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もうすぐ北風が強くなる

チェリノブイリの子ども:イリーナ・チェルノバイ

   わたしはどこから来たの イリーナ・チェルノバイ(10) 「チェリノブイリの子どもたち」から

 私のお母さんが「私の運命の中のチェルノブイリ」という作文を書いたノートを見て、チェルノブイリについて知っているの、と私に聞きました。
 私はとても小さかったころ、ウクライナで原子力発電所が爆発したことは知っていました。それがチェルノブイリ原発という名でした。
 お母さんの話しでは、子どもたちは5月になってはじめて、放射能汚染地から遠くはなれた所に連れて行かれたそうです。
 私たちは夏中、ゴメリ郊外の観光センターにいました。私は高い松とその松かさを覚えています。

 弟のチーマは、そのころはまだいませんでした。
 彼はあとで生まれました。とてもかわいかったです。
 毎年、お父さんとお母さんが努力して私たちを黒海に連れて行ってくれたことをはっきり覚えています。
 休息し、泳ぎ、日光浴をするためです。
 列車の窓からは、楽しい、いろんな色の、まだら模様の畑や、煙突のある工場、山のブドウ畑、数多くのおもしろいものがたくさん見えました。

 しかし、一番よかったのは、海です。
 夜でも、天気がよくなくても、海に行きました。海の音を聞きに行くのです。
 天気がいいと、波は音もなく砂をあらい、私のはだしの足をなでてくれます。
 怒ったネプチューンが自分の娘たちの髪を引き抜くように、岩に海草がたたきつけられています。そよ風が、夜の鏡のような海から涼しさを運んできます。山には明かりがちらちらしています。
 ある日、イタリアの船を見ました。それは空に星のように、光っていました。

 人はどこにでも住んでいます。
 ただ、私の住んでいるブラーギン地区だけは、空き家がたくさんあります。
 窓ガラスはやぶれ、人が長いあいだ住んでいません。人は死んだか、どこかに行ってしまいました。
 恐ろしいことです。まるごと無人の通りもあります。
 お父さんが「チェルノブイリの事故までは、手を出すと、そこから風が吹いてきた」と言ったことがあります。
 私は小さいからなのでしょうか、その意味がよく分かりません。

 私とチーマは、お父さんとお母さんといっしょにいるのが大好きです。
 両親が、よく病気をするのが残念です。
 なぜなら、もうすぐ海へ行くし、私はチーマに本を読んであげることができないからです。
 私は目が悪いのでたくさん本を読めません。
 私はメガネをかけていて、小児眼科専門サナトリウムに治療で行ったこともあります。

 よかったこともあります。
 牧師さんが私たちをドイツに招待してくれたことです。そこにまる二日かかって行きました。
 私はベラルーシがとても有名だとは知りませんでした。ポーランドの田舎にもベラルーシの旗がありました。ドイツの出窓もベラルーシの旗の色でぬられていました。
 私たちは公園で遊ぶのを喜びました。白鳥が川を泳いでいました。ノロ(※)が道路の上を走っていました。
 ドイツ人は動物が大好きです。動物がよく太っています。

※ノロ
 シカ科の小動物

 ベラルーシの動物はかわいそうです。
 森の中では、放射能入りのドングリを食べ、汚染された草を食べています。
 たぶん、彼らも人間と同じように病気になっていることでしょう。
 鳥のウソが、長いこと冬になっても飛んできません。
 ひょっとしたら、チェルノブイリの風が吹き飛ばしたのでしょうか。コウノトリもあまり見かけません。

 私のおじいちゃんとおばあちゃんは、森のそばにある小さな村に住んでいます。
 とても美しいところです。春にドニエプル川の水が増えると、動物たちは人家に近い島に集まってきます。
 彼らは人間がボートで村に運んでくれることを期待しているのです。ウサギだったらいいけど(おじいちゃんは一度助けたことがあるそうです)イノシシだったらどうするのでしょう。
 ヘラジカは泳ぐのが上手です。ヘラジカは水がひくと、森へ走り去ってしまいます。松林にかくれてしまいます。
 おばあちゃんと花をつみにいったとき、一度だけ、赤毛の子ぎつねを見たことがあります。

 私は、たき火で焼いたサーロとドニエプルで捕れた魚をつかったスープが好きです。
 私はこんなことを書くのが大好きです。
 ここは、私の心のふるさとになるでしょう。

 自然も人間もここに長く住めるようにしてほしいです。
 恐ろしい原子キノコが生えないでほしいです。
 きれいな泉の水を飲みたいです。
 私の両親は孫ができるまで生きたいと思っています。
 私が大人になって、私の子どもたちが放射能を気にしないでいいようになってほしいです。
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