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もうすぐ北風が強くなる

チェリノブイリの子ども:マリナ・ミグラショーワ

  わたしは明るくふるまう マリーナ・ミグラショーワ(16) 「チェリノブイリの子どもたち」から

 チェルノブイリ。この言葉を聞いてなぜ涙をながす人がいるのか。多くの人はわからないでしょう。私も最近までわかりませんでした。

 チェルノブイリ原発事故によって、今でも人々は病気に苦しみ、あってはならないこともおこっています。

 不幸は私にもふりかかり、私は病気になりました。
 診断はリンパ腫(※)です。これは重い深刻な病気で、死刑宣告とほとんど同じなのです。
 私が治療を受けた科学研究所には、このような患者さんがたくさんいました。みんな生きたがっているし、命のために闘っています。
  このような目にあったことのない人は、私のことを分からないのではないでしょうか。

※リンパ腫
 リンパ節、粘膜のリンパ組織などに見られる腫瘍

 私は16歳になりました。
 自分の性格が、かたくなになったような気がします。
 よく、折れた若木や、くずれた鳥の巣、蟻塚を見ることがあります。だけど、それに心をよせるのは、少数の人です。
 人の挫折させられた運命や病気、苦悩にたいしても、それは同じです。

 今、新聞で汚染地区の生活について多くの報道がなされています。
 その光景を考えると、とてもつらいです。私には、持ち主に捨てられた農家、菜園、一面に生えた雑草、捨てられた犬や猫が思いうかびます。
 開かれたままの納屋の戸が、魂を苦しめるように物悲しくきしみ、木々の葉が心配そうな音をたて、人の声はどこにも聞こえません。不気味な重苦しい沈黙がこのような村をおおっています。
 おそろしいけれど、これがのがれられない現実なのです。
 大切なふるさとを永遠に捨てざるをえなかった人の苦悩を想像するのはむずかしくはありません。
 チェルノブイリは人々になんと多くの不幸、涙、被害をもたらしたことでしょうか。

 私はつい最近までベッド暮らしで、壁にあたる日の光をながめながら自分の運命や、ほかの人々の命について考えていました。
 皆、本当に生きたがっているのです。この一年、私はそれをすごく感じました。
 私たちはいたるところで死というものに出合っています。木の葉が枝から落ち、蝶は寒さで死んでいます。
 ある人にとっては、死は、たぶん、待ち続けた平穏のおとずれであり、苦痛からの解放なのかもしれません。
 だから、病人は自殺することもあるのだと思います。
 そんな人たちも、きっと人生を愛していたのでしょう。
 しかし、苦痛に耐えることができなかったのです。

 私と同じ病室の患者さんたちはこう言います。「私たちって、姉妹みたいなものね。いえ、それ以上よ。家族や親戚は時にはそっぽを向くことがあるわ。私たちは2週間家にいて、またこちらに帰ってきて、またもいっしょでしょう」と。
 こんなとき、同じ病室の仲間たちは、寂しげな笑いをするのです。
 彼女たちは、私に多くを語らず、私が自分の病気については、知らなければ知らないほどよいと思っていて、元気づけてくれるだけです。
 私は全てをよく理解できるので、私も多くを語らないようにしています。

 病院のベッドに横になって、闇に光る稲妻にツバメの姿がきらめき、木の葉が震え、すべての生き物が、夏や、暖かさや、太陽を喜んでいるのを開け放たれた窓から見ていると、
 私は安静にしていなければならないのが少し腹立たしく、目に涙が浮かんでくるのです。
 急いでふくのですが、涙はどんどんほおをつたって流れ、枕に濡れた斑点をつくってしまいます。
 私は生きたかったし、生きのびられることを望んでいました。

 私はもう半年も外に出ず、家族の者としか接してきませんでした。私は、だれにも、私の人生に突然襲いかかってきた苦痛を話していません。今後とも、だれにも話さないでしょう、
 私にはよくある見せかけの同情はいりません。
 自分の力で治そうと思っています。ほかに方法はないのですから。
 みんなには以前と同じような活発な子だったと思っていて欲しいのです。
 自分の態度、ふるまいを変えたくありません。

 私は、今、家にいてやることがたくさんあります。
 編み物をしたり、本を読んだり、宿題をしたり、家の掃除をしたり……。ただ、夜みんなが寝静まった時に、一人っきりになると、悲しくなることがあります。
 でも、そのときは、できるだけ楽観的になるように試みるのです。
 これがけっこう、うまくいくんです。私の家族はよい家族でいい人ばかりです。わたしはとても家族を愛しているので、私のことで悲しませたくありません。
 明るくみえるようにし、冗談も言うようにしています。
 いつもそううまくいくわけではありませんが……。

 私は、将来に希望をいだいています。
 毎晩、私は、今日より明日はよくなると信じて眠りにつきます。
 時々夢に、私の幸せだった子どものころのことが現れます。
 そこでは私を不安にさせるものは何もなく、私は鳥のように、手を羽ばたかせて、空高く舞い上がり、美しさにあふれた故郷ベラルーシをながめることができるのです。
 この大地が好きです。そしてこれからもずっと好きです。
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