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異様なTPP開国論:内橋克人(1)

 内橋克人
 TPP(環太平洋経済連携協定)については、これまでも世界通貨戦争を仕掛けるアメリカの政治経済戦略であり、日本にとっては極めて重大で危険な代物であることは、これまで述べてきたとおりです。

 TPPは世界通貨戦争の中での対米不平等条約であるとする中野剛志氏のインタビューを引用した「米国TPPは100年目の攻撃」、視点はやや異なるが三橋貴明氏のTPP批判を一部引用した「無能政権につけ込む米国TPP」を書いてきたので御覧ください。

 中野氏のインタビューは些か長文なので「中野剛志TPP批判の要約」にまとめました。
 また、国際関係として不平等条約であることを指摘する元外務省情報局長孫崎享氏のツイッターを「TPPは日米不平等条約」に紹介しました。

 さらに日本のマスコミは、アメリカがTPPを進める理由を国民が知らないように、オバマ演説の関連部分をカット捏造したことを三橋貴明氏が指摘し、批判した。「日本マスコミがカットしたオバマ演説」にを御覧ください。

 テレビ・大新聞はカットや捏造までして、アメリカの戦略に協力している。TPPをとおそうとしている。
 
 今回は内橋克人氏の講演録を見つけたので紹介します。
 内橋氏はフリーのエコノミスト。共生経済の提唱者。市場原理主義と構造改革批判。宇沢弘文氏と立ち位置を近くする。
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 内橋克人氏からの引用

異様な「TPP開国論」歴史の連続性を見抜け
むき出しの市場原理主義に対抗思潮を
2011.1.28 (社)農協協会、新世紀JA研究会、農業協同組合研究会の3団体による講演録

 TPPについて東京発マスコミの「開国」一辺倒論ぶりは異様なものです。例えば去年秋の日比谷での大規模な反対集会について1行も報道していません。
 これに対して、地域社会に密着するジャーナリズムは違っておりまして、私が書いた『TPP開国論を問う』『市場原理主義 再び』といった反対論を大きく掲載しています。

 お手許に配ってあります資料をご覧ください(中国新聞、北海道新聞)。すでに崖っぷちに立たされている日本農業の背中をさらに押す、というような圧力が出てきた時、中央紙とはまるで違う対応をする。
 それがコミュニティ・ペーパーの特徴でもあるでしょう。ともあれ、いまやTPPをめぐって「国論二分」の状況になってきました。

 協同組合の中にもいまだTPPに関して態度を決めかねている方がいます。「まだ情報を収集中」などという、ある協同組合トップの方に私は率直に「情報が集まった時にはもう手遅れですよ」と申し上げた。
 菅直人首相は歴史上、幕末・明治を第一の開国、あたかも輝かしい開国であったかのごとく信じているようですが、蒙昧とはこのことをいうのでしょう。第一の開国こそは欧米列強への隷従的・片務的な「不平等条約」でした。
 相手国は一方的に関税を決め、日本は独立国家の当然の権利である関税自主権さえ奪われた。それから領事裁判権という名のもと、犯罪を犯した外国人を日本の法律で裁けない治外法権も強制されました。
 対等な関係における日本の「開国」がやっと実現したのは、第一の開国から60数年も経った第1次大戦後のことです。
 近代日本がいかに苦悶を迫られたか、それを菅氏はご存じない。

 「開国」という「政治ことば」に秘められた大きな企みが人々を間違った方向へ導いていく。「規制緩和」「構造改革」がそうでした。
 これに反対するものは「守旧派」と呼び、少数派として排除しましたが、今回も同じ構図です。
 「改革」とか「開国」とか、一見、ポジティブな響きの、前向きの言葉の裏に潜む「政治ことば」の罠、その暗闇に目を注ぎながら言葉の真意を見抜いていかなければなりません。

 「国を開く」などといいますが、その行き着くところ、実質はまさに「国を明け渡す」に等しい。「城を明け渡す」とは落城のことです。光り輝く近代化というイメージ、その実態は?と問わなければなりません。「第一の開国」についての詳細はお手許の資料に詳述してあります。

◆“四つの異様”

 TPPにつきまして事情はすでにご存じの通りです。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイといった4カ国に始まる多国間協定への経緯、またこれにアメリカ、カナダなどが参加表明するに至ったそもそもの理由など、基礎的、常識的な事情は省略いたしまして、なぜいまアメリカは「米主導のアジア圏」形成に向けて動き出したのか。
 TPPにかけるアメリカのしたたかな戦略性ということについて、考えを述べたいと思います。

 昨年10月、米国際戦略問題研究所(CSIS)と日本経済新聞社共催のシンポジウムで前原誠司外相は「(日本の第1次産業の割合は)1.5%。そのために(これを守るために)残り98.5%が犠牲になっている」と発言しました。
 場所も内容も不適切です。が、これを問題にするジャーナリズムは皆無でした。

 私はこれを「三つの異様」と呼び、第一に菅首相の開国論の異様、第二に前原発言の異様、そして第三に新聞・メディアの異様、三つを揃えて批判の論拠を書きました。こうしたあり方になびく日本社会全体の異様、これを含みますと「四つの異様」となります。

 ところで、CSISとはいったい何を研究するシンクタンクなのか。ワシントンのジョージタウン大学のなかにある。
 1960年代から長期間、アメリカの世界戦略に携わってきたこのシンクタンクをめぐっては、さまざまな説がありますが、今日はその部分は控えておきましょう。
 前原氏はこの機関と日本の大手マスコミとの共催シンポジウムの場で30分ほどの基調講演をし、そのなかで先程のような発言をした。
 アメリカにとってはまさに「舌なめずり」したくなるような言葉です。

 1990年代半ば、「多国間投資協定」(MAI)をめぐる大きな騒動がありました。

 米国のクリントン政権がこの協定を“21世紀における世界経済の憲法”とまで称して、多国間で資本、マネーに関する協定を結ぼうと画策していたのです。
 市民、NGOが気付いたときには、すでに、通商交渉に関して議会の承認なく大統領の一存ですべてを決めることのできる「ファストトラック」という手続き開始の直前。物事は進んでおりました。

 以後、全世界1000を超えるNGОが猛烈な反対運動を展開して結局、クリントン大統領は構想の撤回に追い込まれた。
 フランスのNGO・ATTACはじめ世界中の市民あげての一大反対運動が盛り上がったからです。1997年のことでした。
 日本から声を上げたのは「市民フォーラム2001」というNGОだけで、いってみれば日本は“ただ乗り”の形で難を逃れたことになります。
 だから、今回、市民も無防備なのかも知れません。

◆MAI蘇る

 このMAIの狙いがTPPに姿を変えていまに蘇った、と私は考えています。長い歴史の連続性をきちんと認識できるジャーナリストがいなくなってしまいました。
 もし今回のTPP騒動にヨーロッパが巻き込まれておれば、とっくの昔にNGОが反対運動を立ち上げ、世界中に広げていたことでしよう。

 MAIの狙いはマネーにとって障壁なき「バリアフリー社会」を世界につくるということでした。協定批准国が外資に内国民待遇を与えることを義務付けます。

 重要な点を挙げますと、まず第1に、例えば日本の自治体が不況対策として地場の中小企業に制度融資などを行った場合、これを協定違反とみなします。
 国内企業への公的支援、優遇策はすべて外資に対する差別であるとするのです。

 第2は、投資に対する絶対的自由の保障で、外資に対して天然資源の取得権まで含めて投資の自由を保障する。
 つまり国土の切り売りを認めなさいということです。
 今、外資による森林や水源の買収が問題になっていますが、すでに南米などでは国土を切り売りしている国もたくさんあります。

 第3は、外国人投資家に相手国政府を直接、提訴できる損害賠償請求権を与えるとしたことでした。
 例えば地場産業育成のための公的支援を差別待遇だと外国人投資家が判断すれば、当該国政府を相手取って賠償を求めることができるのです。

 以上は、外国資本への“逆差別”の奨励であり、徹底した外資優遇策です。その背景にウォール街の意思、マネーの企みがあること、いうまでもありません。
 13年ほど前、こういう協定が結ばれようとしていた事実を認識していただきたい。
 もし実現していたらどうなっていたか。
 いずれにせよ、こうした長期の国際戦略を研究し、政策提言するシンクタンクは、たとえ大統領が何代変わろうとも、生き続けているのです。

 今、形を変えてMAIの戦略性が息を吹き返した、それがTPPに盛り込まれた高度の戦略性です。
 ここを見抜かなければなりません。関税ゼロはその一つに過ぎない。

 米国の狙いは対中国戦略にもあります。
 中国はいまなお社会主義市場経済を名乗り、アングロサクソン型市場経済とはルールが違います。

◆協調と緊張

 例えば中国には個人に土地所有権はありません。資本主義市場経済の最も重要な要素は私的所有権、つまり財産権です。
 その一部がないという中国のルールを変えて完全な私的財産権を確立させる、これによって、アメリカ覇権による「グローバル・スタンダード」を世界に普遍化していく、と。

 TPPの真意の一つは中国経済への対抗力、包囲力というものを日本を巻き込んで日米共同で形成していく、これが米国の狙いの一つです。
 TPP加盟予定、参加表明国も含めた環太平洋9カ国の合計GDPの95%が日米二国で占められています。実質は日米FTAといわれるのも、その故ですが、FTAなどとは比較にならないほど、重大なアメリカの対アジア戦略がTPPには込められています。
 その一つが、いまいいました対中国戦略です。

 中国はEUとFTAを結び、むろんアジアでも覇権を確立しようとしています。ルールの違うものが大変な勢いで伸びていることに米国が脅威を感じないはずはありません。

 軍事的にはもちろん、経済的にも米中間には協調と緊張の両側面があり、米国のシンクタンクはこれを両立させていくために、“協調的対決”あるいは“対決型協調”をもって、世界に広がっていく中国の勢いを喰い止めようと政策提言を重ねてきました。

 米国の多国籍企業、超国家企業にとって中国市場こそは人口規模の大きさ、今後の成長力からして、まさに舌なめずりしたい利益機会です。
 しかし、他方で戦略的緊張関係は増大する。この二律背反のなか、米中のルールの調整が大きなテーマになってきました。

 どちらのルール(法的・経済的諸制度)に合わせるのか。
 むろんのこと、アングロ・サクソン型ルールへの呑み込み(吸収的等質化)をはかることが、アメリカの長期の戦略なのであり、その目的の実現に向けてあらゆる手法を採ろうとするでしょう。

 イラク攻撃ではアメリカは対テロ戦という大義を掲げましたが、その真意がイスラム社会のルールを変えさせることにあったことが、いまや歴史的にも明らかにされてきました。
 イスラム世界でも中国の土地と同じように財産権の概念が薄い。
 アングロ・サクソン型資本主義市場経済の基礎的条件である「私的財産権の絶対化」というインフラは、こと少なくとも正統なイスラム圏には存在しない。

 (異様なTPP開国論:内橋克人(2)へ続く)
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