日米中、E・トッドの見解、私の見解:堀茂樹
2013-04-16

小沢、堀茂樹対談は小沢氏をよく理解する堀氏が、小沢氏の極めて広範な高い識見の基礎にある考え方を引き出したものでした。
堀氏はフランス文学、哲学の研究者とのことですが、小沢氏の研究した英国の民主制度と非常に共通点が多いながらも異なる経過を辿った、フランスの民主政治思想も研究しているようです。
いずれも戦争と階級闘争を前提として固められてきた西欧の民主制度としての共通制を持ちますが、絶対的貧困と搾取が労働階級を団結させ、一面ではマルクス資本論のモデルとなった英国の経験。暴力革命で農地解放を成し遂げ、干渉戦争を勝ち抜いたフランスの経験は異なるものも多々あります。
「銅のはしご」氏が堀氏のエマニュエル・トッドについての解説をしてくれましたので紹介します。
トッドは人口論から経済学へのアプローチを行ったことで知られますが、もちろんその方面に尽きるものではないでしょう。
このブログ内のエマニュエル・トッド関連ページには
世界通貨戦争(15)自由貿易主義批判Toddがあります。
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日本・中国・米国 ― E・トッドの見解、私の見解 2010年12月31日 堀茂樹のブログから
2010年12月29日の読売朝刊文化面にエマニュエル・トッドのインタビューが載っている。見出しは「『傲慢な』中国、力を過大評価」。署名は山田恵美記者。
私は取材時にトッドの友人として通訳を務めたので、彼のその折の発言とこのたびの記事の対応関係についてあれこれ言う立場にない。そして実際、記事に不満はない。
中国について、トッドは記事にあるとおり、かなり危険な傾向を示しているとの見解を持っている。先日彼から届いた私信メールにも、個人的な親日的心情からも、中国の動向を懸念している旨が記されていた。
ただし、彼の場合、「マジで」中国を警戒するといっても、それは中国をその本質において敵視するということでは全くない。
中国の覇権志向に譲歩せず、中国人のためにもあの国を内需中心経済へと促せと言っているだけだ。
だからトッドは、イデオロギー的に「反中国」なのではない。
同じように、トッドはいわゆる「反米」主義者でもまたない。
2002年のベストセラー『帝国以後』で、今やアメリカは世界にとって頼れるリーダーどころか、問題児になったと断じたけれども、彼は事実認識のレベルでそう述べたにすぎない。
トッドが米国について言ったのは、思い切って乱暴に要約してしまえば、イラクのような弱小国に攻め込む茶番的デモンストレーションで軍事的有用性を見せつけ、それによって欧州や日本の産業力に「タカる」という貿易赤字立国から早く脱却して「普通の」健全な大国に戻りたまえ、ということに尽きる。
というわけで、エマニュエル・トッドに「反米」のレッテルを貼るのは、ゲーツ国防長官の前へ出たとたんに直立不動で最敬礼しかねないような米国崇拝者のヒステリーか、もしくは逆に、いつも事なかれ的に米国に追随しながら、一方で漠然とした屈辱感を晴らしたくて欧州知識人の辛辣な米国批判を追いかけるという、
ある種類の日本人に特有のガス抜きでしかない。
戦後日本を占領したのが米国であってソ連でなかったことは、日本にとって異論の余地なき「不幸中の幸い」であろう。今日、日本のいったい誰が、米国に従属するより中国に従属したいなどと思うだろう?
米国にノーと言えないほうが、中国にノーと言えないよりはマシである。この前提は外せない。
問題はその先である。
日本は米国にイエスと言い続けていれば、中国にノーと言えるのか? そんな単純な話ではないのが国際政治だろう。
独立の気概もなく無定見にA国に追随するB国は、A国から実は軽んじられ、C国から見くびられる。
これは火を見るよりも明らかだ。
そして、互いに一目置き合うのはA国とC国ということになる。
そこでトッドは、他国に口出しするのは僭越だからと遠慮しつつも言うのだ。
今後日本はアメリカの軍事的後ろ盾を当てにし続けるべく、米国にとって都合のよい保護領のようにふるまっていくか、あるいは独立の道を選んで、核抑止力をも含む自主防衛力の整備に踏み切るか、究極的には二者択一なのではないか、
と。
いうまでもなく後者は、かつてドゴール大統領に率いられたフランスが選んだ道である。
さらに、近年核兵器を保有すると同時に知識立国し、今秋自国の議会を訪れたオバマ大統領をして、国連安全保障理事会の常任理事国に強く推す旨を明言させた ― 米国大統領はこれまで日本の常任理事国入りを本当に明確にプッシュしたことは一回もない ― インドが選んだ道であるともいえよう。
<追記>:
仮に中国の覇権主義がリアルに日本の領土と安全を侵す状況が生じたとして、現在の米国が日本の同盟国として現在の中国に対して軍事的に事を構えるだろうか?
日米安保の対象だとされる尖閣諸島にしても、侵略されたときに戦うのは自衛隊であって、たとえ自衛隊が劣勢でも、米軍は米国議会の承認が得られないかぎり援軍に来はしない。
しかも、もし尖閣が中国の支配下に入ったら、そのときは既成事実を認めるというのが米国の立場なのである。
米国が日本や東南アジア地域・海域を容易に中国の影響下に置かせないとすれば、それは日本とその地域・海域が米国の既得権益ゾーンである限りにおいてだけだろう。
これを果たして国家と国家の同盟関係といえるだろうか?
日本は都合のよい駒として「大事に」されているだけであって、いざとなれば取引の捨て駒にされかねまい。折しも経済面で、米国にとって、果たして日本は中国以上に重要な国であり続けているだろうか?
仮に今なおそうだとしても、この状況はいつまで続き得るのか?
わが国の外務省は、事実上アメリカ国務省の支局であるかのように見える。
なぜなら、戦後の冷戦下ではもちろん、冷静終結以後も、一度としてハッキリと米国に対峙する立場や姿勢を示したことがないのだから。
つまり、日本はこれまで、米国の要求をほとんど常に唯々諾々と受け入れてきた。
受け入れられないときは堂々と断るかわりに、「国民感情」などを言い訳にして見逃してもらおうとしてきた。
あるいはまたカネや密約で米国のご機嫌を取ろうとしてきた。そうして、ビッグブラザーの「厚意」に似たものをつなぎ止めようとしてきた。
そんな国が「国際社会で名誉ある地位を」占められるわけがない。奮起して自立するのか、しないのか、That's the question !
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