アベノミクスの展開と帰結:吉田繁治(2)
2013-02-15
(1)からの続きです。
ーーーーーーーーーーーーー
2.名目金利は低いが、期待実質金利は高い
ここで、岩田氏を含むリフレ派は、以下のように主張します。
(1)日本の物価は、期待インフレ率が1~2%のマイナスである。
(2)名目金利は0%付近でも、マイナスの期待インフレ率を加えた期待実質金利は、2%から3%と高い。
このため、借入が増えない。借入が増えないから、マネー・サプライは増えず、物価のマイナスが続く。
日銀が果敢な量的緩和を行うと宣言し、実際に行って、物価の期待上昇をまず1%、次は2%付近にまで高めると、期待実質金利は物価上昇分、下がる。これで借入は増える。
この借入は住宅投資と設備投資の増加を生むから、実質GDPと、物価上昇を加えた名目GDPは増加に向かうという。
このためには、日本の、2000年代の物価の下落は、
・円高での安価な輸入品や、人口高齢化による消費の減少という構造的な要因からのものではなく、
・マネー・サプライの増加の低さが原因だったと、証明せねばならない。
マネタリストが言うように、物価下落が貨幣要因なら、マネー・サプライ(M3)の4%以上の増加、メドは+6%(金額で1年に+70兆円)によって、期待物価の上昇は2%に近づいて行くからです。
日本の1998年からの消費者物価の下落は、輸入品の安さからのもの(代表してユニクロ現象と言う)ではなく、
・マネー・サプライの増加が4%以下だったからであり、
・このため、需要が減ったからだという証明を経済学的に行ったのが『デフレの経済学』です。
安倍首相は、このマネタリストの論を採用し、「日銀は、物価上昇目標を2%として、マネー・サプライを果敢に増やす金融政策をとるべきである。」としました。
(注)マネタリストの主張が、現在の日本にとって、正しいかどうか、経済理論的には、明らかではありません。
1929年から33年の大恐慌のときは正しかった。しかし経済は、新しく変わります。
同じ政策が、現代の日本経済にとっても正しいかどうか。問題はここです。
【期待で生じた円安と株高】
政権の交代ともに、「経済・金融政策が、マネー・サプライ量の増加に変わる」という期待から、
(1)円はドルに対し、79円付近から93円にまで、17%下落し、
(2)円の下落が、減ってきた日本の輸出を増やすという期待になり、
(3)輸出企業の採算の上昇と、
(4)物価の期待上昇率も上がるという予想から、企業の売上・利益の、増加が期待されるため、株価は35%上がったのです。
これを実現させたのは、ヘッジ・ファンドによる、
(1)円売りの増加と同時の、
(2)株の買い超の増加の継続です。
期待で円が売られ、同じ期待で株が買われています。まだ、マネー供給の増加はないのです。
日銀が、無期限で国債を増加買いするとしたのは、2013年ではなく2014年からです。
【円高の基底の原因は、貿易黒字だった】
経済指標のファンダメンタルズ(基礎データ)で言えば、日本の貿易黒字は、2年前の2011年から、赤字に転落しています。
2011年は7.7兆円、2012年は10兆円の赤字です。
1980年代から30年間の、円高の基底の原因は、わが国の、恒常的な貿易黒字でした。
$1=80円台の円高になっても、貿易は、黒字を続けていました。
ところが貿易は、2011年から、はっきりと赤字に変わっています。
しかし、ユーロ危機とドル安予想から、円とスイスフランに、世界の短期マネーが流れ、$1=75円を超える勢いの円高になっていたのです。
$1=80円以下は、明らかに過剰評価でした。
これが、「安倍政権はインフレ策を取る」ということから、円売りを呼びました。
投機マネーが、円売り・ユーロ買い・ドル買いに戻ったからです。
(注)今後、日本が、貿易黒字の、2010年までの体質に戻ることは、ほとんどない。貿易赤字の恒常化は、長期的に見て円安の大きな要素です。
(※ 実体経済である貿易収支の赤字が続くとその国の通貨は相対価値が下がる。下がることで価格が有利となり、黒字へ転換の素地となる。投機は通常そうした実体経済の予測に先手を打つことで利益を上げる。)
マクロ経済で言えば、「貯蓄-投資=経常収支の黒字」です。
貯蓄額の増加が、高齢化で構造的に減っていますから、経常収支の黒字も減少します。
経常収支は「貿易・サービス収支+海外からの配当・受取金利」です。
海外から受け取る配当・金利は、1年に15兆円くらいです。
【日経平均の株価】
日経平均で、予想PERが10~12倍、株価で8500円付近は、国際的な株価水準のPER15倍から見て、過小評価と言われていました。
PER15倍とは、向こう15年分の、企業の純益予想の合計が株価になっているという意味です。
(注)株価は、予想純益を、金利とリスク率で割って、現在価値にしたものです。
マネーを刷ると宣言した安倍政権を機会とみて、ヘッジ・ファンドは、円を売って、株を買っています。
ヘッジ・ファンドは、
・2012年10月の、8500円付近(予想PER12倍)で、PBR(純資産÷時価総額)が1を割っていた日経平均を過小評価と見て、
・同時に、$1=80円未満の円を、10円は過大評価と見ていました。
これを、安倍政権の実現予想とともに、市場に先駆けて見直したの
です。
(注)日経平均の予想PER (株価時価総額÷予想純益)は、2011年10月は、12.2倍と低かった。
国際的に妥当な水準は、ほぼ15倍です。
2012年2月には、すでに、20倍くらいに上がっています。
予想PERの20倍は、今後新たな、企業純益を増やす材料が出ないと、危険な高値の水準です。株価は、安くなるときも高くなるときも、行き過ぎます。
http://www.opticast.co.jp/cgi-bin/tm/chart.cgi?code=0168
2012年2月の、日銀のインフレ・ターゲット1%は、その後の日銀の行動、つまり抑制的な金融政策の継続のため、信用されなかった。
●今回は、政権が交替し、本当に、マネー供給を増やすことを日銀が実行するのではないかという予想からです。
これが、短期で、株価が20%上昇を超え、35%も上がっている理由です。
【期待で動くのがマネー】
金融的なマネー動きは、実体経済の成長とマネー量の増加に、約半年から1年先駆けた動きをします。
まだ、日銀の、マネー・サプライ量4%以上の増加に向かう量的緩和も、インフレもない。
・円は、量的緩和とインフレの期待で下げ、
・株も、この期待で上がっています。
当方が金融に関心をもち続けるのは、実体経済に、数歩は先駆けた動きをするからです。
■3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因からか?
経済の指標には、(1)並行現象と、(2)原因現象があります。
並行現象は、それとともに起こるもので、原因現象は、AがBの原因になるものです。これの見極めは、実は、難しい。
経済では、AとBが、
・原因と結果の関係ではなく、
・並行現象であることも多いからです。
【リフレ派】
岩田氏とリフレ派は、マネタリズム学派の説を根拠に、マネー・サプライの増減が、物価の原因現象であると言います。
そして、日本ではマネー・サプライの増加が4%未満のとき、物価が下がっていたという。これは事実です。
簡単には、預金が4%増えたときは物価上昇がゼロで、4%未満(現在は2%増加)のときは、デフレになっていた。しかしこれは、原因現象なのか、並行現象なのか?
経済学では、まだ決着はついていません。
デフレの研究をしたのは、1929年から33年の米国大恐慌の『大収縮1929-33』(フリードマン)です。
1920年代の、バブル的な好況のあと、29年の株価暴落を起点にした銀行の不良債権の増加と、貸出の減少を主因に、米国のマネー・サプライが35%減った。
同時に、GDPは37%縮小し、卸売り物価は40%も下がっています。
【構造派】
構造派(野口悠紀夫氏等)は、日本の物価が下落した原因は、海外物価よりはるかに日本の物価が高かったこととします。
ユニクロやニトリのようなところが、中国からの開発輸入を行ったから下がったという判断です。それと、家電のような技術革新です。
マネー・サプライの増加率の低さ(2%)と、物価の下落(1%から2%)は、並行して生じた現象であり、マネー量は物価の原因現象ではなかったとします。
【民間の銀行システムでのマネー量の増加】
中央銀行がマネーを増発しなくても、「銀行借入→投資」が活発な時期は、借入が他の預金になって行く銀行システムの中で、マネー・サプライは増えます。
バブル期は、土地担保の評価増が原因で、借入が増え、不動産投資が増え、マネー・サプライは、10%以上増えていました。
1992年からは、金融引締めと地価下のため、マネー・サプライの増加は0~2%に下がりました。
1998年以降は、日銀がベース・マネーを15%から20%増やしても、マネー・サプライの増加は、年1%~3%台でした。
同じ条件での実験ができない経済を扱う経済学が、科学でない理由は、原因と結果の関係を、明らかにできていないからです。
そのため、学派がある。(注)サミュエルソンの教科書、『経済学』は、多くの学派の本質をとらえつつ網羅しています。
医学に例えれば、同じ症状で、原因の診断と治療法が異なっているようなものです。
(注)多くの感染症は、原因が明らかになっています。臓器毎に種類があるガンには、原因への定説がまだないようです。
▼「相対物価」と「一般物価」
輸入財の安い物価(相対物価)が、日本の物価(一般物価)を下げた主因という構造派に対し、マネタリストは、以下のように反論します。根拠となる学説はフリードマンです。
「相対価格の変化と一般価格(物価)の区別をすることが重要である。
石油や食料が上がれば、それらに対する支出額は増えるが、企業や世帯は他の商品に対する支出を減らすため、需要が減ってその物価が下がるだろう。平均的な価格である物価が、相対価格の変化によって影響を受ける理由はない。」『デフレの経済学(P123):
フリードマンの要旨1975』
ここから、岩田氏は以下のように、
・相対物価が下がれば、
・一般物価が上がる論を展開します。
「輸入財の価格(相対物価)が下がれば、企業や消費者は、輸入財への支出が減った分を、輸入財とは競合しない他のものの支出に向けるから、それらの価格は輸入財価格の低下を相殺するように上が
るだろう。その結果、(一般)物価は下がらない。」(同書:P124:岩田氏)
同書と、岩田氏の考えで、肝心なところは、ここです。
どうでしょう? 岩田氏は正しいでしょうか?
具体的に言えば・・・
ユニクロやニトリの商品(相対価格で低い)を買うようになって、衣料や家具への支出は減った。そのため、他の商品を余計に買うようになり、他の物価は、需要が増えて上がるはずだ。
・・・ところが、日本では、他の物価も上がってはいない(ほぼ±0%です)・・・だから・・・(ここからが肝心です)、日本の一般物価の下落は、輸入物価と、生産および流通の技術革新(構造改革)が原因ではない。
一般物価が下がった原因は、1100兆円のマネー・サプライが2%台(20~25兆円)しか増えなかったからである。
物価の原因は、マネー・サプライの量である。このため、日銀がマネーを刷って、銀行がそれを貸しつけ、企業と世帯がその増加マネーを使う需要と投資が増えれば、物価の下落は止まる。その後も、更に量的緩和を継続すれば、一般物価は、1%、2%と上がるように変わる。
(注)経済学では、世帯が消費財を買うのも、企業が機械を買い、
設備投資を行うのも、同じ「需要」の範疇(はんちゅう)です。
このための、日銀によるベース・マネーの必要増加額は、1年に70兆円(マネーサプライの6%)くらいです。半年ではなく、2年(中長期)は続けねば、マネーの要因からの物価は、2%は上がりません。
日銀の円の印刷による、140兆のベース・マネーの増加が必要でし
ょう。これが、物価を2%上げる、「果敢な量的緩和」の意味です。
ーーーーーーーーーーーー
(3)へ続きます。
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2.名目金利は低いが、期待実質金利は高い
ここで、岩田氏を含むリフレ派は、以下のように主張します。
(1)日本の物価は、期待インフレ率が1~2%のマイナスである。
(2)名目金利は0%付近でも、マイナスの期待インフレ率を加えた期待実質金利は、2%から3%と高い。
このため、借入が増えない。借入が増えないから、マネー・サプライは増えず、物価のマイナスが続く。
日銀が果敢な量的緩和を行うと宣言し、実際に行って、物価の期待上昇をまず1%、次は2%付近にまで高めると、期待実質金利は物価上昇分、下がる。これで借入は増える。
この借入は住宅投資と設備投資の増加を生むから、実質GDPと、物価上昇を加えた名目GDPは増加に向かうという。
このためには、日本の、2000年代の物価の下落は、
・円高での安価な輸入品や、人口高齢化による消費の減少という構造的な要因からのものではなく、
・マネー・サプライの増加の低さが原因だったと、証明せねばならない。
マネタリストが言うように、物価下落が貨幣要因なら、マネー・サプライ(M3)の4%以上の増加、メドは+6%(金額で1年に+70兆円)によって、期待物価の上昇は2%に近づいて行くからです。
日本の1998年からの消費者物価の下落は、輸入品の安さからのもの(代表してユニクロ現象と言う)ではなく、
・マネー・サプライの増加が4%以下だったからであり、
・このため、需要が減ったからだという証明を経済学的に行ったのが『デフレの経済学』です。
安倍首相は、このマネタリストの論を採用し、「日銀は、物価上昇目標を2%として、マネー・サプライを果敢に増やす金融政策をとるべきである。」としました。
(注)マネタリストの主張が、現在の日本にとって、正しいかどうか、経済理論的には、明らかではありません。
1929年から33年の大恐慌のときは正しかった。しかし経済は、新しく変わります。
同じ政策が、現代の日本経済にとっても正しいかどうか。問題はここです。
【期待で生じた円安と株高】
政権の交代ともに、「経済・金融政策が、マネー・サプライ量の増加に変わる」という期待から、
(1)円はドルに対し、79円付近から93円にまで、17%下落し、
(2)円の下落が、減ってきた日本の輸出を増やすという期待になり、
(3)輸出企業の採算の上昇と、
(4)物価の期待上昇率も上がるという予想から、企業の売上・利益の、増加が期待されるため、株価は35%上がったのです。
これを実現させたのは、ヘッジ・ファンドによる、
(1)円売りの増加と同時の、
(2)株の買い超の増加の継続です。
期待で円が売られ、同じ期待で株が買われています。まだ、マネー供給の増加はないのです。
日銀が、無期限で国債を増加買いするとしたのは、2013年ではなく2014年からです。
【円高の基底の原因は、貿易黒字だった】
経済指標のファンダメンタルズ(基礎データ)で言えば、日本の貿易黒字は、2年前の2011年から、赤字に転落しています。
2011年は7.7兆円、2012年は10兆円の赤字です。
1980年代から30年間の、円高の基底の原因は、わが国の、恒常的な貿易黒字でした。
$1=80円台の円高になっても、貿易は、黒字を続けていました。
ところが貿易は、2011年から、はっきりと赤字に変わっています。
しかし、ユーロ危機とドル安予想から、円とスイスフランに、世界の短期マネーが流れ、$1=75円を超える勢いの円高になっていたのです。
$1=80円以下は、明らかに過剰評価でした。
これが、「安倍政権はインフレ策を取る」ということから、円売りを呼びました。
投機マネーが、円売り・ユーロ買い・ドル買いに戻ったからです。
(注)今後、日本が、貿易黒字の、2010年までの体質に戻ることは、ほとんどない。貿易赤字の恒常化は、長期的に見て円安の大きな要素です。
(※ 実体経済である貿易収支の赤字が続くとその国の通貨は相対価値が下がる。下がることで価格が有利となり、黒字へ転換の素地となる。投機は通常そうした実体経済の予測に先手を打つことで利益を上げる。)
マクロ経済で言えば、「貯蓄-投資=経常収支の黒字」です。
貯蓄額の増加が、高齢化で構造的に減っていますから、経常収支の黒字も減少します。
経常収支は「貿易・サービス収支+海外からの配当・受取金利」です。
海外から受け取る配当・金利は、1年に15兆円くらいです。
【日経平均の株価】
日経平均で、予想PERが10~12倍、株価で8500円付近は、国際的な株価水準のPER15倍から見て、過小評価と言われていました。
PER15倍とは、向こう15年分の、企業の純益予想の合計が株価になっているという意味です。
(注)株価は、予想純益を、金利とリスク率で割って、現在価値にしたものです。
マネーを刷ると宣言した安倍政権を機会とみて、ヘッジ・ファンドは、円を売って、株を買っています。
ヘッジ・ファンドは、
・2012年10月の、8500円付近(予想PER12倍)で、PBR(純資産÷時価総額)が1を割っていた日経平均を過小評価と見て、
・同時に、$1=80円未満の円を、10円は過大評価と見ていました。
これを、安倍政権の実現予想とともに、市場に先駆けて見直したの
です。
(注)日経平均の予想PER (株価時価総額÷予想純益)は、2011年10月は、12.2倍と低かった。
国際的に妥当な水準は、ほぼ15倍です。
2012年2月には、すでに、20倍くらいに上がっています。
予想PERの20倍は、今後新たな、企業純益を増やす材料が出ないと、危険な高値の水準です。株価は、安くなるときも高くなるときも、行き過ぎます。
http://www.opticast.co.jp/cgi-bin/tm/chart.cgi?code=0168
2012年2月の、日銀のインフレ・ターゲット1%は、その後の日銀の行動、つまり抑制的な金融政策の継続のため、信用されなかった。
●今回は、政権が交替し、本当に、マネー供給を増やすことを日銀が実行するのではないかという予想からです。
これが、短期で、株価が20%上昇を超え、35%も上がっている理由です。
【期待で動くのがマネー】
金融的なマネー動きは、実体経済の成長とマネー量の増加に、約半年から1年先駆けた動きをします。
まだ、日銀の、マネー・サプライ量4%以上の増加に向かう量的緩和も、インフレもない。
・円は、量的緩和とインフレの期待で下げ、
・株も、この期待で上がっています。
当方が金融に関心をもち続けるのは、実体経済に、数歩は先駆けた動きをするからです。
■3.日本の物価が下がっていたのは、マネー・サプライの要因からか?
経済の指標には、(1)並行現象と、(2)原因現象があります。
並行現象は、それとともに起こるもので、原因現象は、AがBの原因になるものです。これの見極めは、実は、難しい。
経済では、AとBが、
・原因と結果の関係ではなく、
・並行現象であることも多いからです。
【リフレ派】
岩田氏とリフレ派は、マネタリズム学派の説を根拠に、マネー・サプライの増減が、物価の原因現象であると言います。
そして、日本ではマネー・サプライの増加が4%未満のとき、物価が下がっていたという。これは事実です。
簡単には、預金が4%増えたときは物価上昇がゼロで、4%未満(現在は2%増加)のときは、デフレになっていた。しかしこれは、原因現象なのか、並行現象なのか?
経済学では、まだ決着はついていません。
デフレの研究をしたのは、1929年から33年の米国大恐慌の『大収縮1929-33』(フリードマン)です。
1920年代の、バブル的な好況のあと、29年の株価暴落を起点にした銀行の不良債権の増加と、貸出の減少を主因に、米国のマネー・サプライが35%減った。
同時に、GDPは37%縮小し、卸売り物価は40%も下がっています。
【構造派】
構造派(野口悠紀夫氏等)は、日本の物価が下落した原因は、海外物価よりはるかに日本の物価が高かったこととします。
ユニクロやニトリのようなところが、中国からの開発輸入を行ったから下がったという判断です。それと、家電のような技術革新です。
マネー・サプライの増加率の低さ(2%)と、物価の下落(1%から2%)は、並行して生じた現象であり、マネー量は物価の原因現象ではなかったとします。
【民間の銀行システムでのマネー量の増加】
中央銀行がマネーを増発しなくても、「銀行借入→投資」が活発な時期は、借入が他の預金になって行く銀行システムの中で、マネー・サプライは増えます。
バブル期は、土地担保の評価増が原因で、借入が増え、不動産投資が増え、マネー・サプライは、10%以上増えていました。
1992年からは、金融引締めと地価下のため、マネー・サプライの増加は0~2%に下がりました。
1998年以降は、日銀がベース・マネーを15%から20%増やしても、マネー・サプライの増加は、年1%~3%台でした。
同じ条件での実験ができない経済を扱う経済学が、科学でない理由は、原因と結果の関係を、明らかにできていないからです。
そのため、学派がある。(注)サミュエルソンの教科書、『経済学』は、多くの学派の本質をとらえつつ網羅しています。
医学に例えれば、同じ症状で、原因の診断と治療法が異なっているようなものです。
(注)多くの感染症は、原因が明らかになっています。臓器毎に種類があるガンには、原因への定説がまだないようです。
▼「相対物価」と「一般物価」
輸入財の安い物価(相対物価)が、日本の物価(一般物価)を下げた主因という構造派に対し、マネタリストは、以下のように反論します。根拠となる学説はフリードマンです。
「相対価格の変化と一般価格(物価)の区別をすることが重要である。
石油や食料が上がれば、それらに対する支出額は増えるが、企業や世帯は他の商品に対する支出を減らすため、需要が減ってその物価が下がるだろう。平均的な価格である物価が、相対価格の変化によって影響を受ける理由はない。」『デフレの経済学(P123):
フリードマンの要旨1975』
ここから、岩田氏は以下のように、
・相対物価が下がれば、
・一般物価が上がる論を展開します。
「輸入財の価格(相対物価)が下がれば、企業や消費者は、輸入財への支出が減った分を、輸入財とは競合しない他のものの支出に向けるから、それらの価格は輸入財価格の低下を相殺するように上が
るだろう。その結果、(一般)物価は下がらない。」(同書:P124:岩田氏)
同書と、岩田氏の考えで、肝心なところは、ここです。
どうでしょう? 岩田氏は正しいでしょうか?
具体的に言えば・・・
ユニクロやニトリの商品(相対価格で低い)を買うようになって、衣料や家具への支出は減った。そのため、他の商品を余計に買うようになり、他の物価は、需要が増えて上がるはずだ。
・・・ところが、日本では、他の物価も上がってはいない(ほぼ±0%です)・・・だから・・・(ここからが肝心です)、日本の一般物価の下落は、輸入物価と、生産および流通の技術革新(構造改革)が原因ではない。
一般物価が下がった原因は、1100兆円のマネー・サプライが2%台(20~25兆円)しか増えなかったからである。
物価の原因は、マネー・サプライの量である。このため、日銀がマネーを刷って、銀行がそれを貸しつけ、企業と世帯がその増加マネーを使う需要と投資が増えれば、物価の下落は止まる。その後も、更に量的緩和を継続すれば、一般物価は、1%、2%と上がるように変わる。
(注)経済学では、世帯が消費財を買うのも、企業が機械を買い、
設備投資を行うのも、同じ「需要」の範疇(はんちゅう)です。
このための、日銀によるベース・マネーの必要増加額は、1年に70兆円(マネーサプライの6%)くらいです。半年ではなく、2年(中長期)は続けねば、マネーの要因からの物価は、2%は上がりません。
日銀の円の印刷による、140兆のベース・マネーの増加が必要でし
ょう。これが、物価を2%上げる、「果敢な量的緩和」の意味です。
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(3)へ続きます。
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