交渉などされたらたまりません。)
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これからの世代と経済(3)へ続きます。
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