R・フィスク批判:民衆か宗派かではない、闘う思想の重要性
2011-02-22

民衆の反乱ではなく、宗派間の抗争だ、等と言うつもりではない。
経済的な困窮が民衆の反乱に結びつくことは正しい。ただそのことをもって宗派間の抗争ではない。という発想はポイントがズレているのである。
一体、誰が宗派間の抗争だなどと言っているのだろうか。
中東で始まった大衆的な反政府闘争で宗派間の抗争がありそうなのは、唯一バーレーンだけである。
これは、イランのイスラム革命を抑えこみたいアメリカと、多数のシーア派を少数のスンニー派で抑えこむ政権の利害一致でシーア派を抑えこんできたために、シーア派大衆が貧困に放置されてきたためである。
この場合は反政府運動が宗派間抗争に流れなように注意しなければならないだろう。
だが、これはバーレーンの個別な状況である。
中東全体では宗派間抗争に流れこまされそうな国は他にはない。
アルジェリアは独裁に変質したアラブ社会主義と民衆の闘いであり、他は殆どが、親米・新イスラエル政権と反米・反シオニズムの貧困大衆という構図があらわになってきつつある。
貧困と反米・反シオニズムに宗派間の抗争など入り込む余地は無いのである。
それより問題は、逆に、大衆の貧困のみで独裁を打倒し、さらに旧特権利益層を追放出来るのか。
平和的なデモで政権が妥協譲歩する余地は普通は非常に限定的である。
トカゲの尻尾切りと同じことで、独裁者と取り巻きの数人を追放して、一応民主的は選挙を実施して、旧特権利益構造はそのままというのが普通だろう。
こうした構造までを変えるには民衆側が強制力を持たなければ不可能である。
「民衆の反乱」のみではそうした強制力は何処からも発生しない。
無血革命であろうが、暴力革命であろうが、およそ「革命的な変革」とは、旧体制の特権利益階層との激しい闘争を作り出す。何故なら、彼らも当然ながら「はい、そうですか。貧困大衆に従います」とはなるわけもないので、必死の反動攻撃を行うからである。
だからこそ、逆に言うならば、そうした旧特権利益層による必死の攻撃を呼び起こすほどの闘いを、「革命」と規定しているのである。
私たちは歴史に学ぶことが出来る。
旧制度の特権利益層に手をつけずに、表面的な選挙制度の改善で終わる程度の改革というものは、現実にはその社会の貧困、暴力、特権を解消できない。
民主的で公正な選挙制度は、無いよりもある方がはるかに望ましい。だが、特権利益階層はマスコミ、武力などあらゆる手段を行使して、自らを守りぬく。北欧の労働党政権は改良主義でさえ確立するのに50年以上も費やしている。
民衆の意思をとおすには、民衆の側に何らかの武力が必要なことは現実である。
フランス、アメリカの義勇兵、近くはフィリピンのマルコス打倒の場合の参謀長派と治安警察軍。ベネズエラの空挺部隊。
中東の反政府闘争も、アメリカの口先支援で勝てるとは思われない。
今、エジプトは軍が穏健改革に進もうとしている。またアルジェリアは軍将公団が民衆側へ動き出したようだ。
だが、これらの武力が、実際に旧特権利益階層対決し、武力行使を辞さないとの構えで、あるいは実際に行使して「見せることが、情勢の展開を引き起こすのである。
いかなる形の武力であれ、民衆側に立って、旧支配層に武力行使すると、あるいは出来るというのは、武力の内部に非常に過酷な緊張をもたらすことは疑いないのである。
旧来の支配思想を脱皮して、新しい社会的な軍事行動を起こす為には、もちろん新しい社会思想への交代が不可欠になる。
ロバート・フィスク氏は、旧支配層がともすれば社会思想的に、最初から誤解する傾向があると指摘している。
私はこれは、誤解というより旧支配層の臆病さと過敏さの表れであり、旧支配の思想がホゴにされる危機感と考える。
フィスク氏の言う北アイルランドの場合も、武装したIRAが百年間も戦えたのは、彼らなりのカトリックを社会思想として団結し統制してきたからに他ならないのである。
フィリピンのマルコス打倒はカトリックが介入し、民衆側武力に支持を与えるた。
貧困は階級闘争の原因である。それは事実である。
しかし、その闘いはマルコス打倒程度でも、何らかの実体的な武力を必要とする。
そして、その武力は見せかけでなく、事実行使できるなら、社会思想が不可欠である。
独裁に利用されたアラブ復興社会主義は、既に色冷めてしまった。
中東は民衆の社会思想を、イスラムが担い始めている。
旧支配階層は誤解しているのではない。
大衆の側、兵士の側も気付き始めている。
ロバート・フィスク氏はバーレーンのシーア派に注意が集中しすぎているようだ。
良心的なジャーナリストとは言え、西側にとって宗派抗争に落としたい勢力が強いからかも知れない。
反米・反シオニズムでは世界のイスラムが団結できるのだが。
追記
要は歴史が展開するときのダイナミズムなのだろう。
書いていたら、意外と長くなってしまったので、別ページにしました。
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